もしも主が一般人で跳さんのファンだったら
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*これぞまさしく人間誘蛾灯・・*(髙木視点
『パターンをおこすために採寸させていただきますね』
と、女性パタンナーは麗さんを別室に連れていった。少し時間がかかるということで、出された紅茶に口をつけながら生地のカタログに目を通す。
仕事用のスーツだ。ジャケットを脱ぐ機会が多いだろうから、スリーピースにしよう。せっかくのオーダーメイドだし、フォーマルなスーツもこっそり内緒で贈りたい。シックなダークスーツも麗さんは上品に着こなしてみせるだろう。
「とても素敵なお連れ様でございますね」
麗さんが戻ってこないうちにと、フォーマルスーツに使う生地を選んでいると目の前に座る担当の男性が声をかけてきた。視線は自分ではなく、麗さんが入っていった扉に向けられている。
「モデルさんか、俳優さんかをご職業にされているのでしょうか」
モデルか俳優 という言葉に、自分のことを聞かれているのかとも思ったが、しかしどうやらこの店員は麗さんのことを指しているらしい。客のそんな情報が必要なのかとも思ったが、どういう用途でスーツを着るのかを知るためなのかもしれない。
「いや、高校の教師です」
「先生、ですか。・・それではスーツはお仕事で着られるのですね」
「はい。あー・・あと、内緒で一着。フォーマルなタイプのもプレゼントしたいんで、いいですか?」
「勿論でございます。ブラックスーツですと──・・」
そこからは、一口にブラックスーツと言ってもタイプが分かれると説明され、生地の素材であったり黒の色味であったり、裏地の柄やボタンを選んでいく。文字通りのオーダーメイドである。着ている姿を想像しながら選んでいくのは楽しかった。金額は随分とかかるだろう。しかし電車で泥酔して嘔吐物までかけたという、自分のとんでもない粗相をマスコミに嗅ぎ付けられていないのは、他でもなく麗さんのおかげなのだ。この程度の出費で済むのなら安いくらいである。
ビジネススーツの素材等は麗さんが良いように決めてくれれば良い。
フォーマルスーツの一通りを選び終え、最終的な金額は麗さんの前では言わないようにとお願いした。
見計らったかのようなタイミングで、採寸が終わったらしい麗さんがパタンナーと共に戻ってきた。心なしか頬が赤い気がする。一体どうしたのかと思っていたら、
「すごい、すごいですよ主任。こんな綺麗な曲線の男性初めてです。パターンのおこし甲斐があります」
「いや、貧相な身体で申し訳ないです」
「貧相だなんて!華奢でありながらしっかりと男性的でもあって、まるで─・・」
鼻息荒く熱弁する若い女性パタンナーの姿を見て、終始この様子で採寸されたのだと察する。技術職ならではの審美眼もあるのだろう。主任と呼ばれた担当者はパタンナーの熱を収めるように、『わかったわかった、そしたら仕事にもどってね』と宥めて麗さんに向き直る。
「申し訳ございません。不愉快に思われましたよね、きつく注意しておきますので」
「とんでもないです。専門の方にたくさん褒めていただいて、むしろ恐縮です。しっかりと丁寧に計っていただきました。ありがとうございました」
身体的特徴をあれこれ言うのは、いくらその内容が褒めているものだったとしてもマナー違反なのだろう。後程こっぴどく叱責されるであろうさっきの女性を気にかけて、麗さんは“自分は怒っていないから叱らないでやってほしい”と店員に伝えたいのだ。
「お優しいんですね。・・なんでも、高校の先生をされているとか」
掛けられた言葉に、麗さんがチラリとこちらを見た。
「ごめん、待ってる間に話しちゃった」
「ああ、いいんです。スーツの用途で必要なことですもんね」
さてそれでは生地を決めていこうと、麗さんと共にカタログに目線を落とす。『派手すぎないグレーが良いんです』と、実際に布が貼られている紙をめくったその手が取られる。何事だと共に顔を上げれば、白磁のような細指は目の前の店員に絡めとられるように握られている。
