明瞭な夢、曖昧な現実

【その32:みとめる ―密約―】

 BOARDへ帰還し、一通りの治療が施された後。皆が集った食堂の隅では、禍木が深刻な表情を浮かべ、宙を睨みつけていた。そんな彼に並ぶようにして、春香は腰を下ろす。
 包帯が巻かれた彼女の手の中には、自動販売機で売っていたらしい紙コップに入ったコーヒーが二つ。そして彼女は、禍木の顔を覗き込むようにして一方を彼に差し出した。
「飲む?」
「……サンキュ」
 短い問いに軽く返し、禍木はコップを受け取ると、軽くそれに口をつける。
 流し込まれた濃茶色の液体は、彼の感情をそのまま表したような苦々しさでその舌先を刺激した。
「苦ぇ……」
「そうね」
 思わず漏れた禍木の呟きに、春香も小さく答える。
 色々な事が同時に起こりすぎて、自分の中で整理するので精一杯だ。
 海東純一が敵に回っているのは分っていた。出会ったらきっと戦う事になるだろう事も、ある程度は覚悟していた。
 ……だが、心のどこかでは、まだやり直せると思っていたのも事実だ。かつては、かけがえのない「仲間」であり、そして最高の「チーム」だったのだから。
 しかし、現実は甘くはなかった。彼は「敵」として自分達の目の前に現れ、こちらを容赦なく攻撃し……「アルビノジョーカー」と呼ばれる異形に変身した挙句、禍木までその手にかけようとした。
 それは、彼が「自分達の敵である事」を決断した証。それがわかるだけに、二人の口数は極端に減っていた。
 そんな重苦しい空気の中、玄金は一つだけ溜息を吐き出すと、わざとらしさすら感じられる明るい声で言葉を放った。
「何か、着々と『14フォーティーン』復活の兆が現れてるって感じ? って言うか、布石打たれまくりだよね~」
「……ちょっと待て! フォーティーンって……お前、マジかよ!?」
「嘘でしょう!? だって奴は倒されたはずよ! この世界で復元だって……されなかった訳だし」
 空気を変えようとしたらしい言葉の中身……特に「フォーティーン」と言う単語に反応したのか、それまで落ち込んでいたはずの禍木と春香がビクリと体を震わせながらも、その声を荒げた。
 ……フォーティーンの名は、かつて禍木と春香のいた世界を支配していた存在であった事は、橘達も以前の説明で聞いている。
 「人々が優しい世界」を実現させる為、恐怖心や洗脳といったおよそ「優しくない」手段で支配していた、人に在らざる者だと。そして……それは、世界が統合された際、復活しなかった事も。
 玄金もそれは分っている。だからこそ彼は、こくりと一つ頷きを返すと、奇妙な笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「『ディエンドの世界』のフォーティーンは、確かに今回の統合で完全にその存在を消された。『ブレイドの世界』にいた、ダイヤのジャック、クイーン、そしてキングと同じようにね」
「俺達の世界の……って事はまさか、他にもフォーティーンがいるのかよ!?」
「『居る』んじゃない。『有る』んだ」
 再びこくりと頷きながら、玄金は禍木と春香以外の面々にも視線をめぐらせると、笑みを消して更に声を紡ぐ。
 あたかも、ここからが本題であると言わんばかりに。
「この世界における『フォーティーン』というのは、算用数字表記で『14』と書く。そしてその正体は、遺跡に封じられた『超古代の力』だ」
「その話なら昔、四条から聞いた事がある。最後に残ったアンデッドに与えられる、『大いなる力』があるって。……まさか、それが14とかいう物なのか!?」
「そ。話が早くて助かるよ」
 「古代の力」という単語で思い出したのか、はっとしたように言ったカズマに対し、玄金は軽く苦笑めいた表情を浮かべて頷きを返すと、懐中から一枚の写真を取り出した。
 写真に映し出されているのは、石碑と思しき物。至る所に「文字」のような物が彫られており、中央部分にはカードが一枚入るくらいの窪みがある。
「何だ、それ?」
「ぶっちゃけて言えば、14を封印している石碑。なおこの写真は、社長室のスクラップブックから失敬してきました」
