本編
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電車がゆっくりと走り出した。あまり速度は無いが、確かな安定感だ。
分厚いフロントガラスに映る、燦々たる光景。炎を切り裂き、土を巻き上げ、死体を轢いて突き進む。
濃厚な死の臭いが窓越しに伝わってくるようだった。
「どうしたんだよ?そんな顔して」
「え?」
一人座席に座り、脇に流れる凄惨な風景を眺める僕にカルロスが心配そうな顔で話しかけた。
僕は口を半開きにしたまま彼を見上げる。
「泣きそうだぞ」
「嘘だぁ」
苦笑で返す。そんなに酷い顔だったろうか。
僕は出来るだけ自然に下を向いて、これ以上その酷い顔を見せまいとした。
「元々こんな顔だよ」
「そうかぁ?」
「そうだよ」
未だに痛みの治まらない胸を押さえながら答える。
悪い事が起きるとすぐ逃げ出そうとするのは僕の悪い癖だった。
あの子にはそんなところを見せたくなかったのに。
もう一度謝りたかった。
呆れられてもいい、ただ謝りたい。
自己満足かもしれないけれど、今の僕にはそれしかできない。
優しい君を傷つけた僕にできるのはそれだけだから。
もし今君に会えたら―――
轟音。
電車が大きく揺れ、奥の車両でミハイルの叫び声が聞こえた。
「ミハイル!?」
カルロスがいち早く動き、その後に僕も続いた。
後部車両への扉に駆け寄り、そこについていた小さな窓を覗く。
カルロスの目が大きく見開かれた。
「っ何だよ・・・あれは・・・!?」
微かに震えるカルロスの横から奥を覗き込む。
そこには見慣れた黒衣の使者―――僕の心臓を締め付けている張本人がいた。
「君が・・・何でこんなところに!?」
僕はドアのレバーに手をかけたが、どんなに力をいれても微動だにしない。
先程の衝撃で壊れたのだろうか。
その間にも黒衣からのぞく数本の紫色の触手が、ミハイルを襲う。
殴り、突き刺し、叩き付ける。
その度にミハイルは叫び、傷つき、倒れた。
それでも彼は戦う意思を捨てようとはしなかった。
両手に握りしめられたアサルトライフルの小さな弾丸が死神の黒衣を貫いていき、紫色の液体が小さく噴き出る。
しかしそれも長くは続かなかった。弾が切れると同時に、太い腕がやすやすとミハイルを宙に吊り上げ、人形で遊ぶかのように投げた。
勢いよく窓ガラスに叩きつけられたミハイルの頭部から、ガラスのひび割れに沿って赤い血が滴り落ちる。
「二人とも止めるんだ!」
僕は悲鳴に近い声で叫んだ。
その悲痛な声が届いたのか、凄まじかった触手の猛攻がぴたりと止まる。
黒衣の使者はこちらを向き、僕と目を合わせた。
白く濁った瞳に見つめられた僕は何とも言えない焦燥感に襲われた。
さっきの事、ごめんね。
だから、もう止めてくれ。
苦しいなら、僕を殺していいから。
ああ、何でこんな簡単な言葉すら伝えられないんだ。
こんなに、こんなに近くにいるのに。
悔しさと悲しみで目の前が霞み、目頭がじんと痛んだ。
「・・・ぃ・・・おい、手伝え!」
泣き出しそうな僕を呼び戻したのはカルロスだった。
恐ろしさか悔しさか、未だ震えの止まらないカルロスがレバーを握り、懸命に動かそうとしている。
「・・・ごめん!」
カルロスの手の上からレバーを握り、力の限り引っ張る。
無情にもドアが動くことはなかった。
緊張の汗で手が滑り、バランスを崩して僕達はそのまま倒れ込んだ。
「くそ・・・何だってんだ」
カルロスが上体を起こしながら悪態をつく。
触手が壁にぶつかる音と、ミハイルの一層大きな叫び声が耳に入ってくる。
僕はたまらず起き上がった。
「・・・っ僕を殺せばいいじゃないかぁぁっ!」
ドアを殴りつけ、怒鳴る。
「何で、何で僕じゃないんだ!!」
「聖・・・」
「っ何で・・・何で・・・」
立ちあがったカルロスがなだめる様にわなわなと震えている僕の肩に手を置いた。
すると黒衣の使者は頭だけで振り向き、僕と目を合わせる。
ほんの一瞬。
その顔に、今まで見た事のない表情が見えた。
怒りとも憎しみともつかない、僕にとってあまりに重く、あまりに苦しく、あまりに悲しい目をしていた。
この上ない居心地の悪さに思わず目を逸らす。
「っミハイル!!―――皆伏せろ!」
