明瞭な夢、曖昧な現実

【その18:つがう ―追憶―】

 天道が新に、自分がひよりの兄だと告げた直後。彼の携帯電話に、「Bistro La Salle」の女店主である竹宮弓子から、ひよりが倒れたと言う連絡が入った。
 ……結婚しようと誓った直後だと言うのに、彼女の体を蝕む病魔は、その幸せをも奪っていくのか。
 悲しいと思うより先に、悔しいと言う感情が、新の心を支配した。
 彼女の病を取り去る事も出来ず、これからと言う時に彼女についてやる事も出来ず。彼女のためを思ってやった事が、全て裏目に出てしまう。
 ザビーである矢車と、ケタロスである大和を犠牲にしてまで成功させたはずの天空の梯子計画は失敗し、逆に巨大隕石を呼び寄せる事となってしまった。
「……行かなきゃ。ひよりを守るって、言ったんだから……」
 呆然とした表情で携帯電話を切り、新はそう呟くと……次の瞬間には、自分のバイクに向かって駆け出した。
 その後を追うように、天道もどこか焦ったような表情で、新と同じくバイクに向かって駆け出す。
 宇宙から戻ってくる際に、随分と無茶をさせたが、病院に到着するまで位ならまだ走るだろう。
 そう、思いながら……

 玄金が立ち去った直後。ゼロライナーの壁に映し出されたのは、病院のベッドで横になっているひよりと、その姿を痛々しそうに見つめる、「Bistro La Salle」の店主らしき女性の姿だった。
「ひよりちゃん、もうすぐ加賀美君が来るからね」
「……うん」
 店主……竹宮の言葉に、どこかはにかんだように……だが、確実に覇気と言うものは感じられない声で、彼女は頷く。
 その顔は「蒼白い」を通り越して、純粋に白い。
 命が燃え尽きるのが近い事が、否が応でも分かる。
「新は……僕を守ってくれるって、言ったから。僕の……家族になってくれるって」
「……そうね。こんな可愛い婚約者を放ってどっか行っちゃうんだもの。帰ってきたらバシッと文句の一つでも言ってやんなさい」
 竹宮が無理に明るく振舞おうとしているのが、ゼロライナーの乗客達には伝わってくる。彼女の瞳に浮かぶ涙は、決して同情から来ているものではないのだろう。
 この世界に落ちたという隕石のせいで、ひよりが家族を亡くして以降、竹宮が親代わりになって面倒を見てきたであろう事は、容易に想像がつく。
 妹のように……或いは、実の娘のように可愛がってきたのかもしれない。そう思うと、五代の心に、痛々しいものが湧き上がった。
 何も言えない。言えるはずがない。
 彼らの言葉は地上に届く事などないのだし、何かを言った所で、日下部ひよりと言う名の女性の命を救う事など、出来ないのだから。
「ねえ、ひよりちゃん?」
「何、弓子さん?」
「ひよりちゃんは、今……幸せ?」
「……勿論だよ」
 とても、綺麗な笑顔で。
 ひよりは竹宮の問いに答える。
 心の底から、幸せだと言わんばかりのその笑みを、できる事なら彼女が元気な内に見たかったと思っている事だろう。
 かくも残酷な……まるで自分達を弄んで楽しんでいるかのような運命に、加賀美は憤りたくなる。
「……神様……」
「神などいない」
 奇跡を願うハナの呟きが、ゼロライナーの静寂に落ちる。
 だが……それに言葉を返したのは、橘だった。
 軽く眉を顰め、苦しい思い出を吐き出すようなそれは、かつて自分の上司が述べたのと同じ言葉だ。
「あるのは人の……生きとし生ける物の、意志だけだ」
「そうかもしれないな」
 橘の言葉に、士が苦しそうに同意した瞬間。
 ひよりの病室に、転がり込むようにして新と天道が入ってくるのが見えた。
 息を切らせ、急いで来たであろう事が手に取るように分かる。彼女と過ごす一分、一秒を惜しんでいるのだろう。
 弱々しい笑顔を向けるひよりに向かって、新は軽く息を整え……出来る限りの笑顔を、彼女に向けた。
「ひより……ごめん、遅くなって」
「新……お疲れ様」
 そう言うと、彼女は疲れたように一つ、溜息を吐く。
