続・本編
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「・・・う!?」
うたた寝をしていたソファから転げ落ち、顔面を床に強打する。
目を瞬かせるまでも無く完全に目が覚め、暫くの間うずくまって痛みが引くのを待った。
その後の話で分かった事は、二つ。
まずカルロスが今、僕と同じようにこのアンブレラの施設にいる事。
僕と同じように連れて来られたのかと聞いてもその経緯の詳細は全く教えてもらえなかったが、『生きている』ことは確かだという。
その言葉を完全に信用する気にはなれなかったものの、ほんの少しの安堵は得られた。
次に、カルロスのウィルス感染の治療に僕の免疫能力を利用するという事。
あの子に―――追跡者に肩を貫かれ、復帰した時に僕の身体にはT-ウィルス、そしてそれに準ずる全てのウィルスに対する抗体が出来たらしい。
つまり、カルロスの身体に存在する「TⅡ-ウィルス」もその範囲内。その僕の血液から血清を作れば、副作用もアレルギー反応も無い完璧なヒト血清が出来るという話だ。
アンブレラに利用される事には抵抗はあったが、それでもカルロスを助けられる唯一の方法なら構っていられるはずもなかった。
「・・・」
鼻を押さえながら真っ暗な天井を見上げ、自分でも聞き取れないくらいの溜息を一つ付いた。
それからというものレインは全く動きを見せてこない。
僕はまた、ただ不安だけが積もっていく何も無い毎日を過ごしていくだけの生活に戻ってしまっていた。
小さいランプの電源を入れる。
その瞬間に暖かい光が広がり、部屋を満たしてくれる―――はずだったのだが。
「あれ?」
何度電源を入れ直しても明かりが付く様な気配は無い。
気付けば部屋の隅から隅まで、見渡す限りの黒が僕の眼前を埋め尽くしていた。
いや、この場合『見渡す』という言葉は正しくないかもしれない。
突如として訪れた闇と静寂は、僕の視界にわずかな光すら入れる事を許さない。
光という光が根絶やしにされ、物の輪郭すらよく見えなかった。
手探りで電話機を手に取り、適当に番号を押してみるがボタンのプッシュ音も聞こえてこない。
停電・・・なんだろうか。
今現在の状況、常識的に考えるとそれが一番しっくり来るのだが、まさかアンブレラが停電に見舞われるとは。
全ての電子機器が動作を停止している中では内線を使う事も出来ないし、移動するにも明かりが無いのではあまりに心許ない。
移動と言っても、そもそもこのオートロックの部屋から出る事自体が不可能だ。
「(オートロック・・・)」
そうだ、この部屋を鎖しているはずのあの扉―――閃くと同時に動いた。
視覚が当てにならない以上、触覚と記憶のみに頼り、手探りで扉へと向かう。
「!」
ひやりと手に触れた金属の感触。ドアノブだ。
過度な期待はしない様に、それでも希望は捨てない様に。
唾を飲み込み、そっと引いてみる。
扉は、開いた。
***
足元にある青い予備灯の点いた長い廊下に人の気配は無く、そこには無音の世界が延びていた。
一体いつ頃から電気の供給が止まっていたのだろうか、どうやら空調も止まっているようでいやにひんやりとした空気が肌を這う。
万が一の備えとして身に付けておいたハンドガンがその冷たさと相まってか、やけに重たく感じた。
竦みそうな足を何とか鎮め、小さな歩幅で歩き始める。
壁を背に、一歩一歩慎重に。
・・・でも僕、これからどうするんだろう?
