隣の席の土井くん
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好きな君の好きなアイスは
土井くんと知り合ってからは、あの講義は彼の隣で受けることになり、その後は、図書館に行って、同じテーブルで課題のための本を読んだり、レポートを作成した。
そして、次の授業の時間が近づいてきたら別れるのだ。
「じゃあ、また来週」
「うん。また来週」
友達という関係が一番相応しい…のだろうか。
ある日。
一緒にレポートを作成しているときだ。
向かい合わせに座って作業をしていたら、いつの間にやら彼は背後にいて、ノートパソコンの画面を覗いていた時があった。
彼の顔がすぐ傍にあり、もの凄く焦ったものだ。
土井くんは興味津々で私の書いた論文を読んでいたようで、その後は、互いの専攻分野の話をして終わったのだった。
友達と呼ぶにも淡泊すぎる付き合いである。
それでも、彼と過ごす時間は心地良く、週の楽しみになっていった。
いつも彼の方が早く来ていて、私が来るのを待っている。
賑やかな講堂なのに、彼まで数メートル前の時に振り向かれ、手を振られる。
その時の笑顔を見る度に胸が高鳴るようになるまで、時間はかからなかった。
「おはよう、伊瀬階さん」
「おはよう。土井くん」
「暑いな」
「うん」
隣に座り、他愛もない話をして、講義の時間を待つけれど、本当はずっと話していたい。
でも、ときめきが邪魔をして、言葉がなかなか見つからない。もっと彼のことが知りたいのに、無難な会話しかできないのだ。
「もうそろそろ前期も終わるね」
「あぁ。バイトが忙しくなるなぁ」
土井くんは、塾講師のバイトをしているらしい。だから夏休みも忙しいようだ。
「試験前から忙しいんじゃない?」
「そうなんだよ。生徒は俺達より夏休み入るの早いし。課題も結構あるし」
「大丈夫?疲れてない?」
「ありがとう。でもこれくらいは平気。今はまだね」
眉尻を下げて笑う土井くんに、私は何かできることはないか懸命に考えた。
その時、チャイムが鳴って、教授も来たので、話はそこで終わってしまった。
授業中も尚、何かできることはないか考え続けた結果、バイト先のファミレスから貰った半額券を渡すことや、一緒に勉強する約束をしようと誘うことだった。
半額券はまだしも、もう一つは完全に私欲のためだ。
「伊瀬階さん、どうしたの?」
「え」
講義が終わり、筆記具をリュックにつめる土井くんが笑いを噛みしめながら聞いてきた。
「講義の間、頭抱えてた」
「あー、うん、ちょっとね」
講堂を出て、いつものように図書館に行く。
気温はますます高くなっていて、土井くんは手で仰いでいた。
「こんなに暑いとアイス食べたくなるね」
私の呟きに土井くんはぱっと笑顔になった。
「そうだ。今日は売店でアイス食べて、そこで課題をやろうか」
「いいね」
土井くんが言う売店の近くにはテーブルもイスもある。
「伊瀬階さんは、アイスは何が好き?」
「シャーベット系が好き」
「俺も好き」
その言葉にドキリとして、私は黙ってしまった。
意識しすぎる自分が嫌になってくる。
「伊瀬階さんは何味が好き?」
意識しているのは私だけなのだろう。
土井くんはシャーベットアイスを思い浮かべているのか、頬を緩ませ前を向いていた。
「土井くんは?」
「イチゴ味」
「私も好き」
私の答えに土井くんは勢いよくこちらを向いたから驚いた。
「あ、うん。…うまいよな、イチゴ味」
真っ赤になりながら頬を搔く土井くんに、私は更に胸が高鳴る。
もしかして。
そんなはずはない。
私は浮かれる気持ちを必死に静めた。
歩きながらも、鞄にしまったスマホを取り出して、意味も無く時間を見て、また閉まった。
「あ!半助じゃん」
「半助~!」
土井くんを呼び止める声に、私は気持ちが一気に静まった。
同じ学科の友達なのだろう。
彼らと彼女達は私をよそに次の授業の話や試験の話をし出した。
