本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一瞬。
ほんの一瞬。
ニコライを撃とうとした時、僕の中に僅かな迷いが生まれてしまった。
ニコライは敵だった。
でも、人間だった。
その迷いの刹那、ニコライが僕の鳩尾に手刀を突き立てた。
心臓まで届こうかという強烈な一撃に僕の身体は瞬間的に硬直し、それが解ける前に軽々と肩に担がれた。
そしてそのまま正体の分からない肉塊の積み上げられた薄暗い処理ルームに投げ込まれて―――今はまだ痛みに悶える事しか出来なかった。
「ぐっ・・・!」
強制的に喉を流れ出る苦悶の声が自分の耳に響いた。
『処理ルーム内 処理を開始します 危険ですので退避してください 繰り返します・・・』
機械的な音声の言葉と共に刻々と過ぎていく4分、それは迫る「廃棄」の瞬間を意味した。
先程のマニュアルに書いてあった事、それに関しての僕の記憶が正しければ今から約4分後、この部屋の中の物は濃硫酸で処理される。
それがどんな方法であるかは詳しく覚えていなかったが、少なくとも生きて出られはしないだろう。
「(このままじゃいけない・・・)」
僕は疼く胸元を抑えながらゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。
固く鎖された厳重な扉の近くで小さなランプが点滅している。良く見れば、その近くに何か薄い物を通すような形状をしている機械があるのが分かる。カードキーの読み込み装置だろうか。
万が一の事態に備え、内側からでも開くようにはなっているようだ。
カードキーがあれば、だが。
僅かな希望を支えにして壁にもたれるようにしながら辺りを捜索する。
そこら辺に落ちている程簡単な物ではないだろうが、何もしないよりは随分良いだろう。
体が思うように動かない今、せめて少しでも効率的に動く為に思考だけは回転させる。
もしこの空間の中にカードキーがあるとすれば、それはどんな場合なのだろうか。
ここに入った職員が偶然落とす?
ここに投げ込まれた怪物が持っている?
「・・・それは無いだろうなぁ」
可能性の低い事ばかり思いついてしまう自分の頭に心底失望する。
良く言えば楽観的とも取れるが、今はそんな悠長な捉え方は出来なかった。
「・・・」
痛む部分を抑え、壁に背を預ける。
先程と同じように浅い呼吸をしながら、その場に座り込んだ。
「疲れた・・・」
もう随分と頑張ってきた。
ここで諦めたって誰も非難しないだろう。
・・・そうだ、カルロスは怒るかもしれない。
ああ、うん、凄く分かりやすく怒りそうだ。
でも駄目だ。
何度も危ない目に合ったけど、流石にこの状況は覆せないよ。
あれ?でも何で今まで助かっていたんだろう。
僕が死に直面した時、何故それを回避出来てきたのだろう。
「―――、ん?」
答えが出る前に、ふと、仰向けになった一つの死体に目がいく。
死体など最早見慣れたものではあるが、特に僕の目を引き留めたのは白衣に身を包んだその死体の胸ポケットから覗く一枚の赤いカードだった。
「・・・もしかして」
それが必ずしも脱出の鍵だとは限らない。いや、むしろそうでない可能性の方が高いのでは無いだろうか。
それでも、今はどんな小さな可能性も無下にはしない。
僕は胸部になるべく圧力が掛からないように息を止め、死体に向かう。
無造作に積み上げられた死体の表情は醜く歪んでいた。
目を剥き、歯を食いしばり、肌に赤黒い斑点が無数に浮かび上がらせて―――首に提げた顔写真入りの名札は別人のものではないかと疑いたくなる。
受け入れる者には永遠の死を。
拒む者には苦痛の死を。
この人物はきっと最後まで「人間」でいる事を選んだのだろう。
だから、ここに捨てられた。