とっさの思い付きで部屋を出てきたは良いが特に何のプランも無く、あったとしても実行する勝算も意味も無い。
「はぁ・・・、―――ッ!?」
もう少し考えてから行動すべきだったと溜息をつき反省していると突然誰かに首根っこを掴まれ、そのまま曲がり角に引きずり込まれて抑え込まれる。
抵抗しようとしたが自分の肉体であるにも関わらず一つの筋肉も微動だにしない。どうやら肉では無く骨を固定されているようだ。
そのあまりの速さと手際に驚き、視線を動かす。
「!」
そこには初めて会った時と同じようにアンブレラの隊服を身に纏ったレインがいた。
その表情はどこか固いが、その奥の理由までは分からない。
「あ、その」
「構わん」
僕が釈明しようとする前にレインが遮る。
レインは僕を押さえ付けたまま少し身を乗り出して素早く廊下を確認すると、僕の拘束を解いた。
「こっちだ」
レインは小声で僕にそう言い足音を立てずに歩き始め、僕もそれに続いた。
いくつか角を曲がった後、控えめな声で聞く。
「えっと、その、停電かなにかなんでしょう?」
「そんなところだ」
「そ、それでオートロックが開いて、どうしたのかなって思って・・・えーと」
一度は遮られた釈明をしどろもどろに続けていると、レインが一瞬立ち止まってこちらを振り返る。
「君はこの施設のオートロックが停電ごときで解除されたらどういう事になるか分からないのか?」
***
狭い部屋にたくさんの人間が縮こまっていた。
研究室の一つのようで、用途の分からない様々な機械が整然と並べられている。しかしそのいずれもが光を灯しておらず、必要最低限の明かりのみが部屋の中を照らしていた。
そこに居合わせた人間の大半は白衣を纏った研究員と思しき達者だったが、中には隊服を身に付け物々しい雰囲気を漂わせている武装集団もいる。
「あの、これは一体」
「今から説明する」
そう言うとレインは溜息をつきながら、部屋の中央へと歩いていった。
「諸君、聞いてもらいたい」
決して大きくない、しかしはっきりと聞こえる声でそう言った。
小さな声が寄り集まったざわざわとした雰囲気が一掃され、その言葉で部屋にいる人間全員の目がレインの方を向く。
レインは一息置いて続けた。
「我々が現在ただならぬ状況下にいる、という事は理解している・・・か?」
小さく頷く者や首を傾げる者、近くの人間とひそひそと話す者。
各々が違った反応を見せる中、行き場の無い僕は部屋の隅へと移動した。
「今回の電力の供給遮断の原因は、決して事故などでは無い」
僕含む、そこにいる全員が唾をごくりと飲み込んだ。
「実験棟Bが、何者かに占拠された」
その一言に部屋中が騒然としたが、レインはそのまま続ける。
「実験棟Bの電装系端末から施設全体の中枢部をハッキングされた。現在は予備のバッテリーで何とか対応しているが、それも長くはもたない。立ち退く為の条件は、現在までに完成したB.O.W.の資料の無条件譲渡。そしてその技術、製法に至るまでの全ての資料も合わせて寄越せ、との事だ」
兵器の資料の無条件譲渡。スパイでも潜り込んでいたか、それとも他社に大金でもちらつかされたのだろうか?
