生者の墓標、死者の街
【その15:時間之中 ―ジカン―】
「……奇妙な景色だな……」
虹色の空と何処までも広がる砂漠を見つつ、窓の外を眺めていた蓮がぼやく。
時々見える山々が、多少風景に張りを持たせているが、それが無ければ本当に進んでいるのかどうか疑わしい程に、代わり映えのない景色だ。
「時間の中は、いつもこんなモンだ」
「俺らとしては、この列車がデンライナーよりも揺れが少ない事の方に驚きや」
常に時間の中にいるイマジン達にとっては、見慣れた景色を今更眺める気はないらしい。
むしろ、いつもとは異なる列車……ガオウライナーの内装の方に興味があるようで、リュウタロスに至っては「探検」と称して別の車両へ向かってしまったくらいである。
その後を、始と巧がついて行った事には、流石に驚いたが。
先頭車両の凶悪なイメージとは打って変わって、電車内は非常に快適な空間となっていた。
キンタロスの言葉通り揺れは少なく、座席もソファーのような柔らかさと、程よい弾力を持っている。敷かれた絨毯も、毛足が長く高級感が漂っており、随分とジークのお気に召したらしい。
「オーナーとは違って、随分とおしゃれな趣味の持ち主みたいだねぇ、ガオウライナーのオーナーって」
「確かに列車と言うより、ホテルのような印象だ」
皮肉気に言ったウラタロスに同調するように、太牙も苦笑気味に呟いた。
窓の外にある、「線路のつながっていないトンネル」の方に、無意識の内に視線をやりながら……
「探検」に来たリュウタロスは、勝手についてくる巧と始の存在を意に介さない様子で、広い車内を楽しそうに見回していた。
勿論、二人がついて来た事は彼にとっても意外だったが、それ以上にこの列車の中の方が魅力的だった。
一方で巧と始の二人には、それぞれに思惑があって彼について来ている。
巧は「Milk Dipper」で彼が自分を「狼さん」と呼んだ事を問いただしたかったし、始はこの「人間とは違う気配を放つ者」を放っておけないと思ったからだ。
「……なあ、お前何で俺が『狼』だって知ってたんだよ?」
うわぁ、と感嘆をもらすリュウタロスを睨みつけつつ、巧は何の前振りもなく問いかける。
その問いにリュウタロスは機嫌を悪くした様子もなく、少しだけ首を傾げ……
「だって、良太郎の中で聞いてたから」
「は?」
「僕達イマジンって、本当はエネルギー体で、実体を持たないの。光の玉みたいな感じ」
だが、今の彼は、どう見ても実体を持っている。野上良太郎に良く似た、それでいて全然違う体を。
そんな考えが伝わったのか、リュウタロスは満面の笑みのまま、更に言葉を続ける。
「僕達 が体を持てるようになるには、誰かに憑いて、その人と契約が交わされてから。その人の持つイメージを形にするんだ」
「それが、今のお前か?」
「どんだけナルシストなんだよ、あいつ……」
「違うよー。最初はこれ」
いつの間にか会話に入ってきた始と巧に、むぅ、と頬を膨らませながら、リュウタロスは持っていた絵を見せる。
それは、先程も見せられた「電車と化物」の絵。リュウタロスはその中に描かれた紫色の……どことなく、ドラゴンを思わせる異形を指し示している。
「……『これ』……?」
「そう。良太郎に憑いた時、良太郎が持ってた龍のイメージが、僕の最初の姿。で、僕達イマジンは、契約者とつながってるから、良太郎が僕達を締め出さない限り、良太郎の見た物が僕達にも見えるし、良太郎の聞いた事は、僕達にも聞こえるんだ~」
凄いでしょ、と言いながら、子供のようにはしゃぐリュウタロス。
見た目は、軽薄な感じなのに、喋り方が子供っぽいせいか、どこか憎めない印象を受ける。
そう思った時、ふと彼の姿に対して疑問が過ぎった。元は、絵に描かれた紫の異形だったらしいのに、今は何故、良太郎に似た格好になっているのか。
「姿は、何にでもなれるのか?」
ひょっとすると、彼らは自分の意志で姿を自在に変える事が出来るのかもしれないと、そんな考えに至り、思わず始はそう問いかけていた。
自身とて、ジョーカーラウザーに通したカードのアンデッドに、姿を変える事が出来る。
今のこの姿だって、本当はヒューマンアンデッドの姿そのものだ。
巧も、今の人間態とオルフェノク態を自分の意志で変えられる。始の問いかけは、至極当然な……そして、肯定の言葉が返ってくるものだと……思っていたのだが。