「こんなにも素敵な方に教えてもらえるなんて、生徒さん達が実に羨ましい」
なんだこの流れは
なんでこの人雰囲気作っているんだ
と、謎の居たたまれなさを誤魔化すようにカップに口をつける。しかしそんな俺の内心など露知らず。店員は身を乗り出して、さらに言葉を重ねる。
「僕も是非、あなたのような方に教えていただきたかった。・・きっとその瞬間を大切に人生を生きるのでしょう。どうしてかわかりますか」
「え、?」
「今僕がこの瞬間を一生忘れないであろうというくらい、あなたに惹かれているからです」
「ブッッ!!!」
あまりに熱のこもった言葉に、飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
だって仕方がないだろう。冗談かとも思ったが、麗さんに向けられるその眼差しを見れば、本気で口説き落とそうとしている男の目なのだ。
呆気にとられている麗さんの隣で、俺はといえば噎せに噎せる。どうやら気管に入ってしまったらしい。ゴホゴホと止まらない咳を繰り返していると、麗さんの意識がイタリアの伊達男から俺に向けられた。握られていた手をほどいて
「た、髙木さん、大丈夫ですかっ?」
と背中を擦ってくれる。
「だ、大丈夫・・、ゴホッ・・あ"ー、・・・恥ずかしい・・」
「恥ずかしいことなんて、全然ないです」
麗さんに差し出されたハンカチで口元を押さえる。みっともないところを見せてばかりだと思いながら視線を上げれば、店員から向けられる邪魔者を見るような目とかち合った。
これは選ぶ店を間違えたかもしれない。先程のパタンナーのお姉さんの方が随分とマシである。
なるほどそっちがそういう態度でくるのならと、此方も憮然と視線を返した。
「はー、すみません。すごい情熱的だから、びっくりして噎せちゃって。女性のお客さんに勘違いされてそう」
多くの相手に接客上の常套句として言っているのであろうと、決め付けて押し通す。
「そんなことは、」
「麗さん。グレーのスーツっていうと、この辺とか良さそう。シルエットがすげぇ綺麗に出るんじゃないかな」
そんなことはない── 言いかけた店員の言葉は遮った。
そもそも自分たちはスーツを仕立ててもらいにきているのである。イタリア本国では、気に入った相手がいれば勤務時間中であろうが口説き落とすというのもざらなのかもしれないが、ここは彼の祖国ではなく真面目で勤勉だと定評のある日本だ。それに加えて、先ほどパタンナーを諌めておきながら、自分は手まで握ってプライベートなことをしているというのも鼻持ちならない。
フォーマルタイプの仕立てで一通りの説明をされた為、オーダーメイドのノウハウは大体理解している。出来るだけ店員には口を出させないように、あれやこれやと麗さんに合いそうな物を薦めれば
「じゃあ、これでお願いします」
と、なんともすんなりと一式の校正が決まってしまった。最後にクレジットカードで会計を済ませ、出来上がった際の連絡先も麗さんではなく自分の番号を書いた。品物も『俺が取りに来ます』と伝えれば、分かりやすいほどに店員の顔は引き攣ったがあえて気付かないふりをする。兎にも角にも早く店を出たいという気持ちが強い。これ以上、 麗さんに居心地の悪い思いをさせたくなかった。
件の店員に見送られ、店をでて外の空気を吸えば自然と深いため息が出てしまった。
あ、まずい と、ついてしまってから後悔。
あからさまな溜め息は相手も気分を悪くする。それはこれまでの人付き合いの中で教訓にしてきたことだ。原因は麗さんではないが、フォローをするべきなのだろう。
なんと言い出したものかとあぐねていれば
「髙木さん、」
と、先に口を開いたのは麗さんの方だった。
「スーツ、ありがとうございます。本当に嬉しいです」
柔らかく笑って、感謝の言葉を口にした。
「あ、いや、うん。どういたしまして。・・でも、結局俺がほとんど口出しちゃって、急かすように決めさせてごめんね」
「いいえ、髙木さんのセンスの良さは間違いないですから。選んでいただけて良かったです。完成が楽しみ」
