御礼小話
スキボタンありがとうございます。
ささやかなお礼ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
鬼の手夢(鵺野先生)
―――――――――――――――
久々の休日をショッピングで楽しむことにした。
せっかくだし少しおしゃれをして、電車に乗ってアウトレットパークに行けば人が溢れかえっていた。
仕事上ジャージが多くなってしまうから、たまには華やかな服を着てみたいと思ったのだ。
ショーウィンドウのマネキンが着飾るニットとチュールスカートの組み合わせや小花柄のワンピースに惹かれるも価格を見て躊躇う。
もっと手軽な価格帯のお店を探していると、響子ちゃん、広くん、美樹ちゃん、鵺野先生とバッタリ会ってしまった。
はたりと彼女たちと目が合うと、最初は首を傾げられたものの、はっとした様子で響子ちゃんと美樹ちゃんは駆け寄ってくれた。
「先生こんにちは!学校と雰囲気が違うから気づかなかったわ」
「アンビリーバボー!これって運命の出会いってやつじゃない?ほらぬ〜べ〜、私達のショッピングに付いてきて正解だったでしょ?!」
「ぬ〜べ〜、やったじゃん!」
「や、やあ………」
察するに、ここへ来る途中の美樹ちゃん達に童守駅前で偶然会った鵺野先生は、ここへ連れてこられたのだろう。
いつも通りキャッキャッと騒ぐ子ども達と、いつもと様子の違うぎこちない鵺野先生。
私は内心首を傾げつつも、どこかで一休みしないか提案した。
ワゴンカーで販売されていたアイスクリームを木陰下のベンチで食べることにした。
まだ五年生だと言うのに、鵺野先生の隣には誰も座らないという気の使いように私は感心してしまう。
ぬ〜べ〜クラスの皆は、鵺野先生と私をなんとかくっ付けたいようだ。
先生想いの彼らの団結が微笑ましい。
「どうかされました鵺野先生?」
「い、いえっ…………」
鵺野先生の隣に座りながら尋ねれば、彼は少し私から離れるように腰を浮かした。
気のせいだと思いたかったけれど、頑なに視線を合わそうとしないことから、やっぱり何かあるんだ。
「もう、ぬ〜べ〜。さっきっから何黙っちゃってんのよ」
「腹でも壊したのかよ。ならそのアイス、俺が食うぜ?」
「んなあほな。一ヶ月前のコッペパン食べても平気なぬ〜べ〜が腹痛になるわけないでしょ?!」
一ヶ月前のパン……。
美樹ちゃんから出た凄まじい話題に私は少し引いてしまう。
「分かった。ぬ〜べ〜、あんた柄にもなく緊張してるんじゃない?!」
「……!!」
指をさしてズバリ言う美樹ちゃんに、鵺野先生はわかり易いほどに動揺していた。
ギクリ、なんて漫画みたいな擬音が似合う。
「………ほっとけ」
「えー?!図星なのぬ〜べ〜?!」
「緊張?別に芸能人に会ったわけでもないし、試合でもないのに、何に緊張してるんだよ」
驚く響子ちゃんと首を傾げる広くんに対して、美樹ちゃんは舌を鳴らしながら人差し指を振る。
「いつもよりおしゃれな先生を見て、びびっちゃってるのよこの男は」
最早担任に対しての口のきき方じゃないが、その事に怒りを見せない鵺野先生は湯気が出るほど真っ赤になりながら俯きながらアイスを無言で頬張っている。
美樹ちゃんの言う通り「いつもよりおしゃれ」はしている。
いつもは日焼け止めとベースメイクのみだが、今日はアイシャドウもマスカラもチークもハイライトも乗せている。
服だっていつものポロシャツやTシャツとパンツスタイルではない。
だが、大学の友だちと比べれば地味な方だ。
何も言わない鵺野先生にますます調子付いた美樹ちゃんは「ぐふふ」と変な笑いを漏らしながら話を続ける。
「まさか、先生。もしかしてこの後デートだったりしてぇ?!」
「「「「ええええ!!?」」」」
「って、何で先生まで驚いてんのよ」
私まで声を上げてしまったが、そこで初めて鵺野先生と目が合った。
太眉は吊り上がり、目も口も大きく開かれていた。
「………もう美樹ったら!変なこと言わないでよ!…先生はぬ〜べ〜のことが好きなんだから、そんなわけないでしょ」
響子ちゃんはヒソヒソ話のつもりなんだろうけどバッチリ聞こえてるんだけどな。
………しかも当たってるし。
「残念だけど独りで来ました」
っほ。
生徒たちの前で安堵の息を漏らす分かり易すぎる鵺野先生に、恥ずかしさよりもハラハラしてしまう。