 喋る事すら、今の彼女には辛いのかと思うと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
 ……橘は、知っている。
 人の命とは、いとも儚く消えてしまう物だという事を。そして今、まさに……日下部ひよりと言う少女は、その命の最後の煌めきを見せている所であると言う事も。
「『Salle』で式……挙げられそうになくて、ごめんね」
「俺は、お前となら……どこで式を挙げてもいいよ。何も『Salle』にこだわってる訳じゃない」
「なら、ここで挙げてしまえ」
 口元に不敵な笑みを浮かべて言う天道に、加賀美は思わず首を縦に振る。
 この世界の自分……新の感情は、加賀美には分からない。ひよりを愛しているのかと問われれば、間違いなくそれはない……と思う。
 良い友人ではあると思うのだが……それだけだ。
 だからこそ、この世界の自分が愛した彼女の……そして「自分自身」の幸せを願わずにはいられない。
 例えそれが、ほんの一瞬の出来事だとしても。彼らにとって、決して幻ではない一瞬を、迎えて欲しいと思う。
 思いながら見ていると、天道は唐突に、自分の首にかけていたネックレスを外すと、彼女の首にかけ……
「これは俺からの結婚祝いだ」
「……これ……僕のお母さんの……」
「俺の母親の形見でもある」
 その一言で、彼女は天道が何者なのか察したらしい。
 驚いたような……そしてそれ以上に、嬉しそうな表情を浮かべ、天道の顔を真っ直ぐに見つめた。
「じゃあ……お兄ちゃんなんだね」
 良かったと、加賀美は思わず胸を撫で下ろす。
 勿論、彼女の病が消える事はない。むしろ、今にもその命は消える事だろう。
 だが……彼女は願っていた。「家族が欲しい」と。この世界の天道が、何故ひよりと共に暮らさなかったのか、その事情は分からない。
 けれどひよりは、隕石で両親を失い、独りきりなのだと思ってきた。それが今日、新と言う夫と、天道と言う実の兄と言う、二人の「家族」が出来た。
 彼女の「贅沢な夢」を聞いていた加賀美にとって、この出来事はとても嬉しく、そして……同時に、とても切ないものだった。
「私ね、お兄ちゃんがいたら……私の料理、食べて欲しかったんだ。それで、『美味しい』って言ってもらうの」
「なら、早く元気になって……俺に料理を作ってくれ。その代わり……不味かったら承知しないからな」
 どこか涙声にも聞こえる声で天道がひよりに言葉を返す。
 ……天の道を往く男も、時には涙するのだと……そんな風に、加賀美は心を痛めながら、その様子を見ていた。

 日もすっかり沈み。この乾燥した世界も、凪いだ時間。
 ベッドの上で、純白のドレスに身を包んだ花嫁と。
 その脇に座る、純白のタキシードを着た花婿。
 そして、同じく白い服装を着た、花嫁の兄。
 客は、花嫁と花婿のバイト先の店主、ただ一人。
 ヴァージンロードも神父もいない、ごく普通の病室で、その神聖な儀式は行われた。
 神父役は花嫁の兄。
 聖書も何もないが、帰ってそれが、清浄な印象を持たせた。
――病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす事を誓いますか――
――誓います――
――誓います――
 本当はもっと略されていたかもしれない。けれど、少なくとも、新郎新婦にはそのように聞こえていた。
 まずは新郎が力強く答え、次に新婦がやや弱々しい口調で答える。
――では、指輪の交換を――
 その言葉が合図になったように、新郎は新婦のひんやりとした左手を取り、その薬指に用意していた指輪を嵌める。
 そして……新婦は新郎の手を取り直すと、彼女も持っていた指輪を新郎に嵌めようとした。
 けれど。彼女の体を蝕む病魔は、彼女にそんな体力も残してはくれないらしい。嵌めきる前に、小さく、新婦は呟く。
――ごめん……ね――
 その声もかすれて、もう聞き取りにくい。
 新郎は涙を堪えながら、彼女の口元に耳を寄せ、その囁きを聞き取る。
――あなたに、会えて……良かった……――
