鬼の手短編
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分かってない
六年生を送る会に向けて各学年がそれぞれ発表の準備をしていた。
俺達5年生は、来年度から最上級生になるのだから、それなりに凝ったものを発表しようと皆で話し合った結果、合唱になった。
指揮、演奏はもちろん、作詞作曲も生徒達がやるという力の入れようだ。
今日も今日とて放課後に自主練習をしようと体育館へ向かう生徒達の背中を俺は誇らしく見守る。
が、美樹が嬉々として戻ってきた。
「ねねね、ぬ~べ~!来て来て!」
「こらこら引っ張るな!!」
無理矢理連れて行かれれば、体育館では流行りの歌が流れ、下級生たちが踊っていた。
「何だ?体育館が下級生に使われているからどけろと俺に言わせたいのか?」
送る会は体育館で行うから、リハーサルも兼ねて、時間と曜日で使う学年を割り当てている。
五時間目が終わったばかりだから、もしかしたらその延長で使っているのだろう。
え~と、確か今日の五時間目は…
「馬鹿ねぬ~べ~。あれを御覧なさいよ」
「そうそう」
俺の思考と、美樹と響子が示す指先が合致した。
今日の五時間目で体育館を使っているのは三年生。
三年生の演目はダンス。
「あ!!!」
三年生の演目のダンスの振り付けは体育教師という謎の理由で道明先生が担当することになっていて。
体育館のステージには子ども達の見本役として踊っている彼女がいた。
子ども達は彼女を見ながら一生懸命踊っている。
実に微笑ましい。
そしてステージで踊る道明先生の軽やかな身のこなし。
リズミカルに跳んで、ステップを踏んで。
中学年用としてそれほど複雑な振り付けではないのに、彼女が踊れば実にキレがあって華やかだ。
「みんな上手!!」
笑顔でほめる道明先生。
流れる音楽の合間から快活な道明先生の声が響いてきた。
結んだ髪が揺れている。
国語を教えている時とも、鉄棒や跳び箱を指導している時ともまた違う教師としての一面を見ることができた。
良い。
実に良い!!!
「なーに見惚れちゃってんのよ」
「な!?」
美樹や響子だけではない。
五年生の全員が俺をニヤニヤと見ている。
みんな、道明先生の姿を俺に見せたかったのだろう。
そしてそんな彼女を見る俺を見て楽しみたかったのだろう。
まったく、教師で遊びやがって!
「ぬ~べ~。俺達早く練習したいんだけど。三年生の先生に言ってきてくんね?」
「克也。お前、普段は絶対そんなこと言わんくせに…」
「三年生のみんなだって早いとこ帰りの会をやって帰りたいって思ってるぜ?」
「そうよそうよ」
体育館の入口でわいわいやっていたからか、ちらほらと俺達の存在に気づき始めた三年生と他の先生達。
そしていよいよ道明先生も気が付いて、音楽を止めてこちらへ駆けつけてきた。
目の前に来た道明先生に俺は緊張してしまう。
「鵺野先生!」
「あ……ど、…ども」
額に少し汗をかいていて、
前髪が少し貼りついていて、
でもいい香りがしていて、
頬が上気していて、
申し訳なさそうに眉尻を下げる彼女。
ここが神聖な学び舎と分かっていながら、俺は邪な気持ちを抱いてしまう。
「ごめんなさい!すぐに空けますね」
「あ………いえ……はい」
おそらく彼女よりも真っ赤になってしまった俺に、広達は目を輝かせた。
「すみません道明先生。俺達は別にゆっくり使ってもらって構わないんですけど」
「ぬ~べ~が『時間を守らないなんてけしからん!』って!!」
「私達は止めたんですけどねぇ!?」
「だって下級生たちが一生懸命練習してるのに!!ねぇ!?」
五年三組の素晴らしい連携プレーがここで遺憾なく発揮される。
さすがぬ~べ~クラス。妖怪に襲われ、度胸も据わって機転が利く…って感心してる場合じゃない!
何を言ってるんだこいつらは!?
「え…」
彼女は目を見開いた後、みるみるうちに申し訳なさで一杯の表情を浮かべ、遂には頭を勢いよく下げた。
「申し訳ありません!」
「え!?いや!!!違います違います!!全然、全然そんなこと言ってないし思ってないですし!!!」
彼女の後ろでは他の先生方の号令によって解散となった三年生達が集まりだした。
そして頭をしきりに下げる彼女に何事かとやってきて、俺を睨んでくる。
「なんだよぬ~べ~!先生をいじめないでよ!」
「そうよ!この妖怪オタク!」
あぁ、変声期前の少年たちの怒声とやはり三年生でも辛辣な少女達の怒声が俺の心を抉ってくる。
「はいはーい、三年生~。そんな妖怪オタクの先生のことはいいから。はやく教室に行って帰りの会をするよ~」
三年生の教師陣の中で一番の若手である山内先生は悪ノリする。
どっと笑う三年生と我が五年三組。
がやがやと三年生と五年生が入り混じる体育館の入口で、彼女が俺の傍を通り過ぎるから、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「あ、あの!さっきのは…」
どうしても誤解を解きたくて思わず掴んでしまった。
生徒達が居る場で何をやっているんだと心の中で諌めるも、どうしても話しておきたかった。
しかし道明先生は首をゆっくり振って微笑みかけてきた。
ああ。綺麗だな。天使だな。女神だな。
なんて、その柔らかな微笑みに癒されてしまう。
「大丈夫。分かってますから」
「え……」
分かってくれている…?
広達の悪戯だってことが…?
「早く練習をさせたいほど鵺野先生が生徒想いなことくらい」
「……」
……。
「鵺野先生?」
「……わ…わ……」
「わ?」
わかってなああああああああああい!!!
