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本編

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辺りを一通り調査し、敵もあらかた片付けた僕はカルロスを追って階段を上る。

「わぁっぷ!」

二階に足を踏み入れた瞬間だった。
何か粘着質な膜のようなものが僕の顔に引っ掛かり、思わず目をつぶってしまう。

「うぇえ」

よろけながら階段を一、二段降り、顔を拭う。そして手に付いたのは膜ではなく、透明な細い糸だということに気づいた。
糸は糸でも、何の糸かは分からない。絹糸というには太過ぎるがワイヤーというには細過ぎる。

「何だよ全く―――」

少し苛立つ。糸に、というよりはこんなものに過剰に驚いてしまった自分にだ。
手を顔の前で注意深く払いながら再び階段を上る。二階は赤い絨毯が長く延びており、何かおかしなものがある目立った痕跡もない。
しかしどこかこの空間に違和感を感じた。今までと違う―――どこか安心できない嫌な予感。
僕は足早に廊下を抜けようとした。

ふと、『何か』を感じる。

本能に命ぜられるままにその場から飛びのいた瞬間、目の前にびしゃりと黄緑色の液体が降ってきた。
黄緑色の液体はぶくぶくと気泡を発生させ、蒸気をあげる。

驚くより早くハンドガンに手を伸ばし、天井に向けて構え、撃つ。
ぶしゅり、と何かが噴き出したような音が聞こえたと思うと、天井の壁が突然動いた。

「・・・う・・・わ・・・」

―――壁じゃない。

その『何か』は壁伝いにゆっくりと降りてきた。
僕はその正体を見てしまう。

壁だと思ったのは、音も無く壁を這う蜘蛛―――問題はその大きさだ。
全長は僕を二回り程大きくしたくらいだろうか。
恐らくは何らかの影響であの虫の怪物が巨大化したのと同じ現象がこの蜘蛛にも起きている。
気味の悪い毛むくじゃらの長細い足が赤と黄色の斑によって不気味さを更に倍増させていて、生理的に嫌悪感を抱く。全身に鳥肌が立った。

そんな僕を尻目に蜘蛛は8本の脚をゆっくりと動かし、距離を徐々に詰めてくる。
その度にがさがさと硬い毛が擦れ合う音がし、あまりのおぞましさに思わず耳を塞ぎたくなった。

それでもやるしかない。
僕は意を決し、蜘蛛に向かって駆け出した。

一瞬、蜘蛛が捕食者特有の暗い笑みを浮かべた気がしたがそんな事に気を取られてはいられない。
僕は地面を蹴った。
着地がてら、柔らかな蜘蛛の背を思いっ切り踏み付ける。

その瞬間に、蜘蛛は苦悶の鳴き声をあげると同時に尻を持ち上げ真っ白な糸を吐き出し、僕の体を搦め捕ろうとする。

危うく転倒しかけたものの、何とかバランスを取り戻してそのまま飛び越えた。

「っこの!」

顔にかかった糸を取り払いながら、お返しだと言わんばかりに黒い小さな銃身から力任せに弾丸を吐き出す。しかし、残弾を全て撃ちこんだにも関わらずその頑強な捕食者はいくつもの目でニヤニヤとこちらを見つめるばかり。

「ならこいつでどうだ!」

ハンドガンではこの巨体に有効なダメージを与えられないと判断した僕は咄嗟にショットガンに持ち替えた。
銃口を蜘蛛の腹にぴったりとつけ、そのまま引き金を引く。
飛び散る体液の中、蜘蛛の複眼から光が消えた。