 士の端的な問いかけに、おいおいと突っ込みたくなるような一言を玄金が放ったのだが、今回はそれ所ではないとわかっているのか、とりあえず全員黙って彼の言葉の続きを待つ。
 社長室にこの写真があったと言う事は、少なくとも以前この会社の社長を務めていた四条ハジメは、この石碑の在り処を知っていた事になる。そして、四条ハジメが、純一の属する組織とやらと通じていた事を考えると……その石碑は既に相手の手に落ちていると考えて良いはず。
 そこまで考えると、慌てたように加賀美が顔をあげ、反射的に玄金の胸座を掴んで引き寄せた。
「じゃあ、その14とか言うのがもうすぐ復活するんじゃないのか!?」
「ちょっ、目、回っ! 14復活にはちょっとした手順があるから、まだ余裕あるんだ。……だから新君、そんな条件反射的に揺さぶるのやめてホント舌噛むからー」
 かくんかくんと揺さぶられながらも言葉を返すと、彼は写真の後ろに隠していたらしいカード……先程封じたハートのキングを皆に見せるように広げる。
 それを不審に思いながらも、加賀美はようやく玄金から手を離し、半ば睨みつけるようにそのカードに視線を落とした。
「んじゃ、説明するね。手順その一。まず、四枚のキングを用意する。一枚は純一君が持っていて、二枚はこっちの手の中にあるね」
「ここにあるパラドキサと、俺が持ってるコーカサスだよな」
「うん。で、さっきの感じだと、純一君がタランチュラを持っている」
「……待って下さい玄金さん。さっき、ダイヤのキングは消えたって言いませんでした? なら、四枚のキングって揃わないんじゃ?」
 思い出したように言った五代に、加賀美と士もまた先の玄金の言葉を思い出し、ああと頷く。
 さらりと聞き流していたが、確かに彼はダイヤのジャック、クイーン、そしてキングが消滅したと口にしていたはず。
 ならば、特に不安に思う事はないはずだ。キングが揃わないなら、「14」は復活しないのだから。
 しかし……玄金は静かに首を横に振ると、否定の言葉を口にした。
「そ。雄介君の言う通り。……本来ならね。でも、この世界に来た時に会ったでしょ? 僕達の世界のカテゴリーキングに」
「まさか、奴を四枚目のキングとして代用するつもりなのか!?」
 玄金の言葉に、橘は軽く顔を顰め、自問とも取れる言葉を吐き出す。
 この世界に降り立って最初に会った存在。かつて自分が封じた、人間を見下しているその男。生まれた世界が異なるとは言え、彼もまたダイヤのカテゴリーキング。
 ならば……「代用できる」という考えに到るのは、至極当然の事だ。
「そう。ぶっちゃけた話、キングが四枚あれば良いから。でも、これまた知っての通りギラファさんは解放されたまま。……敵さんはまず、『四枚のキングを揃える』と言うこの段階で躓いている」
「仮に四枚のキングが集ったなら、次の手順は何なんだ?」
「生贄になる人間を、新しく生まれたカードに封印する……」
 不思議そうに問うた加賀美に返したのは、玄金ではなく……それまで沈黙を保ってきたハナだった。
 彼女が浮かべる表情は、あまり思い出したくない事を話しているかのように見え、「何故知っているのか」という問いを口に出すのを躊躇わせた。
 ならば、玄金が見せた写真の石碑にある窪みは、恐らくその「人間を封印したカード」を収める場所なのだろう。
 強大な力を得る為の対価は、人一人分の命。そう思うと、彼らの背に冷たい物が走った。
「それで、14は解放される。……とは言え、全ては残るギラファさんを封印する所から始まる訳なんだけどさ」
 表情を、いつもと同じ底知れないにこやかな物に戻し、玄金がそう言った、まさにその時。
「つまり、俺を倒すつもりって事かな?」
 食堂の入り口から響いた声に、その場にいた全員が一斉に視線を向ける。その先に立っているのは、炭酸の抜け切ったサイダーを片手に持った、眼鏡の青年の姿。
 ……橘達がこの世界に初めて来た時、最初に出会ったアンデッドであり、「最後のキング」と認識される存在……ギラファアンデッドの人間態。
