本編
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秋風が頬を撫ぜる9月。
暦上では夏は終わったものの、肌を焼くような陽射しはまだ治まるところを知らない。
僕は如月聖。
ラクーン市警察所属特殊作戦部隊、S.T.A.R.S.の一員だ。
最近は凶悪犯罪も減少の一途を辿っており、S.T.A.R.S.自体はあまり活躍しなくなった。
しかし「アンブレラ」という巨大な組織の実態を調査すべく、隊員達は全国に散らばりながら今もまだ活動を行っている。
僕はS.T.A.R.S.の中でも一番の新米で、皆の言う「洋館事件」については何も知らされていなかった。
その僕が何故アンブレラの調査など行っているのか?
僕の場合、役に立ちたいとかそういうもの以前に、ただの好奇心だ。
何気ない会話の中、誰かが「アンブレラ」や「洋館事件」という言葉を僕の前で口にすると「しまった」とでも言いたそうな顔で僕を見て、数秒後には話を思い切り逸らされ何事も無かったかのように和気藹々と話し始める。
突っ込んで聞いたこともあったが、やはり「また今度」「時期が来れば」等とうやむやにされるだけで誰一人何も話そうとはしてくれなかった。
その不自然な素振を見て、僕に教えられない―――教えてはいけない秘密があると確信した。
頭をくすぐるような好奇心に突き動かされるままに、僕は他のメンバーには秘密で一人調査を進めてきた。
調査をする前はただの製薬会社としか思っていなかったし、どんなに調査してもそれ以上のことは分からなかった。
しかしある日、匿名からの情報を受けて僕はその好奇心をさらに大きくしてしまう。
「ラクーンシティ」と「洋館事件」、そして「アンブレラ」。
この三つにはとても深い関わりがあるということ。
「洋館事件」は「ラクーンシティ」で起こったということ。
「アンブレラ」はやはりただの製薬会社ではない・・・もっと強大でおぞましい何かだということ。
少しずつではあるが、確実に情報は集まりつつあったその時だった。
[ラクーンシティでの生物災害について]
家でくつろいでいた時、突然僕の元に送られてきたFAX。
内容は目を疑うようなものだった。
「死者が人を食べる?小説じゃあるまいし」
FAXに送り主の名前は無い。
こんな不可解で怪しい香りのする物にはあまり触りたがらない僕だったが、「ラクーンシティでの生物災害」という題目を見落とすわけにはいかなかった。
「ヘリを一機、お願いしたいんですが」
僕の手にはいつの間にか携帯電話が握られていた。
これが、僕がラクーンシティの調査へ行く前の最後の言葉となる。
***
辺りに血の臭いが充満していた。
見回せば、パーツの足りない死体がごろごろ転がっている。
地面に染み付いた血の量を見るとこれでも少ない気がした。
そして先程から聞こえる、空に響く唸り声。
「・・・怖い」
一人でそう呟いた。
所々で上がる火の手が、音を立てて空気を飲み込む。
まだ昼だというのに街の中に人気は無く、生気すら感じられなかった。
ヘリで送ってもらったのはここラクーンシティに直結する高速道路までで、そこからはたった一人歩いてきたのだ。
距離としては短くなかったが、苦痛ではなかった。
今の寂しさや焦りの方がよっぽど嫌だ。
「ああ、もう、何なんだこれ」
ため息をつこうとして突然、近くの炎上している自動車のドアが勢いよく外れた。
「わぁ!?」
跳び上がるほど驚いた僕は、近くにあったドラム缶に身を隠す。
「(爆発かな)」
ドラム缶から離れようとした時、外れたドアの奥で何かが動いた。
事故での生存者は何よりも優先される保護対象だ。目を凝らすと人のように見え、僕は自動車に近付いた。
「大丈夫ですか?私は特殊部隊の―――」
そこまで言ったところで僕は口をつぐんだ。
運転席からずるりと這い出てきたのは人・・・のようなもの。
綺麗な青色の服の隙間から覗く肌の色は黒ずんでいた。全身がそうならまだしも、死人のような白い肌にカビでも生えたように浮かび上がっていた。
車からドシャリとはいずり落ちた「人のようなもの」は、ゆっくりと立ち上がる。
全身血だらけだった。正確には出血した跡というべきか。
服は引き裂かれ、体中に食いちぎられたような雑な傷痕がある。
「人のようなもの」は足を引きずりながら僕に近付いてくる。
ふと、何かが鼻をつく。
そう、これは―――
「あの・・・大丈夫―――っぐ!」
瞬間。
物凄い力で地面に押し倒された。
「!何を―――」
「人のようなもの」は僕の肩を押さえ付けたまま、大きく口を開けた。
