続・本編
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「まさか・・・あの子のいる場所ですか!?」
「答えは出ただろう」
「・・・っ」
「装備一式は奥の部屋に置いてある、準備を整えてこい」
レインが指さす方へ、僕は何も言わずに早足で向かった。
部屋の奥まった所に人一人が入る程度の小さなスペースが設けられており、様々な銃火器や隊服のストックが陳列してある。緊急用の武器庫、といったところだろうか。
「!」
動き易さを確保する為、隊服を借りようかと思っていた矢先にある物を見つけた。
慌てて手に取り、じっと眺める。
「これは・・・」
忘れるはずも、間違えるはずも無い。
ラクーンシティの事件中、ずっと着ていた服だった。
試しに袖を通してみるが、やはりサイズもそれそのもの。動き易さも慣れない隊服よりよっぽど良い。
―――しかし、何故ここに?
僕が軟禁されている部屋のクローゼットに入っていた事は知っていた。
その時は僕の部屋からそのまま持ってきただけかと思うようにしていたが、今この状況で、これだけがこの武器庫に収めてあるのはあまりに不自然過ぎる。
謀られた様な偶然。
まるで、『前からこうなる事が分かっていた』かのような。
服を当時と同様にし、軍用ブーツだけを借りることにした。
表面は堅い合皮で出来ているようだが、靴紐をきつく縛っても足首には柔軟性がありそれなりに軽量。細部の機能性まで重視されているこのブーツに、アンブレラに軍用設備に関しての潤沢な資金があることが窺える。
「(・・・いや)」
今は疑いを深め、勘繰っている場合では無い。
違和感を覚えながらも僕は支度を急いだ。
大型の武器は避け、小回りの効く使い慣れた武器を揃える事にした。
広範囲への攻撃かつ多数の対象の牽制に有効なショットガン、『ベネリM3S』。
そして、あの部屋から持ち出してきたハンドガン、『ベレッタM92F』。火力はそれなりに劣るが、フットワークの軽さと反動の小ささがそれを補って余りあるメリットだ。
いずれも動作に全く問題は無く、あとはその弾薬と、鞘に入れたククリナイフを背骨に沿わせてベルトに下げた。
***
準備を終え、先程の場所に戻るとレインが部屋の出口に立っていた。
「これを」
片側の耳に直接引っ掛けるタイプの小さなヘッドホンを手渡された。
耳から口元まで伸びている細いパーツの先端にハンズフリーマイクが取り付けられている。
パーツの接続部の動きも滑らかで、手に取った感覚でも殆ど重さを感じない。
言われるままに左耳に取りつけ、簡単な操作の説明を受ける。装着してみてもその重量に変わりは無く、付けている感覚が無い程の軽さだ。
「目標の確認をする。君達はまず実験棟Bへ向かい犯人を確保、爆薬を仕掛けた位置を割り出し時限装置が付いていた場合は解除してもらう。が、もし問題が発生した場合はα型の救助を最優先してくれ」
「・・・分かりまし―――え?」
「どうした?」
「君達、って・・・」
「誰も君一人で行けとは言っていないだろう」
そう言ってレインが視線を向けた先。
「よお」
アサルトライフルを肩に掛けた茶髪の青年が、右手を軽く上げて挨拶する。
「俺達、本当に腐れ縁みてぇだな」
ラクーンシティの悲劇を生き延びた僕ともう一人の『人間』―――カルロス・オリヴェイラだった。
あまりの驚きに頭の中で情報の整理が遅れ、思わず言葉を失う。
「・・・!?、・・・!?」
「おいおい聖、まさか俺を忘れちまったのか?薄情な奴だな」
声も、話し方も、それに付属する手の動きも表情も、全てがカルロスそのものだった。
カルロスに気付かれない様にレインに目で訴えるが、口を開く様子はまるで無く。
「い、いや・・・そうじゃなくて・・・」
「ん?ああ、化け物がいるって話は聞いた。でも俺とお前がいれば何とかなるだろ」
「え・・・えっと・・・」
何故だ?
どうして今ここにいる?
