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さん
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びゅうびゅうと風の中を処刑場目指して真っ直ぐに飛ぶノアは、はるか向こうから聞こえてくる戦争の音に小さく溜息を零した。
どうして連中はこうも戦争が好きなのか。
彼女にはほとほと理解が出来ない。
血を流し痛みを従え、尚も剣を取る姿は健気というより惨めで愚かに見えるというのに。奴らは何故それに気づかないのか。過去の海賊王に縛られ、恐怖を煽るのは自分達であろうに。なんて憐れな連中なのだろう。
海の上を既に数時間も飛ぶノアに、微かな怒りと呆れは見えども疲れは見えない。
さて、もう少しだ。
ぐん、とスピードを上げたノアは、戦争でしか物事を解決出来ない可哀想な思考回路の持ち主達にどう仕置きをしてやろうか、と残り数分の道のりで考えるのであった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
マリンフォード上空。翼もないのに宙に立つ女の姿を見る者はいない。それもそのはず。皆、目の前の敵しか見えていないのである。最も巨大で最も恐ろしい人間の事など毛ほどにも眼中に無いのだ。
あぁ、愚かだ。愚かな奴らよ。
見覚えのある麦わら帽子を被った少年に襲い掛かる黒々とした煮え立つマグマの太い腕。少年はその場から動けず、スローモーションなその腕が来るのをどこか遠巻きに見ていた。
自分が助けに来た兄の焦る声が聞こえ、その姿が目の前を覆う。全てがスローモーションだ。兄の体を腕が貫通する前に絶望が頭を支配した。否、支配したはずだった。自分のせいで兄が死ぬのでは無いかと、絶望で目先が歪むのだろうとルフィはそう思ったのだ。しかし、現実はそうでは無かった。
「 1度助けられたその命。
助けた弟の前で散らしてどうするんだい 」
兄、エースの体を貫通する筈だった大将赤犬のマグマはいつの間にそこにいたのか。1人の女の左腕によって止められている。何が起こったのか、当事者である赤犬もエースでさえ分かっていない。だが赤犬は目の前で己の腕を掴み上げる女に見覚えがあった。
「何しとるんじゃァ、よろず屋...!」
遥か昔、サカズキが未だ中将だった頃に制約を交わした世界政府でさえ手を出せないこの世で唯一、天竜人に抗う事が出来る正体不明の女である。通称はよろず屋。本名は確か、ノアだったと記憶している。否、今はそんな事どうだっていいのだ。問題は[誰の味方もしない]筈のノアが今はまるで海賊の味方では無いか。戦争の興奮も、ノアの登場による混乱で少しは鎮火する。
「 制約よ、サカズキ。
仕方の無い男の対価と引き換えに制約を成した。流石の私も忘れ形見を〝父親〟に返さなければならない訳さよ。此処は1度退いてくれないかい? 」
「そんな制約無効じゃけェ!
貴様は誰の味方もしない筈じゃろうが!」
「 普通だったら、なぁ。
普通の対価ならば無効になる。私は誰の味方もするつもりは無いしこれからもそれは変わらない。しかし今回は対価に命を掛けられた。命とは絶対なる物さ。それを対価に出されたんじゃ仕方が無いだろう? 」
制約としては真っ当な答えに鎮火したサカズキの怒りが再び燃えたぎる。その様子に次の攻撃が来ると身構えたエースだったが、己の身を庇う様に前にいる女の様子に僅かな疑問を覚えた。
どうして身構えないのか。
狙ってくれとばかりに隙だらけでは無いか。
相手は〝あの〟赤犬なのに...。
どうしてそんなに悠々としているのか。
疑問と同時に湧き上がる恐怖心と警戒心。血生臭い戦場に似合わない平然さでそこに立ち、己に背を向けている。その異様な姿にエースは呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「え、エース!!行こう!」
いつの間にやら立ち上がったルフィがエースの腕を引く。そうだ、こんな所で立ち尽くしていてはまた狙われる。俺は帰るんだ、親父の船に。帰らなきゃいけない。引かれた腕を振り払う事はせず、走り出したルフィの後を追う。後ろから待て!!と赤犬の怒号が耳を突き刺したが、その後に聞こえた女のゆったりとした声に意識は赤犬から女へと向く。
「 気にしなくていい。ただ前を向いて走れ 」
それは酷く優しい音色だった。