続・本編
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甲高い様な、野太い様な、不可思議な絶叫を部屋中に響かせ『何か』が僕の方へ飛びかかってきた。
「・・・ッ!」
瞬きした、その一瞬。
咄嗟の判断で引き抜いたショットガンは、滑らかに切り裂かれていくつかの鉄の塊となって床に散らばった。
「な・・・ッ!?」
驚きのあまり右手が硬直し、グリップだけになった銃を離す事が出来ない。
「聖!!」
カルロスが再び叫ぶ。
僕は二度目の攻撃を自らの身体で受けさせられる前に走り出した。
***
「おい、大丈夫か」
「何とかね」
口から出る平常を装った言葉は、僕の肉体反応と正反対のものであることに気が付く。
カルロスに引き込まれるようにして物陰に隠れた僕はグリップから指を一本一本外し、やっと『銃だったもの』から手を離す事が出来た。
あの一瞬、何が起こったのか―――まだ分からない。
何か鋭利なものが自分の目の前を通って行ったんだろう、というのは無残な姿になったショットガンの残骸から理解出来た。
呼吸を整え、再び非常灯の下に晒されたその怪物の姿をこっそりと確認する。
「(う・・・!)」
背筋が凍り付く、というのはまさに今この状況で使うに相応しい言葉だろう。
一見して、四つん這いになった人間の様にも見えるその姿。
その肌に皮膚は無く、赤黒い筋肉が薄明かりに脈打つ。
恐らくは顔である部分に眼と思われるものは見当たらず、何よりも目を引いたのがてらてらとした粘液を纏った露出した脳。重要な器官であるはずなのに、頭蓋骨やそれに相当するようなものが無く、この距離と明度でも微かに動いているのが分かる程だ。
そして細身の体に不釣り合いな程膨れ上がった両手の先に無造作に埋め込まれたような鋭い爪―――しかしその大きさは最早爪ではなく、飛び出した骨を尖らせたと考えた方がいいのかもしれない。
身体を波打たせるように深く呼吸する口に並んだ鋭い牙、その奥に真っ赤な色をした舌がぬらりと光る。
「(どう見てもヤバそうだ、まともに相手してられねぇ)」
カルロスが僕に耳打ちする。
確かに、どう考えたって真正面から渡り合うのは得策じゃない。
「(聖、俺が囮になる)」
「(・・・―――え?)」
この状況、どう潜り抜けるか―――そう考えようとしたその瞬間に、カルロスは自ら怪物の目の前に飛び出して行った。
「こっちだ、化け物!」
それに応える様に怪物は耳を掻き毟る様な不快な雄叫びを上げ、カルロスの方へ這い寄っていく。
「カルロス!危険だ!」
「心配すんな、俺はこいつを片付ける!いいからお前は早くカードキーを探せ!」
怪物が音も無く床を蹴る。
高く飛び上がったその身体を一瞬で回転させてべたりと天井に張り付き、まるで爬虫類のようにそのまま天井を歩き始める。この怪物には床も天井も同義だということか。
怪物はゆらりと頭を持ち上げ、牙の奥にちらちらと鮮血のように赤い舌を覗かせ―――
笑った。
怪物は一瞬でカルロスの眼前に迫り、大きく右手を振り被った。
恐るべき跳躍力で一気に距離を詰め、何者にも受け止める事を許さない大気すら薙ぎ斬る強烈な一撃を躊躇無く振り降ろす。先程僕が受けた攻撃はあれだったのか。
しかしカルロスは目を背ける事無く素早く射撃体勢になり、直後、激しい銃声が耳を叩いた。
短い間隔の銃声と閃光。
引き金を引かれたアサルトライフルの銃口から放たれた鉛の銃弾が怪物を刺し、抉り、突き抜ける。
着弾の衝撃に耐え切れず、腕を振り切る前に怪物の身体は大きく後ろに吹き飛ばされた。
「だから言っただろ?こいつは俺向きの相手だ」
引き抜いたハンドガンを下げる僕を見て、カルロスはにっと笑う。
カルロスの武器であるアサルトライフルはその超高速連射が最大の特徴だ。
多数の敵を相手にする場合か、もしくは動きの素早い敵を抑え込みながら戦う場合にその持ち味は最大限に引き出される。
細身の肉体や剥き出しになっている脳や筋肉からも分かる通り、この怪物はあまりタフではない方だろう。
アサルトライフルは一発の威力は高くは無いが、この相手ならほぼ全ての動きを制限できる。
「おっと」
怪物の真っ赤な舌が、鞭のようにしなりカルロスを襲う。
しかしカルロスはそれを回避しながら流れる様な手際で弾倉を入れ替え、怪物に更に追い打ちをかける。