「カテゴリーキング!? 何故貴様がここにいる!?」
「この会社の社長をしているんだ。別にここにいても不思議じゃないだろう?」
「社長、だと!?」
「そうさ。ここのセキュリティは、この砂糖水よりも甘くてね。結構簡単に『社長』として潜り込む事が出来た」
 ひょいと肩を竦めつつ、金居は橘の問いに答え、カズマを始めとした「この世界の住人」の顔を一瞥した。
 言葉にこそしていないものの、その顔にはありありと「ご苦労様」の文字が浮んでいるように見える。
「アンデッドが社長だったなんて……!」
「むしろ感謝して欲しい位だね、この世界のブレイド。俺が社長をしてなきゃ、今頃この会社はとっくに奴ら……大ショッカーの餌食になっていた」
 ふ、と口の端に嘲笑めいた笑みを浮かべて放たれた金居の言葉に、思わず士の……そしてカズマの眉間に皺が寄る。
 大ショッカーは、確か士が完全に潰したはずの組織。その残党とも言えるであろうスーパーショッカーもまた、士が倒した。
 だが、海東純一や鎌田も大ショッカーの名を口にし、あまつさえそれが「残党」ではなく「本体」であるかのような口ぶりだった。そして金居も大ショッカーの名を口にし、BOARDをそれから守ったとさえ言っている。
 不審に思っている顔の士に視線を送り、金居は一口だけ砂糖水を啜ると、言葉を続けた。
「そうだな……君達から見たら、連中は『過去から来た』って事になるかな」
「過去からって……どういう事ですか?」
「大ショッカーがまだ健在だった頃の時間から、多分どっかのお邪魔虫が誰かをこの世界のこの時間に引き込んだ……って事でしょう、金居さん」
 五代の問いに返したのは、金居ではなく玄金。
 時の列車のオーナーと言う肩書きを持つ以上、彼はいち早く金居の言葉の意味を理解したらしい。
 世界だけでなく、時間まで越えて大ショッカーの構成員がこの世界に現れたと言う事を。
「そう言う事。だからこの世界は、三種類の人間に分かれている」
「三種類?」
「君達も渋谷で見たんじゃないか? 怪人が現れたら即座に逃げる人間、大ショッカーのお題目である『世界平和』に素で心酔し、ライダーを排除すべきだと言い張る人間、そして大ショッカーに反旗を翻したが為に彼らに捕まり、精神操作を受けた感情のない人間だ」
 言われ、ようやく橘達は理解した。
 アンデッドが現れても、特に何の反応も示さなかった人間は、サクヤやムツキ同様、洗脳された人間である事。そしてカズマ達にブーイングを浴びせていた人間は、純一同様、大ショッカーに忠誠を誓った人間である事を。
「言っただろう? 人間は愚かだと。何が正しくて、何が間違っているのか分っていない。……自分から滅びへの道を選んで歩いていく」
 僅かに俯きながら放たれた冷たい言葉は、果たしてどのタイプの人間に向けられた物なのか。
 表情は暗くて見えないが、分るのは金居の抱く、人間へのあからさまな侮蔑。だが、すぐに彼は顔を上げると、それまでの表情を消し、一歩前に踏み出す。
「……さて、長話もここまでにしようか」
 ニヤリと笑って言葉を放つと同時に、彼はその姿を本来のギラファアンデッドに戻す。
 その様子に、面々は思わず臨戦態勢に入るが……橘だけは、何故か奇妙な違和感を覚えていた。
 橘の知るギラファアンデッドは、自分の種の勝利を目指していた。その為、自分に不利になるような事は避け、確実に優位に立てると踏んだ上で戦っていた。
 だが……今は違う。満身創痍とは言え、こちらにいるライダーの数は七人。うち、封印の術を持っているのは自分とカズマだけだが、それでも彼の不利には違いない。いざとなれば玄金もいる。
 仮に自分達を倒したとしても、他にアルビノジョーカー……大ショッカーとやらもいるのだ。不完全とは言え、彼にとっては脅威に違いない。
 もしも彼が「自分の勝利」を目的にしているのなら、先程玄金に封印されたパラドキサアンデッドではないが、こちらが大ショッカーと潰しあっている最中に、漁夫の利を狙えば良い。
 そうしないと言う事はつまり……