カルロスはウィルス感染によって危険な状態だと、そう言っていたのは他でも無いレインだったはずだ。
それなのにどうして―――まさか、もう既に僕の血清を使って治療が済ませてある?
いや、それにしてもそんなに簡単に、こんなに早く治療が終わるものだろうか?
疑問は尽きる事無く次々と僕の頭に浮かんでくる。
当人に聞いてみるのが一番早いのかもしれないが、もし自分がウィルスに感染していたと知らされていなかったら?
ああ、駄目だ、何の解決策も浮かんでこない。
「泣き事は後で聞いてやるから、ほら、とっとと行くぞ!」
カルロスはそんな僕の背中を思い切り叩き、一人足早に部屋を出て行った。
この行動力も、まごうことなき彼の特徴。
カルロスに続く前にもう一度レインに視線を送ると、レインは自分の耳を指差した。
僕ははっとしてヘッドホンの電源を入れる。
『説明は後程する。今は一刻も早く、事態の収拾を』
耳から流れてくる声と、視線の先にいるレインの声が重なる。
「・・・嘘はつかないで下さいよ?」
『ああ、約束しよう』
それをしっかりと聞いてから、僕はカルロスの背中を追った。
ふと、懐かしいと感じた。
銃を身に付け、それが肌に食い込む感覚。
弾薬の箱の中で互いに擦れ合う薬莢の音。
指に触れる、冷たく重い引き金の感触。
あの時と全く同じ。
悲劇は、再び繰り返されようとしている。
それが僕の手で止められるなら、僕は僕の最善を尽くす。
そして、君を―――
君が僕を守ってくれた分まで。
僕が君を守れなかった分まで。
―――絶対に。
***
「準備を急げ」
如月がこの部屋を出てから数分が経過しただろうか。
照明の戻った部屋に響く私の一声が、モニターに向かう研究員達の指を速めさせた。
「実験棟までのルート、確保完了しました」
「照明の調節も忘れるな。最低限、足元のみに絞れ」
隊服を脱ぎ、白衣を羽織ったその途端に肩がふっと軽くなる。
元々の重量の差も勿論あるだろうが、やはりこちらの方が私の性に合っているようだ。
一つ溜息をつき、私は今回の実験の内容を確認しながら先日の会議の内容を思い返した。
この実験が失敗した時、α型の実用権は他の支部へ移すように―――その命令は突然に、アンブレラ上層部から直々に下されたものだった。
研究の独占は許されない、ということなのか、それともただ単に私が嫌われているだけなのか。
何にせよ、如月聖を―――S.T.A.R.S.をこの施設へ連れて来るのは彼等にとって余程面白く無かった事は確かだ。
勿論私もその心理が理解出来ない訳ではない。
S.T.A.R.S.。
磨き抜かれた身体能力、迅速な状況把握とそれを乗り越える精神力。
我々にとって都合の悪い事件が起こる度に幾度と無くその能力を発揮し、如何なる状況でも打破し生還する。
その彼等の働きには酷く悩まされると同時に、最早感動すら覚えたものだ。
そして、その一員である如月聖。
他の隊員と比べると歳相応の平均的な身体つき、情に流されやすい精神面の弱さは最大の欠点と言ってもいいだろう。
だが、射撃の腕とそれに伴う驚異的な集中力は中々のものであると、監視員から報告があったのは紛れも無い事実だ。
更にはT-ウィルスやその他のウィルスに対する特殊な免疫能力。これだけで十分に研究するに値する事項ではないだろうか。
・・・それに、何より―――。
研究員の一人がモニターに向かう顔をこちらに向け、私に指示を仰ぐ。
「戦闘時の照明はどの程度に?」
「最低限と言ったはずだが」
「しかし戦闘の映像データの保存にサーモグラフのみでは不完全だと」
「過程はどうでもいい。条件を揃え、結果さえ出れば後はどうにでもなる」
私は如月について考えるのを一旦止め、実験順序の確認を終えてモニターへ向かう。
複数あるスクリーンの内の一つに、如月とカルロス・オリヴェイラの姿が確認できた。
―――ラクーンシティ事件の再現、か。
椅子に腰かけ、咳払いを一つ。
「始めよう」
私は無線の送信機の電源を入れた。
「答えは出ただろう」
「・・・っ」
「装備一式は奥の部屋に置いてある、準備を整えてこい」
レインが指さす方へ、僕は何も言わずに早足で向かった。
部屋の奥まった所に人一人が入る程度の小さなスペースが設けられており、様々な銃火器や隊服のストックが陳列してある。緊急用の武器庫、といったところだろうか。
「!」
動き易さを確保する為、隊服を借りようかと思っていた矢先にある物を見つけた。
慌てて手に取り、じっと眺める。
「これは・・・」
忘れるはずも、間違えるはずも無い。
ラクーンシティの事件中、ずっと着ていた服だった。
試しに袖を通してみるが、やはりサイズもそれそのもの。動き易さも慣れない隊服よりよっぽど良い。
―――しかし、何故ここに?
