Welcome to dream
ドレスに着替えて
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突然訪れる平穏の崩壊。どうして奴らは放っておいてくれないのか。何故こうも掻き乱すのか。私はただ何事も無く人生を終えたいだけなのに。ノアの頭を過る負の疑問に応える者はいない。それまではそこに居た筈の"二人"が、もうそこにはいないのだから。
赤い西日が煌々と落ちていく。
その日も平和に学業を終え、宿題と使った教材を鞄に詰め、今までと同じ様に帰路に着こうと教室を出た時に感じた微かな空気の揺れ。それはまるで"誰か"が助けを求めているような気がした。
走って走って走って。
入学式のあの時以来に全速力で足を動かす。向かう先は自宅だが、決して良い意味での焦りではない。鞄の中で筆箱が踊る。邪魔になったリボンを引き千切る勢いで取りポケットに押し込んだりそうして肺が壊れそうな程走って走って。辿り着いた家は嫌に静かだった。
「 アカツノ!アオツノ! 」
乱暴に開けられた扉が壁にぶつかる。
「おかえり、ノアちゃん」
そこにいたのは憎たらしい程毎日見る幼い双子では無く。彼は、そう、入学式に出会った鴉の翼を背に持つ先輩で。その手に握られた血塗れた布切れから発せられる"匂い"は...。
「 どうしてここに、 」
息も絶え絶え、乱れた髪を整える気力もない。
「血の匂いがしたんだ」
「 え? 」
「ねぇ、ノアちゃん。
"俺達"と少しだけお話しようよ」
あぁ、なんて事だ。鴉は一匹だけじゃ無かったのか。どうして気づかなかったのだろう。どうして気づけなかったのだろう。そうか、彼等はみんな妖なのか。
「初めましてかな。俺は澤村大地。
君のことはスガ...菅原から聞いてるし知ってる。
勝手に上がり込んですまない」
菅原孝支の後ろから出てきた更に大きな翼を持つ鴉は眉を下げて、さも申し訳ない様な口振りで言葉を連ねる。非常事態なのだと。
「他の紹介は後回しにするとして。
ノアちゃん、君は俺達が何であるか知ってるな」
「 .........、 」
築き上げてきた日常が呆気なく崩れ落ちていく。彼は疑問ではなく肯定で聞いた。お前は知っていると断言ている。
いつからだろう。矢張りあの時からか。あの時から知られていたのか。何事も無かったなんて表面的な物ばかり見て、事実を見てはいなかったのか。なんて無能なんだ。溢れ出る負の感情に必死で蓋をして澤村の言葉に頷く。
「これは"悪鬼"の物だね。
血も。漂う匂いも、外のマーキングも」
「 双子をどうしたんですか 」
もう隠す必要はない。知られてしまったのだから腹を括るしかない。諦めの早さは一体誰に似たのだろうか。
「俺達が来た時にはもう悪鬼の姿はなかった。テーブルの上にこの布切れとコレが。今回の元凶だと思う」
「 それは... 」
澤村大地から手渡された紙は和紙特有の肌触り。と、もう一つ。これは鬼の種族の匂いだ。けれど双子の物とは違う。あの子達ではない別の鬼の匂い。
「 眼を持つ者に告げる 」
_____眼を持つ者に告げる。悪鬼は吾が手の中に。そして御前も吾が手の中に。
「 随分と悪趣味なラブレターだこと 」
妖も人間も変わらない。姿形が違えど根本的には似ている。欲深い生き物だ。欲にまみれ欲を満たそうと他者を傷つける。それは強者などでは無い。産まれたばかりの赤子同然だ。
「ふ~ん、噂は本当だったんだ」
「 噂? 」
「あっ急にごめんね。俺は及川徹。
そこの二人と同じ鴉の妖怪。ちなみに人間の女の子大好き。可愛いよね人間の子ッッッダ!!痛いよ岩ちゃん!!何すんのさ!」
「空気読めよお前。馬鹿か」
「だってだって、澤村くんばっかり話して狡いじゃん!俺だって女の子と話したい!」
「うるせぇ!」
「おい、及川。うるさいぞ」
「えー澤村くんまで」
及川徹と名乗った妖が言う"噂"。その人間は妖怪の姿を見破り、その身を食べれば不老にその血を飲めば不死に。とかいう伝説の類いだろう。幾ら妖怪といえど不老不死ではない。人間よりも長い長い寿命があり、人間よりも丈夫なだけ。死ぬ時は死ぬし老いもある。
「 人間も妖怪も。死ぬのは怖いのね 」
生きている者には平等に訪れる"死"という終わり。死ぬ時を想像すれば恐ろしいと考えるのは無理ないが、どう足掻いても止められないのだから。諦めて受け入れればいい話だ。しかし、それが出来ないからこそ弱い。人間も妖怪も。
「 双子はどこ? 」
「それを知ってどうするの?
助けに行くの?人間である君が妖怪を?」
「 あら随分、質素な考え方ですね菅原孝支。
完全擬態出来るのであれば相当長く生きているのでしょう?時代はいくつ超えました?」
「...ノアちゃん」
「 私は生まれて16年。貴方からすれば一瞬の事に感じられる時間でも16年。この眼とこの身体と、この運命と共に生きてきました。妖は誰も彼も私を喰らいにやって来る。この眼が恐ろしく、そしてこの身を食う為に。妖怪は畏ろしいケダモノ。けれど16年、生きてこれたのはそんなケダモノの中にも物好きが居たからです。...決して私を喰らおうとせず、友人として、良き理解者として話をするような者達が少なからずいたから、私は今も生きている 」
ジッと、暗闇の中から菅原達を見上げる瞳は煌々と輝く。その強さに一瞬たじろき後ろへ下がったのは誰だっただろうか。
「 己の身を守る術を持たなかった私に術を教えてくれた妖は私を守って死にました。妖って死んだら砂になるんですね。知ってました?
人間だ妖怪だと種別を気にするほど私の周りに何も無かったわけじゃない 」
空気が揺れる。動揺と驚きの感情。目を見開き奥に見える色は微かな希望。
「 双子も、私にとっては家族同然。
人間が怖い双子と妖怪が怖い私と。支離滅裂な環境でも家族なの。
.......菅原さん 」
_____双子はいま、どこにいるの?