心の中で深く一礼し、胸元からカードを抜き取る。
表面を照らし出してみても目立った傷跡は無く、読み取りには問題なさそうだった。
後の問題は本当にこれで扉が開くかどうか、だ。
不安と期待を抱えながらカードを握り、立ち上がる。
やっと鳩尾の痛みも幾分か和らいできて、支えが無くても歩ける程になった。
静かに呼吸しながらゆっくりと扉に向かう。
「・・・っ?」
ふと、何かが視界の角で微かに動いた。
焦点を合わせる前に、反射的に銃を構える。
―――いた。
ぼんやりとした明かりの中に確かに何かが潜んでいた。
いや、少しずつこちらに向かってきている。
人か、それに似た別の何かか、はたまた異形の怪物か。
目を細め、ぐっと意識を集中する。
薄暗闇の奥から聞こえてきたのは、弱々しい息遣い。
それは床を少しずつ這ってくる影が発しているようだった。
消えかかりそうな照明の下にその姿がのぞいたその瞬間、体の力が抜ける。
解けた指からハンドガンが滑り落ち、広い空間に鈍い金属音が響く。
そんな―――
「嘘だ・・・!」
透明になった視界の先に見えたのは、見覚えのある姿。
血の海を掻き分ける様にして力無く這いずる黒衣の使者の姿だった。
「(どうして君が)」
声は出なかった。
心臓の痛みを完全に忘れ、傍に駆け寄る。
血に沈む黒衣の使者、僕はその変わり果てた姿に愕然とした。
左腕は肩ごと引きちぎられ、右足は膝下から筋肉の繊維を何本か残して失くなっていた。
真っ白な瞳は呆然と何も無い場所を見つめ、触手の何本かは鋭利な刃物に裂かれたような傷痕がある。
紫色に濡れた口腔から漏れる微かな吐息が、生きている唯一の証拠だった。
―――ニコライだ。
ここまで痛め付けられているのに、未だ死には至っていない。
死を熟知した人間は、その逆もまた良く知っているということか。
沸き上がる感情を押さえ付ける為に、歯を思い切り食いしばる。
これが悲しみなのか怒りなのかも分からないが、今はそれを考える時ではなかった。
僕がそうしているうちに黒衣の使者の身体からは紫色の液体がとめどなく溢れ、粘着質な血溜まりを拡げていく。
―――まずはこの子を助けないと―――
そう思って扉に向かおうとした僕の足首を、何かが引き止める。
紫色の触手が力無く、弱々しく、それでも離さないように絡み付いていた。
「駄目だ、急がないと君の命が危な・・・」
膝をつき、触手を解こうとした僕の腕に少し重みがかかる。
血に染まった右手が、そっと僕の手に重なっていた。
僕が逃げるんじゃないか。
初めて会ったあの時みたいに、逃げるんじゃないか。
・・・そう思われてるのかな。
「・・・大丈夫だよ」
部品の足りない身体をそっと抱き寄せ、耳元で囁くように言った。
「今度は僕に守らせて」
***
残された時間は僅かだった。
読み取り装置にカードを通すと、甲高い電子音がしてランプが緑色に点灯し、同時に円状の取っ手が回転して空気が抜けるような音がする。
この空気圧を利用した厳重な扉は、人間の力でもそれ以上でも、生半可な力では決して開かない。
こんな物が作られたのは、どんな凶悪な物体が産まれても此処で確実に処理し切る為だろう。
例え、職員を閉じ込めていたとしても。
残酷な事実だが、今はそれに救われている事も事実だった。扉は開いてくれたのだ。
重い扉を開け、隙間から先程の部屋を覗いてみたがニコライの姿は見受けられなかった。
安全を確認して扉を全開にし、再び黒衣の使者へ駆け寄る。
「行こう」
黒衣の使者を抱き上げようと手を伸ばし、腰を下ろそうとしたその時だった。
床が細かく振動し、血だまりが波紋を拡げる。
「警告 これより待機モードより処理モードに移行します」
無感情なアナウンスがそう告げると同時にがくん、と景色が傾斜し始めた。
―――まずい!
