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続・本編

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何故ここにいる?

何故生きている?

・・・いや、そんなはずはない。

それだけは絶対に無いはずなんだ。

「それだけは・・・絶対・・・」

今視界に入る現実を塞ぎたくてしょうがなかった。
でも、逸らせない。
逸らしたくない、と言う方が正しいかもしれない。

「僕が・・・僕がこの手で殺したはずなんだ!」

突然呼び戻された記憶が、僕にそう言わせる。
何度も自分自身に浴びせかけた言葉を今一度。

「でも、その後ミサイルが来て、街ごと全部灰になった。僕はこの目で確かに見届けた!」
「そこは順を追って説明しよう。まずはこれを読んでもらおう」

レインは僕から目を逸らし、デスクの上に置いてある資料を手に取った。

「NE-α型、生物の脊髄近くに寄生し、脳を操る新型のB.O.W.だ」

資料の一部を破り取り、僕に渡す。
ひったくる様にして受け取ると僕はそれをパラパラとめくり、重要そうな部分だけ読み取った。

B.O.W.というのは簡単に言えば生物兵器。何かを破壊、排除するためにアンブレラに作られた「道具」だ。
そしてあの子―――NE-α型はその中でも非常に高い知能を持つ事に成功した『NEMESIS-T型』であり、特定の誰かを標的とする事や武器の使用、また1、2単語の言葉を話す事が出来るらしい。
更には相手の感情を読んで行動に移ることも可能で、より巧妙で策略的な戦闘を展開する事が出来る。
その所為か多少の感情の芽生えも見られ、他のB.O.W.よりも少しだけ「人間らしい」特徴を持っている・・・との事。

初めて出会った時あの子が話した言葉、『S.T.A.R.S.』。
あれは、僕を標的と認識したからだったのか。

僕がじっと資料に見入っているのを見てレインは満足そうな笑みを浮かべ、自分が持っていた資料をデスクに戻した。

「でも、話せると言っても1、2単語なんでしょう・・・何故偶然出会った僕のことを―――『S.T.A.R.S.』を!?」
「我々の作戦に偶然など存在しない。ラクーンシティにα型を投下したのは試験の一環だ」
「試験って・・・」

そう話しながらレインは僕の持っていた資料を取り上げ、それもまたデスクへと戻した。

「名目は標的認識能力の試験。それをクリアすれば晴れて実用化が決定していた。そこで君に出向いてもらった、という訳だ」

それを聞いてはっと思いだした。
僕がラクーンシティに向かうきっかけとなった、匿名の人物からの突然のFAX。

「・・・つまりあの子は最初から僕を殺しにあの町に来ていた」
「そのはずだった。だが君は殺されなかったんだよ、如月

そう、そこが分からない。

「その任務を遂行すれば実用化が決定するってことは、貴方達にとってほぼ完璧な能力を持っていたってことでしょう」
「そのはずだ」
「・・・さっきからそれしか言ってないじゃないですか」
「言ったろう、我々の作戦に偶然など存在しない、と」

