ひとひら
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1枚の写真を取り出す。
幼い日の着物姿の彼女が満面の笑みで写っている。
彼女の後ろには、幾つもの人形が段に飾られていた。
細部までは見えないものの、大きさの割に、人形の顔立ちや煌びやかな衣服の精巧さに見とれてしまう。
この写真は、私にとって数百年後の3月3日に撮られたもの。と言っても、彼女の世界とは暦の数え方は違うし、この世界とは時間上繋がってはいないのだけれど。
そして精巧な作りの人形は、彼女の時代の雛人形。
桃の節句。ひな祭り。
女の子の成長を祝う日だ。
ままごとで使われるひいな人形が、ここまで立派なものになるのだから驚きだ。
彼女の世界に滞在した時に偶然知った祝い事。私の世界では節句は厄を払うことが主であり、ここまで盛大に祝うことはしない。
「あ、勝手に見てる」
「ごめん」
本の返却期限が過ぎていたことを思い出して慌ただしく出て行った彼女が、図書室から戻ってきた。
彼女を待つ間、私は机の上に置かれたアルバムを眺めていたのだ。
アルバムを手にしていた私を見て、朱美は
部屋に入るなり早足に私の元へと近づく。
「朱美は大きくなったなぁ」
傍に座った朱美の頭を撫でれば、案の定、彼女はむっとしている。
「また子ども扱いして」
「ごめんごめん」
「三歳の頃の写真ですね。懐かしい」
時折生じる胸の奥の痛みを、私は真っ正面から受け止める。
写真を眺めていた彼女を抱き寄せ、口付けをする。
彼女は綺麗になった。
そしてこの世界で更に逞しくなった。
彼女は、この学園にとっても、私にとっても欠かせない存在。
この世界にはいない彼女を想う大切な人達に、そう伝える。
「朱美」
「あ……」
彼女の視線は格子窓に向けられていた。
「花びら」
彼女の言葉に窓を振り返れば、ひとひらの花びらが部屋の中へと舞い込んできた。
写真の中と同じ桃の花びらだった。
「もうそんな季節なんだ」
「ああ」
届くあてのない私の思いが通じたような、そんな気がした。
「半助さん」
彼女は私から離れ、床に落ちた花びらを拾う。
「ん?」
なかなか言葉を発さない彼女を促すが、それでも彼女は口を開かなかった。
その代わり、私の前に座りそっと腕を回される。
「なんだどうした」
戯けてに言ってみせれば、彼女はそっと笑ったのが肩越しに分かる。
私もそれ以上は何も言わずそっと抱きしめ返した。
春の訪れを彼女と迎える。
そんな幸せと共に、彼女を抱きしめたのだった。