突然カルロスが叫び、僕は床に押し倒された。
先程とは違う轟音が鳴り響き、ガラス片が飛び散る。
割れた窓から火が噴出し、周辺が煌々と赤く照らされた。
何が何だか分からなかった。
いや、分かっていた。
でもそれを受け入れたくなかっただけだった。
自分の無力さの所為で、人を自決に追い込んでしまったことを。
赤く踊る炎を見ると、それを否が応でも自覚させられる。
「・・・僕が・・・僕があの子を怒らせなければ・・・僕が・・・僕が・・・」
悔しさと悲しみでぐちゃぐちゃになった僕の頭の中に冷たい声が流れ込む。
「そろそろ目的地だ」
ニコライは服についた細かなガラス片をはたき落としながら、進行方向の窓を見ていた。
仲間が目の前で死んでいったにも関わらず、顔色一つ変えやしない。
今は悲しんでいる場合ではない。
それは分かっている。
彼は訓練された兵士で、任務を遂行するだけ。
だけど―――
「やっぱり・・・おかしいよ」
誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
***
「・・・そろそろブレーキかけたほうがいいんじゃねぇか」
カルロスが運転席に近付く。
ニコライは小さく溜息をつき、言った。
「先程の爆発でブレーキが故障した」
項垂れ、萎んでいた僕も思わず反応する。
「なっ!?」
「ど、どうすんだよ!このままじゃ―――」
「・・・騒ぐな」
鬱陶しい、というような目でこちらを睨んだ。僕達は口を噤む。
「その為にこれがある」
ニコライはそういうと、赤いボタンを力一杯殴りつけた。
耳を塞いでも意味のない程に凄まじい音を立てながらも電車は徐々に速度を落としていく。
それに伴ってまともに立っていられない程の揺れが僕たちを襲った。
「うわ、わ、わ」
何かにぶつかったのだろうか、一際大きな衝突音と最大級の揺れ。縺れる足がたまらずバランスを崩し、床に転倒する。
その時強く頭を打ち、僕の意識は一瞬にして遠退いていった。
***
どのくらい経ったろうか。
辛うじて原型を保っている電車の中、僕は目を覚ます。
「痛てて・・・」
思い切りぶつけた頭を擦りながら体を起こす。
他にも痛むところがあったが幸い大きな怪我は無く、打ち身や擦り傷だけで済んでいた。
「う・・・」
微かなうめき声。カルロスだった。
彼を揺り起こし、一緒に電車を降りる。
「怪我は?」
「どうってことねぇ」
「そっか」
少し安心した瞬間、電車の中でガラスが割れる音や何かが崩れる音が聞こえた。
もしあと1分でも意識を取り戻すのが遅かったら、と思うと背筋が凍る。
「ニコライは?無事か?」
「僕が気付いた時にはもういなかったよ、多分もう調査に入ってるんじゃないかな」
「・・・そうか」
僕たちは時計搭へ足を踏み入れた。
最初に入った大きな扉は、広間に繋がっていた。大理石の床や赤い絨毯に豪華な印象を受ける。
「えらく広いな」
「ガイドブックでなら見たことがあるけど」
先程の外観とガイドブックで取り上げられていたところを見るとかなり大きい建物だという事に間違いは無い。
「結構骨が折れそうだぜ・・・」
「確かに。二手に分かれよう」
「だな、俺は上に行く」
そう言ってカルロスは足早に階段を一段飛ばしで昇っていった。
「・・・タフだなぁ」
上の階をカルロスに任せ、僕は辺りの調査を開始した。
早々に目に入ったのは、死体。もはや動じる事も無くなったが僕はその死体のある点が気になった。
身につけているものが、明らかに一般人ではない。
カルロスやニコライと同じ隊服と、僕の持っているショットガン―――ベネリM3S。弾があちこちに転がっている。
「・・・これは?」
懐から、血の滲みがある書類が見つかった。[作戦指示書]と書かれた、薄っぺらい書類だ。
内容は作戦、撤退方法などが細かく書かれたものらしい。
撤退の合図は、この塔の鐘を鳴らすこと。
「ニコライさんが言ってたのはこれのことだったのか」
そして、疑念を確信へと導く記述。
『民間人はアンブレラ系列の従業員を優先して救助すること』
やはり、アンブレラが全ての元凶―――。
僕は転がっていたショットガンの弾を取った。
鐘を鳴らしに行こう。