答えながら、レインは床に落ちていたリモコンを拾い上げた。

「偶然など存在しない―――が、想定外の事実は実在した」

矛盾の様な言葉を平気で口に出したかと思うと、水槽越しの正面に大きなモニターに向けてリモコンのボタンを押した。

「α型の記憶や視覚情報、聴覚情報を始めとしたあらゆる感覚―――つまり見たものや聞いたもの、感情は全てこちらに伝わっている」

レインは何かを操作し始めた。
すると突然、大きなスクリーンに僕の姿が映し出される。
頻りに辺りを見回し落ち着きが無く、怯えた様子で警察署に入ろうとしていた。

「これって・・・」
「α型が活動を開始してから3時間と14分、それはその時刻のα型の視覚・聴覚情報だ」

ああ、そうだ。
僕が初めてあの子に会った時だ。

直後、凄まじい咆哮。
追跡者はそのまま僕から視線を逸らさずに、宙に身を投げる。
何もかもが突然でどうする事も出来ずに硬直する自分。

そして、『S.T.A.R.S.』。

そう呟いて追跡者は僕との距離を縮めていった。
照準を合わせ、腕を振り上げ―――

あ、この次。

『・・・美しい』

「・・・っ・・・」

耳を塞ごうとした手は間に合わず、我ながら体がむず痒くなる台詞を自分の声で聞いてしまった。
身悶える僕を余所にレインはリモコンを操作し続ける。

「君から発せられた未知の感情がα型を困惑させた。結果、しばらく君の様子を見る事にし、やがて敵意がないことを理解した」

画面が早送りされ、ある場面が鮮明に映し出される。
僕の頭を優しく撫でて許してくれたあの子の手を握ってしまった、あの時だ。

「・・・・・・っ・・」

またしてもあまり見たくなかった場面を目を覆い隠す間もなく突き付けられ、もう溜息しか出なかった。

「敵意が無いとはいえ、君が標的であることには変わりなかった。そこに付け込み、このまま頭蓋を砕く事も出来たはずだった。ところがどうしたものか、α型は君を排除するどころか僅かな好意を抱いた」
「こ・・・好意」

予想もしなかった言葉に、思わず顔が赤くなる。
折れかけた精神が少しだけ治ったような気がした。

「知能の高さ故に不必要な感情まで出てきてしまったのは私たちのミスだった。しかしα型は所詮道具に過ぎず、我々の命令には逆らえなかった。プログラムの制御はあの街に待機していた信号処理班に対応してもらった」

早送りが繰り返され、画面に路地裏で顔を俯かせた僕が映る。

「結果、自らの意思に反して君を突き放すようになり」

次に映った画面の奥に、今は亡きミハイルの姿が映る。
恐怖と闘志がせめぎあい、彼が最後に手にしたのはちっぽけな手榴弾と戦う意志。
銀色のピンが引き抜かれ画面は橙色の炎に包まれた。

「共に行動していた人間の一人であるミハイル・ヴィクトールを君の仲間と見なし、処理した」

場面が飛び、画面にカルロスと僕が映る。

「更にはこの男の登場で君に対する疑念が生まれ、君を処理するに相応しい精神形態がα型の中で完璧に構成されつつあった」
「疑念・・・」
「そうだ。君と、そしていつも君の近くにいたこの男、カルロス・オリヴェイラへの疑念―――最も人間に近しい感情の一つである、『嫉妬』だな」
「・・・!?」

予想だにしない言葉の連続に、頭が付いて行かなかった。

「まあ、そこまでは想定の範囲内だった。その時に備え、私達はα型が万が一不要な感情を持った時の為に、あるプログラムを組み込んでおいた」

レインは続ける。

「対象の周囲にいる生物を全て抹殺せよ」

再び血まみれの軍人―――ミハイルが映し出された。

「掛け替えの無い大切な仲間を奪われたら君はどうする?」
「・・・」
「当然、α型に対して敵意を見出だすだろう?そして実際にそうだったろう、顔を真っ赤にしてがなりたてて・・・だがあの時、君達は運良くα型から離れた」

手榴弾の爆発で車両が分断され、僕達は結果的に時計塔へ到着できた。

「その後、君達の生存の綱であった救助用のヘリを撃ち落とし・・・後は良く知っているだろう」

気付かぬ内に肩の傷跡を触っていた。
僕はこの後にあの子に肩を貫かれ、生死の境をさ迷った。
気の遠くなるような痛みと悲しみが溢れ返る悪夢の中で、必死に生きようとしていた。


『僕がいて、ごめんね』


「この時点で、私は今回の試験は失敗したと確信した」
「・・・何故?」
「気付かなかったか?α型が本当に任務を遂行しようと考えたのなら、狙うのは救助用のヘリでは無く君の頭蓋であるべきだった」
「そ、それは・・・」
「現に、カルロス・オリヴェイラを狙う事すら出来なかった。君に、如月に敵意を向けられたくない―――そう感じたと、データには残っている」

