夢のなかシリーズ
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夢のなかで
久しぶりに訪れた忍術学園。
父も土井先生も裏裏山で授業をしているらしいから、学園長への挨拶もそこそこに食堂へ向かう。
「あ、利吉さん。こんにちは」
「あら利吉さんいらっしゃい」
伊瀬階さんとおばちゃんの笑顔の歓迎に嬉しくなる。
「もうお昼の準備できてるから、利吉さんとゆっくり食べたら?」
というおばちゃんの提案に、彼女は私と向かい合わせに座り昼食をとった。
彼女とは気負わず冗談が言い合える。
時に子どものような言い争いに発展し、父上に呆れられるほどだ。
「そういえば昨日、変な夢を見たんですよ」
「どんな夢ですか?」
「みんなが私の世界で家族になって一緒に暮らしている夢です」
異世界から来た彼女。
私達のいる世界とは価値観も文化も何もかもが大きく異なっている。
夢のなかでとはいえ、そんな彼女の世界に私達の世界の者がお邪魔できたのは興味深い。
「誰が誰だったんですか?」
「お父さんが山田先生、お母さんが伝子さん」
まさかの人選に茶を吹き出したくなった。
真顔で言うから彼女は恐ろしい。
「お姉さんが北石さんで、お兄さんが利吉さん、弟がきり丸君」
「その両親で子どもが四人…」
夏も近づいているというのに寒気が止まらない。
「ここまではいいんですけど、学校から私が帰ってくると」
いや良くない。
「きり丸君のクラスメートが遊びに来てて、リビングが大変なことになってて」
鼻水が、ナメクジが、カラクリ道具が散乱するリビングに、更に乱太郎が転び、花瓶を割るという、しっちゃかめっちゃかな展開を話す。
「庄左ヱ門くんと伊助くんと一緒に片付けましたが、片付けても片付けても終わらなくて。姉さんも兄さんも帰ってきては、きり丸君達を怒って」
その場面は容易にできて、私は思わず笑う。
そこで、肝心の人物が彼女の夢に出てきていないことに気がついた。
「そういえば土井先生は出てこなかったんですか?」
伊瀬階はみるみる真っ赤になる。頬だけではなく耳まで朱に染まるから面白い。
この反応からして、彼の配役は容易に想像が付く。
「で?恋人役の半助さんはいつ出てくるのですか?」
「夢の中でも現実でも利吉さんは意地悪ですねー」
まさかの発言に吹き出してしまう。
一体私が彼女にどんな意地悪をしたというのだろう。というか、彼女の中の私は意地悪な性格という認識なのか。訂正する気も無いが面白くもないので、ここは徹底的にいじり倒してやろうと思った。
「ほら早く夢の続きを聞かせてくださいよ」
「もう話しません」
「へそ曲げないでくださいよ。子どもじゃあるまいし」
「いやです」
「しかし現実では付き合っていないのに夢では恋人役とは、大きく出ましたね」
ギリリと歯ぎしりしてこちらを睨む彼女はなかなの迫力だ。両手を肩まで挙げて降参のポーズをとった。
「今度、利吉さんが散々な目に遭う夢を見てやりますからね。ナメクジに食われたりとか」
「あくまで夢の中でなんですね」
彼女は本当に面白い。
そんな夢を見て一体何になるというのだ。
「で、結局どうなったんですか?」
「教えません」
「ケチな妹だなあ」
「意地悪な兄に教えたくないだけです」
そろそろ半鐘が鳴る頃。
伊瀬階さんは食器を片づける。そのついでに私の空いた湯飲みも持っていき、お茶をついで持ってきてくれた。
「もう少しで山田先生達が来ますから。ゆっくり食べててくださいね」
彼女の切り替えの早さに感心しながら、注ぎ足された湯飲みを受け取った。
「ありがとう」
彼女は私に軽く礼をしてから厨房に入り、テキパキとおばちゃんと準備を進めた。
結局、話を最後まで聞けなかったのが悔しい。
やがて生徒達が食堂に来て、父も土井先生もやって来た。
「なんだ利吉、来てたのか」
「やあ利吉くん」
意地悪な兄は閃いてニヤリと笑う。
私の隣と向かいに座った二人に、先ほどの彼女の夢の話をする。口止めはされてない。
「どうやら父が父上で、母が伝子さんで、姉が北石くんで、兄が私で、弟がきり丸という夢で…」
配役の時点で土井先生は茶を吹き出す。
しかし、そこに自分が含まれていないことに少し寂しそうな表情を浮かべた。
「安心してください。ちゃんと土井先生も出て来たらしいですから、後で伊瀬階さんに聞いてみてください」
意地悪な兄はそう言って、後ほど真っ赤な顔をして焦りながら説明する妹の姿を想像して、ほくそ笑みましたとさ。