償いの薬師
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あの頃と同じ抜けるような青空と照りつける日差しが、その惨状をより明確に朱美に突き付けているかのようだった。
踏み荒らされて道との境をなくした畑や、折られた柱と崩れた土壁のみとなった池井穂毛村を見て、朱美は村の入口の老夫婦が住んでいた家の残骸に駆け寄った。
「………みんなっ………」
呼吸が浅くなる。
湧き上がる感情を抑えながらあたりを見回せば、家々が崩されたのはほんの少し前。
馬上から見た時も煙は上がっていなかった。
村を襲ったのは言うまでもなくカエンタケだ。
コガネ城への宣誓布告を形で表したものだった。
鳥が高いところで鳴くなか、朱美はかつての村を歩く。
自分の足音と、残酷なほどに長閑な鳥たちの声以外、なにも聞こえなかった。
村には誰もいないようだ。
コガネ城はカエンタケ城からの宣戦布告文を受けてすぐに城内へと池井穂毛村をはじめとした周囲の村民たちを避難させたのだろう。
取り残された者や人が襲われた形跡は見当たらない。
最悪の事態は免れたのだ。
「良かった」
聡明なコガネ城ならば民を蔑ろにするはずはない。
愚かな自分とは違う。
民を放り出し、逃げたりなどしない。
分かっていてもこの目で確認するまで気が気ではなかった。
全身の力が抜けて朱美はへたり込む。
ざぁ、と遠くの方で木々が揺れる音がしてから朱美の元に風が吹いた。
空の青さと緑風の穏やかさをようやく感じ取ることができた。
池井穂毛村の民の無事を確認できたのならば、残すところ、この男と共にカエンタケに向かうのみである。
後先考えずここへやって来てしまった自分を嗤う。
幾度も忘れようと拭い去った忍装束の彼らの笑顔が浮かぶ。
自分のいない今、忍術学園はどうなっているのだろう。いや、どうもしない。保健医は新野が一人で元々勤めていたのだ。
―戦は消費と破壊と消耗。そこからは何も生み出されない
打ち壊された家。
納屋すら残されずに焼かれた家。
半助の言葉が胸中に響く。
カエンタケの忍者も、自分も、破壊した側の人間だ。
彼らと共にいていいわけがない。
彼の隣に立つべきではない。
隣に立ちたいと願うべきではないのだ。
これで良いのだ。
「気は済んだか?」
「はい…………」
朱美は頷く。
躊躇いはなかった。