「珍しいね、この時間に会うなんて」
「うん。アイス食べたくなって」
「なんだそれ」
「じゃあ、私たちも食べたいから奢ってー」
「なぜ奢らにゃならん!」
土井くんは笑顔でおどけながら答えている。
先程まで浮かれていた自分がバカみたいに思えてきた。
心のどこかで、土井くんにとって自分は特別な存在なのではないかという思いが芽生え始めていたけれど、完全なる思い過ごしだった。
冗談を言い合ったり、思い切り笑ったり、わざと怒ったふりをしたりする土井くんを見ていれば、私は特別でも何でもないのだと思い知らされた。
親しげに彼らや彼女達の名を呼ぶ土井くんにとって、私は少しだけ仲のいい知り合いなのかもしれない。
二人きりの時間も、特別と感じていたのは私だけなのかもしれない。
「あ。その子は?友達?」
「うん。二限目の共通を一緒に受けてるんだ」
友達。
知り合いではなくて良かったと思うべきだ。
そう。彼とは友達だ。
だから友達として自己紹介しなければ。
けれども、私はスマホを取り出していた。
「ご、ごめん。ちょっと友達と約束あったこと…忘れてて…。また、来週……」
「え…あぁ。また、来週……」
私は踵を返して早足で去って行った。
何を期待していたのだろう。
私は唇を噛みしめた。
変な友達だと思われただろう。
来週はどんな顔で彼に会えばいいのだろう。
なぜ泣きたくなっているのだろう。
暑さなど気にせず早足でキャンパス内を歩く。
図書館も通り過ぎ、とうとう大学を出て、駅前に着いた時だった。
「待って!」
土井くんの慌てた声がした。
まさかここで土井くんの声がするとは思わず、都合のいい空耳だろうと無視すれば、肩を掴まれた。
「やっと掴まえた!」
肩で息をする汗だくの土井くんに私は驚く。
「どうしたの」
「それはこっちの台詞だ」
土井くんは少し怒っていた。
「どうしてあんな嘘ついたんだ」
「嘘じゃないよ」
「いや、嘘だ」
「嘘じゃない!」
涙声で怒鳴ってしまった。
土井くんは驚いて目をぱちくりさせていた。
彼にとって私の行動はさぞ謎なことだろう。
突然立ち去られて、追いかけて声をかけたら怒鳴られ、泣き出したのだから。
けれど私も土井くんが追いかけてきたことが不思議だった。
「土井くんこそ、何しに来たの」
「その言い方は傷つくんだけれど」
彼は困ったように笑った。
「友達は?アイス奢ってあげるんじゃないの?」
「そもそも伊瀬階さんと二人で食べる約束だっただろう」
そう言うなり、土井くんは私の手を掴んでコンビニへと引っ張る。
「ここのプライベートブランドのアイスが旨いんだよな」
「ま、待って……!土井くん……引っ張らないで」
「やだ」
土井くんは満面の笑みを浮かべていた。
その笑みは、ちょっと意地悪にも見えた。
こんな顔もするのだと知って、更に胸が高鳴るのだから、恋とは恐ろしい。
目を開ければ、またしても半助さんが笑いをかみ殺して私を見つめていた。
「また『土井くん』の夢?」
「………」
しまった。
「朱美は私とどうしたいのかな?」
「たぶん。一緒にキャンパスライフを満喫したかったんだと思いますよ」
ふーん、と抱きしめている腕の力を強めた。
これは嫌な予感。
「今の私では不満なのかな?」
「そんなことないです。大好きです半助さん。愛してます。なので離してください。朝食を作りますので」
早口で彼の腕を解こうとするも、首筋に口付けされる。
「今日は確か二限目からだろう?」
「え」
「ゆっくり二人の時間を満喫しようじゃないか」
先週はゆっくりし過ぎて遅刻しかけたのだから、この状態を何とか回避せねばならない。
「だめです!」
「だめ?」
もがく私の耳元で囁く。
忍びは目的を達成させるために手段を選ばない。
「どうしても?」
囁かないでほしい。
全力で目的を達成しようとする半助さんに私が敵うはずがなかった。
今日も暑いだろうな。
