償いの薬師
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生徒たちが眠りに落ち、虫の声が響く夜の山に伝令係がやって来た。
「山田先生、土井先生………報告いたします」
その声は三木ヱ門だった。
学園一のアイドルと自称し、火器を過剰に愛し、下級生達からしばしば呆れられる面影は削ぎ落とされ、闇を睨んでいる。
彼の声は木々の間を埋め尽くす夜闇に吸い込まれ何も返ってこなかったが、それは報告を促すものと悟り、声を落としたまま語る。
「六年生はカエンタケ領内に、五年生はコガネタケ領内に既に入り情報収集に努めています。その他の学年も皆、コガネタケ領内を目指しているところです。また、カエンタケ領内に辿り着く前に潮江文次郎先輩から妙な報告がありました」
三木ヱ門は一息置いて、再び口を開いた。
「コガネタケ領内で出会った物売りからの話だそうです。山道で、誰も乗っていない馬が走っていたのを見たと………」
女一人の足取りに鍛錬を重ねた忍び達が追いつかなかったのは、馬を使ったのだろうと既に検討は付いていた。
朱美は馬に乗ってコガネタケ領内の池井穂毛村まで向かったのではないか。
そして、彼女の身に何か起きたのではないか。
推測はできるが、所詮は推測に過ぎない。
「また、カエンタケ領内もコガネタケ領内も以前から税額が上がったことは既に報告されておりましたが」
これまで学園を訪れていた利吉からの報告であった。それは学園長からのかねてからの依頼であった。
争いの絶えない地帯ではあったが、彼女が学園に来た頃から両者は来るべき時のために備えていたのだ。
「更に税が上げられ、両者共に着々と戦の準備を整えているとのことです。これは5年生からですが、コガネタケは池井穂毛村より北西にある出城に兵を集めているとのことでした」
二人はようやく口を開いた。
「あの辺りの地形は更に勾配がキツイが、それ故にカエンタケの様子もよく見えるね」
「コガネタケ以南の様子はどうだ」
コガネタケは防戦に徹することとしたのだろうか。
伝蔵は腕を組む。
コガネタケはカエンタケの北上を防ぐべく、自領以北の領主と同盟を組んでいることも利吉から聞いていた。
カエンタケの進出はコガネタケのみならず、周辺の城達が警戒する事態のはずだ。
伝蔵が尋ねれば、暗闇の中で三木ヱ門は頷く。
「コガネタケに隣接した領内の街には兵の募集を掲げた立て札や、竹を運ぶ人達の姿を見かけました。三年達からもその姿を見たと聞いております」
「分かった。ご苦労だった」
「失礼いたします」
僅かな足音はあっという間に消え去れば、闇と静寂は濃くなった。
半助は瞼を閉じ、朝を待つこととした。