むわっと広がる嫌な臭いに顔をしかめずにいられない。
そして唐突に思い出した。
これは、肉の腐った臭いだ。
考える前に体が動いた。
自由な足で「人のようなもの」の腹部を蹴り上げ、力が緩んだ隙に肩の手を振りほどいて体勢を立て直す。
「まさかそんな・・・そんな事・・・」
『生ける屍』
FAXの内容を思い出した。
死人が街を徘徊し、人を喰らう。
僕は昔映画で見た、命を失ってなお生物の血肉を喰らい生き続けるという伝説上の怪物を思い出した。
「・・・ゾンビ、なのか」
問い掛けには答えない。
聞こえるのは、食いちぎられた喉笛から聞こえる嫌な音だけだった。
「止まれ、でなければ撃つ」
僕は腰に着けていたハンドガンを構え、狙いを定めた。
それでも引きずる足でこちらに向かってくる対象を、僕は恐怖の目でしか見られなかった。
一発、足に当てる。
血が噴き出し、足を更に重く引きずるようになったがそれでも倒れない。
次は頭に一発当てた。
よろめきはしたものの、やはり倒れない。
更に膝に一発。
血が流れ出てきて、片膝をガクンと落とした。
痛みは感じていないように見えたが、神経や筋肉を破壊されれば動けなくなるようでもあった。
多少は人間の常識も通用すると信じ、残弾を全て頭部に撃ち込む。
頭から大量の血を噴き出し、ゾンビはゆっくりと崩れ落ちた。
「・・・ふはあ」
安心して力が抜け、僕はその場に膝をつく。
銃を握る手がまだ震えが残っていた。人を撃つ、むしろ実際にこうして銃を使うのは初めてだった。
射撃訓練は散々受けさせられたが、それでも実際に扱うのとは緊張の度合いが違う。
一気に物凄い疲れが押し寄せた。
震え出すのをぐっとこらえ、深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
この経験は忘れられそうにない。
僕は意を決し立ち上がる。
これは考えられない程の異常事態だ。
僕の手には負えないかもしれない。
そう思って警察署へ向かって走り出した。
あそこなら無線がある、誰かと交信ができればいいのだが。
横目にちらりと映ったのは助手席。
その中で、綺麗な青色の服の切れ端を握り蠢く、赤黒い肉塊。
こちらを虚ろな目で見つめ、だらしなく開いた口から低い唸り声を出していた。
「生ける屍・・・か」
暦上では夏は終わったものの、肌を焼くような陽射しはまだ治まるところを知らない。
僕は如月聖。
ラクーン市警察所属特殊作戦部隊、S.T.A.R.S.の一員だ。
最近は凶悪犯罪も減少の一途を辿っており、S.T.A.R.S.自体はあまり活躍しなくなった。
しかし「アンブレラ」という巨大な組織の実態を調査すべく、隊員達は全国に散らばりながら今もまだ活動を行っている。
僕はS.T.A.R.S.の中でも一番の新米で、皆の言う「洋館事件」については何も知らされていなかった。
その僕が何故アンブレラの調査など行っているのか?
僕の場合、役に立ちたいとかそういうもの以前に、ただの好奇心だ。
何気ない会話の中、誰かが「アンブレラ」や「洋館事件」という言葉を僕の前で口にすると「しまった」とでも言いたそうな顔で僕を見て、数秒後には話を思い切り逸らされ何事も無かったかのように和気藹々と話し始める。
突っ込んで聞いたこともあったが、やはり「また今度」「時期が来れば」等とうやむやにされるだけで誰一人何も話そうとはしてくれなかった。
その不自然な素振を見て、僕に教えられない―――教えてはいけない秘密があると確信した。
頭をくすぐるような好奇心に突き動かされるままに、僕は他のメンバーには秘密で一人調査を進めてきた。
調査をする前はただの製薬会社としか思っていなかったし、どんなに調査してもそれ以上のことは分からなかった。
しかしある日、匿名からの情報を受けて僕はその好奇心をさらに大きくしてしまう。
「ラクーンシティ」と「洋館事件」、そして「アンブレラ」。
この三つにはとても深い関わりがあるということ。
「洋館事件」は「ラクーンシティ」で起こったということ。
「アンブレラ」はやはりただの製薬会社ではない・・・もっと強大でおぞましい何かだということ。
少しずつではあるが、確実に情報は集まりつつあったその時だった。
[ラクーンシティでの生物災害について]
家でくつろいでいた時、突然僕の元に送られてきたFAX。
内容は目を疑うようなものだった。
「死者が人を食べる?小説じゃあるまいし」
FAXに送り主の名前は無い。
こんな不可解で怪しい香りのする物にはあまり触りたがらない僕だったが、「ラクーンシティでの生物災害」という題目を見落とすわけにはいかなかった。