大学の帰りに夢で見たアイスを買って帰ろう。
窓から覗く夏の朝の光を見て、そう思った。
土井くんと知り合ってからは、あの講義は彼の隣で受けることになり、その後は、図書館に行って、同じテーブルで課題のための本を読んだり、レポートを作成した。
そして、次の授業の時間が近づいてきたら別れるのだ。
「じゃあ、また来週」
「うん。また来週」
友達という関係が一番相応しい…のだろうか。
ある日。
一緒にレポートを作成しているときだ。
向かい合わせに座って作業をしていたら、いつの間にやら彼は背後にいて、ノートパソコンの画面を覗いていた時があった。
彼の顔がすぐ傍にあり、もの凄く焦ったものだ。
土井くんは興味津々で私の書いた論文を読んでいたようで、その後は、互いの専攻分野の話をして終わったのだった。
友達と呼ぶにも淡泊すぎる付き合いである。
それでも、彼と過ごす時間は心地良く、週の楽しみになっていった。
いつも彼の方が早く来ていて、私が来るのを待っている。
賑やかな講堂なのに、彼まで数メートル前の時に振り向かれ、手を振られる。
その時の笑顔を見る度に胸が高鳴るようになるまで、時間はかからなかった。
「おはよう、伊瀬階さん」
「おはよう。土井くん」
「暑いな」
「うん」
隣に座り、他愛もない話をして、講義の時間を待つけれど、本当はずっと話していたい。
でも、ときめきが邪魔をして、言葉がなかなか見つからない。もっと彼のことが知りたいのに、無難な会話しかできないのだ。
「もうそろそろ前期も終わるね」
「あぁ。バイトが忙しくなるなぁ」
土井くんは、塾講師のバイトをしているらしい。だから夏休みも忙しいようだ。
「試験前から忙しいんじゃない?」
「そうなんだよ。生徒は俺達より夏休み入るの早いし。課題も結構あるし」
「大丈夫?疲れてない?」
「ありがとう。でもこれくらいは平気。今はまだね」
眉尻を下げて笑う土井くんに、私は何かできることはないか懸命に考えた。
その時、チャイムが鳴って、教授も来たので、話はそこで終わってしまった。
授業中も尚、何かできることはないか考え続けた結果、バイト先のファミレスから貰った半額券を渡すことや、一緒に勉強する約束をしようと誘うことだった。
半額券はまだしも、もう一つは完全に私欲のためだ。
「伊瀬階さん、どうしたの?」
「え」
講義が終わり、筆記具をリュックにつめる土井くんが笑いを噛みしめながら聞いてきた。
「講義の間、頭抱えてた」
「あー、うん、ちょっとね」
講堂を出て、いつものように図書館に行く。
気温はますます高くなっていて、土井くんは手で仰いでいた。
「こんなに暑いとアイス食べたくなるね」
私の呟きに土井くんはぱっと笑顔になった。
「そうだ。今日は売店でアイス食べて、そこで課題をやろうか」
「いいね」
土井くんが言う売店の近くにはテーブルもイスもある。
「伊瀬階さんは、アイスは何が好き?」
「シャーベット系が好き」
「俺も好き」
その言葉にドキリとして、私は黙ってしまった。
意識しすぎる自分が嫌になってくる。
「伊瀬階さんは何味が好き?」
意識しているのは私だけなのだろう。
土井くんはシャーベットアイスを思い浮かべているのか、頬を緩ませ前を向いていた。
「土井くんは?」
「イチゴ味」
「私も好き」
私の答えに土井くんは勢いよくこちらを向いたから驚いた。
「あ、うん。…うまいよな、イチゴ味」
真っ赤になりながら頬を搔く土井くんに、私は更に胸が高鳴る。
もしかして。
そんなはずはない。
私は浮かれる気持ちを必死に静めた。
歩きながらも、鞄にしまったスマホを取り出して、意味も無く時間を見て、また閉まった。
「あ!半助じゃん」
「半助~!」
土井くんを呼び止める声に、私は気持ちが一気に静まった。
同じ学科の友達なのだろう。
彼らと彼女達は私をよそに次の授業の話や試験の話をし出した。
「珍しいね、この時間に会うなんて」