「っ・・・はあ、全くどうしてこうも変なのばっかり」

僕はぶつくさと独り言を言いながら体中に吐きだされた白い糸を素手で引き剥がすが、べとべとと剥したところから手に纏わりついてくる。

「もう、気持ち悪いな・・・ん?」

足に異物感を感じた。
見れば、薄い茶褐色の小さな蜘蛛が足を這いずり上がってきている。

「わわわわ!?」

急いでそれらを叩き落とし、その場から離れる。
先程倒した蜘蛛を見てみると、散弾に裂かれた腹から無数の小蜘蛛が湧き出していた。

「ごめんね、お母さん」


***


そこから望む風景は壮絶なものだった。
霞んだ月が黒い煙に飲み込まれようとしている。辺りはほとんどを闇に包まれ、それを彩る火炎は何処か物悲しく亡者達の悲鳴のように昇っては掻き消えていった。

バルコニーの欄干に手をかけ、一息つく。
目を閉じ、ここに辿り着くまでの様々な出来事に思いを巡らせた。

命を賭けた死闘を繰り広げた事。

人間に初めて恐怖を持った事。

大切な人を失った事。

そしてあの子に出会った事。

何もかもが思い出のように思え、ただの記憶となっている気がした。
この街にいた事も、こうしてただの記憶になってしまうのだろうか。

「お、

感傷に浸っていると、頭上から声が降ってきた。

「カルロス」
「よお」

長く伸びた梯子に掴まって今にも降りようとしているカルロスが軽い雰囲気で答えた。

「でっかい蜘蛛が居たんだけど、大丈夫だった?」
「7発くらい撃ったけど効かなかったから逃げた」
「逃げ・・・」
「あいつら足遅ぇからな」

そう言って笑いながらカルロスは素早い動作で梯子を降りきると、バルコニーの欄干に手を置いて、先程の僕のように街を望んだ。

「もうすぐ、終わるんだな」
「うん・・・あ、鐘は?」

ここに来た当初の目的を思い出し、カルロスに問いかける。

「ああ、上に動力室があったぜ。動かなかったけどな」
「え!?それじゃ駄目なんじゃないの!?」

僕がそう言うとカルロスは両手を出してどうどう、となだめる様に言った。

「待て待て、機械自体は壊れてねぇ。ただ俺はどうも機械が苦手でよ」
「そっか・・・じゃあ僕見てみるよ」

胸を撫で下ろす。
僕はカルロスに背を向け、梯子に足を掛けた。

「っと、
「ん?」
「そこ、気をつけろよ」

指差されたのはライトのものと思われるコード。銅線が剥き出しになっていて、ぱちぱちと大きな火花が爆ぜている。
良く見れば大きな水瓶が倒れていて足元は水浸しだ。
この状態では感電する恐れもあるかもしれない。

「ありがと」

カルロスは再び1階を目指し、僕は梯子を上った。

剥き出しになっていた動力部分を見ると、歯車が噛み合っていない事に気付いた。
恐らくむやみに鐘を鳴らすことの無いように鍵の代わりにしているのだろう。

「んー、この塔の中にあるといいけど」

急いで梯子を降り、廊下へと通じるドアノブに手をかけようとした。
ひとりでにドアが開く。

「―――っ!?」

裏路地での状況とかぶる。

僕の頭に浮かんだのはあの子―――そしてその予感は的中する。

黒い革製の服に点々と小さな穴が開いていた。所々に焼け焦げたような跡も見られ、ミハイルとの激闘が僕の脳裏に過ぎる。

この子は、ミハイルを死に追い遣った。

「・・・」

何も言えなかった。

何も出来なかった。

正確には何をすべきなのかが分からなかった。

自分の心に問い掛けても答えは出ない。

今、僕自身がどんな思いでいるのかすらも分からない。


「・・・どいて」

知らない内にそう口に出していた自分に自分で驚く。

「・・・どいてくれ」

まただ。口が勝手に動く。
顔を勢いよくあげ、睨むように黒衣の使者を見て更に続けた。

「―――どけったら!」

僕は怒っているのだろうか。体全体に異常に力が入り、震えが収まらない。目頭が熱くなってくる。

黒衣の使者はそんな僕を哀れみとも悲しみともつかない、様々な負の感情の入り混じる瞳で見つめた。
しかしその表情は一瞬にして険しい表情に変わる。
勢い良く触手の絡んだ右手を振り上げ、僕に向けて打ち下ろした。

