生者の墓標、死者の街

【その12:青蝶令嬢 ―レディ―】

 「JACARANDA」に向かう途中の森の中で、良太郎達はばったりと侑斗達に出くわした。
「おい、オデブ、こっちだ!」
「デネブです」
 向かい側からやってきたデネブに、モモタロスがドスの聞いた声で呼び寄せ、呼ばれた方はちゃっかり自分の名前を訂正しながらもにこにこと笑顔を浮かべながら、侑斗を引っ張って来る。
「ちょ、ちょっと……待って……」
 後ろの方で、弱々しい声をあげる良太郎。
 どうやら途中でモモタロスの憑依は離れたらしいが、生来の体力のなさが祟っているのか、ぜいぜいと息を吐き、疲労からか顔面は蒼白。……いつ倒れてもおかしくない。
「……しんどそうやな」
「さ、流石に……こんな距離、走った事、ないし……」
「山道だしね」
 気遣うようなウラタロスの言葉にこくこくと頷きつつ、良太郎はその場にしゃがみこんだ。
 膝に力が入らないらしく、近くの木にもたれかかっている。
 しばらくすると、息が整ってきたらしい。心配そうに見つめるイマジン達に、良太郎は一つの疑問を投げかけた。
「さっき、デンライナーが使えないって言ってたけど、どういう意味?」
 楽をしたい訳ではないが、デンライナーが使えば、ここまで走ってこなくとも、停車時刻に合わせて侑斗とも合流できたはずだ。
 だがモモタロスは、「デンライナーが使えない」と言っていた。
 ゼロライナーが使えない事は、mal D’amourで侑斗が言っていた記憶があるが、デンライナーまで使えない事は聞いていない。
 ひょっとすると、侑斗もそんな事を知らなかったのかも知れないが……
「それが、その……デンライナーを、昔のオーナーと言う人が『使う』って言って持って行ったんだ」
「ナオミちゃんやハナちゃん、オーナーまでターミナルで降ろして、僕達には『野上良太郎に知らせてやれ』って言って、この時間に降ろされちゃった」
「美人でも、ああ言うタイプとはお近付きになりたくないよねぇ」
 デネブ、リュウタロス、ウラタロスの順で説明される。
 どうやらゼロライナー同様、オーナー……今回は元と付くようだが……が、自分勝手な都合で時の列車を持ち出したらしい。
 イマジン達が見た、「異世界からの侵略者」の件もあると言うのに。
「だが、代わりの電車は用意するとは言っていたな」
「……やっぱあの、青いデンライナーか?」
 イマジン達が乗っているのは、昔のタイプ……普通の、赤ラインのデンライナーである。
 リニューアルしたデンライナー……通称NEWデンライナーは、車体色を青にカラーリングされている。モモタロスが言ったのは、多分その事だろう。
「多分……」
 そうじゃないかな、と言いかけた刹那。
 侑斗が来た方向から、真司、渡、少し遅れて不機嫌そうな蓮と、見知らぬ男二人……海堂直也と相川始の姿が、そして良太郎が来た方向からは巧、一真、太牙が現れた。
 どうやら自分達を追ってきたらしい。良太郎達の姿を見つけると、ほっとしたような表情になってこちらに駆け寄り……真司達の方は、ぎょっと目を見開いた。
 間違いなく、その原因は良太郎の後ろに立つ、イマジン達だろうが。
「お、乾じゃねーか」
「海堂。……後ろのそいつら……誰だ?」
「俺の行きつけの喫茶店の常連仲間と、そこのバイト君」
 「複数の良太郎」を見ても然程驚きは少ないのか、海堂は不思議そうな表情でこちらを見る巧に、いつも通りの表情でそう答える。
 簡略化された紹介だったが、巧にはそれで充分だった。
 一方、巧と共に来た一真は、どこか怯えたような、それでいて嬉しそうな表情で、向こうから来た一人に視線を向けていた。
 無論、その先にいるのは……相川始だ。
「始……何で、ここに?」
「剣崎、お前に会いに来た」
「何だって?」
 その言葉を訝る一真。
 それもそのはずだ。本来なら、出会ってはいけない二人なのに。
 出会った瞬間、アンデッドとしての闘争本能が働き、どちらか一方がもう一方を封印するまで戦う運命……少なくとも、始はそう信じているはずだ。
 何故来たのかと、更に問い質そうとした瞬間。
 怪獣の咆哮に似た、それでいてどこか汽笛のようにも聞こえる音が、頭上から降ってきた。
「あれは!」
 頭上を、どう見ても列車が駆けていた。
 先頭車両は、どことなく鰐を髣髴とさせる。橙と茶の中間色のような車両。
