無防備な肌
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きっかけは雨だった。
図書館の入口で、呆然と立ち尽くす彼女が、ちょうど階段を降りたところで見えた。
そして、そんな彼女に声をかけた彼女と同じ学部の奴。
音を立てずに、しかし足早に彼女の下へ向かう。
危ないところだった。
男に傘を差し出され入ろうとする彼女の腕を引く。
胸に倒れ込んだ伊瀬階さんは、目を丸くして見上げてきた。
「………土井くん?」
そこからは怖いくらいに事が運んだ。
思いを打ち明け、彼女は答えてくれた。
嬉しくて、
嬉しすぎて、
彼女の言葉を噛みしめることしか出来なかったから、バイト上がりの彼女の手を握ってみる。
彼女のアルバイトが終わる頃になっても、雨は止まなかった。こんなに降り続けたら嫌になるのに、再び相合い傘が出来るかと思うと嬉しくなった。
彼女を引き寄せて、狭い傘の下で肩をくっ付け合いながら当てもなく何となく歩く。
相合い傘をするには手を繋いでは出来ないから、手を離す。
手の体温は離れても、肩が触れ合う。
暗がりの中、街灯の光と雨で光って見えたアスファルトの道のなか、彼女と好きな食べ物やら大学に入る前の話やら、色々な話をしては彼女の事を少しずつ知っていった。
「土井くんって苦手な食べ物あるの?」
「練り物」
即答した俺を彼女はクスクス笑った。
「そうなの?」
「そう。絶対無理だ」
「なんだか意外」
「伊瀬階さんは?」
「無いよ。何でも美味しく食べる」
目が合えば、胸が苦しくなるから前を向く。
「伊瀬階さんは料理する?」
「それなり」
「とか言ってすごく上手そう」
「そんなことないよ。土井くんは?」
「そうだなぁ。一人暮らしも長いし、上手くはないけどそれなりに作れるよ」
伊瀬階さんは俺を見て何か言いたそうだったけれど、開きかけた唇はそっと閉じられた。
一人暮らしが長いところに訳を尋ねようとしたのだろう。聞かれても構わないが、尋ねてこないのを、こちらからあえて話す必要はない。
「危ない」
危うく彼女は深い水たまりに足を踏み入れるところだった。
腕を引いて彼女の軌道を変えさせれば、彼女の髪が揺れて、花の匂いが漂った。
「ありがとう」
はにかむ彼女に、胸の奥で膨らみ続ける気持ちを必死に抑えている。
きっとそんな俺の気持ちなど、彼女は知らないのだろう。
「土井くんって反射神経すごいよね。この間も私が落としたレポート用紙を床に落ちる前にキャッチしたし」
「伊瀬階さんはよく物を落とすよね」
唇にどうしても視線がいってしまう。
触れたら柔らかそうだ………なぞ、どうしても邪な気持ちが湧き上がってしまう。
肩が触れて、良い匂いもして、鼓動が煩いのに伊瀬階さんは平然としている。
それがつまらなくて、わざと意地悪な言葉を彼女に投げつけたのに彼女は困ったように笑うだけだった。
「その度に土井くんは拾ってくれて……鈍臭くてごめんね」
そんな風に笑って欲しいわけじゃないのに。
「別に責めてるつもりじゃ………俺こそごめん」
慌てれば彼女は更に困ったように眉を下げた。
「ううん、私こそごめん……うまく話せなくて」
傘の中は雨音だけになった。
人通りの少ない通りだから、傘を殴るような雨音が本当に煩く響く。
伊瀬階さんの自嘲気味な笑いが溢れた。
ごめんね、と再び呟く。
謝るのは俺の方なのに。
「本当にごめんね。今、すごく緊張してて、うまく喋れなくて」
伏し目がちの彼女の頬が紅いのをどうして見落としていたのだろう。
目が合うと、彼女は困ったような笑みを依然として浮かべたままだった。
「本当に嬉しくて。夢みたいで。バイト中も、早く終わらないかな、ってずっと考えてて」
早口で話す彼女の言葉の一つ一つが、どうしようもないほど俺の胸を焦がしてくる。
「俺もだよ。すごく緊張してる」