「―――ぅ!!」

背中を走り、脳天を貫かれるような激痛に思わず身を折った。痛みと痺れで意識が朦朧とし、自分が今何をされたのかも分からない。
そのまま遠退こうとする意識を必死で掴み取り、目を瞬かせる。

段々と視界がはっきりとする。
僕は何かの上にうつ伏せに寝ていた。
少し暖かい、硬いような柔らかいような、ごつごつとしていて滑らかな何かの上に。
耳元で息遣いが聞こえ、それと連動して僕の下敷きになっている何かも脈動する。

「・・・く、ぅ」

少しだけ身を起こし、見下ろすと、白く濁った瞳が僕を見上げていた。
その状況を把握するのに、少しだけ時間を要する。

恐らく、僕がこの子に跨っているような体勢だ。

「え、あ、ご、ごごごめん」

回らない舌を動かしながらさっと体を退け、手を差し出す。
差し出された手を掴み、黒衣の使者は仰向けに倒れていた巨体をゆっくりと起こした。

立ちあがった僕は自分の背後を振り返る。

バルコニーに撒かれた水に青い電流が這っていた。
あの突き上げるような痛みと四肢を動かせない程の痺れは僕が一瞬感電した事が原因だという事に気が付く。
殴られたものだとばかり思っていたがそれは全くの間違いで、それどころかこの子は僕を救ってくれたのだ。
自分が感電するという危険もあっただろうに、僕をドアの中へ引き寄せてくれた。

「・・・何で僕を助けた」

唇のない口は動かない。
それでも僕は続けた。

「何で僕は助けられた」

「分からないよ」

「君は僕の事が嫌いなんだろう」

「自分が感電していたかもしれないのに」

「死んでいたかもしれないのに」

「どうして」

「それは―――」



―――君が優しいからなのかな。



淡々と喋り続けたがそこだけは言葉にならず、僕はふっと下を向いて沈黙した。

少し経って、僕を見下ろしていた白い隻眼がバルコニーに向けられる。
黒衣の使者は僕を押しのけてそのまま歩きだした。その後ろにくっつき、僕も歩く。

バルコニーの中心で肩を並べる。

「・・・ありがとう」

出来るだけ引きつらないように微笑みを添えて、そう言った。
温度が感じられそうなほどに近付いた肩がピリピリと痛み、落ち着かない。

久しぶりに君に笑いかける事が出来た。

そうか、僕はこうしたかったんだ。

やっと気づく。

君に微笑みたかった。

君に微笑まれたかった。


黒衣の使者はこちらを見つめていた。
微笑むとまではいかないがどこか暖かい表情で、ずっと。

こういう時どうするべきなのか、経験の無い僕には分からなかった。

―――手とか、繋ぐものなのかな。


考えた瞬間、既に行動に出ていた。
左手に温かみが広がり、汗が滲む。
息がつまりそうな程に高鳴る胸の音が聞こえやしないか、また嫌がられやしないか不安だった。

しかし嫌がるそぶりはなく、それどころか握り返してくれた。
今までの全てが嘘だったかのように優しく、繊細に。

しかし長くはなかった。
ゆっくりと、その手が離れる。

情けないところは見せまいと顔をあげたその時。
ほんの一瞬、微笑まれた気がした。

「あ・・・」

心臓が、締め付けられる。
そんなどぎまぎしている僕に背を向け、黒衣の使者はバルコニーの欄干に立った。

「・・・何を」

言いきる前に、巨体が宙に舞う。

「待っ―――」

それを追って身を乗り出したが、黒衣の使者は鬱蒼と茂る木々の中に姿を消してしまった。
様々な考えが頭を廻っていく。
飛び降りたくなるほどの酷い行いをしたのかどうか、そのままの体勢で考える。