「もしぬ〜べ〜が彼氏だったら、こういう所は来なそうよね」
そんな分かりやすい鵺野先生に、ついにストッパー役の響子ちゃんもからかい出す。
「失礼な!恋人がいたらこういう所だってデートで行くわい!!」
ようやくいつもの鵺野先生らしくなってきた。
「それなら自分が受け持つ生徒のアイスくらい奢りなさいよね、全く」
最もらしい調子で言う美樹ちゃんだが何が「それなら」なのかは分からない。
「ぐっ」
しかし鵺野先生には刺さったようだ。
「ぜーんぶ先生の奢りだもんな」
「………ありがとうございます」
「い、いえ。そんな。そこまで頭を下げなくても」
土下座する鵺野先生に私もしゃがみ込んだ。
「………鵺野先生とだったら、どんな所だって楽しいですから」
「「「「へ?」」」」
皆、目を丸くする。
顔を上げた鵺野先生は、きょとんとした表情で少し可愛いなと思ってしまった。
「だってこんなに優しくて面白い先生だから、皆も一緒に遊びに誘ったわけでしょう?」
静かになってしまった。
「あ、そう言う意味…」
「先生ったら残酷だわ………」
「そうそう!ぬ〜べ〜って面白いし見ていて飽きないんだよな!」
美樹ちゃんと響子ちゃんは憐れみたっぷりの視線を鵺野先生に注いでいたし、広くんはケラケラ笑っていた。
そして鵺野先生は顔から出るもの全部出ていた。
「どうぜ……どうぜ俺ば」
どうしたらそんな一瞬にして涙が溢れるのか。
ぼたりぼたりと大粒の涙がアスファルトを濡らす。
そこで私はようやく自分の発言の大胆さに気が付き、そして生徒達(というか美樹ちゃんと響子ちゃん)の期待を裏切るような発言をしてしまったのだと気がついた。
「あ、あの。鵺野……先生………」
鵺野先生にどう伝えるべきか………。
「ぬわあああああん!どうせ俺は優しくて面白いだけの『先生』ですよおおおおおお!」
鵺野先生は滂沱の涙を撒き散らして叫びながら、走り去ってしまった。
「ごめん。私、鵺野先生を追いかけるね」
涙の跡を追って私も走り出した。
「ぬ〜べ〜達、帰ってこなかったりして」
「あの馬鹿真面目な先生よ?ぬ〜べ〜と一緒に戻って来ちゃうわよきっと」
ーーー
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鬼の手夢(鵺野先生)
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久々の休日をショッピングで楽しむことにした。
せっかくだし少しおしゃれをして、電車に乗ってアウトレットパークに行けば人が溢れかえっていた。
仕事上ジャージが多くなってしまうから、たまには華やかな服を着てみたいと思ったのだ。
ショーウィンドウのマネキンが着飾るニットとチュールスカートの組み合わせや小花柄のワンピースに惹かれるも価格を見て躊躇う。
もっと手軽な価格帯のお店を探していると、響子ちゃん、広くん、美樹ちゃん、鵺野先生とバッタリ会ってしまった。
はたりと彼女たちと目が合うと、最初は首を傾げられたものの、はっとした様子で響子ちゃんと美樹ちゃんは駆け寄ってくれた。
「先生こんにちは!学校と雰囲気が違うから気づかなかったわ」
「アンビリーバボー!これって運命の出会いってやつじゃない?ほらぬ〜べ〜、私達のショッピングに付いてきて正解だったでしょ?!」
「ぬ〜べ〜、やったじゃん!」
「や、やあ………」
察するに、ここへ来る途中の美樹ちゃん達に童守駅前で偶然会った鵺野先生は、ここへ連れてこられたのだろう。
いつも通りキャッキャッと騒ぐ子ども達と、いつもと様子の違うぎこちない鵺野先生。
私は内心首を傾げつつも、どこかで一休みしないか提案した。
ワゴンカーで販売されていたアイスクリームを木陰下のベンチで食べることにした。
まだ五年生だと言うのに、鵺野先生の隣には誰も座らないという気の使いように私は感心してしまう。
ぬ〜べ〜クラスの皆は、鵺野先生と私をなんとかくっ付けたいようだ。
先生想いの彼らの団結が微笑ましい。
「どうかされました鵺野先生?」
「い、いえっ…………」
鵺野先生の隣に座りながら尋ねれば、彼は少し私から離れるように腰を浮かした。
気のせいだと思いたかったけれど、頑なに視線を合わそうとしないことから、やっぱり何かあるんだ。
「もう、ぬ〜べ〜。さっきっから何黙っちゃってんのよ」
「腹でも壊したのかよ。ならそのアイス、俺が食うぜ?」