「うん。アイス食べたくなって」
「なんだそれ」
「じゃあ、私たちも食べたいから奢ってー」
「なぜ奢らにゃならん!」
土井くんは笑顔でおどけながら答えている。
先程まで浮かれていた自分がバカみたいに思えてきた。
心のどこかで、土井くんにとって自分は特別な存在なのではないかという思いが芽生え始めていたけれど、完全なる思い過ごしだった。
冗談を言い合ったり、思い切り笑ったり、わざと怒ったふりをしたりする土井くんを見ていれば、私は特別でも何でもないのだと思い知らされた。
親しげに彼らや彼女達の名を呼ぶ土井くんにとって、私は少しだけ仲のいい知り合いなのかもしれない。
二人きりの時間も、特別と感じていたのは私だけなのかもしれない。
「あ。その子は?友達?」
「うん。二限目の共通を一緒に受けてるんだ」
友達。
知り合いではなくて良かったと思うべきだ。
そう。彼とは友達だ。
だから友達として自己紹介しなければ。
けれども、私はスマホを取り出していた。
「ご、ごめん。ちょっと友達と約束あったこと…忘れてて…。また、来週……」
「え…あぁ。また、来週……」
私は踵を返して早足で去って行った。
何を期待していたのだろう。
私は唇を噛みしめた。
変な友達だと思われただろう。
来週はどんな顔で彼に会えばいいのだろう。
なぜ泣きたくなっているのだろう。
暑さなど気にせず早足でキャンパス内を歩く。
図書館も通り過ぎ、とうとう大学を出て、駅前に着いた時だった。
「待って!」
土井くんの慌てた声がした。
まさかここで土井くんの声がするとは思わず、都合のいい空耳だろうと無視すれば、肩を掴まれた。
「やっと掴まえた!」
肩で息をする汗だくの土井くんに私は驚く。
「どうしたの」
「それはこっちの台詞だ」
土井くんは少し怒っていた。
「どうしてあんな嘘ついたんだ」
「嘘じゃないよ」
「いや、嘘だ」
「嘘じゃない!」
涙声で怒鳴ってしまった。
土井くんは驚いて目をぱちくりさせていた。
彼にとって私の行動はさぞ謎なことだろう。
突然立ち去られて、追いかけて声をかけたら怒鳴られ、泣き出したのだから。
けれど私も土井くんが追いかけてきたことが不思議だった。
「土井くんこそ、何しに来たの」
「その言い方は傷つくんだけれど」
彼は困ったように笑った。
「友達は?アイス奢ってあげるんじゃないの?」
「そもそも伊瀬階さんと二人で食べる約束だっただろう」
そう言うなり、土井くんは私の手を掴んでコンビニへと引っ張る。
「ここのプライベートブランドのアイスが旨いんだよな」
「ま、待って……!土井くん……引っ張らないで」
「やだ」
土井くんは満面の笑みを浮かべていた。
その笑みは、ちょっと意地悪にも見えた。
こんな顔もするのだと知って、更に胸が高鳴るのだから、恋とは恐ろしい。
目を開ければ、またしても半助さんが笑いをかみ殺して私を見つめていた。
「また『土井くん』の夢?」
「………」
しまった。
「朱美は私とどうしたいのかな?」
「たぶん。一緒にキャンパスライフを満喫したかったんだと思いますよ」
ふーん、と抱きしめている腕の力を強めた。
これは嫌な予感。
「今の私では不満なのかな?」
「そんなことないです。大好きです半助さん。愛してます。なので離してください。朝食を作りますので」
早口で彼の腕を解こうとするも、首筋に口付けされる。
「今日は確か二限目からだろう?」
「え」
「ゆっくり二人の時間を満喫しようじゃないか」
先週はゆっくりし過ぎて遅刻しかけたのだから、この状態を何とか回避せねばならない。
「だめです!」
「だめ?」
もがく私の耳元で囁く。
忍びは目的を達成させるために手段を選ばない。
「どうしても?」
囁かないでほしい。
全力で目的を達成しようとする半助さんに私が敵うはずがなかった。
今日も暑いだろうな。
大学の帰りに夢で見たアイスを買って帰ろう。
窓から覗く夏の朝の光を見て、そう思った。