 それが、ゆっくりと彼らの前に降り立ち、停車した。
 ……てっきり、NEWデンライナーがやってくるのだと思っていた良太郎達にとっては、その列車の存在は脅威だったし、時の列車の存在を知らない他の面々にとっては、宙を舞う列車など不審以外の何者でもない。
「何なんだよ、あれ……?」
 真司の問いに、良太郎は列車を睨みつけつつ、答えようと口を開きかけた瞬間。
 列車の乗降口が開き、中からひらひらと、青い蝶の群れが、彼らの目の前にその姿を現した。
 それらはまるで当然のように一箇所に集まり……すぐに、散開した。
 ……一瞬、良太郎は手品を見ているのかと思った。蝶が散開した後には一人の女が立っていたのだから。
「こんにちは。まだ元気だったみたいで、お姉さん素直に感動しちゃいまーす」
 青を基調とした、奇妙な服装の女性が、良太郎達を……正確にはその隣に立つ巧を見つめながら、子供向け番組の「お姉さん」のような口調で言った。
 真司の脳裏には、自分の仕事仲間の一人の姿が過ぎったが、彼女はこんな奇抜な格好はしなかったはず。どちらかと言うとメイクも控えめだ。……奇妙な言動をとる事はあるが。
「……何の用だ、お前」
 驚く面々の中で、相手の正体を知る巧と海堂だけは、あからさまな敵意をその女性に向け、更に巧は棘のある声で問いかける。
「そんな怖い顔されたら、お姉さん泣いちゃう。えーん」
「白々しいんだよ、お前は」
 泣きまねを見せた女に、冷たい声で言う巧。
 確かに彼女の言動は白々しい。はっきりと、「演じている」事が分かってしまう。
「巧さんの、お知り合いですか?」
「知り合いと言うより……敵、だな。昔のスマートブレインの、スポークスウーマンだった女だ」
「お姉さんの事は、スマートレディって呼んで下さいね」
 ころころと表情を変え、スマートレディと名乗った女はにこやかに挨拶をする。
 まるで、敵意など微塵もないかのように。
「ちゅーか、お前もオルフェノクだろ? お前こそ、まだ生きてやがったとはな」
「それは違いますー」
「それって、どれだ?」
「その女は、オルフェノクではないぞ」
 不審そうな巧の言葉に答えたのはジーク。
 相変わらずの優雅な仕草でスマートレディを指差しつつ、更に言葉を続ける。
「その女は、所謂『愚者の欠片』と呼ばれる者だ。観察者ではあるが、『操縦者』……オルフェノクではない」
 さらり、と。
 ジークは、とんでもない事を言い放った。
 何も知らない者にしてみれば意味不明だが、巧や海堂にとっては、爆弾発言だ。
 かつてのスマートブレイン社は「オルフェノクの巣」と言う表現の通り、オルフェノクに支配された企業であった。
 オルフェノクの、オルフェノクによる、オルフェノクのための世界を実現させるための、隠れ蓑に過ぎなかったのだ。
 そのスポークスウーマンであった彼女が、よりにもよって「オルフェノクではない」など……信じられるはずもない。
 だが実際、巧も海堂も、彼女のオルフェノクとしての姿を見た事がない。姿をちょくちょく現しはしていたが戦闘に加わっていた事もなく、のらりくらりと戦いを避け、裏で糸を引いていた印象がある。
 そう考えれば、確かに彼女はオルフェノクではないのかもしれない。……人間でない事も、確かだろうが。
「あら。お久し振りですね。『月』の世界に行ったって聞いていましたけど?」
「退屈だったのでな。この世界に来た」
 まるで旧知の仲のように、スマートレディとジークは言葉を交わす。
「鳥さん、知り合い?」
「知り合いと言うよりは、同類だ」
「私とジークさんは、お友達なんです」
 スマートレディのその言葉に、海堂と巧の敵意がジークにも向けられる。
 そんな二人を、ジークはオルフェノクにも似た灰色の瞳で眺め……特に気にかける様子もなく、再び視線をスマートレディに戻す。
 相手に敵対する気がないのは巧達にも分かるのだが、いまひとつ信用できない。
 そんな二人の警戒心が伝わったのか、はたまた登場の仕方が突飛だったためかは分からないが、その他の面々……特に真司と蓮は、胡散臭げに彼女を見ている。
「『戦車』の世界はどうだ?」
「あの世界は退屈しませんよー。お仕事も楽しいですし、お給料も良いですから」
 案外と俗っぽいその台詞に、一瞬毒気を抜かれる一同。