「嘘だよ」
「なんで疑うんだ」
彼女は、今度こそちゃんと笑ってくれたから、俺もつられて笑う。
良かった。
その言葉だけを胸の中で馬鹿みたいに延々と呟いていた。
ーーー
この日も雨だった。
それは何度目かのデートだった。
突然の雨に伊瀬階さんも俺も傘を持っていなかった。
雨宿りするにも、衣服は濡れきっていたから、近かった俺の家へと招くことになったのだ。
空から絶え間なく降り注ぐ銀の糸を通り抜け、俺のアパートへと辿り着く。
頭のてっぺんから爪先までびっしょりになった俺達は靴を脱ぐ。
「散らかってるけど」
なんて言うけど、それほど物を置いていない。
「お邪魔します」
彼女の声が固い。
緊張しているのは明らかだった。
俺だってそうだ。
雨粒が屋根を叩きつける音も心臓の音も騒がしい。
伊瀬階さんと二人きり。
髪が額や頬に張り付いて、服もぴったりと肌に吸い付いている彼女を見続けているのは心臓によろしくない。
透けて見える下着の線に、俺の視線は何度も引き寄せられてしまう。
邪な心を必死に抑えなくては。
夏とはいえ、濡れたままでいては風邪を引いてしまう。
「そっちが風呂だから」
バスタオルを棚から取り出して彼女に渡せば、彼女は首を振る。
「土井くんが先に入って。風邪引いちゃう」
「俺は大丈夫だよ。髪も長いし、伊瀬階さんの方こそ風邪を引くよ」
「私は大丈夫だから」
言ったそばからぶるりと震えたから、彼女を無理矢理バスルームに押し込んだ。
背中を押したとき、透けて見えた下着の色は桃色だった。
「………着替えとタオルは用意しておくから」
ユニットバスだから湯船にゆっくり浸かることは出来ないけれど、できるだけ長くシャワーで温まってほしい。
自分の平静を取り戻すためにも、長くいてほしいのだ。
しかし彼女の着替えを用意してはみたものの、その姿を想像しては、またしてもあたふたとしてしまうし、そういえば男物のシャンプーしか置いていないし、ドライヤーなぞ買ってもいないことに気付く。
濡れて脱ぎづらい服を洗濯かごの中に溜息と共に投げ捨てたのだった。
ーーー
「土井くん、あがったよ………?」
バスルームのドアが開いたと共に、ひたひたと素足でこちらに近寄る足音がする。
俺は彼女に背を向けて小説を読んでいるものの、中身は一向に頭の中へ入ってこない。
ただの文字の羅列と化している紙の束を閉じ、意を決して振り返った。
「着替え、ありがとう」
Yシャツの裾から出ている白い太股が眩しい。
予想以上にくるものがあって、俺は彼女の太股を凝視してしまう。
それだけじゃない。
ドライヤーが無いから髪をまとめ上げているから、首筋は丸見えだし、うっすらとシャツの生地から透けて見える体のライン。襟元からのぞく鎖骨も、持て余した袖も、全てが刺激的で固唾をのんでしまう。
何か返事をしようとしても、動揺のあまり言葉を紡げない。
「何だか照れちゃうな」
伊瀬階さんも居心地が悪そうに裾を引っ張って腿を摺り合わせ、俺と目を合わさない。
「いつもこれを着て塾の先生してるの?」
そんな事を言わないでくれ。
バイトでワイシャツに袖を通す度に今の彼女の姿を思い出してしまうじゃないか。
「土井くんもシャワー浴びた方がいいよ」
「俺はいいよ。髪も乾いたし」
「だめだよ。風邪引いちゃう」
布一枚しか纏っていない恋人。
その下は………。
「いかんいかん!」
「何が?」
「何でもないよ!やっぱり風呂に入ってくる」
誤魔化すように笑ってタオルや着替えを用意しようとしたが、「うん」と返事をした彼女の声のトーンは明らかに沈んでいた。
冷静で居続けるためにもシャワーを浴びてこようかと思ったけれど、彼女のことが気になる。
傍に寄れば、シャンプーの匂いがした。
自分のシャンプーを使ったことで、伊瀬階さんと一緒になれたような気分がして、とにかく鼓動が落ち着かない。