「それならよかった・・けど、でも、・・・なかなかの店員さんだったから、それもごめん」
「・・あは、俺もイタリアの男性に口説かれたのは初めてです。すごく情熱的でびっくりしちゃいました」
本場はすごいですねぇ と、さほど気にもしていない様子だ。
アイドルやってる自分よりもずっと、麗さんは直接的に口説かれることが多いのだろう。“イタリアの男性に ”という言い方から、多方面からしょっちゅう求愛されているのだとわかる。
「どうしたものかと思ってたので、髙木さんのおかげで助かりました」
「あ~~、いや。でもびっくりして噎せちゃったのは、さすがに恥ずかしかったから・・一緒にいた麗さんにも恥かかせちゃったかなって、」
思い出すといたたまれない。いくら驚いたからって、高級店であんな粗相をしてしまうのは御法度だろう。穴があったらはいりたくなる。
すると麗さんは不思議そうな顔をして俺を見た。
「噎せたのも、演技をしてくれたんだと思っていました・・」
「え!?」
「さすが、お仕事で色々演じられてきているので、噎せる演技もすごいな・・って」
「あ、ああうん、そうそうそう、うん、ばれちゃったか~」
全く演技でもなんでもなく本気で噎せてしまったのだが、麗さんがそう思っているのならそれはそれで都合が良い。まだ格好が付く。しかしそんな自分の虚勢など当然無意味だろう。
つくろう自分に きょとり と目を瞬かせていた麗さんだが、
「・・・・ふ、あははっ」
吹き出すように声がもれ、優しげに目が細められた。
わ、笑った・・こんな笑い方もするのか。
え、え、すげぇ可愛いんだけど。圧倒的に顔面が良い。これは周りが放っておかないのも頷ける。
駅前でのナンパ男や先程の男性店員に関心はしないが、しかしさぞかし多くの人達を虜にしてきたのだろうなというのがわかる。これだけ綺麗な見た目なのに、話せばとても親しみやすくて、一緒にいると安心感さえ与えてくれる気質がある。
女にも男にもモテる人とは、麗さんのようなタイプなのかもしれない。
「・・麗さん。ご飯も一緒にって思って、店予約してあるんです。 このあと時間、あるかな」
続く
『パターンをおこすために採寸させていただきますね』
と、女性パタンナーは麗さんを別室に連れていった。少し時間がかかるということで、出された紅茶に口をつけながら生地のカタログに目を通す。
仕事用のスーツだ。ジャケットを脱ぐ機会が多いだろうから、スリーピースにしよう。せっかくのオーダーメイドだし、フォーマルなスーツもこっそり内緒で贈りたい。シックなダークスーツも麗さんは上品に着こなしてみせるだろう。
「とても素敵なお連れ様でございますね」
麗さんが戻ってこないうちにと、フォーマルスーツに使う生地を選んでいると目の前に座る担当の男性が声をかけてきた。視線は自分ではなく、麗さんが入っていった扉に向けられている。
「モデルさんか、俳優さんかをご職業にされているのでしょうか」
モデルか俳優 という言葉に、自分のことを聞かれているのかとも思ったが、しかしどうやらこの店員は麗さんのことを指しているらしい。客のそんな情報が必要なのかとも思ったが、どういう用途でスーツを着るのかを知るためなのかもしれない。
「いや、高校の教師です」
「先生、ですか。・・それではスーツはお仕事で着られるのですね」
「はい。あー・・あと、内緒で一着。フォーマルなタイプのもプレゼントしたいんで、いいですか?」
「勿論でございます。ブラックスーツですと──・・」
そこからは、一口にブラックスーツと言ってもタイプが分かれると説明され、生地の素材であったり黒の色味であったり、裏地の柄やボタンを選んでいく。文字通りのオーダーメイドである。着ている姿を想像しながら選んでいくのは楽しかった。金額は随分とかかるだろう。しかし電車で泥酔して嘔吐物までかけたという、自分のとんでもない粗相をマスコミに嗅ぎ付けられていないのは、他でもなく麗さんのおかげなのだ。この程度の出費で済むのなら安いくらいである。
ビジネススーツの素材等は麗さんが良いように決めてくれれば良い。
