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【ときの迷い子】

 死神が、自ら命を絶った人間の成れの果てだということは、転生した死神自身が嫌というほど分かっていた。ようやく『楽』になれると安堵の涙さえ流して絶命した次の瞬間から、死神としての永遠に近い人生が始まるのだから。

 つい百年くらい前までは、子どもの死神は居なかった。自殺したときの姿のまま、死神に生まれ変わって生きていくためだ。ところが最近になって子どもの自殺者が増え、保護者が必要になった。そんな話は小耳に挟んでいたが、まさか俺たちに関わってくるとは思わなかった。

「ミカ・スタンフォードです。死神の世界に慣れるまで、貴方が親代わりを務めてください、アラン・ハンフリーズ」

 そう紹介されたとき、ミカは絶望の色を黄緑の瞳に宿して、俺を上目遣いに睨めつけていた。無理もないと思う。俺もそうだった。何もかもに疑心暗鬼で、事務的に死神の役割を説明する人物に、何でたった今命を絶った自分を労ってくれないのだろうと、不満ばかり抱いていた。その死神も通ってきた道なのだとは知らずに。

「ミカ? よろしくね。俺は、アラン」

 手を差し出すと、数秒あってから、しぶしぶといったように手が握られた。

「幾つ?」

「……八歳」

「そう。説明は受けてると思うけど、分からないことは何でも訊いて」

「では、アラン・ハンフリーズ。彼女が早く一人前の死神として生きていけるように、今日はもう上がって頂いて結構です」

「はい。分かりました。ミカ、行こう。ほら」

 俺は努めて明るく、仏頂面のミカの手を取った。一瞬、ピクリと身体がこわばったのが分かったけれど、無言で手を引かれてついてくる。八歳で自殺しなければならない人生とは、どんなものだろう。その辛さをおもんぱかって、俺は自宅に帰るまでの道すがら、花壇の花の美しさやお惣菜屋さんの美味しいマリネの話なんかをして聞かせた。

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