「ヘリを一機、お願いしたいんですが」
僕の手にはいつの間にか携帯電話が握られていた。
これが、僕がラクーンシティの調査へ行く前の最後の言葉となる。
***
辺りに血の臭いが充満していた。
見回せば、パーツの足りない死体がごろごろ転がっている。
地面に染み付いた血の量を見るとこれでも少ない気がした。
そして先程から聞こえる、空に響く唸り声。
「・・・怖い」
一人でそう呟いた。
所々で上がる火の手が、音を立てて空気を飲み込む。
まだ昼だというのに街の中に人気は無く、生気すら感じられなかった。
ヘリで送ってもらったのはここラクーンシティに直結する高速道路までで、そこからはたった一人歩いてきたのだ。
距離としては短くなかったが、苦痛ではなかった。
今の寂しさや焦りの方がよっぽど嫌だ。
「ああ、もう、何なんだこれ」
ため息をつこうとして突然、近くの炎上している自動車のドアが勢いよく外れた。
「わぁ!?」
跳び上がるほど驚いた僕は、近くにあったドラム缶に身を隠す。
「(爆発かな)」
ドラム缶から離れようとした時、外れたドアの奥で何かが動いた。
事故での生存者は何よりも優先される保護対象だ。目を凝らすと人のように見え、僕は自動車に近付いた。
「大丈夫ですか?私は特殊部隊の―――」
そこまで言ったところで僕は口をつぐんだ。
運転席からずるりと這い出てきたのは人・・・のようなもの。
綺麗な青色の服の隙間から覗く肌の色は黒ずんでいた。全身がそうならまだしも、死人のような白い肌にカビでも生えたように浮かび上がっていた。
車からドシャリとはいずり落ちた「人のようなもの」は、ゆっくりと立ち上がる。
全身血だらけだった。正確には出血した跡というべきか。
服は引き裂かれ、体中に食いちぎられたような雑な傷痕がある。
「人のようなもの」は足を引きずりながら僕に近付いてくる。
ふと、何かが鼻をつく。
そう、これは―――
「あの・・・大丈夫―――っぐ!」
瞬間。
物凄い力で地面に押し倒された。
「!何を―――」
「人のようなもの」は僕の肩を押さえ付けたまま、大きく口を開けた。
むわっと広がる嫌な臭いに顔をしかめずにいられない。
そして唐突に思い出した。
これは、肉の腐った臭いだ。
考える前に体が動いた。
自由な足で「人のようなもの」の腹部を蹴り上げ、力が緩んだ隙に肩の手を振りほどいて体勢を立て直す。
「まさかそんな・・・そんな事・・・」
『生ける屍』
FAXの内容を思い出した。
死人が街を徘徊し、人を喰らう。
僕は昔映画で見た、命を失ってなお生物の血肉を喰らい生き続けるという伝説上の怪物を思い出した。
「・・・ゾンビ、なのか」
問い掛けには答えない。
聞こえるのは、食いちぎられた喉笛から聞こえる嫌な音だけだった。
「止まれ、でなければ撃つ」
僕は腰に着けていたハンドガンを構え、狙いを定めた。
それでも引きずる足でこちらに向かってくる対象を、僕は恐怖の目でしか見られなかった。
一発、足に当てる。
血が噴き出し、足を更に重く引きずるようになったがそれでも倒れない。
次は頭に一発当てた。
よろめきはしたものの、やはり倒れない。
更に膝に一発。
血が流れ出てきて、片膝をガクンと落とした。
痛みは感じていないように見えたが、神経や筋肉を破壊されれば動けなくなるようでもあった。
多少は人間の常識も通用すると信じ、残弾を全て頭部に撃ち込む。
頭から大量の血を噴き出し、ゾンビはゆっくりと崩れ落ちた。
「・・・ふはあ」
安心して力が抜け、僕はその場に膝をつく。
銃を握る手がまだ震えが残っていた。人を撃つ、むしろ実際にこうして銃を使うのは初めてだった。
射撃訓練は散々受けさせられたが、それでも実際に扱うのとは緊張の度合いが違う。
一気に物凄い疲れが押し寄せた。
震え出すのをぐっとこらえ、深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
この経験は忘れられそうにない。
僕は意を決し立ち上がる。
これは考えられない程の異常事態だ。
僕の手には負えないかもしれない。
そう思って警察署へ向かって走り出した。
あそこなら無線がある、誰かと交信ができればいいのだが。
横目にちらりと映ったのは助手席。
その中で、綺麗な青色の服の切れ端を握り蠢く、赤黒い肉塊。
こちらを虚ろな目で見つめ、だらしなく開いた口から低い唸り声を出していた。
「生ける屍・・・か」
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