鬼の手短編
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それは放課後のこと。
教室でいつまでもくっちゃべっていた美樹達の下校を促し、昇降口まで見届けた所で職員室に戻ろうとしたところだった。
「あれ?どうしたの?!」
道明先生の弾んだ声が、廊下に響いた。
「道明さん…?!そっか、童守小だったっけ」
彼女の声に応えたのは男の声だったから反射的に彼女を探してしまう。
……ああ、いたいた!
「そうだよ。山口くんは?」
「プール更衣室の改修工事の話あるだろ?そのための現地確認」
「そっか。工事って来年だっけ?」
「そ。だいぶ古いよな童守小のは」
………。
「最近皆と連絡取ってる?」
「いや全然。道明さんは?」
「私も。なかなか忙しくて」
隙あらばその間に割り込んでやろうと思ったけれど、その隙が無いというか………超、自然というか。
山口とやらは、ワイシャツにスラックスにストラップ式の名札を提げているうえに、来客用プレートも付けていた。名札には童守町教育部と書かれているから、童守町の職員なのだろう。
そして彼女と同じ大学なのだろう。
二人の話題は我が校のプール更衣室の話からサークルの話になっていた。
二人は外部者用の昇降口まで歩きながら仲睦まじそうに話していた。
って、何で隠れて盗み聞きしてるんだよ俺は!
サークルの話になったかと思えば仕事の話に戻っている!
……くぅ!話題が尽きないのが羨ましい……!
「あははっ。そんなに大変なんだ」
「そー。だから調査物が来たら期日守って?」
「こっちも忙しいんだよ?いい授業をするために、そんな事務仕事してる暇なんて無いのっ」
パシン
道明先生は笑いながら山口とやらの肩を軽く叩いた。
「いてぇって。先生〜暴力はいけないと思います!」
「ふふ。ごめんね?」
?!
今、道明先生が山口とやらの肩を叩いた。
つまり、ボディタッチをした。
俺なんて、どこも触られていないのに………?
しかも道明先生、凄くいい笑顔だ。
俺に対しては、仕方なさそうな顔や呆れ顔しか向けられていないのに。
遠ざかる二人の背中は、そのまま俺と道明先生の距離のようで、やるせなくなって俺は職員室に戻ることにした。
「先生………?鵺野先生?!」
「は、はい?!」
職員室に戻るなり、俺は自分の机でぼーっとしていたらしい。
呼ばれて意識を現実に引き戻せば、心配そうに眉を寄せて覗き込む道明先生と目があった。
「大丈夫ですか?」
「どわぁ?!」
至近距離の彼女に俺は動揺して椅子を思い切り後ろに引き、窓に頭をぶつけてしまった。
「ちょっ………鵺野先生、大丈夫ですか?」
二度も聞かれてしまった。
「大丈夫。………窓は割れてないです」
「そうじゃなくて」
ほら。こうやって俺は彼女にいつも情けないところを見せてしまう。
「皆帰っちゃいましたよ!」
「へ?!」
俺は壁掛けの時計と窓の外を見て驚く。
どうやらかなりの長い時間呆けていたようだ。
というか、隣のリツコ先生といい、俺に誰も声をかけてくれなかったのか?!
「私も帰りますが、鵺野先生は?」
お。
こ、これは………一緒に帰れるチャンスでは?!
「帰ります帰ります!」
慌てて立ち上がれば、彼女にくすくすと笑われてしまった。
「元気そうで良かった」
「俺はいつだって元気です!」
「さっきまでぼーっとしてたじゃないですか」
「だってそれは道明先生が!」
「私が?」
キョトンとする彼女にしまったと思う。
「え、いや………そのですね」
まずい。
実は先生のこと覗き見していました、なんて言えるわけもないし、しかし道明先生の名前を出してしまった以上、何か言わなければ。
う〜む……。
「道明先生が………お綺麗で胸が張り裂けそう………だったから!」
時が止まった。
道明先生も俺も。
やっちまった。
「ぬ、ぬわぁ〜んちゃって!!なはははは!あ、いえ!お綺麗なのは事実ですよ?すみません、実はお腹が空いちゃって元気が無かっただけで!!」
「またまた鵺野先生は、もう〜」
気まずさを破るように笑う俺に、道明先生も合わせてくれた。
「私で良かったら相談に乗りますから」
「ありがとうございます!道明先生こそ何かあったら俺に言ってくださいね」
アイツじゃなくて、俺に。
そんな嫉妬丸出しの言葉は胸にしまっておいた。
「鵺野先生」
「はい?」
職員室の窓の戸締まりを確認する道明先生が、窓の外を見ながら話しかけてきた。
その声は少し沈んでいるように思えた。
「そういう冗談………ほどほどにしてくださいね」
「え?」
そういう冗談とは?
振り向いた道明先生は上目遣いで俺を見てきた。
上目遣いで!
その破壊力!
いくら地獄先生でもそれは敵わない!