 だが、突如として現れた以上……そして、巧が「敵」と認識している以上、油断は出来ない。
 そんな周囲の警戒をよそに、彼女は相変わらずにこやかな笑顔を張り付かせたまま、緊張感のない声で言葉を放った。
「でも、流石に今回の出来事はまずいかなぁって。だから、助けを求めに来ちゃいました」
「助け、だと?」
「はい。この世界の戦士である、あなた達に」
 ぐるりと周囲を見回して、彼女は危機感をあまり煽らないような口調でそう言った。
 まるで、その場にいる全員が、戦士である事を知っているかのように。
「俺達が戦えると……何故知っている?」
 ギロリと睨みつけながら、そう問いかけたのは蓮。
 近くに反射物がないため、変身したり彼の契約モンスター……ダークウィングを召喚したりは出来ないが、それでも反射的に身構えてしまう。
 そしてそれは、始や一真も同じだった。
 蓮はともかく、始も一真も、ここ数年は変身していない。それなのに、何故……思いつつ、二人はその手に、エースのカードを構えている。
「お姉さんの情報網は、意外と広いんです。……と言いたい所ですけど、種明かしをしてしまえば……」
 彼女が投げキスをする様な仕草をとると同時に、ひらりとその周囲を、先程見た青い蝶が舞う。
 まるで、彼女の体から現れているかのように。
「この子達を通じて聞いていたからです。気付かなかったでしょ?」
「何……!?」
「ここ数日の間、Milk Dipper、Café mal D’amour、JACARANDA、そしてスマートブレイン本社に数匹ずつ、放っておいたんです」
 さも当然のように言うスマートレディに、思わず呆気にとられてしまう面々。
 同時に、改めて油断ならない女だ、とも思った。
「……そうまでして、俺達に助けを求めるって……何があったんだ?」
 生来のお人好しのせいか、油断ならないと思いつつも、ついつい聞いてしまう真司。
 彼なりに、感じ取ったのかもしれない。スマートレディのふざけた雰囲気の中に潜む、切羽詰った真剣さを。
「城戸。こんな奴の相手をする必要はないだろう」
「……けど、困ってる奴を見過ごすのはさぁ。やっぱりどうかと思うんだよ」
「そう、ですよね。それが、僕に……僕達に出来る事なら、やらなきゃ」
 真司に同調するように、良太郎も意を決したように呟く。
 それに、イマジン達は若干不満そうな表情を見せたが……良太郎について行くと決めている以上、すぐにその表情を引っ込め、力強く頷いた。
「聞くだけ聞いても、損はないですよ? 何しろ、こことは違う世界……異世界からの侵攻ですから」
『…………は?』
 彼女の言葉に、巧、海堂、始、渡、太牙の五人の声が、綺麗に重なる。
 他の面々には心当たりがあるらしく、その表情がすっと険しく歪んだ。
「西暦二〇〇三年のトンネルってご存知ですか?」
「二〇〇三年って……最近広がり始めたトンネルだよね?」
「はい」
 ウラタロスの言葉に、嬉しそうに頷きつつ……彼女は、未だ呆けている五人を見やる。
「このままトンネルが広がると、どうなると思います?」
「……知るか」
 意味が分からず、問われた方……巧は不快そうに眉を顰めてそっぽを向く。
 異世界だのトンネルだの、分からない事だらけだ。
 仮に、その存在を認められるだけの知識を与えられたとして、それが何だと言うのか。
 そんな思いを汲み取ったのか、スマートレディは不安そうな……それでいて、明らかに作られた印象を持たせる表情を見せる。
「実は……このまま進むと、この世界は『戦車』って呼ばれる神様の作った世界とぶつかって、飲み込まれちゃうの。そうなると……」
 そこで言葉を区切り、彼女は表情を一転させる。
 作り物の、楽しそうな表情に。
「人類は一部を残して、皆オルフェノクになっちゃいまーす」
 …………
「そんな…!?」
「マジかよ!?」
「えぇぇぇぇっ!?」
 一瞬の沈黙の後、オルフェノクの事を知る面々の、悲鳴じみた声が上がった。
「お姉さんは、そうならないよう、異なる世界……西暦二〇〇三年のトンネルの向こうから、こちらにやってきたの」
 混乱している周囲を気にかける様子もなく、彼女は更にとんでもない事を言い放った。
「ちょっと待て、オルフェノクとは何だ?」
「そうですね、簡単に言うと、一度死んだ人間がある特定の条件で甦った、人間とは別の存在……です」