しかしどちらにせよ、あまりに無謀過ぎる犯行だった。ここで働いていたのなら、ここの恐ろしさも十分に理解しているはず―――それなのに一人でアンブレラを敵に回そうとするとは。
見習いたい度胸ではあるが、あまりに無謀過ぎる。
「要求を飲まなければ現在自分が居る実験棟を研究員、実験生物諸共全て爆破すると言っている」
野次にも似た、驚きと焦りの混じった罵声が飛び交う。
僕もS.T.A.R.S.の任務でこの手の凶悪犯との事件には何度か立ち会った事があるが、まさかこんな形で遭遇するとは思いもしなかった。
「恐らくこの停電は動揺と混乱を誘う為の行動―――既に相手のいる場所は特定してある、次に出られる前に手を打ちたい」
徐々に静まっていく群声。
レインが再び一息つく。
「そこで君の出番だ、如月聖」
「っへっ」
物凄い勢いで裏返った声が自分の頭の中に響き、いつの間にか部屋中の目という目が僕を見つめている事に気が付く。
「な、何で・・・僕なんですか」
小さな声で意見する。
するとレインがこちらに歩いてきて、僕の耳元で囁いた。
「まだ電装系の操作権があった時にあちらの様子を窺ったが、数体のB.O.W.が施設内に流出している事が確認された。初期段階であの数だ、現在はさらに増えているだろう」
「!!でもオートロックは解除されないって・・・」
「ああ、勿論扉ごとに予備電源を備えてある。恐らくは犯人が故意に解除したものだろう」
あの怪物達が施設の中に広がり始めている。事は一刻を争うと、レインは僕にだけ聞こえるように言った。
「君の経験と知識が頼りだ。協力を」
実験棟が爆破され、ウィルスが漏出すればこの施設もすぐに感染者で溢れてラクーンシティの二の舞になる。そうなれば、また『消毒』されるだろう。
あれほど膨大な犠牲を支払っても尚、殺戮が無意味に繰り返される。
それだけはどうしても嫌だった。
―――しかし、ここはその『悲劇』の元凶を生み出したアンブレラの巣。
複雑な気持ちだった。
両方の思いに葛藤する心を何とかまとめようとするが、与えられた時間はあまりにも短過ぎた。
「こちらの様子を監視されていた場合、大人数での移動は刺激になりかねない。処理速度は下がるが、なるべく少人数で仕掛ける」
「・・・は、はぁ・・・」
「緊急事態だ、出来れば拒否はしてもらいたくはないが」
頭ごなしに拒否したい訳ではない。
ただ、もう少し時間が欲しかった。自分の考えに決着をつける為の猶予が。
「・・・それでは君に一つ、嫌な事を教えよう」
決断しかねている僕を見て、レインは少しだけ躊躇いながら口を開いた。
「もし、奴が爆薬を仕掛けるとしたら実験棟Bの中央―――B-87実験室」
聞き覚えのある名前。
頭の内側でその記憶が呼び戻されると、全身の血の気が引いた。
「な・・・!」
B-87実験室。
そうだ。
あの時、その場所で。
『君』は硝子の水槽の中で眠っていた。
うたた寝をしていたソファから転げ落ち、顔面を床に強打する。
目を瞬かせるまでも無く完全に目が覚め、暫くの間うずくまって痛みが引くのを待った。
その後の話で分かった事は、二つ。
まずカルロスが今、僕と同じようにこのアンブレラの施設にいる事。
僕と同じように連れて来られたのかと聞いてもその経緯の詳細は全く教えてもらえなかったが、『生きている』ことは確かだという。
その言葉を完全に信用する気にはなれなかったものの、ほんの少しの安堵は得られた。
次に、カルロスのウィルス感染の治療に僕の免疫能力を利用するという事。
あの子に―――追跡者に肩を貫かれ、復帰した時に僕の身体にはT-ウィルス、そしてそれに準ずる全てのウィルスに対する抗体が出来たらしい。
つまり、カルロスの身体に存在する「TⅡ-ウィルス」もその範囲内。その僕の血液から血清を作れば、副作用もアレルギー反応も無い完璧なヒト血清が出来るという話だ。
アンブレラに利用される事には抵抗はあったが、それでもカルロスを助けられる唯一の方法なら構っていられるはずもなかった。
「・・・」
鼻を押さえながら真っ暗な天井を見上げ、自分でも聞き取れないくらいの溜息を一つ付いた。
それからというものレインは全く動きを見せてこない。
僕はまた、ただ不安だけが積もっていく何も無い毎日を過ごしていくだけの生活に戻ってしまっていた。
小さいランプの電源を入れる。
その瞬間に暖かい光が広がり、部屋を満たしてくれる―――はずだったのだが。
「あれ?」
何度電源を入れ直しても明かりが付く様な気配は無い。
気付けば部屋の隅から隅まで、見渡す限りの黒が僕の眼前を埋め尽くしていた。
いや、この場合『見渡す』という言葉は正しくないかもしれない。