生きてこの町を出るために、真実を見定めるために。
未だ何も知らぬ、罪なき者たちへの最後の警鐘として。
分厚いフロントガラスに映る、燦々たる光景。炎を切り裂き、土を巻き上げ、死体を轢いて突き進む。
濃厚な死の臭いが窓越しに伝わってくるようだった。
「どうしたんだよ?そんな顔して」
「え?」
一人座席に座り、脇に流れる凄惨な風景を眺める僕にカルロスが心配そうな顔で話しかけた。
僕は口を半開きにしたまま彼を見上げる。
「泣きそうだぞ」
「嘘だぁ」
苦笑で返す。そんなに酷い顔だったろうか。
僕は出来るだけ自然に下を向いて、これ以上その酷い顔を見せまいとした。
「元々こんな顔だよ」
「そうかぁ?」
「そうだよ」
未だに痛みの治まらない胸を押さえながら答える。
悪い事が起きるとすぐ逃げ出そうとするのは僕の悪い癖だった。
あの子にはそんなところを見せたくなかったのに。
もう一度謝りたかった。
呆れられてもいい、ただ謝りたい。
自己満足かもしれないけれど、今の僕にはそれしかできない。
優しい君を傷つけた僕にできるのはそれだけだから。
もし今君に会えたら―――
轟音。
電車が大きく揺れ、奥の車両でミハイルの叫び声が聞こえた。
「ミハイル!?」
カルロスがいち早く動き、その後に僕も続いた。
後部車両への扉に駆け寄り、そこについていた小さな窓を覗く。
カルロスの目が大きく見開かれた。
「っ何だよ・・・あれは・・・!?」
微かに震えるカルロスの横から奥を覗き込む。
そこには見慣れた黒衣の使者―――僕の心臓を締め付けている張本人がいた。
「君が・・・何でこんなところに!?」
僕はドアのレバーに手をかけたが、どんなに力をいれても微動だにしない。
先程の衝撃で壊れたのだろうか。
その間にも黒衣からのぞく数本の紫色の触手が、ミハイルを襲う。
殴り、突き刺し、叩き付ける。
その度にミハイルは叫び、傷つき、倒れた。
それでも彼は戦う意思を捨てようとはしなかった。
両手に握りしめられたアサルトライフルの小さな弾丸が死神の黒衣を貫いていき、紫色の液体が小さく噴き出る。
しかしそれも長くは続かなかった。弾が切れると同時に、太い腕がやすやすとミハイルを宙に吊り上げ、人形で遊ぶかのように投げた。
勢いよく窓ガラスに叩きつけられたミハイルの頭部から、ガラスのひび割れに沿って赤い血が滴り落ちる。
「二人とも止めるんだ!」
僕は悲鳴に近い声で叫んだ。
その悲痛な声が届いたのか、凄まじかった触手の猛攻がぴたりと止まる。
黒衣の使者はこちらを向き、僕と目を合わせた。
白く濁った瞳に見つめられた僕は何とも言えない焦燥感に襲われた。
さっきの事、ごめんね。
だから、もう止めてくれ。
苦しいなら、僕を殺していいから。
ああ、何でこんな簡単な言葉すら伝えられないんだ。
こんなに、こんなに近くにいるのに。
悔しさと悲しみで目の前が霞み、目頭がじんと痛んだ。
「・・・ぃ・・・おい、手伝え!」
泣き出しそうな僕を呼び戻したのはカルロスだった。
恐ろしさか悔しさか、未だ震えの止まらないカルロスがレバーを握り、懸命に動かそうとしている。
「・・・ごめん!」
カルロスの手の上からレバーを握り、力の限り引っ張る。
無情にもドアが動くことはなかった。
緊張の汗で手が滑り、バランスを崩して僕達はそのまま倒れ込んだ。
「くそ・・・何だってんだ」
カルロスが上体を起こしながら悪態をつく。
触手が壁にぶつかる音と、ミハイルの一層大きな叫び声が耳に入ってくる。
僕はたまらず起き上がった。
「・・・っ僕を殺せばいいじゃないかぁぁっ!」
ドアを殴りつけ、怒鳴る。
「何で、何で僕じゃないんだ!!」
「聖・・・」
「っ何で・・・何で・・・」
立ちあがったカルロスがなだめる様にわなわなと震えている僕の肩に手を置いた。
すると黒衣の使者は頭だけで振り向き、僕と目を合わせる。
ほんの一瞬。
その顔に、今まで見た事のない表情が見えた。
怒りとも憎しみともつかない、僕にとってあまりに重く、あまりに苦しく、あまりに悲しい目をしていた。
この上ない居心地の悪さに思わず目を逸らす。
「っミハイル!!―――皆伏せろ!」
突然カルロスが叫び、僕は床に押し倒された。
先程とは違う轟音が鳴り響き、ガラス片が飛び散る。