 それだけ呟くと……新婦はまるで眠ったかのような……安らかな笑顔で、その瞳を閉じた。
 ほんの僅か、一瞬だけでも、彼女の望んだ「家族」が出来た事に、満足したかのように……

「ひよりさん……」
 幸せそうな笑顔を浮かべると、彼女は指輪を新の指に嵌めきる事の出来ぬまま、ぱたりとその手をベッドの上に落とした。
 ……女性の憧れであるウェディングドレスを着たまま……彼女は、望みであった「家族」を手に入れた直後、その命の灯火を、病と言う死神によって消されたのか。
 ゼロライナーの中に、外の闇よりもなお暗く、寒い空気が流れる。
「何で……何でだよ……」
 誰にと言う訳でもなく、加賀美はポツリとそう漏らす。
 スクリーンにはひよりに縋りつくようにして泣く新と、そこから少し離れた場所で泣き叫ぶ天道の姿が映し出されている。
 しかし、加賀美にはそんな事、どうでも良かった。
 ……ただひたすら……悔しかった。
「何で、この世界では皆死んでいくんだよ!?」
「加賀美さん……」
「風間も、矢車さんも、そして今度はひよりまで……一体俺は、何人の『死』を見れば良いんだよ!」
 ガツ、と壁に拳を叩きつけながら、どうしようもない悔しさを、言葉として……そして拳として、叩きつけているように、士には見えた。
 加賀美にとって、「死ぬはずのない存在の死」は、大きかった。
 きっとこの苦しみや悔しさは、経験した者にしか分からない。
 それが分かるだけに、他の面々は、どう彼に声をかけたらいいのか……分からないでいた。
「俺は……見る為だけにここに呼ばれたのか? こんな思いをする為だけに!」
「……それは、違うな、新」
「橘さん……」
「この流れは、例え関われたとしても、俺達には止められなかった。だが……『あの』玄金の事だ。何の考えもなく俺達にこんな物を見せるとは思えない」
 真っ直ぐに、窓の外……本来なら青く見えるはずの、その赤茶けた惑星を真っ直ぐ見つめながら、橘は苦笑気味な顔で言葉を続ける。
 驚いたように見つめる、他の面々など、視界に入っていないかのように。
「あいつは確かに、何を考えているのかさっぱり分からない最低でどうしようもない奴だが……それでも、人類の害になるような事はしない。二手三手……いや、もっと先まで読んで、他人を動かす。少なくとも、俺の知る玄金武土と言う男はそうだ」
「やれやれ。自分では動かないって事か。呑気なもんだな」
「でも……今回、玄金さんが俺達の前から消える事、多いですよね」
「あの馬鹿が、私達を使わないで、動いてるって事?」
「そうだろうな。あいつ自身が動かなければならない理由があるんだろう」
 橘がそう言った瞬間。
 客室の自動ドアが開き、そこから重い空気など気に留めない、馬鹿みたいに明るい声が響いた。
「ただいま~」
「玄金さん!」
「いやぁ流石に地球と月の往復は疲れるねぇ」
 いつも通りの笑顔を浮かべ、黒尽くめの男はやれやれと言わんばかりに肩を鳴らしながら、映し出されている映像を見つめる。
 病室で落ち込む新と、待合室で何か考え込んでいる天道の二人を。
 それを見て、小さく彼は笑うと……
「それじゃあ、そろそろ僕達も本格的に動こうかな」
「何を……する気だ?」
「決まってるでしょ?」
 暗い空気を纏って問いかける加賀美に、玄金はどこか奇妙にも見える笑顔を浮かべ……
「ゼロライナーは現時刻より、『ワームの卵』の減速、あわよくば縮小にかかります」
 にこやかな笑顔と、不釣合いな程決まっている敬礼と共に放たれた朱杖の言葉に、一瞬、言葉の主以外の思考は、ぴたりと止まった。
 色々とツッコミ所が多すぎて、何処から突っ込むべきかを考えている……と言った方が正しいのかもしれない。
「わ、ワームの卵ぉ!?」
「現時刻から、だと?」
「ちょっとあんた、縮小ってどう言う事よ!?」
「減速なんて……あんな大きいの、止められるんですか?」
「やれやれ、乗客の意思は無視か」
「ちょっとお願い同時に喋んないで……」