突如として訪れた闇と静寂は、僕の視界にわずかな光すら入れる事を許さない。
光という光が根絶やしにされ、物の輪郭すらよく見えなかった。
手探りで電話機を手に取り、適当に番号を押してみるがボタンのプッシュ音も聞こえてこない。
停電・・・なんだろうか。
今現在の状況、常識的に考えるとそれが一番しっくり来るのだが、まさかアンブレラが停電に見舞われるとは。
全ての電子機器が動作を停止している中では内線を使う事も出来ないし、移動するにも明かりが無いのではあまりに心許ない。
移動と言っても、そもそもこのオートロックの部屋から出る事自体が不可能だ。
「(オートロック・・・)」
そうだ、この部屋を鎖しているはずのあの扉―――閃くと同時に動いた。
視覚が当てにならない以上、触覚と記憶のみに頼り、手探りで扉へと向かう。
「!」
ひやりと手に触れた金属の感触。ドアノブだ。
過度な期待はしない様に、それでも希望は捨てない様に。
唾を飲み込み、そっと引いてみる。
扉は、開いた。
***
足元にある青い予備灯の点いた長い廊下に人の気配は無く、そこには無音の世界が延びていた。
一体いつ頃から電気の供給が止まっていたのだろうか、どうやら空調も止まっているようでいやにひんやりとした空気が肌を這う。
万が一の備えとして身に付けておいたハンドガンがその冷たさと相まってか、やけに重たく感じた。
竦みそうな足を何とか鎮め、小さな歩幅で歩き始める。
壁を背に、一歩一歩慎重に。
・・・でも僕、これからどうするんだろう?
とっさの思い付きで部屋を出てきたは良いが特に何のプランも無く、あったとしても実行する勝算も意味も無い。
「はぁ・・・、―――ッ!?」
もう少し考えてから行動すべきだったと溜息をつき反省していると突然誰かに首根っこを掴まれ、そのまま曲がり角に引きずり込まれて抑え込まれる。
抵抗しようとしたが自分の肉体であるにも関わらず一つの筋肉も微動だにしない。どうやら肉では無く骨を固定されているようだ。
そのあまりの速さと手際に驚き、視線を動かす。
「!」
そこには初めて会った時と同じようにアンブレラの隊服を身に纏ったレインがいた。
その表情はどこか固いが、その奥の理由までは分からない。
「あ、その」
「構わん」
僕が釈明しようとする前にレインが遮る。
レインは僕を押さえ付けたまま少し身を乗り出して素早く廊下を確認すると、僕の拘束を解いた。
「こっちだ」
レインは小声で僕にそう言い足音を立てずに歩き始め、僕もそれに続いた。
いくつか角を曲がった後、控えめな声で聞く。
「えっと、その、停電かなにかなんでしょう?」
「そんなところだ」
「そ、それでオートロックが開いて、どうしたのかなって思って・・・えーと」
一度は遮られた釈明をしどろもどろに続けていると、レインが一瞬立ち止まってこちらを振り返る。
「君はこの施設のオートロックが停電ごときで解除されたらどういう事になるか分からないのか?」
***
狭い部屋にたくさんの人間が縮こまっていた。
研究室の一つのようで、用途の分からない様々な機械が整然と並べられている。しかしそのいずれもが光を灯しておらず、必要最低限の明かりのみが部屋の中を照らしていた。
そこに居合わせた人間の大半は白衣を纏った研究員と思しき達者だったが、中には隊服を身に付け物々しい雰囲気を漂わせている武装集団もいる。
「あの、これは一体」
「今から説明する」
そう言うとレインは溜息をつきながら、部屋の中央へと歩いていった。
「諸君、聞いてもらいたい」
決して大きくない、しかしはっきりと聞こえる声でそう言った。
小さな声が寄り集まったざわざわとした雰囲気が一掃され、その言葉で部屋にいる人間全員の目がレインの方を向く。
レインは一息置いて続けた。
「我々が現在ただならぬ状況下にいる、という事は理解している・・・か?」
小さく頷く者や首を傾げる者、近くの人間とひそひそと話す者。
各々が違った反応を見せる中、行き場の無い僕は部屋の隅へと移動した。
「今回の電力の供給遮断の原因は、決して事故などでは無い」
僕含む、そこにいる全員が唾をごくりと飲み込んだ。
「実験棟Bが、何者かに占拠された」
その一言に部屋中が騒然としたが、レインはそのまま続ける。
「実験棟Bの電装系端末から施設全体の中枢部をハッキングされた。現在は予備のバッテリーで何とか対応しているが、それも長くはもたない。立ち退く為の条件は、現在までに完成したB.O.W.の資料の無条件譲渡。そしてその技術、製法に至るまでの全ての資料も合わせて寄越せ、との事だ」
兵器の資料の無条件譲渡。スパイでも潜り込んでいたか、それとも他社に大金でもちらつかされたのだろうか?