「ううん。僕達の場合、やり直しはきかないんだって」
「やり直しがきかないって……じゃあ、何でお前ら、今は人間の姿してるんだよ」
「うーん……わかんない。ある日いきなり、良太郎に憑いた状態の格好に変わってたし……」
リュウタロスの放った、「憑いた状態」と言う言葉の意味が分からないのか、二人は不思議そうに眉根を寄せる。
契約したのであれば、実体が得られるのだから、憑依する必要などないだろうに……
そう思った矢先。彼の口からは、その考えを否定する言葉が放たれた。
「良太郎は契約してくれなかったから、僕達、外に出たい時は良太郎の体を借りて行動してたんだ」
「体を借りて」の前に、「勝手に」という単語がつく事が殆どなのだが、そんな事を知らない二人は嬉しそうにくるくる回るリュウタロスを見やる。
多分、今の格好はその「借りた」時の格好なのだろう。
ストリートダンサー風の出で立ちに、目深にかぶっているキャップ、首から提げたヘッドフォンに、紫色の瞳。緩やかなウェーブのかかった前髪には、一房だけ紫の髪が覗いている。
恐らく、他の良太郎に似た連中も、同じようなものなのだろう。今の姿は、良太郎の体を「借りた」時の格好で、本来はリュウタロスの持つ絵に描かれたような、カラフルな異形だったに違いない。
道理で、人間とは違う気配がするはずだと、始はようやく納得した。
「僕、どっちの格好も好きだよ。こっちの方が、お姉ちゃんの前に堂々と出られるけど、あっちは良太郎がくれた物だし」
心底嬉しそうな表情を見せるリュウタロスに、二人はつられたように、口の端にうっすらと笑みを浮かべる。
純粋に、良太郎を慕っているその姿が、微笑ましいと感じたのだ。
……もっとも、彼らは知らない。リュウタロスは、純粋な子供であるが故に……凄まじく凶悪な存在でもあると言う事実を。
そうとも知らず、弟でも見るような目つきで、二人がリュウタロスを見やった瞬間。
……ガオウライナーは、闇の中へと突入した。
ガオウライナーが「線路のつながっていないトンネル」に入ると同時に、運転席から「PRISON」と言う電子音が響く。
刹那、ガオウライナーは薄い、水の膜に覆われた。
「な、何だ!?」
「今度は水? ホント、色々あるんだねぇ」
驚いたような太牙に対し、ウラタロスは呆れたように言葉を放った。
過去に似たような経験をしているイマジン達にとっては、今回の事は予想範囲内だったのだろう。驚きの表情よりも不快の色がありありと浮かんでいた。
「おい、何が起きた!?」
周囲が暗くなった事に、何かを感じたらしい。今までリュウタロスと共に車内を回っていた始と巧が、慌てた様子で良太郎達の元へと戻ってきた。
巧に至っては、スマートレディをギロリと睨みつけている。
……恐らくは、彼女が元凶だと思ったのだろう。だが、彼女は薄く笑みを浮かべているだけ。何かを口にする様な気配は見せない。
それを悟ったのか、良太郎が困ったような笑みを浮かべ……
「トンネルに入ったみたいです」
「トンネル……?」
「異世界の、入り口だよ」
良太郎の言葉に、訝しげな表情で始が呟く。そしてそれに対して、どこか苦しそうにリュウタロスが答えた。
嫌な思い出でも、あるかのように。
「おいおい……今回はこの水のせいで出られねぇ、とかねぇだろうなぁ?」
明らかに不愉快その物の声音で、モモタロスは形容し難い表情を作ると、誰にと言う訳でもなく問う。
前回は、電子音が響くと同時に、風の膜がデンライナーを覆い、結果的に、彼らをその中に閉じ込めた。
異世界にいる間中、ただ、起こる事を眺めているだけだった。
……今回もそれでは、意味がない。
何のために、この列車に乗ったのかを考えれば、傍観者であってはならないのだ。
そんな思いを知ってか知らずか、スマートレディはにこり、と笑い……
「それは大丈夫。今から皆さんに配るカードを持っていれば、外に出られます。し・か・も、外の世界の影響は受けないの」
言いながら、スマートレディは全員に、背の赤い、トランプに良く似たカードを配り始める。
「これは、ラウズカード……!?」
受け取った始が、怪訝そうな顔でそのカードを見つめた。
ハートマークの下に、「P」と書かれたそのカード。テキストボックスには、「PRISON DRAGON」と書かれており、本来何らかの……恐らく本来は龍が描かれているはずの空間には、ただ鎖のような物が扉を封じている絵があるのみであった。