「流石に俺でも、この場にいる全員と戦うつもりはないさ。だから、そんなに警戒しないで欲しいな」
「どうだろうな。お前が何の策もなく戦いを挑むとは思えない」
 ギラファの言葉に、考えを中断させられるも、橘はギャレンバックルを腰に当てた状態で返す。
 しかしそんな彼に対し、ギラファは持っている剣を静かに差し向け、軽く肩を竦めると……いつも通りの、少しこちらを馬鹿にしているような声で更に言葉を紡いだ。
「俺だってアンデッドだ。闘争本能だってある。そしてそれは今……かつて俺を封印した存在に向いているのさ」
「つまり……俺か」
「そう。一対一で勝負を着けようじゃないか。悪い提案ではないと思うな」
 フフ、と声に笑いすらも含ませ、ギラファはゆっくりと剣を橘の喉元まで押し付ける。
 突いた力が僅かに強かったのか、その切っ先は橘の皮膚を軽く裂き、そこからつぅと赤い液体が滴となって下へと流れる。
「橘さん!」
「来るな新」
 思わず駆け寄ろうとする加賀美を静かに制し、橘は真っ直ぐにギラファの目を見つめる。
 何を考えているのかは分らない。だが、何故だろうか……その目の奥には、何かを決意したような光が見て取れた。
「……良いだろう」
「受けてくれて嬉しいよ、ギャレン」
 そう言って軽く笑うと、ギラファは剣を引いて元の金居の姿に変える。恐らく、ここで戦う気はないと言う意思表示なのだろう。くいと顎をしゃくると、彼はすたすたと外に向かって歩き出した。

 到着したのは、海を臨む崖の上。橘がギラファを封印した状況と似たような場所だった。
 異なるのは、青々と茂る草に覆われている事くらいだろうか。
「この世界に来てからと言うもの、この場所はかなりのお気に入りでね。ここに来る度に、君に封印された事を思い出していた」
「……随分と自虐的な楽しみ方だな」
「そうでもないさ。静かだし、心を落ち着けるには丁度良い場所だ」
 言いながら軽く目を閉じ、金居はその姿を再びギラファに戻す。
 それに呼応するかのように、橘もまた静かな声で変身と呟きを落とし、ギャレンへの変身を完了させた。
「それじゃあ始めようか。……俺の求める平和の為に」
「言うまでもない」
 剣を構え襲い掛かってくるギラファの足元に向けて、橘は数発の銃弾を放つ。
 過去の経験上、ギラファにはこちらの銃弾を弾き返すバリアがある。攻撃を当てるには、遠距離の射撃ではなく、ほぼゼロ距離の攻撃をする必要がある。
 前回は捨て身の攻撃で辛くも彼を封印するに至ったが、今回は流石にそうも行かない。ここはあくまで、通過点に過ぎないのだ。この後には純一や大ショッカー、果ては玄金の言う「元凶」も控えている。
 相手を銃弾で牽制しつつ、橘は相手との距離をとりながらも、ラウズアブゾーバーでジャックフォームへとその姿を変え、機動性を上げる。
 ここまでは、前回とほぼ同じ流れ。だが、今回は上空に舞うような事はせず、地上に立ったまま、何枚かのカードを読み込ませつつも、相手が近寄ってくるのを待つ。
『RAPID』
『GEMINI』
『THIEF』
『BULLET』
『SCOPE』
 だが、相手もそれがわかっているのだろう。連続して聞こえる電子音を無視しながら、ギラファは自身の剣の間合いギリギリのところで止まり、橘に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「前回の反省点として、迂闊に近寄りすぎたってのがあるからな。今回はこの距離を保たせてもらう」
「そうだろうな。俺がお前でもそうしている」
「なら、どうする? 守ってばかりでは、俺を封印など出来ないぞ」
 一定の距離を保ちながら繰り出される剣戟を、ギャレンラウザーの銃弾で何とか弾きながら、橘は冷静に相手を観察する。
 確かに、ギラファの言う通りだ。防戦一方では、いつまで経っても相手を封印できない。だからと言って、こちらが距離を詰めようとすれば、同じ距離だけ相手も下がり、こちらが距離を開ければ、これまた同じ距離だけ詰めてくる。