しかしどちらにせよ、あまりに無謀過ぎる犯行だった。ここで働いていたのなら、ここの恐ろしさも十分に理解しているはず―――それなのに一人でアンブレラを敵に回そうとするとは。
見習いたい度胸ではあるが、あまりに無謀過ぎる。
「要求を飲まなければ現在自分が居る実験棟を研究員、実験生物諸共全て爆破すると言っている」
野次にも似た、驚きと焦りの混じった罵声が飛び交う。
僕もS.T.A.R.S.の任務でこの手の凶悪犯との事件には何度か立ち会った事があるが、まさかこんな形で遭遇するとは思いもしなかった。
「恐らくこの停電は動揺と混乱を誘う為の行動―――既に相手のいる場所は特定してある、次に出られる前に手を打ちたい」
徐々に静まっていく群声。
レインが再び一息つく。
「そこで君の出番だ、如月聖」
「っへっ」
物凄い勢いで裏返った声が自分の頭の中に響き、いつの間にか部屋中の目という目が僕を見つめている事に気が付く。
「な、何で・・・僕なんですか」
小さな声で意見する。
するとレインがこちらに歩いてきて、僕の耳元で囁いた。
「まだ電装系の操作権があった時にあちらの様子を窺ったが、数体のB.O.W.が施設内に流出している事が確認された。初期段階であの数だ、現在はさらに増えているだろう」
「!!でもオートロックは解除されないって・・・」
「ああ、勿論扉ごとに予備電源を備えてある。恐らくは犯人が故意に解除したものだろう」
あの怪物達が施設の中に広がり始めている。事は一刻を争うと、レインは僕にだけ聞こえるように言った。
「君の経験と知識が頼りだ。協力を」
実験棟が爆破され、ウィルスが漏出すればこの施設もすぐに感染者で溢れてラクーンシティの二の舞になる。そうなれば、また『消毒』されるだろう。
あれほど膨大な犠牲を支払っても尚、殺戮が無意味に繰り返される。
それだけはどうしても嫌だった。
―――しかし、ここはその『悲劇』の元凶を生み出したアンブレラの巣。
複雑な気持ちだった。
両方の思いに葛藤する心を何とかまとめようとするが、与えられた時間はあまりにも短過ぎた。
「こちらの様子を監視されていた場合、大人数での移動は刺激になりかねない。処理速度は下がるが、なるべく少人数で仕掛ける」
「・・・は、はぁ・・・」
「緊急事態だ、出来れば拒否はしてもらいたくはないが」
頭ごなしに拒否したい訳ではない。
ただ、もう少し時間が欲しかった。自分の考えに決着をつける為の猶予が。
「・・・それでは君に一つ、嫌な事を教えよう」
決断しかねている僕を見て、レインは少しだけ躊躇いながら口を開いた。
「もし、奴が爆薬を仕掛けるとしたら実験棟Bの中央―――B-87実験室」
聞き覚えのある名前。
頭の内側でその記憶が呼び戻されると、全身の血の気が引いた。
「な・・・!」
B-87実験室。
そうだ。
あの時、その場所で。
『君』は硝子の水槽の中で眠っていた。