怪物は休まる事の無い銃撃から逃れようと再び凄まじい跳躍力で天井に飛び付くが、容赦なく叩き込まれる数百の弾丸に肉体を徐々に削り取られ、悲鳴にも似た絶叫で空気を震わせた。
未練がましくカルロスの方へと這い寄ろうとする怪物は露出した脳のほとんどを破裂させられ、その体液を雨の様に降らせながら一際甲高い声を上げて落下する。
怪物は自らの血溜まりに溺れ、すぐに動かなくなった。
「なんだ、意外とあっさり片付いちまったなぁ」
カルロスは退屈そうにやれやれといった表情で肩をすくめる。
「カルロス!い、いきなり囮になるなんて―――」
「おう、中々いい仕事したろ?」
「・・・はぁ・・・き、君って奴は・・・」
「んだよ、そんなに心配してたのか?俺はそんな雑魚になった覚えは無ぇぞ!」
顔に飛び散った怪物の血液を拭いながら、カルロスは笑う。
「・・・で、お前は?カードキーは見つかったのか?」
「うっ」
言葉に詰まった。
・・・君が心配で目が離せなかった、なんて言える筈も無く。
僕達は改めて、手分けして部屋の中を探す事にした。
しかし、予想以上にカードキーの捜索は難航した。
あの怪物が部屋中を引っ掻き回した所為で、デスクも、床も、何もかもが酷い有様になっているのだ。
それでも散らばった書類や細かく分断された機械を退けながら、ひたすら入念に探し続ける。
「・・・うわっ」
ふと天井を見上げると、先程の部屋と同じく通気口の金網が破られた跡があった。
あの怪物はやはり冷凍庫に『保管』されていたんだろう。・・・どんな実験が繰り返されていたのか、考えたくも無い。
一つ溜息をついて、作業に戻ろうとした。
「・・・」
―――妙に、静かだ。
カルロスも僕と同じ様にカードキーを探しているはずなのだが、その物音が全く聞こえてこない。
「カルロス?」
辺りを見回しながら名前を呼ぶ。
返事は無い。
「・・・カルロス?」
カルロスがいるであろう方向へ歩きながら、少し大きな声で名前を呼ぶ。
返事は無い。
「・・・カルロス!」
カルロスがいるはずの方向へ走りながら、出来る限り大きな声で名前を呼ぶ。
返事は無い。
「カル―――」
カルロスがいた。その身体は力無く崩れ落ちた様に、無造作に床に転がっていた。
返事は無い。
「・・・ッ!」
瞬きした、その一瞬。
咄嗟の判断で引き抜いたショットガンは、滑らかに切り裂かれていくつかの鉄の塊となって床に散らばった。
「な・・・ッ!?」
驚きのあまり右手が硬直し、グリップだけになった銃を離す事が出来ない。
「聖!!」
カルロスが再び叫ぶ。
僕は二度目の攻撃を自らの身体で受けさせられる前に走り出した。
***
「おい、大丈夫か」
「何とかね」
口から出る平常を装った言葉は、僕の肉体反応と正反対のものであることに気が付く。
カルロスに引き込まれるようにして物陰に隠れた僕はグリップから指を一本一本外し、やっと『銃だったもの』から手を離す事が出来た。
あの一瞬、何が起こったのか―――まだ分からない。
何か鋭利なものが自分の目の前を通って行ったんだろう、というのは無残な姿になったショットガンの残骸から理解出来た。
呼吸を整え、再び非常灯の下に晒されたその怪物の姿をこっそりと確認する。
「(う・・・!)」
背筋が凍り付く、というのはまさに今この状況で使うに相応しい言葉だろう。
一見して、四つん這いになった人間の様にも見えるその姿。
その肌に皮膚は無く、赤黒い筋肉が薄明かりに脈打つ。
恐らくは顔である部分に眼と思われるものは見当たらず、何よりも目を引いたのがてらてらとした粘液を纏った露出した脳。重要な器官であるはずなのに、頭蓋骨やそれに相当するようなものが無く、この距離と明度でも微かに動いているのが分かる程だ。
そして細身の体に不釣り合いな程膨れ上がった両手の先に無造作に埋め込まれたような鋭い爪―――しかしその大きさは最早爪ではなく、飛び出した骨を尖らせたと考えた方がいいのかもしれない。
身体を波打たせるように深く呼吸する口に並んだ鋭い牙、その奥に真っ赤な色をした舌がぬらりと光る。
「(どう見てもヤバそうだ、まともに相手してられねぇ)」
カルロスが僕に耳打ちする。
確かに、どう考えたって真正面から渡り合うのは得策じゃない。
「(聖、俺が囮になる)」
「(・・・―――え?)」