「伊瀬階さん?」
「………ううん。何でもない。はやくお風呂に入ってきた方がいいよ」
目を合わせない彼女は、絶対に何でもなくない。
「気になる」
目を合わせるように屈めば、躊躇いがちな視線とぶつかった。
潤んでさえいる彼女の瞳を見て、俺は慌てた。
「どうしたんだ?」
「………ない?」
彼女の言葉に耳を疑う。
首を傾けて、再度言葉を促せば
「私……魅力ないかな?」
そんな彼女に俺は固まるしかなかった。
泣きそうな彼女は意を決したように、口をきゅっと結び、俺を見上げてきた。
「こういうシチュエーションって……普通、この後って………」
細い指が俺の腕に触れる。
するとハッとして彼女は指を離していった。
「ごめん。結局引き留めてた。土井くん、体冷えてるし、お風呂に早くっ………」
離れていく彼女の手首を掴み、そのままベッドの上に彼女を押し倒した。
跨がって彼女を見下ろせば、驚いたように私を見上げているのだから不思議だ。
こうされたかったのだろうに。
彼女の手首を抑えつけたまま、無防備な唇にありったけの気持ちを込めた口付けをぶつける。
「ふっ……ぁ」
大学生にもなって、これまでのデートで触れるだけのキスに留めていたのは、初めてを大切にしたかったから。
もっと時と場所を選んで。
少なくとも俺の部屋ではなくて
もっと優しく
もっと甘く
二人の時を過ごすつもりだったのに。
けれどそんな事はもうどうでもいい。
抑えられない欲情を彼女にぶつけてやりたかった。
「ん、……んぅっ」
苦しいのだろう。
眉を寄せて呻く彼女だが、口を離すつもりは全く無い。
角度を変え、伊瀬階さんを味わう。
舌で腔内を撫で、歯茎をなぞり、彼女の舌と絡ませる。
まだ足りない。
いや満たされるわけがない。
あの講義で君が前の席に座っているときからずっと気になっていたのだから。
話しかける勇気も無いけれど、君の目に止まって欲しくて、君と同じ列の端に座ったことも、講義を熱心に聞いている姿を盗み見していることも、質問に行く君の行動を考えて、俺も教授に質問に行ったことも知らないのだろう。
やっと思いが通じて。
その先を進む時は、特別大切な時間にしようと決めていたのに。
あんな風に誘われてはもう我慢の限界だ。
いや、我慢していたことすら馬鹿馬鹿しく思えたのだ。
「や、んっ………んん!」
嫌がりつつも舌を絡ませてくる矛盾した態度をとる彼女の真意が分からない。
唇を離せば、伊瀬階さんは胸を上下しながら俺を切なそうに見上げていた。
「俺の気も知らないで………」
情けないほどか細い声が出てしまった。
すると伊瀬階さんの瞳はみるみるうちに怒りに染まっていったから、俺はたじろいだ。
「そういう………」
「伊瀬階さん?」
跨がっていたのをやめて隣に体をずらせば、彼女は勢いよく上体を起こした。
「そういう土井くんだって私の気持ち知らないでしょう!」
目を細めて睨み付けてくる伊瀬階さんの顔は真っ赤だった。
「早くこうしたくて堪らなくて。でもそんなこと言ったら、きっと引かれちゃうんじゃないかって迷ってる私の気持ちなんて」
早口で捲し立てる彼女の声は羞恥で震えていた。
「抱くつもりも無いのにこんな格好させたの?」
「あ………」
先程まで吹き出し続けていた欲情はどこへやら。
彼女の尤もな指摘に、俺は恥ずかしいやら情けないやらで、ベッドに腰掛けた。
確かに。
何で普通にジャージを貸さなかったんだろう。
あまりにも間抜けなうっかりに頭を抱えた。
「土井くん……?」
黙ったままの俺に伊瀬階さんはポツリと「うそ………」と溢した。
「土井くん」
ベッドが軋む。
彼女が起き上がり、私の隣に座る。
曝け出された太股が目に眩しい。
先程から主張し続ける己のソレを手で隠す。
そんな俺の様子を見て彼女はふわりと笑うのだから堪らない。