六年生を送る会に向けて各学年がそれぞれ発表の準備をしていた。
俺達5年生は、来年度から最上級生になるのだから、それなりに凝ったものを発表しようと皆で話し合った結果、合唱になった。
指揮、演奏はもちろん、作詞作曲も生徒達がやるという力の入れようだ。
今日も今日とて放課後に自主練習をしようと体育館へ向かう生徒達の背中を俺は誇らしく見守る。
が、美樹が嬉々として戻ってきた。
「ねねね、ぬ~べ~!来て来て!」
「こらこら引っ張るな!!」
無理矢理連れて行かれれば、体育館では流行りの歌が流れ、下級生たちが踊っていた。
「何だ?体育館が下級生に使われているからどけろと俺に言わせたいのか?」
送る会は体育館で行うから、リハーサルも兼ねて、時間と曜日で使う学年を割り当てている。
五時間目が終わったばかりだから、もしかしたらその延長で使っているのだろう。
え~と、確か今日の五時間目は…
「馬鹿ねぬ~べ~。あれを御覧なさいよ」
「そうそう」
俺の思考と、美樹と響子が示す指先が合致した。
今日の五時間目で体育館を使っているのは三年生。
三年生の演目はダンス。
「あ!!!」
三年生の演目のダンスの振り付けは体育教師という謎の理由で道明先生が担当することになっていて。
体育館のステージには子ども達の見本役として踊っている彼女がいた。
子ども達は彼女を見ながら一生懸命踊っている。
実に微笑ましい。
そしてステージで踊る道明先生の軽やかな身のこなし。
リズミカルに跳んで、ステップを踏んで。
中学年用としてそれほど複雑な振り付けではないのに、彼女が踊れば実にキレがあって華やかだ。
「みんな上手!!」
笑顔でほめる道明先生。
流れる音楽の合間から快活な道明先生の声が響いてきた。
結んだ髪が揺れている。
国語を教えている時とも、鉄棒や跳び箱を指導している時ともまた違う教師としての一面を見ることができた。
良い。
実に良い!!!
「なーに見惚れちゃってんのよ」
「な!?」
美樹や響子だけではない。
五年生の全員が俺をニヤニヤと見ている。
みんな、道明先生の姿を俺に見せたかったのだろう。
そしてそんな彼女を見る俺を見て楽しみたかったのだろう。
まったく、教師で遊びやがって!
「ぬ~べ~。俺達早く練習したいんだけど。三年生の先生に言ってきてくんね?」
「克也。お前、普段は絶対そんなこと言わんくせに…」
「三年生のみんなだって早いとこ帰りの会をやって帰りたいって思ってるぜ?」
「そうよそうよ」
体育館の入口でわいわいやっていたからか、ちらほらと俺達の存在に気づき始めた三年生と他の先生達。
そしていよいよ道明先生も気が付いて、音楽を止めてこちらへ駆けつけてきた。
目の前に来た道明先生に俺は緊張してしまう。
「鵺野先生!」
「あ……ど、…ども」
額に少し汗をかいていて、
前髪が少し貼りついていて、
でもいい香りがしていて、
頬が上気していて、
申し訳なさそうに眉尻を下げる彼女。
ここが神聖な学び舎と分かっていながら、俺は邪な気持ちを抱いてしまう。
「ごめんなさい!すぐに空けますね」
「あ………いえ……はい」
おそらく彼女よりも真っ赤になってしまった俺に、広達は目を輝かせた。
「すみません道明先生。俺達は別にゆっくり使ってもらって構わないんですけど」
「ぬ~べ~が『時間を守らないなんてけしからん!』って!!」
「私達は止めたんですけどねぇ!?」
「だって下級生たちが一生懸命練習してるのに!!ねぇ!?」
五年三組の素晴らしい連携プレーがここで遺憾なく発揮される。
さすがぬ~べ~クラス。妖怪に襲われ、度胸も据わって機転が利く…って感心してる場合じゃない!
何を言ってるんだこいつらは!?
「え…」
彼女は目を見開いた後、みるみるうちに申し訳なさで一杯の表情を浮かべ、遂には頭を勢いよく下げた。
「申し訳ありません!」
「え!?いや!!!違います違います!!全然、全然そんなこと言ってないし思ってないですし!!!」
彼女の後ろでは他の先生方の号令によって解散となった三年生達が集まりだした。
そして頭をしきりに下げる彼女に何事かとやってきて、俺を睨んでくる。
「なんだよぬ~べ~!先生をいじめないでよ!」
「そうよ!この妖怪オタク!」
あぁ、変声期前の少年たちの怒声とやはり三年生でも辛辣な少女達の怒声が俺の心を抉ってくる。
「はいはーい、三年生~。そんな妖怪オタクの先生のことはいいから。はやく教室に行って帰りの会をするよ~」
三年生の教師陣の中で一番の若手である山内先生は悪ノリする。
どっと笑う三年生と我が五年三組。
がやがやと三年生と五年生が入り混じる体育館の入口で、彼女が俺の傍を通り過ぎるから、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「あ、あの!さっきのは…」
どうしても誤解を解きたくて思わず掴んでしまった。
生徒達が居る場で何をやっているんだと心の中で諌めるも、どうしても話しておきたかった。
しかし道明先生は首をゆっくり振って微笑みかけてきた。
ああ。綺麗だな。天使だな。女神だな。
なんて、その柔らかな微笑みに癒されてしまう。
「大丈夫。分かってますから」
「え……」
分かってくれている…?
広達の悪戯だってことが…?
「早く練習をさせたいほど鵺野先生が生徒想いなことくらい」
「……」
……。
「鵺野先生?」
「……わ…わ……」
「わ?」
わかってなああああああああああい!!!
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