僕が軟禁されている部屋のクローゼットに入っていた事は知っていた。
その時は僕の部屋からそのまま持ってきただけかと思うようにしていたが、今この状況で、これだけがこの武器庫に収めてあるのはあまりに不自然過ぎる。
謀られた様な偶然。
まるで、『前からこうなる事が分かっていた』かのような。
服を当時と同様にし、軍用ブーツだけを借りることにした。
表面は堅い合皮で出来ているようだが、靴紐をきつく縛っても足首には柔軟性がありそれなりに軽量。細部の機能性まで重視されているこのブーツに、アンブレラに軍用設備に関しての潤沢な資金があることが窺える。
「(・・・いや)」
今は疑いを深め、勘繰っている場合では無い。
違和感を覚えながらも僕は支度を急いだ。
大型の武器は避け、小回りの効く使い慣れた武器を揃える事にした。
広範囲への攻撃かつ多数の対象の牽制に有効なショットガン、『ベネリM3S』。
そして、あの部屋から持ち出してきたハンドガン、『ベレッタM92F』。火力はそれなりに劣るが、フットワークの軽さと反動の小ささがそれを補って余りあるメリットだ。
いずれも動作に全く問題は無く、あとはその弾薬と、鞘に入れたククリナイフを背骨に沿わせてベルトに下げた。
***
準備を終え、先程の場所に戻るとレインが部屋の出口に立っていた。
「これを」
片側の耳に直接引っ掛けるタイプの小さなヘッドホンを手渡された。
耳から口元まで伸びている細いパーツの先端にハンズフリーマイクが取り付けられている。
パーツの接続部の動きも滑らかで、手に取った感覚でも殆ど重さを感じない。
言われるままに左耳に取りつけ、簡単な操作の説明を受ける。装着してみてもその重量に変わりは無く、付けている感覚が無い程の軽さだ。
「目標の確認をする。君達はまず実験棟Bへ向かい犯人を確保、爆薬を仕掛けた位置を割り出し時限装置が付いていた場合は解除してもらう。が、もし問題が発生した場合はα型の救助を最優先してくれ」
「・・・分かりまし―――え?」
「どうした?」
「君達、って・・・」
「誰も君一人で行けとは言っていないだろう」
そう言ってレインが視線を向けた先。
「よお」
アサルトライフルを肩に掛けた茶髪の青年が、右手を軽く上げて挨拶する。
「俺達、本当に腐れ縁みてぇだな」
ラクーンシティの悲劇を生き延びた僕ともう一人の『人間』―――カルロス・オリヴェイラだった。
あまりの驚きに頭の中で情報の整理が遅れ、思わず言葉を失う。
「・・・!?、・・・!?」
「おいおい聖、まさか俺を忘れちまったのか?薄情な奴だな」
声も、話し方も、それに付属する手の動きも表情も、全てがカルロスそのものだった。
カルロスに気付かれない様にレインに目で訴えるが、口を開く様子はまるで無く。
「い、いや・・・そうじゃなくて・・・」
「ん?ああ、化け物がいるって話は聞いた。でも俺とお前がいれば何とかなるだろ」
「え・・・えっと・・・」
何故だ?
どうして今ここにいる?
カルロスはウィルス感染によって危険な状態だと、そう言っていたのは他でも無いレインだったはずだ。
それなのにどうして―――まさか、もう既に僕の血清を使って治療が済ませてある?