「………道明先生?」
「冗談でも、鵺野先生から言われたら嬉しいですから」
「………何を?」
俺の言葉に道明先生の瞳の温度が冷えていくのが分かる。
何を言いたいのかさっぱり分からなかったけれど、それで彼女を怒らせてしまったのは分かった。
「お疲れ様でした」
すたすたと俺の傍を通り過ぎ、朱美先生は職員室を出ていってしまった。
「ちょっ、道明先生!?待ってください!」
職員室の電気を消し、俺は急いで道明先生のもとへと走る。
けれども道明先生は俺を無視する。
「ねぇ道明先生、何を怒っているんですか?!先生ってば。黙ってないで教えていただけませんか?!」
道明先生の周りをうろうろする。
けれども道明先生は相変わらず無視だ。
歩き回って脳も活性化したからか、ピンときた。
「あ!お綺麗ですか?!っていうところですか?!」
ピタリ。
立ち止まる先生。
まさかのビンゴのようだ。
「ええ?!」
そこですか?!そこを冗談だと思って怒ってらっしゃる?!
道明先生の冷たい冷たい視線が俺に突き刺さるも、俺は腹から来る衝動を抑えることはできなかった。
ぶっふ……
「ぶはーーー、ははははっ!道明先生!俺言ったじゃないですか!?『お綺麗なのは事実ですよ?』って!!」
道明先生の強い視線が俺を突き刺すも、俺は笑いを止められなかった。
「あ?!他の女の人にも言ってるか不安になったとか?!」
パシン。
肩に軽い衝撃。
道明先生が俺の肩を叩いたのだ。
叩いたのだ。
触れてくれたのだ。
「そうです!お先に失礼します!!」
固まる俺をよそに道明先生は小走りで靴箱まで行く。
廊下を曲がったから彼女の姿はとうとう見えなくなってしまった。
俺に触ってくれた。
ていうか、『そうです』って。
他の女の人にも言っているのか、不安に思ってくれたということって………。
デへ………
デヘヘヘヘ
いつまでもやって来ない俺を心配して、ひょっこりと顔を覗かせてきた。
やっぱり道明先生は優しい。
「鵺野せん…………えぇっ………」
彼女が驚くのも無理はない。
保安灯のみの暗い廊下の中で、叩かれた肩をさすりながらデヘデヘと笑っている180センチ超えの男がいたら、気持ち悪い以外何ものでもない。
「………お疲れ様でした」
ため息をついた後、道明先生は本当の本当に帰ったのだった。
それは放課後のこと。
教室でいつまでもくっちゃべっていた美樹達の下校を促し、昇降口まで見届けた所で職員室に戻ろうとしたところだった。
「あれ?どうしたの?!」
道明先生の弾んだ声が、廊下に響いた。
「道明さん…?!そっか、童守小だったっけ」
彼女の声に応えたのは男の声だったから反射的に彼女を探してしまう。
……ああ、いたいた!
「そうだよ。山口くんは?」
「プール更衣室の改修工事の話あるだろ?そのための現地確認」
「そっか。工事って来年だっけ?」
「そ。だいぶ古いよな童守小のは」
………。
「最近皆と連絡取ってる?」
「いや全然。道明さんは?」
「私も。なかなか忙しくて」
隙あらばその間に割り込んでやろうと思ったけれど、その隙が無いというか………超、自然というか。
山口とやらは、ワイシャツにスラックスにストラップ式の名札を提げているうえに、来客用プレートも付けていた。名札には童守町教育部と書かれているから、童守町の職員なのだろう。
そして彼女と同じ大学なのだろう。
二人の話題は我が校のプール更衣室の話からサークルの話になっていた。
二人は外部者用の昇降口まで歩きながら仲睦まじそうに話していた。
って、何で隠れて盗み聞きしてるんだよ俺は!
サークルの話になったかと思えば仕事の話に戻っている!
……くぅ!話題が尽きないのが羨ましい……!
「あははっ。そんなに大変なんだ」
「そー。だから調査物が来たら期日守って?」
「こっちも忙しいんだよ?いい授業をするために、そんな事務仕事してる暇なんて無いのっ」
パシン
道明先生は笑いながら山口とやらの肩を軽く叩いた。
「いてぇって。先生〜暴力はいけないと思います!」
「ふふ。ごめんね?」
?!
今、道明先生が山口とやらの肩を叩いた。
つまり、ボディタッチをした。
俺なんて、どこも触られていないのに………?