 周囲を囲まれ口々に言われながら、それでも笑顔を崩さず玄金はそう言うと、軽く困ったように頬を掻く。
 五人同時に言われ、その言葉の中身を把握するのに手間取っているのか。少しの間瞑目し、彼は一つ溜息を吐き出した後に言葉を放った。
「まずは新君の疑問から。『ワームの卵』って言うのは、あの隕石の事ね」
「『ワームの卵』って事は……あの隕石、もしかして、ワームを運んでるんですか!?」
「うん。雄介君の言う通りだけど……あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ……」
 軽く頭を押さえながら呟く士に、同意するように頷く加賀美達をきょとんとした表情で見やる玄金。
 どうやら彼の中で、隕石がワームを運ぶ物だという事を「言ったつもり」だったらしい。口の中で何度か、「言ったと思ったんだけどなぁ」と呟いていたが、自身の記憶力に自信が持てないのか、大きく一つ頷き……
「まあ、今聞いたから良いよね」
「良くないわよ!」
「またこぶしっ!?」
 更に言葉を続けようとする彼の腹部に、ハナの拳がクリーンヒット。奇妙な悲鳴とともに、玄金はその場にプルプルと震えながら膝から崩れ落ち、涙目で拳の主を見上げる。
「ハナちゃん……何するの、いきなり……」
「あんたが、何の説明もなく事を進めようとするからよ。大体ねぇ、そんな重大な事、どうして今まで黙ってたのよ?」
 肩幅に足を広げ、腰に手を当てながら言い放つハナを見つめつつ、加賀美は思ったと言う。
 ……彼女に逆らうのは止めよう、と。
「いや、黙ってるつもりは無かったんだよ、本当に言ったつもりだったんだよ……と、とにかくこの歴史で、僕達がやるべき事って言うのが、あの隕石の減速なんだ」
「そもそも、何故そんな事をする必要がある?」
「簡単な事さ。このまま加速し続けると、予定よりも早くあの隕石が地球に落下する。半日ももたない」
 殴られた時の涙目は何処に消えたのか。割とあっさりと復活すると、玄金は橘の問いに、真剣その物の表情で答えた。
 その表情すらも、士には胡散臭く思えて仕方がないのだが。
「だけど、それじゃあカブト達が間に合わない。それぞれの敵と……コーカサスと言う最大の障害を排除し、全てをひっくり返すには……もう少しだけ、時間が要る。そして、この大きさだ。万が一これが地球に落ちたら、今度こそ完全に死の星と化す。それを止める手伝いをするのが、僕達……と言うか、僕のお仕事って訳」
 やはり彼は、この先に起こる出来事を読んでいて、その上で行動しているらしい。
 先程橘が言っていた通りだと、加賀美は思う。先を読んで、なおかつ人の為になるように動く。言動はかなり胡散臭いが、その行動は、確かに人間の為の物のように思えた。
 信用はできないが、今はこの男の言う通りにした方が良いのだろう。
 ……この世界の自分が守りたいと願っている物……ひよりと出逢った、「地球」と言う名のこの惑星ほしを守る為にも。
「でも、どうやって減速させる気なんですか? あんな大きい物……しかも宇宙って言う、加速したら永遠に加速し続ける場所で」
「あ、それに関しては心配ないよ、雄介君」
「え?」
 にっこりと。それはもう裏しか見えない綺麗なまでの嘘臭い笑顔を浮かべ、玄金は心底不安などないかのような口調でそのまま言葉を続けた。
 意味不明で、だが意味自体を考える前に、ツッコミどころ満載な言の葉を。
「減速だけなら、僕がフルパワー発揮して止めれば済む。だから君達には、縮小の方をお願いしたいんだ。あ、勿論ハナちゃんはここに残っててね」
「おいおい! まさか俺達に宇宙に出ろって言うんじゃないだろうな!?」
「うん。そのまさかだよ、新君」
「どうやって俺達を外に出す気だ?」
「そうよ。いくら皆さんが仮面ライダーだからって、宇宙に出てまで活動できるとは思えないわ!」
「それが出来るんだな~。この歴史に到着した時、カードを渡したよね?」