「んなあほな。一ヶ月前のコッペパン食べても平気なぬ〜べ〜が腹痛になるわけないでしょ?!」
一ヶ月前のパン……。
美樹ちゃんから出た凄まじい話題に私は少し引いてしまう。
「分かった。ぬ〜べ〜、あんた柄にもなく緊張してるんじゃない?!」
「……!!」
指をさしてズバリ言う美樹ちゃんに、鵺野先生はわかり易いほどに動揺していた。
ギクリ、なんて漫画みたいな擬音が似合う。
「………ほっとけ」
「えー?!図星なのぬ〜べ〜?!」
「緊張?別に芸能人に会ったわけでもないし、試合でもないのに、何に緊張してるんだよ」
驚く響子ちゃんと首を傾げる広くんに対して、美樹ちゃんは舌を鳴らしながら人差し指を振る。
「いつもよりおしゃれな先生を見て、びびっちゃってるのよこの男は」
最早担任に対しての口のきき方じゃないが、その事に怒りを見せない鵺野先生は湯気が出るほど真っ赤になりながら俯きながらアイスを無言で頬張っている。
美樹ちゃんの言う通り「いつもよりおしゃれ」はしている。
いつもは日焼け止めとベースメイクのみだが、今日はアイシャドウもマスカラもチークもハイライトも乗せている。
服だっていつものポロシャツやTシャツとパンツスタイルではない。
だが、大学の友だちと比べれば地味な方だ。
何も言わない鵺野先生にますます調子付いた美樹ちゃんは「ぐふふ」と変な笑いを漏らしながら話を続ける。
「まさか、先生。もしかしてこの後デートだったりしてぇ?!」
「「「「ええええ!!?」」」」
「って、何で先生まで驚いてんのよ」
私まで声を上げてしまったが、そこで初めて鵺野先生と目が合った。
太眉は吊り上がり、目も口も大きく開かれていた。
「………もう美樹ったら!変なこと言わないでよ!…先生はぬ〜べ〜のことが好きなんだから、そんなわけないでしょ」
響子ちゃんはヒソヒソ話のつもりなんだろうけどバッチリ聞こえてるんだけどな。
………しかも当たってるし。
「残念だけど独りで来ました」
っほ。
生徒たちの前で安堵の息を漏らす分かり易すぎる鵺野先生に、恥ずかしさよりもハラハラしてしまう。
「もしぬ〜べ〜が彼氏だったら、こういう所は来なそうよね」
そんな分かりやすい鵺野先生に、ついにストッパー役の響子ちゃんもからかい出す。
「失礼な!恋人がいたらこういう所だってデートで行くわい!!」
ようやくいつもの鵺野先生らしくなってきた。
「それなら自分が受け持つ生徒のアイスくらい奢りなさいよね、全く」
最もらしい調子で言う美樹ちゃんだが何が「それなら」なのかは分からない。
「ぐっ」
しかし鵺野先生には刺さったようだ。
「ぜーんぶ先生の奢りだもんな」
「………ありがとうございます」
「い、いえ。そんな。そこまで頭を下げなくても」
土下座する鵺野先生に私もしゃがみ込んだ。
「………鵺野先生とだったら、どんな所だって楽しいですから」
「「「「へ?」」」」
皆、目を丸くする。
顔を上げた鵺野先生は、きょとんとした表情で少し可愛いなと思ってしまった。
「だってこんなに優しくて面白い先生だから、皆も一緒に遊びに誘ったわけでしょう?」
静かになってしまった。
「あ、そう言う意味…」
「先生ったら残酷だわ………」
「そうそう!ぬ〜べ〜って面白いし見ていて飽きないんだよな!」
美樹ちゃんと響子ちゃんは憐れみたっぷりの視線を鵺野先生に注いでいたし、広くんはケラケラ笑っていた。
そして鵺野先生は顔から出るもの全部出ていた。
「どうぜ……どうぜ俺ば」
どうしたらそんな一瞬にして涙が溢れるのか。
ぼたりぼたりと大粒の涙がアスファルトを濡らす。
そこで私はようやく自分の発言の大胆さに気が付き、そして生徒達(というか美樹ちゃんと響子ちゃん)の期待を裏切るような発言をしてしまったのだと気がついた。
「あ、あの。鵺野……先生………」
鵺野先生にどう伝えるべきか………。
「ぬわあああああん!どうせ俺は優しくて面白いだけの『先生』ですよおおおおおお!」
鵺野先生は滂沱の涙を撒き散らして叫びながら、走り去ってしまった。
「ごめん。私、鵺野先生を追いかけるね」
涙の跡を追って私も走り出した。
「ぬ〜べ〜達、帰ってこなかったりして」
「あの馬鹿真面目な先生よ?ぬ〜べ〜と一緒に戻って来ちゃうわよきっと」
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