何故だろう。
緊張している訳でも無いのに、身体がぶるぶると震えている。


・・・僕は今、何を感じているんだろう。


レインは慣れた手つきでリモコンを操作し続けている。

「結局感情を処理出来ず、α型はその葛藤からある一つの道を選んだ」

廃工場で、追跡者がボロボロの身体で僕を扉の向こうへ投げ飛ばした瞬間だった。

「自ら命を絶つ、という道を」

あの時の感情が込み上げ、自分の身体が更に速く、大きく震える。

「α型は生まれながらにして、任務を頭に刷り込まれている。任務こそが使命、そして生きる理由だった。それを失敗する事はα型にとって死にも勝る出来事だった、しかしそれ以上に・・・君に生きて欲しかった」
「・・・僕に・・・」


僕は君の命より尊い人間だった?

君が自ら命を絶とうと決意しなければならない程、守られるべき人間だった?

それは分からなかった。

でも、もし逆の立場だったなら同じ事をしただろう。

自分の命より、ずっと大切で、ずっと必要で、ずっと愛しかったから。


「ああ、先程の質問に答えておこう。何故灰になったはずのα型を修復・・・もとい復元出来たか、だったな?」

僕はこくりと頷く。

「答えは君が切り落としたα型の触手の一部。それを回収しそのまま培養、そしてそこから細胞を抽出してまた新しく構成させた。混ぜ物は一切使用していない、謂わばもう一つのNE-α型・・・いや、完全な同一個体と言っていいだろう」
「まさか・・・そんな事が可能なんですか」
「不可能だと思うか?」

進化したクローン技術の様なものだろうか。
確かに、アンブレラにしてみたら何の事は無い操作なのかもしれない。

「・・・それで、何故僕を?」

余分な感情の元凶である僕は、プログラムにとっての悪質なエラー。
これから先も追跡者を道具として使おうというのなら、僕の存在なんてただの障害に過ぎないはずだった。

「肉体は勿論の事、随時送信されていた情報のバックアップもあった為に記憶情報も完璧に修復した。だが、まだ完全な『記憶』としては組み込まれていない」
「?どういう事ですか」
「つまり、α型がラクーンシティで体験してきた全ての出来事がまだ『情報』としてしか組み込まれていないんだ」

レインはそう言いながらデスクに置いてある小さなキーボードを操作していく。

タイプ音が止まった次の瞬間、追跡者の隻眼が開く。

「・・・あ・・・!」

その瞳の無い白く濁った眼は以前と変わらぬ様子でそこに収められていた。
視線を介して伝わる緊張感が、僕の脳をビリビリと刺激していく。


どうしよう、何も出来ない。

思い切り泣きたいような、思い切り飛び跳ねたいような。
悲しいのか、嬉しいのか、それともその両方か。

とにかく、何もかもが一気に雪崩れ込んできた。
早く処理してしまわないと窒息してしまいそうなのに、それでも何も考えられない。

駄目だ・・・苦しい―――。


「・・・―――如月
「っひっ!!?」

突然現実に引き戻され、それと同時に息の仕方を思い出す。

「もう十分だ。自室に戻れ、如月

レインが無表情でそう言うと、先程の重厚なドアが開き数人の人間が僕を取り囲んだ。
内二人が僕の腕を取り、僕自身の意思に反し早々とドアの外へと連れ出す。

名残惜しむ間も無く、僕はその部屋からつまみ出された。


***


如月が完全に離れた事を確認した後、データを保存、送信する。

「全く、面白い結果を出してくれるものだな」

『面白い結果』の表示されたモニターを眺め、キーボードを叩いていると思わず笑みと独り言が零れた。
綻んだ顔をNE-α型に向け、頭からつま先まで舐める様に見据える。

「ネメシス、お前―――」

そっと水槽に手を触ると、ネメシスの目が私を睨んだ。

その瞬間こそが、私にとって最も幸せな一瞬で有る事はまだ誰も知り得ない事実。


ああ、やはりな。


「お前は―――『如月』を、『覚えて』いるな?」
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