「ばっ、お前何やってんだ!」
「うわっ」

カルロスだった。
自分の体勢を考えるとたしかに凄いことになっている。

「大丈夫だよ、落ちないよ!」

慌てて体勢を元に戻し、カルロスを見た。

「危ねぇなぁ・・・落ちたら死んじまうぞ、気をつけろよ」
「・・・うん」

死。

その言葉が胸を刺した。


「ああ、そうだ」

カルロスがふと思い出したように言う。

「書斎にここの説明書があってよ」

そう言いながら懐を漁り、取り出されたのは一つの歯車。
それを僕に渡し、にっと歯を見せて笑った。

「これがあれば動くみてぇだ、見直したろ?」
「う、うん、お疲れ様」

僕達は梯子に上り、機械の中に先程の歯車を組み込んだ。
キリキリと音を立てながら、歯車が歯車を動かしていく。

全ての歯車が回転すると同時に、鐘が鳴った。
大きく透き通った音色が何処までも響く。

そのすぐ後にヘリコプターの音が聞こえてきた。

「やったぜ!!」

カルロスが歓喜の声を上げ、梯子を下りていく。僕もその後に続いた。
階段を下り、広間を抜け、大きな扉を開き、中庭に出る。

「おーい!こっちだー!」

カルロスが駆け出した。中庭の中央に立って大きく手を振る。
ヘリがこちらの存在に気付き、ゆっくりと近付いてきた。

「やったな、。もう大丈夫だ」
「・・・うん」
「どうした?もっと喜ぶだろ普通」

僕は少し複雑な気分だった。
あの子を置いていっていいのだろうかと。

「・・・僕ちょっと見ていきたい所がある!!」
「ちょ、おい、!?」

カルロスの制止も聞かず、走った。
あの子が落ちた辺りはどの辺りだったかと記憶を探りながら、見まわしていく。

「一体・・・どこに・・・」

おかしな話だが近づいてくるプロペラ音に少し焦りを感じ始めてしまう。
僕を心配してか、カルロスは小走りでこちらに向かってきた。

「おいおい、お前置いていかれてもいいのかよ」
「待って、あと少しだけ―――」

刹那、闇を切り裂く一筋の白い彗星が、眩い閃光と爆音を轟かせてヘリを粉々に砕いた。

「な・・・」

爆発、炎上、墜落。
燃え上がる機体がバランスを失い、時計塔に衝突する。
誰が見てもそれが絶望の光景だということを理解しただろう。

「・・・何だよ・・・嘘だろこんなの!!」

カルロスが頭を抱えた。
しばし呆然としていた僕は、ふと路面電車の上にある影に気づく。

「・・・君は」

そこには燃え盛る炎を背に佇む黒い人影。
炎の揺らめきに合わせて、紫色の触手がぐねぐねと踊る。

黒衣の使者は月を背負い、その体を宙に投げた。

「あいつ・・・まさかさっきの!?」

慌てた声を出すカルロス。
その横をすり抜け、僕は地面に降り立った黒衣の使者に駆け寄った。

「どうしてあんな事を―――」

一本の触手が、僕の左頬を掠る。

「ッ!?」

ぴりっとした痛みを感じ、触るとぬるりとした感触がある。
そこに触れた左手を見た。
僕の血と・・・何か別の、紫色の液体。

「これ・・・」

何が起こったのか分からなくなった。
すると右手に、軋むような痛みが走る。

「ぐっ!?」

いつの間にかもう一本の触手が手首に絡みついていて、骨が折れそうな程にきつく締められている。
骨がギシギシと音を立て、今にもひびが入りそうだった。

「う・・・ぐ・・・!!!」

これ以上は持たない。
限界を感じた僕は咄嗟にナイフを取り出した。

「う・・・あ・・・ああああああっ!!」

躊躇いながらもその触手を叩き斬った。
腕についた方の触手はしな垂れて力を無くし、根元の方の触手は痛みにのた打ち回る。


僕は・・・この子を傷つけた。

―――自らの手で。


曲げようの無い真実。
息が荒くなり、体が震える。

「はっ・・・はぁっ・・・―――!?」

僕は、異常な光景を目にした。
先程までのた打ち回っていた触手がぴたりと止まったかと思うと、異常な速度で修復されていく。
それどころか、更に長く、更に太く強靭そうに姿を変えていった。