「これ、アンデッドを封印するためのカードでしょ? 何でこんなもの……」
スマートレディを見つめ、ウラタロスは不思議そうな表情でそう問いかける。
「西暦二〇〇五年のトンネル事件」で、ラウズカードの事は何度か見ている。だからこそ、イマジン達は、このカードがアンデッドを封じるための物である事も知っている。
他の面々も、一真からアンデッドの話を聞いた時にこのカードを見ているから知っている。
当然、ジョーカーである始もラウズカードの事を知っているが……今、目の前にあるカードのように、「力だけ封じてあって、本体は解放されたまま」のカードなど、見た事がない。
明らかに不審なカードと、それを配った女を交互に見つつ、始は思わず身構えた。
「上級アンデッドって呼ばれる人達は、自分の力の一部を、ラウズカードに封じ込める事が出来るらしいですよ。カテゴリーページの能力は『プリズン』。敵に対しては完全な捕捉を意味しますけど、味方に対しては、捕らえる事で安全を保証する……ある意味、優しい『牢獄』なんです」
「ページだと?」
聞き覚えのないカテゴリーに、始の警戒心が更に強まる。
五十四体のアンデッドの中でも、上級アンデッドとは各スートのカテゴリージャックからキングまでの十二体と、二体のジョーカーの、計十四体だったはず。
しかし、このカードが偽物とも思えない。微弱だが、ラウズカード特有の、力のようなものを感じる。
……自分の中のジョーカーが、沈静化していくような力を。
「はい。本人曰く、アンデッドの中のイレギュラーらしいですよ」
お姉さんも詳しくは知らないんですけど、と付け加えて、彼女は奇妙な笑顔を向け……
「もうすぐ、トンネルを抜けて……『戦車』の世界に到着でーす!」
その言葉と同時に、ガオウライナーに眩い光が差し込んだ……
二本の帝王のベルト。
天のベルトは白き戦士、地のベルトは黒き戦士。
どちらもそれまでのライダーズギアに比べて強力であり、着用者を限定する。
故に、未だ地のベルトに関しては、装着者がいない。
……村上は、目星をつけてあると言うけど……
……その装着者、オルフェノクに反旗を翻さなければ良いんだけどね……
「……奇妙な景色だな……」
虹色の空と何処までも広がる砂漠を見つつ、窓の外を眺めていた蓮がぼやく。
時々見える山々が、多少風景に張りを持たせているが、それが無ければ本当に進んでいるのかどうか疑わしい程に、代わり映えのない景色だ。
「時間の中は、いつもこんなモンだ」
「俺らとしては、この列車がデンライナーよりも揺れが少ない事の方に驚きや」
常に時間の中にいるイマジン達にとっては、見慣れた景色を今更眺める気はないらしい。
むしろ、いつもとは異なる列車……ガオウライナーの内装の方に興味があるようで、リュウタロスに至っては「探検」と称して別の車両へ向かってしまったくらいである。
その後を、始と巧がついて行った事には、流石に驚いたが。
先頭車両の凶悪なイメージとは打って変わって、電車内は非常に快適な空間となっていた。
キンタロスの言葉通り揺れは少なく、座席もソファーのような柔らかさと、程よい弾力を持っている。敷かれた絨毯も、毛足が長く高級感が漂っており、随分とジークのお気に召したらしい。
「オーナーとは違って、随分とおしゃれな趣味の持ち主みたいだねぇ、ガオウライナーのオーナーって」
「確かに列車と言うより、ホテルのような印象だ」
皮肉気に言ったウラタロスに同調するように、太牙も苦笑気味に呟いた。
窓の外にある、「線路のつながっていないトンネル」の方に、無意識の内に視線をやりながら……
「探検」に来たリュウタロスは、勝手についてくる巧と始の存在を意に介さない様子で、広い車内を楽しそうに見回していた。
勿論、二人がついて来た事は彼にとっても意外だったが、それ以上にこの列車の中の方が魅力的だった。
一方で巧と始の二人には、それぞれに思惑があって彼について来ている。
巧は「Milk Dipper」で彼が自分を「狼さん」と呼んだ事を問いただしたかったし、始はこの「人間とは違う気配を放つ者」を放っておけないと思ったからだ。
「……なあ、お前何で俺が『狼』だって知ってたんだよ?」
うわぁ、と感嘆をもらすリュウタロスを睨みつけつつ、巧は何の前振りもなく問いかける。
