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【ときの迷い子】

「エリック、ただいま」

「おう。お帰り。アラン、ミカ」

 LINEで知らせておいたから、エリックも笑顔でミカを出迎えた。

「俺はエリックだ。フィッシュパイとトライフルを作っておいたから、一緒に食おう。美味いぞ。山みたいに生クリームが乗ってるんだ」

 エリックがブルネットの頭を撫でても、ミカはけして笑わなかった。でも俺たちは辛抱強く、普段通りに振る舞う。食事を終え、エリックが俺の皿を下げるときについ習慣で俺の髪に軽くキスしたら、不意に黙りこくっていたミカが小さく言った。

「お父さん?」

「え?」

 細い指が、エリックを指差す。

「お母さん?」

 その指が今度は俺を差して呟かれる。俺は思わず赤くなった。こんな子どもに見抜かれるほど、デレデレしていただろうか。だけどエリックは笑った。

「うん。当たってるな」

 それからエリックは、俺たちの関係を隠そうとせず、いつもどおりに折に触れては髪に口付けた。それを珍しいものでも見るみたいに見詰めるミカの視線も、ものともせず。その内、ミカの長い髪にも口付けた。ビックリして真ん丸に目を見張っているミカに、エリックは優しく囁く。

「嫌か?」

「……分かんない」

「じゃあ、分かるまで続けよう。お前はもう家族だ。風呂は、ひとりで入るか? どっちかと入りたいか?」

「お母さんと入りたい」

「おう、そうか。アラン、ご指名だ」

「うん。バスルームは、あっちだよ」

 お母さんと呼ばれることに多少抵抗はあったが、ミカにそう見えているのだとしたら、訂正する必要性を感じなかった。お風呂から上がると、ナイトシャツを着せて髪を乾かす。キングサイズのベッドで三人、川の字になって横になると、安心したように彼女は目をつむった。
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