本編
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空が薄暗い。おぼろげだが月も出ている。
街の中は僕が思った以上に凄惨な状況だった。
警察署に近づくにつれ、血だまりとゾンビの数が増えていく。恐らく警察に助けを求めに行ったところを襲われたのだろう。
「疫病・・・それとも集団催眠とか」
様々な憶測で気を紛らわせる。
突然物陰から這い出るゾンビには、いつまで経っても慣れなかった。
折れそうになる膝を懸命に動かし、警察署を目指した。
一刻も早く生存者の保護、そして自身の安全の確保をしなくてはならない。
僕は立ち止まって携帯電話のボタンを押した。
「・・・」
ボタンを押したのはこれが10回目だった。
「・・・駄目だ」
先ほどの戦いの時に携帯電話を落とし、その衝撃で液晶にひびが入ってしまっている。
もう助けを呼ぶことは出来ないようだ。
僕は携帯電話を投げ捨て、ゾンビ達をくぐり抜けながら警察署へ急いだ。
***
「ここ・・・だったかな」
見上げるほどの大きな門、そしてその奥に見える[ラクーン警察署]の文字。
決して安全な訳では無いだろうし、むしろ狭い屋内ではうまく戦えないかもしれない。
あまり想像したくないけれど容易に想像できる自分の悲惨な姿に、生唾を飲み込む。
重い鉄の門を開け、僕は警察署の敷地に足を踏み入れた。
突然、地面を揺るがす程の咆哮が耳を劈く。
「っわ・・・!」
思わず身を竦めた僕の前に、何か大きな物体が重い音を響かせて着地する。
「な、な、な」
驚きと恐怖のあまり、つい硬直する。
「何か」はゆらりと立ち上がり、僕を見下ろした。
ゾンビとは違う、だが確かに異形の生物。
2メートルを越えようかという巨体は、赤褐色の肌をしていた。
頭頂部から右頬にかけての縫い跡。
右目は無く、左目は白く濁っている。
身体を包む革製の黒服。その隙間から覗く剥き出しの筋肉と紫色の触手。
一番目を引いたのが、唇が削げ落ちて歯茎まで剥き出しになっている大きな口。
僕が銃を構えようとしたその時、異形の生物はその口を開いて言葉を発した。
「S.T.A.R.S.・・・」
腹に響くような、重く掠れた声。
異形の生物は大きな腕を高く掲げ、僕目掛けて振り下ろす。
早く逃げなくては。
でも、何故か、それが出来ない。
身体の硬直はとっくに解けているはずなのに。
足が、身体が動かない。
自分でも理由が分からない。
僕はどうしてしまったのか。
少しだけ、口が動いた。
「・・・美しい」
恐怖ではない。
僕はただ異形の生物に目を―――
違う。
心を奪われていた。
***
異形の生物は振り上げた拳をピタリと止め、一歩後ずさる。
僕はふと我に帰った。
「・・・あ」
今言った言葉を、頭の中で反芻する。
もしかして僕は物凄い事を言ってしまったのではないか。
初対面でいきなり「美しい」なんて、馴れ馴れしいを通り越して失礼だ。
軟派な奴だと思われたに違いない。
「ご、ごめんなさい!今のは別にそういうんじゃなくてっ」
自分でも焦っているのが分かった。
全身の毛穴から冷や汗が吹き出す。
「でっ、でも今の言葉は嘘じゃなくて!・・・ああ僕何言ってんだ・・・」
異形の生物は低く唸りながら更にじりじりと後退していく。
「いや、その・・・」
嫌われてしまっただろうか。
怯えさせてしまっただろうか。
僕は決断する。
「ご」
震える声を、無理やり捻り出した。
「ごめんなさいぃっ!」
全速力で警察署のドアに向かう。
ドアを突進するような勢いで開け、静かに閉めた。
「・・・うう」
閉めたドアを背に、僕はその場に座り込む。
自分の選んだ選択肢が情けなくて仕方がなかった。
軽蔑されただろうか。
笑われているだろうか。
「・・・」
僕は立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
・・・今更という感じもするけど、やっぱりちゃんと謝らないといけない。
静かにドアを開ける。
誰もいない。
「・・・そりゃそうだよね」
僕はがっくりと肩を落とすとドアを閉め、警察署の調査を行うことにした。
もしあの子にまた会えたなら、しっかり謝ろう。
