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入学式から数日。
ノアが危惧した事は起こらず、実に平和な日々を過ごしている。鴉の目を欺けたのかちゃんと"人間"だと思われたのか。不安が燻る胸中を落ち着かせるように、一つ二つと息を吐く。兎に角今は何もせず穏やかに動かねば、要らぬ奴らにまで自分の話が届いてしまうだろう。
恐ろしい奴らだ。人間を喰らい尽くし、表裏一体を目論む獣。己が頂点なのだと高々にほくそ笑む化け物。
_____それだけは決してあってはならない
遠い昔。ノアが未だ奥野にいた頃。人間の歳で5つを迎えた日。その日もそれまでと同じ様に父親は仕事で家を空けていた。ノアはそれまでと同じ様に少しばかりの金銭とお饅頭を手に家を出る。向かう先は裏山の奥にひっそりと建つ神社。大昔に建てられたであろうそこは、幻想を抱かせる不思議な空間だった。ただ一つ悲しいのは祀られる神が居ないという事。
「 あれ、今日はいない... 」
ノアはこの古い神社に何度も通っている。かれこれ半年は経つだろうか。父親にも友達にも内緒で足繁く通っては、ある者と話をしていた。
「"また来たのか小娘。なんなの、暇なの"」
「 あ!こんにちわ、ハク様! 」
「"いや、だからな。ハク様じゃないから俺。
ただの妖だから。蛇だから。神様じゃないのよ"」
「 ...?ハク様はハク様でしょ? 」
「"あーダメだこの子。全っ然話聞かないわ。
もしやあれか?人間への憂さ晴らしをしてんのか?
ヤメロやめてくれ。俺にするなよホント。
憂さ晴らししたきゃアッチで勝手にしてろよ..."」
自称、蛇の妖怪。ノアが言うには末端の神様。自称と付けたのは妖怪にしては余りにも神々しく、例え神とは違えどそれに近い存在だからである。妖怪だと言われようともその色は隠しきれない。だからこそノアも神様だと言うのだが...この蛇、どうしても妖怪で居たいらしい。
白い肌に白い髪。線の細い身体と切れ長の目。色を付けるなら朱であろうか。面倒だと物語る瞳はノアと同じく朱である。しかしノアと違うのはそれが少し毒々しいということだ。
「".......おいお前。その足首どうした"」
「 あ、これ?これはね〜、なんだろう? 」
「"聞かれた事にはちゃんと答えろ、小娘"」
「 足ね、うん、掴まれちゃって階段で。
転ばせようと思ったのかな?皆には見えてなかったの 」
「"...あぁ、そうだろうな。そりゃ妖怪の仕業だ。"」
蛇、ハクがノアの足首に付けられた痕から感じたのは明確な悪意。これは確実にこの小娘を喰いに来ている、と眉間に皺を寄せる。
半年前から毎日毎日。夕方になれば賽銭と饅頭を片手に此処へやってくる人間は、一目見れば分かる程“こちら側”からすれば酷く危うく、酷く美味そうな人間だった。立ち込める匂いは妖美で。熟した果実のような甘さを持っている。自分と同じ色の目をした“人間の成りそこ無い”。妖界(裏)も人間界(表)も意中に治めたいと蠢く連中にとって、絶好な獲物。小娘を喰らえばそれこそ魑魅魍魎の主となれるだろう。
「"お前、自分の身を守る術を持っているか?"」
「 守る術、? 」
「"その様子じゃ持ってないようだな阿呆"」
ノアから差し出された饅頭を一口。甘さ控えめな黒豆饅頭は遥か昔からハクのお気に入りだった。誰かから聞いたのか、はたまた偶然なのか。しかし、毎日これを持ってくる小娘を饅頭と同じ位気に入っているのは事実で。ハクはノアに悟られぬ様に息を吐き出す。自分が出来ることは何かの為の備えだけ。後は.....。
「"(強くなれ小娘。
此処からではお前を守ってやる事は出来ない)"」
その日から暫くしてノアは思い知る事になる。本当の妖を。本当の悪意を。
「 あぁ、嫌な空気 」
随分と時間が経った今、再び悪意に晒されようとしている。これは予言ではない。ただの予感である。しかし無下にする事は出来ない。
_____大丈夫だよ、ハク様