続・本編
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あれから、3日程経っただろうか。
僕はまだ部屋の中で何も出来ずにいた。
出来る事は無かった―――が、発見はいくつかある。
まず一つ。
この部屋、全く時計の音が聞こえてこないのだ。
何処を探しても、何をひっくり返しても数字の一つも見つからない。
時計も無い上、窓も無い。
今現在、僕の中で正確な時間感覚というものは完全に失われていた。
3日、という数字は一日一回の検査と朝昼晩の食事から割り出したもので、それも大まかなものであるには変わりない。
そしてもう一つ、クローゼットに収められていた着替え。
それはとても見覚えのある、いや、一度は袖を通した事のある、自分自身が持っていた服だった。
それだけでも十分驚くべき事だったが、更に驚かされたのはその中にラクーンシティで着用していた物も含まれていた事。
何か、仕組まれている―――?
そんな不信感がいつまでも拭えずにいた。
「・・・なーんだか、なぁ」
それにしてもこの状況、一体どうするか。
仕事の内容が内容なだけに反抗することも叶わず、本当に言われた通りにただ生きているだけ。
考える時間だけは目一杯あるものの、その為の材料が少な過ぎる。
しんとした空間をごまかすように、自然と独り言が多くなっていた。
「・・・皆元気かな、何も連絡してないけど」
「あのレポート・・・もう期限過ぎたよなぁ」
「じゃあ僕は今、無断欠勤になってるんだ・・・」
そんなどうでもいいような事をうわ言のように繰り返していたが、次第にそれすら無くなり、動くことも億劫になる。
まるで自分が石にでもなったようだった。
考える事を考え付くし、何も無くなり、最終的に自分の人生でも振り返ろうかとしたまさにその時。
「如月聖」
「うわぁ!」
この前の男だった。
突然ドアを開け入ってきた男はこの前とは打って変わって真っ白な白衣を身に纏い、胸に顔写真入りのネームプレートを付けていた。
「・・・」
「うん?ああ、これか」
男が僕の視線に気付き、ネームプレートを見やすいように傾ける。
「申し遅れた。私はレイン、レイン・ヘイルだ」
「レイン・ヘイル・・・」
その名前が偽名であるかそうでないかを確かめる術は今の僕には無かった。
とりあえず、呼ぶ名前が出来たという事に関しては良しとしておこう。
「さて、挨拶はここまで。今日は君に見せたいものがある」
それだけ言うとレインは困惑している僕を連れ、長い廊下を渡り、エレベーターに運ばれ、ひたすら地下へ潜っていく。
「一体何処へ?」
「B-87実験室だ」
「何をしに?」
僕がやっと絞り出したその言葉を聞いたレインは僕を一瞥した後、ふっと笑った。
「思い当たる節は無いか?」
「え?」
そう言って手渡されたものは、僕が拉致された時に腕につけて眺めていたあの子の―――追跡者の小さなベルトだった。
「!?」
「さあ、行こうか」
***
「ああ、そうだ。これを返しておこう」
突然思い出したようにそう言うと、レインは懐からある物を取り出した。
差し出されたのは一握りの小さな銃、窓から飛び降りる時ほんの少しの勇気を僕にくれたハンドガンだった。
殆ど傷の無い漆黒の姿が冷たい照明に晒される。
反射的に手を伸ばそうとしたが、頭の中の何かがそれを引き留めた。
「銃なんて渡していいんですか、僕が何をするか―――」
協力する様な素振りを見せたからといっても、今の今まで敵対していた人間に銃を渡すという行為は果たして正解だろうか。
それとも、何か他の狙いがあって僕にわざと受け取らせようとしているのか。
いや、それにしたって危険である事には変わりは無いはずだ。
そんな不信と疑念で満たされた目で睨むと、レインは呆れたような顔で即答した。
「大丈夫だ、君にそんな度胸は無い」
***
僕がハンドガンを受け取り、それをベルトに差し込んでいる内にカードキーの読み取り装置のランプが赤から緑に変わる。
厳重なセキュリティに覆われた分厚い扉が音を立てずに開いた。
ひやりとしていて湿り気のある空気に満たされたその部屋は、無人の研究室だった。
部屋の中央に、ぼんやりと青く光る大きなガラスの筒があるのが見える。水槽だろうか。
遠目からその中に何かがいるのが分かった。
また何か危険な生物でも作って、僕に自慢でもしようというのだろうか。
僕の軽蔑した表情を余所に、レインはそれに近付いていく。渋々と僕もそれに続いた。
「如月、君は知らないだろうな」
「・・・何を?」
「名前だよ」
そう言うと、レインは水槽の一歩前で立ち止まった。
レインの指が水槽に触れると同時に、曇っていたガラスが一瞬で透明な結晶へと姿を変える。
「正式名称、NE-α型実験体『NEMESIS-T型』」
一瞬自分の目を疑った。
鼻先がガラスに触れるほどに近寄り、眉間に皺を寄せ、目をしかめる。
「通称ネメシス」
一度、目を閉じる。
「―――『復讐の女神』という意味だ」
そして、再び目を開いたその先。
「つい先程、修復が完了した」
透き通るガラスの中で、幾本の管を巻き付けて眠っていたのは。
「・・・何で」
間違えるはずがない。
「・・・何で・・・!?」
―――永遠の別れを誓ったはずの、黒衣の追跡者だった。
僕はまだ部屋の中で何も出来ずにいた。
出来る事は無かった―――が、発見はいくつかある。
まず一つ。
この部屋、全く時計の音が聞こえてこないのだ。
何処を探しても、何をひっくり返しても数字の一つも見つからない。
時計も無い上、窓も無い。
今現在、僕の中で正確な時間感覚というものは完全に失われていた。
3日、という数字は一日一回の検査と朝昼晩の食事から割り出したもので、それも大まかなものであるには変わりない。
そしてもう一つ、クローゼットに収められていた着替え。
それはとても見覚えのある、いや、一度は袖を通した事のある、自分自身が持っていた服だった。
それだけでも十分驚くべき事だったが、更に驚かされたのはその中にラクーンシティで着用していた物も含まれていた事。
何か、仕組まれている―――?