視線を向けた時には既に扉が閉まり始めていた。
恐らく処理が開始されると自動的に閉まるようになっているんだろう。
振動を続けている床は中央で半分に分かれ、ゆっくりと下に開いていく。
そこに見えたのは、不気味な肉片の浮かんだ見覚えのある錆色の液体だった。
「っ平気だよ、まだ間に合っ・・・ぐっ!?」
振り向いたその瞬間、突然首が締め上げられた。
酸素が全く入らなくなった喉を掴まれたまま、体が宙に浮く。
足が床から離されていき、バタバタともがいてみても状況は変わらない。
目だけ動かして確認する。
僕の首を掴んでいるのは、紛れも無く今までぐったりとしていたはずの黒衣の使者だった。
欠けた右足を触手で支える事で何とか立っているという様子だったが、真っ白な瞳だけは真っ直ぐに僕を見ていた。しかし、この状況で瞳の奥に潜んだ意志を感じ取れるはずもない。
黒衣の使者は低く唸りながら、先程重ねた手で僕の首を力強く締め上げてくる。
―――また、なのか。
引き剥がそうとしても僕の力では到底及ばない、全くの「無駄な抵抗」だった。
きつく締まった喉から上手く言葉が出ない。
他に意思を伝える手段が見つからない。
ただ、無様にもがく事しか出来ない。
―――また、なんだ。
「・・・嫌・・・だ・・・!」
君はまた僕を助けようとしてるんだろう―――!?
***
壁に強く叩き付けられた身体がずきずきと痛む。
目が熱い。
胸が苦しい。
僕は処理ルームの外側にいた。
空気圧の扉に固く閉ざされた向こう側からは何の音も聞こえず、ただミサイルの接近を警告するアナウンスだけが部屋に響く。
あの子が僕をルームの外に放り投げて数秒後、扉は先程と同じ音を立てて閉まった。
蹴っても殴っても表情一つ変えやしない強固な扉は音まで遮断し、僕に中の様子を知る事すら許さない。
「(まただ)」
君を守りたかった。
「(また助けられた)」
君に生きて欲しかった。
「(また僕は・・・)」
君に傍にいてほしかった。
「君を止められなかった・・・!」
僕は君の事が―――。
ほんの一瞬。
ニコライを撃とうとした時、僕の中に僅かな迷いが生まれてしまった。
ニコライは敵だった。
でも、人間だった。
その迷いの刹那、ニコライが僕の鳩尾に手刀を突き立てた。
心臓まで届こうかという強烈な一撃に僕の身体は瞬間的に硬直し、それが解ける前に軽々と肩に担がれた。
そしてそのまま正体の分からない肉塊の積み上げられた薄暗い処理ルームに投げ込まれて―――今はまだ痛みに悶える事しか出来なかった。
「ぐっ・・・!」
強制的に喉を流れ出る苦悶の声が自分の耳に響いた。
『処理ルーム内 処理を開始します 危険ですので退避してください 繰り返します・・・』
機械的な音声の言葉と共に刻々と過ぎていく4分、それは迫る「廃棄」の瞬間を意味した。
先程のマニュアルに書いてあった事、それに関しての僕の記憶が正しければ今から約4分後、この部屋の中の物は濃硫酸で処理される。
それがどんな方法であるかは詳しく覚えていなかったが、少なくとも生きて出られはしないだろう。
「(このままじゃいけない・・・)」
僕は疼く胸元を抑えながらゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。
固く鎖された厳重な扉の近くで小さなランプが点滅している。良く見れば、その近くに何か薄い物を通すような形状をしている機械があるのが分かる。カードキーの読み込み装置だろうか。
万が一の事態に備え、内側からでも開くようにはなっているようだ。
カードキーがあれば、だが。
僅かな希望を支えにして壁にもたれるようにしながら辺りを捜索する。
そこら辺に落ちている程簡単な物ではないだろうが、何もしないよりは随分良いだろう。
体が思うように動かない今、せめて少しでも効率的に動く為に思考だけは回転させる。
もしこの空間の中にカードキーがあるとすれば、それはどんな場合なのだろうか。
ここに入った職員が偶然落とす?
ここに投げ込まれた怪物が持っている?