 玄金は、自分が浮かべている表情に気付いているのだろうか。もはや何か企んでいるとしか思えないその表情に、ほんの僅かに五代は疑いを抱きつつも、この世界に来てから最初に受け取った赤い背のカード……薄く「PRISON」とだけ書かれたラウズカードを懐中から出して見つめる。
 それを見やると、彼は心底嬉しそうににっこり笑い……白衣を翻して説明を始めた。
「このカードは、皆の身を守るカードだ。それは説明したよね? カードの力は『PRISON』。つまり牢獄。だけどそれは、君達を閉じ込める檻であると同時に、外界の影響から君達を遮断するシェルターでもある」
「つまり、俺達を宇宙空間って言う特殊な影響から守る為のカードって訳ですか?」
「雄介君の言う通り。ただ、それに封じている力は僅かしかないから、縮小作業は時間との勝負になる」
 笑みを消し、心底申し訳無さそうに答えた玄金の瞳が。
 一瞬だけ、爬虫類のような、ぎょろりとした物に変わったように、ハナの目には映った。
 だが次の瞬間には、いつもの……それこそ何を考えているか分かりにくい表情と、普通の人間と同じ瞳をした彼の姿。
――今の、見間違いかしら?――
 実際に見たのはほんの一瞬。見間違いだと思う方が当然だろうか。
 ……実際は、見間違いなどではなかったのだが。
「と言う訳で、色んな意味で時間がないんだ。悪いけどここで変身して、早速縮小作業に入ってくれるかな?」
 申し訳なさそうな表情のままにそう言うと、玄金はくるりと彼らに背を向け、ゼロライナーの客室から出て行こうとする。
 その行動の意図が読めなかったのか、加賀美は彼の襟首を何とか掴むと、相手を引き戻して問いかける。
「おい、何処にいくんだよ!?」
「ぎゅえっ。……全力を出す為に、運転席へね。いやあの新君、首っ! 絞まってる絞まっ……ぎゅえぇぇぇ」
「あ、悪い」
 呼吸困難にでも陥っているのか、目を白黒させつつも玄金は加賀美の問いに答え……解放された後、涙目になりながらも、彼は一人運転席のある先頭車両へと向かってその姿を消して行った。
「……仕方ない。何を企んでいるのか知らないが、あいつを信じた気になって、縮小作業とやらに取り掛かるぞ」
「はい!」
「分かりました」
「やれやれ、仕方ないな」
 橘の言葉を皮切りに、口々にそう言うと……彼らは、その身を仮面ライダーへと変身させる。
 瞬間、カードがそれぞれの力に反応するように光り、彼らの体を球状の細かな薄紫の粒子が覆う。
「気をつけて下さい。私、ここで待ってますから」
「了解」
 ハナの激励に、五代は仮面の下で笑顔を作りながら、ぐっと力強くサムズアップを返す。絶対に帰ってくるという、意思表示を込めて。
 それにつられるように、他の面々も……そしてハナも、互いにサムズアップを返し、目的の場所……ワームの卵へと向かう。
「……天道……俺も、ここで戦うから」
 加賀美が不安げに地球を振り返ったその時……地上から、反物質ミサイルを搭載したシャトルが、打ち上げられたのであった……

 ここで、迎え撃てば良い。
 周囲を薄緑色の「何か」に囲まれながら、織田大道は標的が来るのを待った。ドクンドクンと煩いぐらいに聞こえてくる脈動は、自身の興奮ゆえか、それともこの「場」その物が鳴らしているのか。
 首から提げている紫の欠片が、大道の戦意を鼓舞するかのように光る。その光に照らされ、周囲の緑が怪しい色へと変貌し、岩肌には狙うべき相手がこちらに向かっているのが映し出される。
「くくく……ハハハハハハハ……もうすぐだディケイド、貴様を殺して、俺は……」
 目を見開き、顔の傷をなぞりながら。
 大道はマゼンタ色の仮面ライダーが来るのを、今か今かと待ち続ける。
 ……彼の頭の中にあるのはただ一つ。ディケイドを殺すと言う、それだけ。
 時折何か大切な事を忘れているような気がするが、ディケイドの姿を見ているとそんな些細な疑問もすぐに掻き消える。
「ディケイド……貴様にホームベースは踏ません……っ!」
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