ブカブカのシャツの襟から覗く胸元を見てしまい、急いで違う方向を向けば、再び笑われてしまった。
「馬鹿にしたきゃすればいいだろ」
「何が?」
とぼけちゃって。全く白々しい。
「するつもりじゃないのに、そんな格好させたこと」
ふふふ、と彼女はくすぐったそうに笑った。
「ほら、もっと笑えばいいだろう。馬鹿な奴だって」
「そんな事思わないよ。土井くんも抜けてるところがあるんだなあって安心してるだけ」
「意味が分からんな」
どんな顔で俺を見ているのか知りたくなくて、俺は彼女から顔を背けた。
「土井くん」
柔らかな声と共に彼女は俺の腕に触れた。
「冷たい。温まらなくて大丈夫?」
その声が熱っぽくて、ぞくりときた。
振り向けば、上目遣いで俺を見ている。
「さっき、すごくドキドキしたんだよ」
黙っていれば、彼女は顔を真っ赤にさせて笑っているのに泣きそうな顔をしている。
「土井君の服を着て、土井君のベッドに寝かされて。土井君の匂いに包まれて」
彼女の手が震えているのが腕から伝わる。
「さっきのキスも………いつもと違くて………嬉しかった」
何をやっているんだろう俺は。
ここまで彼女に言わせてしまうなんて。
「そう思ってる私のこと、引いてる?」
「そんなわけないだろう!」
雨音が更に強くなった。
雨の音に支配された部屋の中で、俺はゆっくりと彼女の肩を抱いて、押し倒した。
「伊瀬階さん………いいの?」
それでも確認してしまう自分に、言ってしまった後で内心苦笑する。
ここまで来て聞くなんて野暮だ。
けれど彼女は蕩けたような笑みと共にゆっくりと頷いた。
再び重ねられる唇。
シャツの上から彼女に触れれば、くぐもった彼女の甘やかな声が雨音に掻き消されずに部屋に響いた。
「朱美」
ずっとそう呼びたかった。
「好きだよ」
掠れ声の愛の言葉に、朱美は大袈裟なほど顔を真っ赤にして、泣きそうになっていた。
「私も、好きっ………半助くんが好き」
どちらともなく腕を回し、互いの体が鬱陶しく感じるほど強く抱きしめ合った。
この上ない幸福感と、千切れてしまうほどの切なさが溢れてきた。
「好きだ」
呪文のように呟きながら口付けを彼女の体に落とし、印を刻む。
「半助くん」
切なげに名を呼ばれ、猛り狂う欲情を早く出してしまいたい思いと、もっと慈しみたい願いに苛まれる。
「朱美……」
なんですか?半助さん。
部屋の外から聞こえてきた彼女の声。
何故だろう。
彼女はここにいるのに。
いや、というかここはどこだろう。
ーーー
「ん!?」
飛び起きれば目の前に不機嫌な朱美が正座して私を見つめていた。
「すごーく幸せな夢を見ていたようですね」
先程までの出来事は夢だったのか。
ここは忍術学園の敷地の端にある侵入訓練などの演習に使われる小屋だ。
先程まで彼女と体を重ねた後、心地良い疲労感に身を任せて微睡んでいたところ、夢を見ていたようだ。
「伊瀬階さんって誰ですか?」
口を尖らせて私を睨む朱美。
「誰って君だろう。伊瀬階朱美さん」
彼女と向き合うように座り、頬を突いてやれば、朱美は更に不機嫌そうに眉を寄せた。
「半助さんが夢のなかの半助さんを妬く理由が分かりました。やなもんですね、確かに。」
真面目に語る彼女に私は吹き出してしまう。
「夢のなかの君も可愛かったよ」
「私もそうでした。夢のなかの半助さんもカッコよかったですよ」
朱美の腕を引いて、抱き寄せる。
「お互いにお互いの夢の自分に妬いていて馬鹿みたい」
溜息をつく彼女には、その後すぐにクスクスと笑い出したから、私も共に笑う。
「そうだな」
「どんな夢を見ていたんですか」
「そうだな。もとはといえば君のせいだ」
「え、何ですか急に」
自分のせいと言われて不服そうに口を尖らせた彼女に、私は額を合わせた。
「土井君の夢だよ。君と結ばれて浮かれていたよ、土井君は」
夢のなかの自分は恥ずかしいほど初々しくて未熟だった。