 やはり、カテゴリーキングと言う肩書きは伊達ではない。
 端で見ている面々が、その戦いを眺めて思った刹那。橘の冷静な声が響いた。
「だが、俺が無策でカードを使っていたと思うか?」
「何?」
 言葉の意味が判らず、剣を振りながらも軽く首を傾げた瞬間。
 ギラファの腹部に、何か堅い物……もっと言えば、銃口を押し当てられているような感覚が生まれた。
 まずいと思うが、それよりも先に、その「見えない銃口」から放たれた銃弾がギラファの腹部に連続で命中する。
「がっ!?」
 銃撃の反動で後ろに下がろうとするが……それよりも先に、橘のカードの効果が現れる方が早かった。
『ROCK』
「しまった!?」
 ロック。滅多に使われる事のない、ダイヤの「7」のカード。石化現象を操り、任意の対象を石化させるカード。それを使って、橘はギラファの足を石化させたのだ。
 そして、「見えない銃口」もまた、その正体を現した。
 それは……橘と同じ、ギャレン・ジャックフォーム。
「ギャレンがもう一人!? まさかあれは、サクヤ先輩か!?」
「いや、違うと思うよ。……朔也君が最初にカードのリードラッシュしたじゃない」
「ええ」
「その時のカードの種類と順番、覚えてる?」
 まるで何かの試合の解説のように、玄金はにこやかに笑いながら彼らに向かって言う。
 種類と順番と言えば、ラピッド、ジェミニ、シーフ、バレット、スコープだったか。それが一体何を指していると言うのだろう。
 そんな彼らの不思議そうな顔を満足気に見つめると、玄金は軽く一つ頷き、解説の続きを始めた。
「まずはラピッドで銃弾の速度を上げて、相手の隙を作る。そしてジェミニで分身を作った後、シーフで即座に分身の姿を消した。直後のバレットとスコープは、分身君が使って攻撃力を上げたんだと思うよ。で、現在ロックで足止め」
「まさか、そう来るとはね。気付かなかったよ」
 足を縫いとめられ、完全に俎上の鯉と化しているギラファが、苦笑めいた声で言った。先の攻撃が効いているのか、ベルトのバックルこそ開いていないものの、上半身はふらついている。
 浮かれ気味の傍観者達とは異なり、橘の方は……微かな違和感を抱いていた。
 ギラファがこちらの策を見抜けなかったとは思えない。
 狡猾な相手の事だ、この非常に卑怯と言えるコンボを考えなかったはずがない。それなのに、何故?
「……何故、ああも簡単にこちらの策に嵌った? お前は何を焦っている?」
「…………さあ? 何の事だか分らないな。買いかぶりすぎじゃないか?」
「そう言う事に……しておいてやる」
 そう言うと、橘はその場でカードを読み込ませる。
 ギラファを封印するために。
『BULLET』
『RAPID』
『FIRE』
『BARNNING SHOT』
 ダイヤの「2」、「4」、「6」のカードを使い、橘は動けぬギラファの胸に、ギャレンラウザーのディアマンテ・エッジを突き立て、その引鉄を引いた。
 ギラファの体内で、速度と火力が強化された銃弾が弾け、そのダメージは瞬く間に彼を封印可能な状態に陥れ……
 その身に直接、ラウズカードを突き立てられたギラファは、淡い光を放ちながら、再び深い眠りへと誘われて行く。
「必要になったら……」
「何だ?」
「必要になったら、俺の力を使うと良い。お前の求める平和の為に」
 そう言い残し、ギラファアンデッドは、完全にラウズカードの中へと封印されてしまう。
――やはり、お前はわざと?――
 手元に残ったラウズカードを見下ろしながら、仮面の下で不審そのものの表情をした瞬間。
「これでようやく、四体のキングが封印されましたね。流石です、ギャレン」
 周囲に響く、パチパチと言う拍手。それと共に現れたのは……アルビノジョーカーだった。
 その後ろには黒と白のローチがわらわらと控えている。
「先程の今で申し訳ありませんが、キングが封印されたとあっては、話は別。……貰うぞ、貴様のカード」
 低く、その呟きが聞こえた瞬間。
 それが合図になったかのように、ローチ達が彼らに向かって襲い掛かったのである。
32/38ページ
スキ