貴方が1番
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おはようございますっ」
いつもより元気の良い挨拶をする朱美に私は苦笑する。
彼女の世界では、今日は恋人達にとって特別な日なのだ。
彼女が初めてこの世界に来たときも、皆に猪目型…ハート型の羊羹を作っていた。
「半助さんには特別なものを作りますから!」
「すごく張り切っているね」
子どものように目を輝かせる彼女に頰が緩んでしまう。
「夜を楽しみにしててください」
「ああ」
貰えるのは最後。それは特別だから。
しかし、最後というからには最初があるわけだ。
「ちなみに最初にあげるのは誰なんだい?」
つまらない嫉妬だ。
朝から彼女を困らせたくはないのだけれど、ついつい口から転げ出てしまった。
「うーん」
私の心境など露知らず、腕を組んでいた。
「食堂のおばちゃんか、シナ先生か……」
「へ?」
まさかの人物に私は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「お世話になっている方への感謝の日でもあるんですよ。お二方には大変お世話になりましたし、これからもお世話になりますし。でも、それを言ったら学園長なのですけどね」
確かに。
この世界に来たばかりの正体不明の彼女を学園に置くことを決めたのは、他ならぬ学園長だった。
戸惑いに揺れるあの時の彼女の瞳を思い出し、掴まれたように胸が苦しくなった。
「半助さん」
「ん?」
「今、キスしてもいいですか?」
足を止めてしまった。
「周りに誰もいなければ、……したいんですけど」
あの戸惑いに揺れた瞳の彼女は、今では真っ直ぐに愛を伝えてくる。
なんて贅沢で、幸せなことだろう。
「もしかしなくても、真っ先に受け取りたいんですよね?半助さんは」
見抜かれていた。
その瞳は悪戯っぽく笑っていた。
彼女は私に随分と詳しくなったものだ。
「朱美……おいで」
ふわりと微笑み、私の首に腕を回し、背伸びをして口付けをしてきた。
ほんの少しだけ舌を絡ませ、刺すような真冬の空気のなか、甘い一時を堪能する。
「これはその…あれです……」
「何だい?」
唇を離せば、彼女は瞳をそらせ口篭もる。
「感謝と愛の気持ちを食べ物で表すわけで。……だから、真っ先に半助さんに私を差し出せた…ということで……」
彼女の耳が紅いのは寒さのせいではない。
「全く君は」
胸の中が波打つ。
いけない。
乱れる心を忍の矜持でなんとか鎮めて、笑ってみせた。
「夜も楽しみにしているから」
耳元で囁けば、こくこくと彼女は小さく頷く。
「じゃあ……また朝食の時に」
「うん」
食堂の勝手口の手前で手を振って私達は別れる。
今日はなんとか早めに切り上げて、彼女との時間を過ごそうと思う。