フォーマルスーツの一通りを選び終え、最終的な金額は麗さんの前では言わないようにとお願いした。
見計らったかのようなタイミングで、採寸が終わったらしい麗さんがパタンナーと共に戻ってきた。心なしか頬が赤い気がする。一体どうしたのかと思っていたら、
「すごい、すごいですよ主任。こんな綺麗な曲線の男性初めてです。パターンのおこし甲斐があります」
「いや、貧相な身体で申し訳ないです」
「貧相だなんて!華奢でありながらしっかりと男性的でもあって、まるで─・・」
鼻息荒く熱弁する若い女性パタンナーの姿を見て、終始この様子で採寸されたのだと察する。技術職ならではの審美眼もあるのだろう。主任と呼ばれた担当者はパタンナーの熱を収めるように、『わかったわかった、そしたら仕事にもどってね』と宥めて麗さんに向き直る。
「申し訳ございません。不愉快に思われましたよね、きつく注意しておきますので」
「とんでもないです。専門の方にたくさん褒めていただいて、むしろ恐縮です。しっかりと丁寧に計っていただきました。ありがとうございました」
身体的特徴をあれこれ言うのは、いくらその内容が褒めているものだったとしてもマナー違反なのだろう。後程こっぴどく叱責されるであろうさっきの女性を気にかけて、麗さんは“自分は怒っていないから叱らないでやってほしい”と店員に伝えたいのだ。
「お優しいんですね。・・なんでも、高校の先生をされているとか」
掛けられた言葉に、麗さんがチラリとこちらを見た。
「ごめん、待ってる間に話しちゃった」
「ああ、いいんです。スーツの用途で必要なことですもんね」
さてそれでは生地を決めていこうと、麗さんと共にカタログに目線を落とす。『派手すぎないグレーが良いんです』と、実際に布が貼られている紙をめくったその手が取られる。何事だと共に顔を上げれば、白磁のような細指は目の前の店員に絡めとられるように握られている。
「こんなにも素敵な方に教えてもらえるなんて、生徒さん達が実に羨ましい」
なんだこの流れは
なんでこの人雰囲気作っているんだ
と、謎の居たたまれなさを誤魔化すようにカップに口をつける。しかしそんな俺の内心など露知らず。店員は身を乗り出して、さらに言葉を重ねる。
「僕も是非、あなたのような方に教えていただきたかった。・・きっとその瞬間を大切に人生を生きるのでしょう。どうしてかわかりますか」
「え、?」
「今僕がこの瞬間を一生忘れないであろうというくらい、あなたに惹かれているからです」
「ブッッ!!!」
あまりに熱のこもった言葉に、飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
だって仕方がないだろう。冗談かとも思ったが、麗さんに向けられるその眼差しを見れば、本気で口説き落とそうとしている男の目なのだ。
呆気にとられている麗さんの隣で、俺はといえば噎せに噎せる。どうやら気管に入ってしまったらしい。ゴホゴホと止まらない咳を繰り返していると、麗さんの意識がイタリアの伊達男から俺に向けられた。握られていた手をほどいて
「た、髙木さん、大丈夫ですかっ?」
と背中を擦ってくれる。
「だ、大丈夫・・、ゴホッ・・あ"ー、・・・恥ずかしい・・」
「恥ずかしいことなんて、全然ないです」
麗さんに差し出されたハンカチで口元を押さえる。みっともないところを見せてばかりだと思いながら視線を上げれば、店員から向けられる邪魔者を見るような目とかち合った。
これは選ぶ店を間違えたかもしれない。先程のパタンナーのお姉さんの方が随分とマシである。
なるほどそっちがそういう態度でくるのならと、此方も憮然と視線を返した。
「はー、すみません。すごい情熱的だから、びっくりして噎せちゃって。女性のお客さんに勘違いされてそう」
多くの相手に接客上の常套句として言っているのであろうと、決め付けて押し通す。
「そんなことは、」
「麗さん。グレーのスーツっていうと、この辺とか良さそう。シルエットがすげぇ綺麗に出るんじゃないかな」