しかも道明先生、凄くいい笑顔だ。
俺に対しては、仕方なさそうな顔や呆れ顔しか向けられていないのに。
遠ざかる二人の背中は、そのまま俺と道明先生の距離のようで、やるせなくなって俺は職員室に戻ることにした。
「先生………?鵺野先生?!」
「は、はい?!」
職員室に戻るなり、俺は自分の机でぼーっとしていたらしい。
呼ばれて意識を現実に引き戻せば、心配そうに眉を寄せて覗き込む道明先生と目があった。
「大丈夫ですか?」
「どわぁ?!」
至近距離の彼女に俺は動揺して椅子を思い切り後ろに引き、窓に頭をぶつけてしまった。
「ちょっ………鵺野先生、大丈夫ですか?」
二度も聞かれてしまった。
「大丈夫。………窓は割れてないです」
「そうじゃなくて」
ほら。こうやって俺は彼女にいつも情けないところを見せてしまう。
「皆帰っちゃいましたよ!」
「へ?!」
俺は壁掛けの時計と窓の外を見て驚く。
どうやらかなりの長い時間呆けていたようだ。
というか、隣のリツコ先生といい、俺に誰も声をかけてくれなかったのか?!
「私も帰りますが、鵺野先生は?」
お。
こ、これは………一緒に帰れるチャンスでは?!
「帰ります帰ります!」
慌てて立ち上がれば、彼女にくすくすと笑われてしまった。
「元気そうで良かった」
「俺はいつだって元気です!」
「さっきまでぼーっとしてたじゃないですか」
「だってそれは道明先生が!」
「私が?」
キョトンとする彼女にしまったと思う。
「え、いや………そのですね」
まずい。
実は先生のこと覗き見していました、なんて言えるわけもないし、しかし道明先生の名前を出してしまった以上、何か言わなければ。
う〜む……。
「道明先生が………お綺麗で胸が張り裂けそう………だったから!」
時が止まった。
道明先生も俺も。
やっちまった。
「ぬ、ぬわぁ〜んちゃって!!なはははは!あ、いえ!お綺麗なのは事実ですよ?すみません、実はお腹が空いちゃって元気が無かっただけで!!」
「またまた鵺野先生は、もう〜」
気まずさを破るように笑う俺に、道明先生も合わせてくれた。
「私で良かったら相談に乗りますから」
「ありがとうございます!道明先生こそ何かあったら俺に言ってくださいね」
アイツじゃなくて、俺に。
そんな嫉妬丸出しの言葉は胸にしまっておいた。
「鵺野先生」
「はい?」
職員室の窓の戸締まりを確認する道明先生が、窓の外を見ながら話しかけてきた。
その声は少し沈んでいるように思えた。
「そういう冗談………ほどほどにしてくださいね」
「え?」
そういう冗談とは?
振り向いた道明先生は上目遣いで俺を見てきた。
上目遣いで!
その破壊力!
いくら地獄先生でもそれは敵わない!
「………道明先生?」
「冗談でも、鵺野先生から言われたら嬉しいですから」
「………何を?」
俺の言葉に道明先生の瞳の温度が冷えていくのが分かる。
何を言いたいのかさっぱり分からなかったけれど、それで彼女を怒らせてしまったのは分かった。
「お疲れ様でした」
すたすたと俺の傍を通り過ぎ、朱美先生は職員室を出ていってしまった。
「ちょっ、道明先生!?待ってください!」
職員室の電気を消し、俺は急いで道明先生のもとへと走る。
けれども道明先生は俺を無視する。
「ねぇ道明先生、何を怒っているんですか?!先生ってば。黙ってないで教えていただけませんか?!」
道明先生の周りをうろうろする。
けれども道明先生は相変わらず無視だ。
歩き回って脳も活性化したからか、ピンときた。
「あ!お綺麗ですか?!っていうところですか?!」
ピタリ。
立ち止まる先生。
まさかのビンゴのようだ。
「ええ?!」
そこですか?!そこを冗談だと思って怒ってらっしゃる?!
道明先生の冷たい冷たい視線が俺に突き刺さるも、俺は腹から来る衝動を抑えることはできなかった。
ぶっふ……
「ぶはーーー、ははははっ!道明先生!俺言ったじゃないですか!?『お綺麗なのは事実ですよ?』って!!」
道明先生の強い視線が俺を突き刺すも、俺は笑いを止められなかった。
「あ?!他の女の人にも言ってるか不安になったとか?!」
パシン。
肩に軽い衝撃。
道明先生が俺の肩を叩いたのだ。
叩いたのだ。
触れてくれたのだ。
「そうです!お先に失礼します!!」
固まる俺をよそに道明先生は小走りで靴箱まで行く。
廊下を曲がったから彼女の姿はとうとう見えなくなってしまった。
俺に触ってくれた。
ていうか、『そうです』って。
他の女の人にも言っているのか、不安に思ってくれたということって………。
デへ………
デヘヘヘヘ
いつまでもやって来ない俺を心配して、ひょっこりと顔を覗かせてきた。
やっぱり道明先生は優しい。
「鵺野せん…………えぇっ………」
彼女が驚くのも無理はない。
保安灯のみの暗い廊下の中で、叩かれた肩をさすりながらデヘデヘと笑っている180センチ超えの男がいたら、気持ち悪い以外何ものでもない。
「………お疲れ様でした」
ため息をついた後、道明先生は本当の本当に帰ったのだった。