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鍵女主


「心臓が一生の間に鼓動を打つ回数って、決まっているんだって」

部長の透き通った氷砂糖みたいな声は、いつ聞いても可憐だと思う。

彼女は、僕の膝の上で、僕の胸に耳を押し当てて、僕の心臓の音を聞いていた。
どくんどくんと、やけにうるさい心臓の音が、彼女の耳にはきっとずっと、届いているのだろう。

どくんどくん。どくんどくん。

「だから心臓が鳴る度にね、少しずつ命は終わってるの」

……何だか怖いことを言い出した。
可愛い顔をして、何を考えているのか全くわからない。
それが僕らの帰宅部部長であり、僕の恋人の先輩だった。

可愛いだけじゃないところが、その、なんというか、いわゆる、たまらない魅力ってやつなんだけど。

「だから鍵介、そんなに早く鳴らさないで」

突然そんな風に言われて、僕は思わずびくりとした。
部長は寂しそうに、僕の胸に顔を押し付ける。

「鍵介の命、終わっちゃう」

そう簡単に終わりませんよ、と言いかけて、僕らはあっさりと死んだ、あの先輩を思い出した。
つい、この間まで笑っていた、戦っていた、生きていたあの人は、もういない。

死んでしまった。
死んでしまったのだ。

だから僕は、咄嗟に

「あ、あげます」

と、言ってしまった。

「あげます。先輩に、僕の、命」

びっくりしたみたいに顔をあげる部長の目は、何となく泣き濡れているような気がした。
でも僕は気付かない振りをして、彼女をぎゅっと胸に抱き締める。心臓の音が、聞こえるように。

「だから、いいんです。だから、その、あの、も、もう少し、」

ああ、もう、くそ。格好付かない!

「もう少し、このままで」

何とか言い切ると、僕の腕の中で、彼女が笑う気配がした。

「悪い子ね、鍵介」

透き通るような声でそう言われたのは、意味がわからなかったけれど、近付いてきた彼女の唇に、僕の思考は遮られてしまう。

彼女とのキスは、いつだって、甘くて優しい。
まるで、氷砂糖みたいな。











































































































「せ、せんぱ、い、」

どうして。

「どうして」

どうして。

「どうして、あなたが」

地面に這いつくばっている僕が、見上げている彼女は、確かに裏切り者Lucidの姿をしていた。

「鍵介が言ったんだよ」

そう言って、彼女は寂しそうに微笑んだ。

「私に命をくれるって」

ああ、確かに僕はそう言った。
確かに僕は、彼女に、

そう約束した。

「だって、私はね、」

相変わらず、彼女の声は透き通っていて、堪らなく甘やかだった。

甘い甘い、氷砂糖のような、透き通っていて、甘くて、彼女とのキスは、いつも甘くて、優しくて、僕は、彼女に命を、僕は先輩が好きで、先輩が好きなのは僕で、僕は先輩を先輩が心臓を僕は僕の心臓をずっとずっとずっと彼女に僕は先輩とずっと一緒で先輩はずっとずっとずっとずっと僕と一緒に先輩が僕を僕の僕に僕を先輩はあまくて先輩はやさしくてセンパイはせんぱいはきみはぼくをどうしてずっといっしょにいるっていっしょにいっしょにぼくはきみといっしょにかえいっしょに、いっしょに、一緒に、

ずっと、一緒に。

「うんうん。ずっと一緒にいようね、鍵介」

温かい。
僕は彼女に抱き締められていた。
彼女の胸の音が聞こえてきた。

どくんどくん。どくんどくん。

「だって私はね、」

彼女は、嬉しそうに笑った。

「夢の中で、死ぬまで君と生きたいの」

心臓の音が聞こえる。

どくんどくん。どくんどくん。

どくんどくん。







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