私ならもっと上手く事を運べたはずだ。
「へー」
しかし、夢のなかのシャツ一枚姿の彼女を思い出し、頬が緩みそうになる。
そんな願望など抱いてはいないのに、何故そんな夢を見たのだろうか。
「何でカレシャツ姿の君の夢を見たんだろうな」
「は?」
口をぽかんと開けたまま固まる彼女に、私はニヤニヤが止まらない。
「勿論、どんな姿の朱美も可愛いよ」
「そもそもカレシャツなんて知ってたことに驚きなんですけど………あ、いやらしい雑誌とかサイトとか観たんでしょう」
「怖い顔をしないでくれ。それに少女漫画は君にとっていやらしいものなのか」
朱美と話しながら、かつて彼女の世界にいたときに観たアニメーションを思い出した。
そうだ。朱美が試験を受けているときに、動画配信サービスサイトで観たアニメでその発想を得たのだろう。
「何観てるんですか全く」
「たまたまクリックしちゃったんだ」
本当は戦国武将達が集う映画を観たかったのに、誤って違う動画をクリックしてしまったのだ。
「そういう朱美だって、私のスーツ姿が見たいとか言ってたじゃないか」
あっ。と彼女は声をあげた。
その反応ぶりからして、何故元の世界に居たときにやらなかったのだろうと後悔している様子だった。
「福富屋経由でクエン・カステーラさんに頼めば調達してもらえますかね」
真顔で尋ねる君の頬をつねる。
「なんでつねるんですか」
「よく伸びるからだ」
今の私じゃ不服なのか。
そう言うのが癪だから、せめて彼女の頬を可能な限り引っ張ってやりたいのだ。
「半助の半は中途半端で、助は助平」
ここまで来たら言いたいことを言ってやれ精神なのだろう。朱美は引っ張られたまま私を睨んでそう呟いた。
「何だと?」
「してあげましょうか?カレシャツ」
「できるの?」
思わず手を離してしまった。
「何期待してるんですか、やらしい」
彼女は笑うのを堪えながら呆れたフリをして私を見つめる。
「半助さんの小袖を着れば、それはカレシャツと呼べなくも無いですよね」
「それもそうだが、だが君の時代と違って、それほど衣服の大きさは」
って、何を考えているんだ私は。
しまったと顔を顰めればクスクスと笑う朱美だったが、突然笑うのを止めて、私の顔をまじまじと見つめた。
「ねえ、半助さん」
改まって尋ねるから私も朱美を真っ直ぐ見つめた。
「夢の中の私って、半助さんのことなんて呼んでました?」
改めて夢の中の情事が脳内で再生される。
愛らしい姿の君を思い出して鼓動が駆け出してしまう。
抱き合っているから、きっとこの高鳴りは彼女に伝わってしまっただろう。
「半助くん、じゃなかったですか?」
先程までの真剣な表情は演技だったのだろう。堪えきれずに笑い出して得意気に言い出す朱美が少し腹立たしい。
「さすが原案者は何でもご存知で」
あんな風に対等に呼ばれるのも悪くない。
いや、悪くないなんてもんじゃなかったな。
熱に浮かされたように何度も呼び続けていた夢のなかの彼女を思いだしていると、現実の彼女は悲しそうに私を見つめていた。
「今、他の人のこと考えてた」
「夢の中の君だよ」
「…………」
それでも不服な君は明らかに悲しそうに目を潤ませていた。
「土井君に嫉妬する私の気持ちが良く分かっただろう。ということで」
私は身を起こし、彼女に跨がり組み敷く。
「もう一度愛し合おう。」
耳元で囁けば、彼女は耳まで真っ赤になる。
体を何度も重ねていても、愛の囁きに耐性は付かないようだ。
「明日辛くなりますよ……」
その返事は拒否ではなく、確認だ。
「そうだな。それで?朱美はどうしたいんだ?」
朱美はむっとした顔で私の首に腕を絡ませた。
「…………お願いします」
そういうところは本当に変わらない。
そんなところが堪らなく愛しい。
堪らなく愛しいから、君の夢を見るし、君の夢のなかの私にも妬いてしまうのだろう。