「・・・それは無いだろうなぁ」
可能性の低い事ばかり思いついてしまう自分の頭に心底失望する。
良く言えば楽観的とも取れるが、今はそんな悠長な捉え方は出来なかった。
「・・・」
痛む部分を抑え、壁に背を預ける。
先程と同じように浅い呼吸をしながら、その場に座り込んだ。
「疲れた・・・」
もう随分と頑張ってきた。
ここで諦めたって誰も非難しないだろう。
・・・そうだ、カルロスは怒るかもしれない。
ああ、うん、凄く分かりやすく怒りそうだ。
でも駄目だ。
何度も危ない目に合ったけど、流石にこの状況は覆せないよ。
あれ?でも何で今まで助かっていたんだろう。
僕が死に直面した時、何故それを回避出来てきたのだろう。
「―――、ん?」
答えが出る前に、ふと、仰向けになった一つの死体に目がいく。
死体など最早見慣れたものではあるが、特に僕の目を引き留めたのは白衣に身を包んだその死体の胸ポケットから覗く一枚の赤いカードだった。
「・・・もしかして」
それが必ずしも脱出の鍵だとは限らない。いや、むしろそうでない可能性の方が高いのでは無いだろうか。
それでも、今はどんな小さな可能性も無下にはしない。
僕は胸部になるべく圧力が掛からないように息を止め、死体に向かう。
無造作に積み上げられた死体の表情は醜く歪んでいた。
目を剥き、歯を食いしばり、肌に赤黒い斑点が無数に浮かび上がらせて―――首に提げた顔写真入りの名札は別人のものではないかと疑いたくなる。
受け入れる者には永遠の死を。
拒む者には苦痛の死を。
この人物はきっと最後まで「人間」でいる事を選んだのだろう。
だから、ここに捨てられた。
心の中で深く一礼し、胸元からカードを抜き取る。
表面を照らし出してみても目立った傷跡は無く、読み取りには問題なさそうだった。
後の問題は本当にこれで扉が開くかどうか、だ。
不安と期待を抱えながらカードを握り、立ち上がる。
やっと鳩尾の痛みも幾分か和らいできて、支えが無くても歩ける程になった。
静かに呼吸しながらゆっくりと扉に向かう。
「・・・っ?」
ふと、何かが視界の角で微かに動いた。
焦点を合わせる前に、反射的に銃を構える。
―――いた。
ぼんやりとした明かりの中に確かに何かが潜んでいた。
いや、少しずつこちらに向かってきている。
人か、それに似た別の何かか、はたまた異形の怪物か。
目を細め、ぐっと意識を集中する。
薄暗闇の奥から聞こえてきたのは、弱々しい息遣い。
それは床を少しずつ這ってくる影が発しているようだった。
消えかかりそうな照明の下にその姿がのぞいたその瞬間、体の力が抜ける。
解けた指からハンドガンが滑り落ち、広い空間に鈍い金属音が響く。
そんな―――
「嘘だ・・・!」
透明になった視界の先に見えたのは、見覚えのある姿。
血の海を掻き分ける様にして力無く這いずる黒衣の使者の姿だった。
「(どうして君が)」
声は出なかった。
心臓の痛みを完全に忘れ、傍に駆け寄る。
血に沈む黒衣の使者、僕はその変わり果てた姿に愕然とした。
左腕は肩ごと引きちぎられ、右足は膝下から筋肉の繊維を何本か残して失くなっていた。
真っ白な瞳は呆然と何も無い場所を見つめ、触手の何本かは鋭利な刃物に裂かれたような傷痕がある。
紫色に濡れた口腔から漏れる微かな吐息が、生きている唯一の証拠だった。
―――ニコライだ。
ここまで痛め付けられているのに、未だ死には至っていない。
死を熟知した人間は、その逆もまた良く知っているということか。
沸き上がる感情を押さえ付ける為に、歯を思い切り食いしばる。
これが悲しみなのか怒りなのかも分からないが、今はそれを考える時ではなかった。
僕がそうしているうちに黒衣の使者の身体からは紫色の液体がとめどなく溢れ、粘着質な血溜まりを拡げていく。