その問いにリュウタロスは機嫌を悪くした様子もなく、少しだけ首を傾げ……
「だって、良太郎の中で聞いてたから」
「は?」
「僕達イマジンって、本当はエネルギー体で、実体を持たないの。光の玉みたいな感じ」
だが、今の彼は、どう見ても実体を持っている。野上良太郎に良く似た、それでいて全然違う体を。
そんな考えが伝わったのか、リュウタロスは満面の笑みのまま、更に言葉を続ける。
「
「それが、今のお前か?」
「どんだけナルシストなんだよ、あいつ……」
「違うよー。最初はこれ」
いつの間にか会話に入ってきた始と巧に、むぅ、と頬を膨らませながら、リュウタロスは持っていた絵を見せる。
それは、先程も見せられた「電車と化物」の絵。リュウタロスはその中に描かれた紫色の……どことなく、ドラゴンを思わせる異形を指し示している。
「……『これ』……?」
「そう。良太郎に憑いた時、良太郎が持ってた龍のイメージが、僕の最初の姿。で、僕達イマジンは、契約者とつながってるから、良太郎が僕達を締め出さない限り、良太郎の見た物が僕達にも見えるし、良太郎の聞いた事は、僕達にも聞こえるんだ~」
凄いでしょ、と言いながら、子供のようにはしゃぐリュウタロス。
見た目は、軽薄な感じなのに、喋り方が子供っぽいせいか、どこか憎めない印象を受ける。
そう思った時、ふと彼の姿に対して疑問が過ぎった。元は、絵に描かれた紫の異形だったらしいのに、今は何故、良太郎に似た格好になっているのか。
「姿は、何にでもなれるのか?」
ひょっとすると、彼らは自分の意志で姿を自在に変える事が出来るのかもしれないと、そんな考えに至り、思わず始はそう問いかけていた。
自身とて、ジョーカーラウザーに通したカードのアンデッドに、姿を変える事が出来る。
今のこの姿だって、本当はヒューマンアンデッドの姿そのものだ。
巧も、今の人間態とオルフェノク態を自分の意志で変えられる。始の問いかけは、至極当然な……そして、肯定の言葉が返ってくるものだと……思っていたのだが。
「ううん。僕達の場合、やり直しはきかないんだって」
「やり直しがきかないって……じゃあ、何でお前ら、今は人間の姿してるんだよ」
「うーん……わかんない。ある日いきなり、良太郎に憑いた状態の格好に変わってたし……」
リュウタロスの放った、「憑いた状態」と言う言葉の意味が分からないのか、二人は不思議そうに眉根を寄せる。
契約したのであれば、実体が得られるのだから、憑依する必要などないだろうに……
そう思った矢先。彼の口からは、その考えを否定する言葉が放たれた。
「良太郎は契約してくれなかったから、僕達、外に出たい時は良太郎の体を借りて行動してたんだ」
「体を借りて」の前に、「勝手に」という単語がつく事が殆どなのだが、そんな事を知らない二人は嬉しそうにくるくる回るリュウタロスを見やる。
多分、今の格好はその「借りた」時の格好なのだろう。
ストリートダンサー風の出で立ちに、目深にかぶっているキャップ、首から提げたヘッドフォンに、紫色の瞳。緩やかなウェーブのかかった前髪には、一房だけ紫の髪が覗いている。
恐らく、他の良太郎に似た連中も、同じようなものなのだろう。今の姿は、良太郎の体を「借りた」時の格好で、本来はリュウタロスの持つ絵に描かれたような、カラフルな異形だったに違いない。
道理で、人間とは違う気配がするはずだと、始はようやく納得した。
「僕、どっちの格好も好きだよ。こっちの方が、お姉ちゃんの前に堂々と出られるけど、あっちは良太郎がくれた物だし」
心底嬉しそうな表情を見せるリュウタロスに、二人はつられたように、口の端にうっすらと笑みを浮かべる。
純粋に、良太郎を慕っているその姿が、微笑ましいと感じたのだ。
……もっとも、彼らは知らない。リュウタロスは、純粋な子供であるが故に……凄まじく凶悪な存在でもあると言う事実を。
そうとも知らず、弟でも見るような目つきで、二人がリュウタロスを見やった瞬間。
……ガオウライナーは、闇の中へと突入した。
ガオウライナーが「線路のつながっていないトンネル」に入ると同時に、運転席から「PRISON」と言う電子音が響く。
刹那、ガオウライナーは薄い、水の膜に覆われた。
「な、何だ!?」
「今度は水? ホント、色々あるんだねぇ」