そんなことはない── 言いかけた店員の言葉は遮った。
そもそも自分たちはスーツを仕立ててもらいにきているのである。イタリア本国では、気に入った相手がいれば勤務時間中であろうが口説き落とすというのもざらなのかもしれないが、ここは彼の祖国ではなく真面目で勤勉だと定評のある日本だ。それに加えて、先ほどパタンナーを諌めておきながら、自分は手まで握ってプライベートなことをしているというのも鼻持ちならない。
フォーマルタイプの仕立てで一通りの説明をされた為、オーダーメイドのノウハウは大体理解している。出来るだけ店員には口を出させないように、あれやこれやと麗さんに合いそうな物を薦めれば
「じゃあ、これでお願いします」
と、なんともすんなりと一式の校正が決まってしまった。最後にクレジットカードで会計を済ませ、出来上がった際の連絡先も麗さんではなく自分の番号を書いた。品物も『俺が取りに来ます』と伝えれば、分かりやすいほどに店員の顔は引き攣ったがあえて気付かないふりをする。兎にも角にも早く店を出たいという気持ちが強い。これ以上、 麗さんに居心地の悪い思いをさせたくなかった。
件の店員に見送られ、店をでて外の空気を吸えば自然と深いため息が出てしまった。
あ、まずい と、ついてしまってから後悔。
あからさまな溜め息は相手も気分を悪くする。それはこれまでの人付き合いの中で教訓にしてきたことだ。原因は麗さんではないが、フォローをするべきなのだろう。
なんと言い出したものかとあぐねていれば
「髙木さん、」
と、先に口を開いたのは麗さんの方だった。
「スーツ、ありがとうございます。本当に嬉しいです」
柔らかく笑って、感謝の言葉を口にした。
「あ、いや、うん。どういたしまして。・・でも、結局俺がほとんど口出しちゃって、急かすように決めさせてごめんね」
「いいえ、髙木さんのセンスの良さは間違いないですから。選んでいただけて良かったです。完成が楽しみ」
「それならよかった・・けど、でも、・・・なかなかの店員さんだったから、それもごめん」
「・・あは、俺もイタリアの男性に口説かれたのは初めてです。すごく情熱的でびっくりしちゃいました」
本場はすごいですねぇ と、さほど気にもしていない様子だ。
アイドルやってる自分よりもずっと、麗さんは直接的に口説かれることが多いのだろう。“イタリアの男性に ”という言い方から、多方面からしょっちゅう求愛されているのだとわかる。
「どうしたものかと思ってたので、髙木さんのおかげで助かりました」
「あ~~、いや。でもびっくりして噎せちゃったのは、さすがに恥ずかしかったから・・一緒にいた麗さんにも恥かかせちゃったかなって、」
思い出すといたたまれない。いくら驚いたからって、高級店であんな粗相をしてしまうのは御法度だろう。穴があったらはいりたくなる。
すると麗さんは不思議そうな顔をして俺を見た。
「噎せたのも、演技をしてくれたんだと思っていました・・」
「え!?」
「さすが、お仕事で色々演じられてきているので、噎せる演技もすごいな・・って」
「あ、ああうん、そうそうそう、うん、ばれちゃったか~」
全く演技でもなんでもなく本気で噎せてしまったのだが、麗さんがそう思っているのならそれはそれで都合が良い。まだ格好が付く。しかしそんな自分の虚勢など当然無意味だろう。
つくろう自分に きょとり と目を瞬かせていた麗さんだが、
「・・・・ふ、あははっ」
吹き出すように声がもれ、優しげに目が細められた。
わ、笑った・・こんな笑い方もするのか。
え、え、すげぇ可愛いんだけど。圧倒的に顔面が良い。これは周りが放っておかないのも頷ける。
駅前でのナンパ男や先程の男性店員に関心はしないが、しかしさぞかし多くの人達を虜にしてきたのだろうなというのがわかる。これだけ綺麗な見た目なのに、話せばとても親しみやすくて、一緒にいると安心感さえ与えてくれる気質がある。
女にも男にもモテる人とは、麗さんのようなタイプなのかもしれない。
「・・麗さん。ご飯も一緒にって思って、店予約してあるんです。 このあと時間、あるかな」
続く