例え何があっても、逃げずに。
間違った答えは、もう選ばないんだ。
街の中は僕が思った以上に凄惨な状況だった。
警察署に近づくにつれ、血だまりとゾンビの数が増えていく。恐らく警察に助けを求めに行ったところを襲われたのだろう。
「疫病・・・それとも集団催眠とか」
様々な憶測で気を紛らわせる。
突然物陰から這い出るゾンビには、いつまで経っても慣れなかった。
折れそうになる膝を懸命に動かし、警察署を目指した。
一刻も早く生存者の保護、そして自身の安全の確保をしなくてはならない。
僕は立ち止まって携帯電話のボタンを押した。
「・・・」
ボタンを押したのはこれが10回目だった。
「・・・駄目だ」
先ほどの戦いの時に携帯電話を落とし、その衝撃で液晶にひびが入ってしまっている。
もう助けを呼ぶことは出来ないようだ。
僕は携帯電話を投げ捨て、ゾンビ達をくぐり抜けながら警察署へ急いだ。
***
「ここ・・・だったかな」
見上げるほどの大きな門、そしてその奥に見える[ラクーン警察署]の文字。
決して安全な訳では無いだろうし、むしろ狭い屋内ではうまく戦えないかもしれない。
あまり想像したくないけれど容易に想像できる自分の悲惨な姿に、生唾を飲み込む。
重い鉄の門を開け、僕は警察署の敷地に足を踏み入れた。
突然、地面を揺るがす程の咆哮が耳を劈く。
「っわ・・・!」
思わず身を竦めた僕の前に、何か大きな物体が重い音を響かせて着地する。
「な、な、な」
驚きと恐怖のあまり、つい硬直する。
「何か」はゆらりと立ち上がり、僕を見下ろした。
ゾンビとは違う、だが確かに異形の生物。
2メートルを越えようかという巨体は、赤褐色の肌をしていた。
頭頂部から右頬にかけての縫い跡。
右目は無く、左目は白く濁っている。
身体を包む革製の黒服。その隙間から覗く剥き出しの筋肉と紫色の触手。
一番目を引いたのが、唇が削げ落ちて歯茎まで剥き出しになっている大きな口。
僕が銃を構えようとしたその時、異形の生物はその口を開いて言葉を発した。
「S.T.A.R.S.・・・」
腹に響くような、重く掠れた声。
異形の生物は大きな腕を高く掲げ、僕目掛けて振り下ろす。
早く逃げなくては。
でも、何故か、それが出来ない。
身体の硬直はとっくに解けているはずなのに。
足が、身体が動かない。
自分でも理由が分からない。
僕はどうしてしまったのか。
少しだけ、口が動いた。
「・・・美しい」
恐怖ではない。
僕はただ異形の生物に目を―――
違う。
心を奪われていた。
***
異形の生物は振り上げた拳をピタリと止め、一歩後ずさる。
僕はふと我に帰った。
「・・・あ」
今言った言葉を、頭の中で反芻する。
もしかして僕は物凄い事を言ってしまったのではないか。
初対面でいきなり「美しい」なんて、馴れ馴れしいを通り越して失礼だ。
軟派な奴だと思われたに違いない。
「ご、ごめんなさい!今のは別にそういうんじゃなくてっ」
自分でも焦っているのが分かった。
全身の毛穴から冷や汗が吹き出す。
「でっ、でも今の言葉は嘘じゃなくて!・・・ああ僕何言ってんだ・・・」
異形の生物は低く唸りながら更にじりじりと後退していく。
「いや、その・・・」
嫌われてしまっただろうか。
怯えさせてしまっただろうか。
僕は決断する。
「ご」
震える声を、無理やり捻り出した。
「ごめんなさいぃっ!」
全速力で警察署のドアに向かう。
ドアを突進するような勢いで開け、静かに閉めた。
「・・・うう」
閉めたドアを背に、僕はその場に座り込む。
自分の選んだ選択肢が情けなくて仕方がなかった。
軽蔑されただろうか。
笑われているだろうか。
「・・・」
僕は立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
・・・今更という感じもするけど、やっぱりちゃんと謝らないといけない。
静かにドアを開ける。
誰もいない。
「・・・そりゃそうだよね」
僕はがっくりと肩を落とすとドアを閉め、警察署の調査を行うことにした。
もしあの子にまた会えたなら、しっかり謝ろう。
例え何があっても、逃げずに。
間違った答えは、もう選ばないんだ。