―――まずはこの子を助けないと―――
そう思って扉に向かおうとした僕の足首を、何かが引き止める。
紫色の触手が力無く、弱々しく、それでも離さないように絡み付いていた。
「駄目だ、急がないと君の命が危な・・・」
膝をつき、触手を解こうとした僕の腕に少し重みがかかる。
血に染まった右手が、そっと僕の手に重なっていた。
僕が逃げるんじゃないか。
初めて会ったあの時みたいに、逃げるんじゃないか。
・・・そう思われてるのかな。
「・・・大丈夫だよ」
部品の足りない身体をそっと抱き寄せ、耳元で囁くように言った。
「今度は僕に守らせて」
***
残された時間は僅かだった。
読み取り装置にカードを通すと、甲高い電子音がしてランプが緑色に点灯し、同時に円状の取っ手が回転して空気が抜けるような音がする。
この空気圧を利用した厳重な扉は、人間の力でもそれ以上でも、生半可な力では決して開かない。
こんな物が作られたのは、どんな凶悪な物体が産まれても此処で確実に処理し切る為だろう。
例え、職員を閉じ込めていたとしても。
残酷な事実だが、今はそれに救われている事も事実だった。扉は開いてくれたのだ。
重い扉を開け、隙間から先程の部屋を覗いてみたがニコライの姿は見受けられなかった。
安全を確認して扉を全開にし、再び黒衣の使者へ駆け寄る。
「行こう」
黒衣の使者を抱き上げようと手を伸ばし、腰を下ろそうとしたその時だった。
床が細かく振動し、血だまりが波紋を拡げる。
「警告 これより待機モードより処理モードに移行します」
無感情なアナウンスがそう告げると同時にがくん、と景色が傾斜し始めた。
―――まずい!
視線を向けた時には既に扉が閉まり始めていた。
恐らく処理が開始されると自動的に閉まるようになっているんだろう。
振動を続けている床は中央で半分に分かれ、ゆっくりと下に開いていく。
そこに見えたのは、不気味な肉片の浮かんだ見覚えのある錆色の液体だった。
「っ平気だよ、まだ間に合っ・・・ぐっ!?」
振り向いたその瞬間、突然首が締め上げられた。
酸素が全く入らなくなった喉を掴まれたまま、体が宙に浮く。
足が床から離されていき、バタバタともがいてみても状況は変わらない。
目だけ動かして確認する。
僕の首を掴んでいるのは、紛れも無く今までぐったりとしていたはずの黒衣の使者だった。
欠けた右足を触手で支える事で何とか立っているという様子だったが、真っ白な瞳だけは真っ直ぐに僕を見ていた。しかし、この状況で瞳の奥に潜んだ意志を感じ取れるはずもない。
黒衣の使者は低く唸りながら、先程重ねた手で僕の首を力強く締め上げてくる。
―――また、なのか。
引き剥がそうとしても僕の力では到底及ばない、全くの「無駄な抵抗」だった。
きつく締まった喉から上手く言葉が出ない。
他に意思を伝える手段が見つからない。
ただ、無様にもがく事しか出来ない。
―――また、なんだ。
「・・・嫌・・・だ・・・!」
君はまた僕を助けようとしてるんだろう―――!?
***
壁に強く叩き付けられた身体がずきずきと痛む。
目が熱い。
胸が苦しい。
僕は処理ルームの外側にいた。
空気圧の扉に固く閉ざされた向こう側からは何の音も聞こえず、ただミサイルの接近を警告するアナウンスだけが部屋に響く。
あの子が僕をルームの外に放り投げて数秒後、扉は先程と同じ音を立てて閉まった。
蹴っても殴っても表情一つ変えやしない強固な扉は音まで遮断し、僕に中の様子を知る事すら許さない。
「(まただ)」
君を守りたかった。
「(また助けられた)」
君に生きて欲しかった。
「(また僕は・・・)」
君に傍にいてほしかった。
「君を止められなかった・・・!」
僕は君の事が―――。