割れた窓から火が噴出し、周辺が煌々と赤く照らされた。
何が何だか分からなかった。
いや、分かっていた。
でもそれを受け入れたくなかっただけだった。
自分の無力さの所為で、人を自決に追い込んでしまったことを。
赤く踊る炎を見ると、それを否が応でも自覚させられる。
「・・・僕が・・・僕があの子を怒らせなければ・・・僕が・・・僕が・・・」
悔しさと悲しみでぐちゃぐちゃになった僕の頭の中に冷たい声が流れ込む。
「そろそろ目的地だ」
ニコライは服についた細かなガラス片をはたき落としながら、進行方向の窓を見ていた。
仲間が目の前で死んでいったにも関わらず、顔色一つ変えやしない。
今は悲しんでいる場合ではない。
それは分かっている。
彼は訓練された兵士で、任務を遂行するだけ。
だけど―――
「やっぱり・・・おかしいよ」
誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
***
「・・・そろそろブレーキかけたほうがいいんじゃねぇか」
カルロスが運転席に近付く。
ニコライは小さく溜息をつき、言った。
「先程の爆発でブレーキが故障した」
項垂れ、萎んでいた僕も思わず反応する。
「なっ!?」
「ど、どうすんだよ!このままじゃ―――」
「・・・騒ぐな」
鬱陶しい、というような目でこちらを睨んだ。僕達は口を噤む。
「その為にこれがある」
ニコライはそういうと、赤いボタンを力一杯殴りつけた。
耳を塞いでも意味のない程に凄まじい音を立てながらも電車は徐々に速度を落としていく。
それに伴ってまともに立っていられない程の揺れが僕たちを襲った。
「うわ、わ、わ」
何かにぶつかったのだろうか、一際大きな衝突音と最大級の揺れ。縺れる足がたまらずバランスを崩し、床に転倒する。
その時強く頭を打ち、僕の意識は一瞬にして遠退いていった。
***
どのくらい経ったろうか。
辛うじて原型を保っている電車の中、僕は目を覚ます。
「痛てて・・・」
思い切りぶつけた頭を擦りながら体を起こす。
他にも痛むところがあったが幸い大きな怪我は無く、打ち身や擦り傷だけで済んでいた。
「う・・・」
微かなうめき声。カルロスだった。
彼を揺り起こし、一緒に電車を降りる。
「怪我は?」
「どうってことねぇ」
「そっか」
少し安心した瞬間、電車の中でガラスが割れる音や何かが崩れる音が聞こえた。
もしあと1分でも意識を取り戻すのが遅かったら、と思うと背筋が凍る。
「ニコライは?無事か?」
「僕が気付いた時にはもういなかったよ、多分もう調査に入ってるんじゃないかな」
「・・・そうか」
僕たちは時計搭へ足を踏み入れた。
最初に入った大きな扉は、広間に繋がっていた。大理石の床や赤い絨毯に豪華な印象を受ける。
「えらく広いな」
「ガイドブックでなら見たことがあるけど」
先程の外観とガイドブックで取り上げられていたところを見るとかなり大きい建物だという事に間違いは無い。
「結構骨が折れそうだぜ・・・」
「確かに。二手に分かれよう」
「だな、俺は上に行く」
そう言ってカルロスは足早に階段を一段飛ばしで昇っていった。
「・・・タフだなぁ」
上の階をカルロスに任せ、僕は辺りの調査を開始した。
早々に目に入ったのは、死体。もはや動じる事も無くなったが僕はその死体のある点が気になった。
身につけているものが、明らかに一般人ではない。
カルロスやニコライと同じ隊服と、僕の持っているショットガン―――ベネリM3S。弾があちこちに転がっている。
「・・・これは?」
懐から、血の滲みがある書類が見つかった。[作戦指示書]と書かれた、薄っぺらい書類だ。
内容は作戦、撤退方法などが細かく書かれたものらしい。
撤退の合図は、この塔の鐘を鳴らすこと。
「ニコライさんが言ってたのはこれのことだったのか」
そして、疑念を確信へと導く記述。
『民間人はアンブレラ系列の従業員を優先して救助すること』
やはり、アンブレラが全ての元凶―――。
僕は転がっていたショットガンの弾を取った。
鐘を鳴らしに行こう。
生きてこの町を出るために、真実を見定めるために。
未だ何も知らぬ、罪なき者たちへの最後の警鐘として。