その光景に見とれていたのもつかの間、また触手が僕を襲う。

!もっと離れろ、援護できねぇ!!」

不思議と、すぐそこにいるはずのカルロスの声がやけに遠くに聞こえた。
しかし僕には左右から伸びる触手をかわすのが精一杯で、いつの間にか距離を詰められてしまう。

躊躇い無く僕に襲いかかる触手。


「(・・・そうだ、この子は敵だ)」


アンブレラが生み出した悪魔のような兵器なんだ。


「(敵だ、敵なんだ)」


これは戦いだ。

どちらかが死ぬまで終わらない。


「(敵・・・)」


分かった。

いや、分かっていたのかもしれない。

君は―――敵なんだ。


「ぅ」

一瞬の隙だった。
僕の右肩が、何かに貫かれる。

「ぁ、ぐ」

紫色の肉鞭が、僕の肩を貫通していた。


倒れるのと同時に触手が引き抜かれ、ぽっかりと空いた穴から鮮血が吹き出る。

右肩に体験したことのない異様なものを感じ、見た。
激痛、そしてそれが急速に治癒していくような奇妙な感触は視界から入る情報に連動していた。
血がごぼごぼと流れ出していたと思うと、段々と量は減り、やがては止まる。
傷口も色こそおかしいが完璧に塞がっていた。
やがて痛みさえも消えたが、今度はそれと共に凄まじい吐き気が体を襲う。
脳が勝手に弄り廻されているようにぐちゃぐちゃと溶かされていく気がして、苦しくて、辛くて、泣きそうで。

その苦しみの中、僕は全ての原因はこれだと確信した。

恐らく今僕の体内に侵入した―――ウィルス。
そのウィルスは人知を超える速度で痛みを麻痺させ、傷を癒す。
町中に蔓延っていたゾンビは恐らくそれの感染者だ。
感染者に体を食いちぎられた者の傷をウィルスが修復、そしてまた新たな感染者となり別の人間を襲う。時には動物も。
そのサイクルが幾度も繰り返されてこの惨状を作り上げた。

そしてそのウィルスを作ったのがアンブレラ。


そしてアンブレラに作られたのが―――


・・・黒衣の使者は僕を見下ろしていた。
触手をだらんと垂らし、力が抜けきったような無感情な顔で。

「野郎!」

カルロスが叫び、アサルトライフルの引き金を引いた。細かな銃弾が黒衣を貫く。
萎びた触手がびくりと震えたかと思うと、左肩に構えたロケットランチャーの標準がカルロスの頭にセットされた。


なんでだろう、と疑問が頭に浮かんだ。

戦う必要なんてもう無いじゃないか。

これは、僕とこの子の戦いだったんだ。

僕は死ぬ。

僕の負け。

それでいいだろう。

だから、もう傷付け合うのはやめてくれ。


朦朧とした意識の中、僕は立ちあがって黒衣の使者を庇うようにその前に立ちはだかった。
目の前が暗く霞む。
それでも口は開き、不思議と声はしっかり出た。

「カルロス・・・撃つのをやめて」
!?」
「もういいんだ、終わったんだ」
「何言ってやがる!そこをどけ!」

僕は首を横に振った。

「嫌だ」
・・・!」

カルロスが哀れむような目を僕に向けた。

はは、おかしくなったとでも思われてるのかなぁ。

確かに、そう思われても変じゃない。

自分を傷つけた相手を、身を挺して庇うなんて。

でもこれは僕が望んだんだ。

ありがとう、カルロス。


僕は首を後ろに向け、微笑む。


「僕がいて、ごめんね?」


ふいに体中の力が抜け、糸の切れた人形のようにかくんと膝をついた。
そのままその場に倒れ伏し、視界が完全に黒で塗り潰される。


やっぱり君は敵だったんだね。



でも僕は。



それでも君が。
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