この状況、どう潜り抜けるか―――そう考えようとしたその瞬間に、カルロスは自ら怪物の目の前に飛び出して行った。
「こっちだ、化け物!」
それに応える様に怪物は耳を掻き毟る様な不快な雄叫びを上げ、カルロスの方へ這い寄っていく。
「カルロス!危険だ!」
「心配すんな、俺はこいつを片付ける!いいからお前は早くカードキーを探せ!」
怪物が音も無く床を蹴る。
高く飛び上がったその身体を一瞬で回転させてべたりと天井に張り付き、まるで爬虫類のようにそのまま天井を歩き始める。この怪物には床も天井も同義だということか。
怪物はゆらりと頭を持ち上げ、牙の奥にちらちらと鮮血のように赤い舌を覗かせ―――
笑った。
怪物は一瞬でカルロスの眼前に迫り、大きく右手を振り被った。
恐るべき跳躍力で一気に距離を詰め、何者にも受け止める事を許さない大気すら薙ぎ斬る強烈な一撃を躊躇無く振り降ろす。先程僕が受けた攻撃はあれだったのか。
しかしカルロスは目を背ける事無く素早く射撃体勢になり、直後、激しい銃声が耳を叩いた。
短い間隔の銃声と閃光。
引き金を引かれたアサルトライフルの銃口から放たれた鉛の銃弾が怪物を刺し、抉り、突き抜ける。
着弾の衝撃に耐え切れず、腕を振り切る前に怪物の身体は大きく後ろに吹き飛ばされた。
「だから言っただろ?こいつは俺向きの相手だ」
引き抜いたハンドガンを下げる僕を見て、カルロスはにっと笑う。
カルロスの武器であるアサルトライフルはその超高速連射が最大の特徴だ。
多数の敵を相手にする場合か、もしくは動きの素早い敵を抑え込みながら戦う場合にその持ち味は最大限に引き出される。
細身の肉体や剥き出しになっている脳や筋肉からも分かる通り、この怪物はあまりタフではない方だろう。
アサルトライフルは一発の威力は高くは無いが、この相手ならほぼ全ての動きを制限できる。
「おっと」
怪物の真っ赤な舌が、鞭のようにしなりカルロスを襲う。
しかしカルロスはそれを回避しながら流れる様な手際で弾倉を入れ替え、怪物に更に追い打ちをかける。
怪物は休まる事の無い銃撃から逃れようと再び凄まじい跳躍力で天井に飛び付くが、容赦なく叩き込まれる数百の弾丸に肉体を徐々に削り取られ、悲鳴にも似た絶叫で空気を震わせた。
未練がましくカルロスの方へと這い寄ろうとする怪物は露出した脳のほとんどを破裂させられ、その体液を雨の様に降らせながら一際甲高い声を上げて落下する。
怪物は自らの血溜まりに溺れ、すぐに動かなくなった。
「なんだ、意外とあっさり片付いちまったなぁ」
カルロスは退屈そうにやれやれといった表情で肩をすくめる。
「カルロス!い、いきなり囮になるなんて―――」
「おう、中々いい仕事したろ?」
「・・・はぁ・・・き、君って奴は・・・」
「んだよ、そんなに心配してたのか?俺はそんな雑魚になった覚えは無ぇぞ!」
顔に飛び散った怪物の血液を拭いながら、カルロスは笑う。
「・・・で、お前は?カードキーは見つかったのか?」
「うっ」
言葉に詰まった。
・・・君が心配で目が離せなかった、なんて言える筈も無く。
僕達は改めて、手分けして部屋の中を探す事にした。
しかし、予想以上にカードキーの捜索は難航した。
あの怪物が部屋中を引っ掻き回した所為で、デスクも、床も、何もかもが酷い有様になっているのだ。
それでも散らばった書類や細かく分断された機械を退けながら、ひたすら入念に探し続ける。
「・・・うわっ」
ふと天井を見上げると、先程の部屋と同じく通気口の金網が破られた跡があった。
あの怪物はやはり冷凍庫に『保管』されていたんだろう。・・・どんな実験が繰り返されていたのか、考えたくも無い。
一つ溜息をついて、作業に戻ろうとした。
「・・・」
―――妙に、静かだ。
カルロスも僕と同じ様にカードキーを探しているはずなのだが、その物音が全く聞こえてこない。
「カルロス?」
辺りを見回しながら名前を呼ぶ。
返事は無い。
「・・・カルロス?」
カルロスがいるであろう方向へ歩きながら、少し大きな声で名前を呼ぶ。
返事は無い。
「・・・カルロス!」
カルロスがいるはずの方向へ走りながら、出来る限り大きな声で名前を呼ぶ。
返事は無い。
「カル―――」
カルロスがいた。その身体は力無く崩れ落ちた様に、無造作に床に転がっていた。
返事は無い。