愛しさを満たすため
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目覚めたときに感じる朝の空気が格段に柔らかくなった。
身支度を整え、半助さんと一緒に食堂前まで歩くのが、もう当たり前になってしまった。
机に置いた役割を終えた懐中時計は、時々磨いてあげている。
この世界に出会い
貴方に出会い
貴方に恋をして
貴方と別れ
そして、貴方と再び歩むきっかけとなった懐中時計。
だからその金色の体は、春の日差しを受けて誇らしげに輝いている。
食堂の手伝い兼事務員という目まぐるしい一日を終え、彼との時間を過ごす。
いつもなら短い時間のうちに貪るように互いを求めるけど、今日は一年は組の教室に行くことを提案すれば、半助さんは驚いていた。
「実は私もそう思っていたんだ」
今宵の月のように控えめに笑う半助さんに、私の胸の鼓動は簡単に駆け出し始める。
いつかは慣れると思っていた。
それなのに、貴方の笑顔はいつだって私を落ち着かなくさせる。
「今日の授業はどうでした?」
黒板に置かれたチョークがどれも短いことが可笑しくて、しげしげとつまみ上げて見つめながら尋ねれば、半助さんは胃の辺りを抑えながら苦笑いしていた。
「いつも通りだよ」
「お疲れ様です」
そのしなやかな腰に抱きつけば、彼が僅かに息を呑んだのが分かる。
それは、忍の仮面を外しているという証だ。
「土井先生……半助さん………」
「どうした」
小さく笑いながら私の髪を撫ぜてくれる。
「大好きです」
「うん」
「愛しています」
「……どうしたんだい、急に」
半助さんが愛を囁き、それに私が照れるという構図がお決まりだが、今日のように逆になる日もたまにはある。
「いつも思っていることを言ったまでです」
「では私も」
躰がふわりと浮いたかと思えば、凛々しい顔が傍にあった。
「朱美。愛しているよ」
「はい……」
とても自然に横抱きにされてしまった。
でも、今日の私はそれくらいで頰を染めたりなんかしない。
そんな意思を彼の首に腕を絡めて表せば、彼も額を寄せてきた。
「君を愛している」
「ん……」
愛の囁きの後に口付けられる。
あっという間に体の奥に火が灯る。
この甘い痺れに耐性が付くことなど無いのだろう。
「あの時、本当はすぐにそう伝えたかったんだ」
「あの時……」
あの時とは、思いを打ち明けたあの夏の夜のこと。
「だから今、存分に伝えさせてくれ」
「………だめです」
体が傾き、落ちそうになってしたったのは、半助さんがガクリと膝を折ったから。
「なんでだ?!」
ここにきて半助さんは一年は組のよい子達に向かって怒鳴るような甲高い声で叫んだ。
「だって」
貴方も私も、今夜、ここに来て想いを伝えたかったのだろう。
気持ちが繋がっていることに私の胸はたちまち甘やかな幸福感に満たされていく。
下ろされても尚、私は半助さんから離れない。
「私も伝えたくて堪らないからです」
何度も伝えたい。
貴方の体の中に染みこませたいのだ。
愛している、と。