このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

主琵琶(noNe name)



「……俺だってさぁ、」
もうすっかりぐちゃぐちゃになったシーツの上で厭らしく笑う彼を見下ろしながら、諦めたような、呆れたような声で言ってしまう。
「あんたが飲んだらこんな風になるなんて知ってたら、もうちょい考えたよ」
「……くっ、ふふ…………」
永至の唇から、堪え切れないような笑いが漏れた。
お互いじゃれあうばかりでまだ服すら脱がせていないのに、うっすらと上気した彼の肌には、既にいくつもの赤い痕が残っている。
犬としての自覚が出始めてしまった今日この頃、許可が出なければ彼の服を剥ぎ取ることは許されないような気がして、それでも昂るものは抑えられず、執拗に肌へとキスを繰り返してしまった。
それでも永至は(少なくとも)怒ってはいないようだから、やっぱり酒の力は偉大だ。メビウス産µ印のちょっとやばい力が加わっていることは、この際置いといて。
「そんなこと言って、本当は期待してたんじゃあないのかい?」
部長君、と揶揄するように、彼は唇の端をにんまり持ち上げる。
すっかり酔っているらしい『ご主人様』は、顔どころか耳まで赤く染まっていて、なるほど見方によっては発情しているようにも見える。
押し倒した彼の汗ばんだ肌から、香水の匂いが立ち上り、思わずごくりと唾を飲んだ。
それが揶揄への答えになってしまったのだろう、彼はすぐに気がついて、けたたましく、そして大袈裟に笑った。
「いやぁ……浅ましいなぁ。そしていやらしいよ、実に」
そう言う永至は目を細めると、まるで誘うかのように片方だけ膝を立ててみせる。
あんたには言われたくないと思いながらも、漸く許可を得たと覆いかぶさろうとすると、
「おっと、待ちたまえよ……」
と、軽く胸を押し返されてしまった。
それから、
「いけないよ部長くん、」
と、それはそれは楽しそうに、彼は言った。
「酒を飲ませた上で、合意無しに抱こうって言うのかい?君ってやつは……未成年飲酒に強姦だなんて、いやはやとんでもないじゃないか」
は?と聞き返したくなったが、つまりこれは彼お得意の『お預け』というやつだ。
散々焦らしておいてそれはないと思ったが、そもそも勝手に焦らされていただけで、永至はきっと、お預けをする絶妙なタイミングを狙っていたのだろう。
なんと答えればご馳走にありつけるのかは、皆目検討もつかなくて、
「……だったらどうする?」
と安い挑発を返すことしかできなかった。
あまりに幼くて子どもっぽい、いかにも彼が馬鹿にしそうな台詞だったわけだが、その予想はさして外れておらず、やっぱり永至はけたたましく笑った。
「っふ、ふふっ、ふ……そうだね……」
悪魔のように淫らな表情を浮かべて、熱を孕んだ視線を投げ掛けて。
彼の唇が、毒の色をした息を吐く。

「訴えてやろうかなぁ……♡」

……この罪深い生き物に与えられる罰が、目眩がするほど待ち遠しくて。
望むところだよ、と口の中で呟いた。


2/2ページ