そんな不信感がいつまでも拭えずにいた。
「・・・なーんだか、なぁ」
それにしてもこの状況、一体どうするか。
仕事の内容が内容なだけに反抗することも叶わず、本当に言われた通りにただ生きているだけ。
考える時間だけは目一杯あるものの、その為の材料が少な過ぎる。
しんとした空間をごまかすように、自然と独り言が多くなっていた。
「・・・皆元気かな、何も連絡してないけど」
「あのレポート・・・もう期限過ぎたよなぁ」
「じゃあ僕は今、無断欠勤になってるんだ・・・」
そんなどうでもいいような事をうわ言のように繰り返していたが、次第にそれすら無くなり、動くことも億劫になる。
まるで自分が石にでもなったようだった。
考える事を考え付くし、何も無くなり、最終的に自分の人生でも振り返ろうかとしたまさにその時。
「如月聖」
「うわぁ!」
この前の男だった。
突然ドアを開け入ってきた男はこの前とは打って変わって真っ白な白衣を身に纏い、胸に顔写真入りのネームプレートを付けていた。
「・・・」
「うん?ああ、これか」
男が僕の視線に気付き、ネームプレートを見やすいように傾ける。
「申し遅れた。私はレイン、レイン・ヘイルだ」
「レイン・ヘイル・・・」
その名前が偽名であるかそうでないかを確かめる術は今の僕には無かった。
とりあえず、呼ぶ名前が出来たという事に関しては良しとしておこう。
「さて、挨拶はここまで。今日は君に見せたいものがある」
それだけ言うとレインは困惑している僕を連れ、長い廊下を渡り、エレベーターに運ばれ、ひたすら地下へ潜っていく。
「一体何処へ?」
「B-87実験室だ」
「何をしに?」
僕がやっと絞り出したその言葉を聞いたレインは僕を一瞥した後、ふっと笑った。
「思い当たる節は無いか?」
「え?」
そう言って手渡されたものは、僕が拉致された時に腕につけて眺めていたあの子の―――追跡者の小さなベルトだった。
「!?」
「さあ、行こうか」
***
「ああ、そうだ。これを返しておこう」
突然思い出したようにそう言うと、レインは懐からある物を取り出した。
差し出されたのは一握りの小さな銃、窓から飛び降りる時ほんの少しの勇気を僕にくれたハンドガンだった。
殆ど傷の無い漆黒の姿が冷たい照明に晒される。
反射的に手を伸ばそうとしたが、頭の中の何かがそれを引き留めた。
「銃なんて渡していいんですか、僕が何をするか―――」
協力する様な素振りを見せたからといっても、今の今まで敵対していた人間に銃を渡すという行為は果たして正解だろうか。
それとも、何か他の狙いがあって僕にわざと受け取らせようとしているのか。
いや、それにしたって危険である事には変わりは無いはずだ。
そんな不信と疑念で満たされた目で睨むと、レインは呆れたような顔で即答した。
「大丈夫だ、君にそんな度胸は無い」
***
僕がハンドガンを受け取り、それをベルトに差し込んでいる内にカードキーの読み取り装置のランプが赤から緑に変わる。
厳重なセキュリティに覆われた分厚い扉が音を立てずに開いた。
ひやりとしていて湿り気のある空気に満たされたその部屋は、無人の研究室だった。
部屋の中央に、ぼんやりと青く光る大きなガラスの筒があるのが見える。水槽だろうか。
遠目からその中に何かがいるのが分かった。
また何か危険な生物でも作って、僕に自慢でもしようというのだろうか。
僕の軽蔑した表情を余所に、レインはそれに近付いていく。渋々と僕もそれに続いた。
「如月、君は知らないだろうな」
「・・・何を?」
「名前だよ」
そう言うと、レインは水槽の一歩前で立ち止まった。
レインの指が水槽に触れると同時に、曇っていたガラスが一瞬で透明な結晶へと姿を変える。
「正式名称、NE-α型実験体『NEMESIS-T型』」
一瞬自分の目を疑った。
鼻先がガラスに触れるほどに近寄り、眉間に皺を寄せ、目をしかめる。
「通称ネメシス」
一度、目を閉じる。
「―――『復讐の女神』という意味だ」
そして、再び目を開いたその先。
「つい先程、修復が完了した」
透き通るガラスの中で、幾本の管を巻き付けて眠っていたのは。
「・・・何で」
間違えるはずがない。
「・・・何で・・・!?」
―――永遠の別れを誓ったはずの、黒衣の追跡者だった。