驚いたような太牙に対し、ウラタロスは呆れたように言葉を放った。
過去に似たような経験をしているイマジン達にとっては、今回の事は予想範囲内だったのだろう。驚きの表情よりも不快の色がありありと浮かんでいた。
「おい、何が起きた!?」
周囲が暗くなった事に、何かを感じたらしい。今までリュウタロスと共に車内を回っていた始と巧が、慌てた様子で良太郎達の元へと戻ってきた。
巧に至っては、スマートレディをギロリと睨みつけている。
……恐らくは、彼女が元凶だと思ったのだろう。だが、彼女は薄く笑みを浮かべているだけ。何かを口にする様な気配は見せない。
それを悟ったのか、良太郎が困ったような笑みを浮かべ……
「トンネルに入ったみたいです」
「トンネル……?」
「異世界の、入り口だよ」
良太郎の言葉に、訝しげな表情で始が呟く。そしてそれに対して、どこか苦しそうにリュウタロスが答えた。
嫌な思い出でも、あるかのように。
「おいおい……今回はこの水のせいで出られねぇ、とかねぇだろうなぁ?」
明らかに不愉快その物の声音で、モモタロスは形容し難い表情を作ると、誰にと言う訳でもなく問う。
前回は、電子音が響くと同時に、風の膜がデンライナーを覆い、結果的に、彼らをその中に閉じ込めた。
異世界にいる間中、ただ、起こる事を眺めているだけだった。
……今回もそれでは、意味がない。
何のために、この列車に乗ったのかを考えれば、傍観者であってはならないのだ。
そんな思いを知ってか知らずか、スマートレディはにこり、と笑い……
「それは大丈夫。今から皆さんに配るカードを持っていれば、外に出られます。し・か・も、外の世界の影響は受けないの」
言いながら、スマートレディは全員に、背の赤い、トランプに良く似たカードを配り始める。
「これは、ラウズカード……!?」
受け取った始が、怪訝そうな顔でそのカードを見つめた。
ハートマークの下に、「P」と書かれたそのカード。テキストボックスには、「PRISON DRAGON」と書かれており、本来何らかの……恐らく本来は龍が描かれているはずの空間には、ただ鎖のような物が扉を封じている絵があるのみであった。
「これ、アンデッドを封印するためのカードでしょ? 何でこんなもの……」
スマートレディを見つめ、ウラタロスは不思議そうな表情でそう問いかける。
「西暦二〇〇五年のトンネル事件」で、ラウズカードの事は何度か見ている。だからこそ、イマジン達は、このカードがアンデッドを封じるための物である事も知っている。
他の面々も、一真からアンデッドの話を聞いた時にこのカードを見ているから知っている。
当然、ジョーカーである始もラウズカードの事を知っているが……今、目の前にあるカードのように、「力だけ封じてあって、本体は解放されたまま」のカードなど、見た事がない。
明らかに不審なカードと、それを配った女を交互に見つつ、始は思わず身構えた。
「上級アンデッドって呼ばれる人達は、自分の力の一部を、ラウズカードに封じ込める事が出来るらしいですよ。カテゴリーページの能力は『プリズン』。敵に対しては完全な捕捉を意味しますけど、味方に対しては、捕らえる事で安全を保証する……ある意味、優しい『牢獄』なんです」
「ページだと?」
聞き覚えのないカテゴリーに、始の警戒心が更に強まる。
五十四体のアンデッドの中でも、上級アンデッドとは各スートのカテゴリージャックからキングまでの十二体と、二体のジョーカーの、計十四体だったはず。
しかし、このカードが偽物とも思えない。微弱だが、ラウズカード特有の、力のようなものを感じる。
……自分の中のジョーカーが、沈静化していくような力を。
「はい。本人曰く、アンデッドの中のイレギュラーらしいですよ」
お姉さんも詳しくは知らないんですけど、と付け加えて、彼女は奇妙な笑顔を向け……
「もうすぐ、トンネルを抜けて……『戦車』の世界に到着でーす!」
その言葉と同時に、ガオウライナーに眩い光が差し込んだ……
二本の帝王のベルト。
天のベルトは白き戦士、地のベルトは黒き戦士。
どちらもそれまでのライダーズギアに比べて強力であり、着用者を限定する。
故に、未だ地のベルトに関しては、装着者がいない。
……村上は、目星をつけてあると言うけど……
……その装着者、オルフェノクに反旗を翻さなければ良いんだけどね……