いや、それにしてもそんなに簡単に、こんなに早く治療が終わるものだろうか?
疑問は尽きる事無く次々と僕の頭に浮かんでくる。
当人に聞いてみるのが一番早いのかもしれないが、もし自分がウィルスに感染していたと知らされていなかったら?
ああ、駄目だ、何の解決策も浮かんでこない。
「泣き事は後で聞いてやるから、ほら、とっとと行くぞ!」
カルロスはそんな僕の背中を思い切り叩き、一人足早に部屋を出て行った。
この行動力も、まごうことなき彼の特徴。
カルロスに続く前にもう一度レインに視線を送ると、レインは自分の耳を指差した。
僕ははっとしてヘッドホンの電源を入れる。
『説明は後程する。今は一刻も早く、事態の収拾を』
耳から流れてくる声と、視線の先にいるレインの声が重なる。
「・・・嘘はつかないで下さいよ?」
『ああ、約束しよう』
それをしっかりと聞いてから、僕はカルロスの背中を追った。
ふと、懐かしいと感じた。
銃を身に付け、それが肌に食い込む感覚。
弾薬の箱の中で互いに擦れ合う薬莢の音。
指に触れる、冷たく重い引き金の感触。
あの時と全く同じ。
悲劇は、再び繰り返されようとしている。
それが僕の手で止められるなら、僕は僕の最善を尽くす。
そして、君を―――
君が僕を守ってくれた分まで。
僕が君を守れなかった分まで。
―――絶対に。
***
「準備を急げ」
如月がこの部屋を出てから数分が経過しただろうか。
照明の戻った部屋に響く私の一声が、モニターに向かう研究員達の指を速めさせた。
「実験棟までのルート、確保完了しました」
「照明の調節も忘れるな。最低限、足元のみに絞れ」
隊服を脱ぎ、白衣を羽織ったその途端に肩がふっと軽くなる。
元々の重量の差も勿論あるだろうが、やはりこちらの方が私の性に合っているようだ。
一つ溜息をつき、私は今回の実験の内容を確認しながら先日の会議の内容を思い返した。
この実験が失敗した時、α型の実用権は他の支部へ移すように―――その命令は突然に、アンブレラ上層部から直々に下されたものだった。
研究の独占は許されない、ということなのか、それともただ単に私が嫌われているだけなのか。
何にせよ、如月聖を―――S.T.A.R.S.をこの施設へ連れて来るのは彼等にとって余程面白く無かった事は確かだ。
勿論私もその心理が理解出来ない訳ではない。
S.T.A.R.S.。
磨き抜かれた身体能力、迅速な状況把握とそれを乗り越える精神力。
我々にとって都合の悪い事件が起こる度に幾度と無くその能力を発揮し、如何なる状況でも打破し生還する。
その彼等の働きには酷く悩まされると同時に、最早感動すら覚えたものだ。
そして、その一員である如月聖。
他の隊員と比べると歳相応の平均的な身体つき、情に流されやすい精神面の弱さは最大の欠点と言ってもいいだろう。
だが、射撃の腕とそれに伴う驚異的な集中力は中々のものであると、監視員から報告があったのは紛れも無い事実だ。
更にはT-ウィルスやその他のウィルスに対する特殊な免疫能力。これだけで十分に研究するに値する事項ではないだろうか。
・・・それに、何より―――。
研究員の一人がモニターに向かう顔をこちらに向け、私に指示を仰ぐ。
「戦闘時の照明はどの程度に?」
「最低限と言ったはずだが」
「しかし戦闘の映像データの保存にサーモグラフのみでは不完全だと」
「過程はどうでもいい。条件を揃え、結果さえ出れば後はどうにでもなる」
私は如月について考えるのを一旦止め、実験順序の確認を終えてモニターへ向かう。
複数あるスクリーンの内の一つに、如月とカルロス・オリヴェイラの姿が確認できた。
―――ラクーンシティ事件の再現、か。
椅子に腰かけ、咳払いを一つ。
「始めよう」
私は無線の送信機の電源を入れた。