 スマートレディの、言葉通り簡単な説明に、オルフェノクと言う存在を知らなかった者達の間に、改めて衝撃が走る。
「……つまり……その世界に飲み込まれると、ここにいる殆どが死んで、オルフェノクになる……そう言う事か?」
「全員がなれるとは思いませんけど、理論的にはそうなっちゃいますね。それに、あちらにはオルフェノクと人間、その他の動物くらいしかいませんから、ファンガイアやアンデッド、勿論、イマジンも間違いなく消滅します」
「…………最初から存在しなかった事に、なるのか」
「物分りの良い人って好きですよ」
 にこっと笑みを向けつつ、薄ら寒そうな表情の蓮に、彼女はそう返す。
 一度……いや、幾度か「異なる歴史」を経験した蓮だからこそ、その考えに至ったのかもしれない。
 今更のように、ゾクリと背筋を冷たい物が走った。
 消えるとか、死ぬとか……実感が湧かないが、何故かとても恐ろしいように思える。
「あの……」
「何ですか?」
「僕達に助けを求めたら、貴女はきっと、物凄く怒られますよね? その、異世界の人なんだから」
 疑問に思ったらしく、渡が心底心配そうに言う。
 スマートレディの話を信じるならば、彼女はこちらに侵攻している世界の住人という事になる。
 それを、止めようとしていると言う事は……それは即ち、世界への背信行為ではないのか。
 怒られる程度では、きっと済まないだろう。下手をすると、彼女自身、殺されてしまうかもしれない。そう、思ったのだ。
 だが、そんな心配をよそに、スマートレディは、初めて、心から彼を安心させるような笑みを浮かべ……
「お姉さんの『本当のお仕事』は、『戦車』さんが統治する世界の監視と観察。要は、その世界が残っていれば大丈夫」
「監視と観察……?」
「はい。それに……バレなきゃ良いんです。だから、内緒にしといて下さいねー」
 すぐに、先程まで同様、どこか作られたような笑顔に戻り、彼女は人差し指を口元に当て、「内緒」と言わんばかりのポーズをとる。
 まるで、悪戯を共有する子供のように。
「ああ、でも、実はさっき『塔』の世界のお友達から連絡がありまして。何でも、レジェンドルガがこちらの世界にやって来て、ロブスターオルフェノク達と手を組んだんですって」
 怖いですよねぇ、と。
 またしても、わざとらしい仕草で彼女はそう言った……

「レジェンドルガ……異世界の、人間の敵、ね」
「信じられませんか?」
 にこやかな笑顔と共に、白峰は不審げに見つめてくるロブスターオルフェノクに向かって問う。
 自分達が、「こことは違う世界」の存在である事、キバと言う戦士に封じられてしまった「ロード」を目覚めさせたい事、人間達を滅ぼすために来た事、白峰自身は人間を裏切り、レジェンドルガについた事などを話した上で。
「どうかしら……興味ないわね」
 それはロブスターにとって、非常に素直な感想だった。
 人間を滅ぼしたいなら好きにすれば良い。自分達の敵になるのであれば容赦なく攻撃するが、そうでないのであれば別にどうでも良かった。
 無論、白峰と名乗った男の世迷言だと思えなくもなかったが、その後ろでふんぞり返っている異形達を見れば、「異世界からの侵略者」と言う言葉も、あながち嘘では無さそうだ。
 だからと言って、信頼できる訳でもないのだが。
「ふん。そんな奴らの手など借りずとも、人間達の悲鳴は生み出せるでしょう?」
「そんな……奴ら?」
 ゴーゴンに似たレジェンドルガ……メデューサレジェンドルガの、侮蔑の混じった言葉に、ロブスターがピクリと反応する。
「どう言う意味か……聞かせてくれるかしら?」
「そのままよ。確かそこに寝てるお前達の王とやらは、この世界の戦士に倒されたらしいじゃない。その実力、たかが知れてると言うもの」
 嘲笑混じりに言い放つメデューサに、ロブスターは一瞬、全てを灰に変えてしまいそうな程の殺気を放つ。
 が、すぐに冷静さを取り戻したのか、大きく深呼吸をすると……
「それは、あなたのロードとやらも、同じなんじゃないかしら、メデューサちゃん?」
「何?」
「キバと言う戦士に封じられた……確か、白峰君がそう言ってたわよね?」
 白峰に確認するように言いつつ、ロブスターは余裕を取り戻したような声でメデューサを見つめる。
 その視線に、侮蔑の色を浮かべて。
「それって、認めたくはないけれど、こちらと同じよね? あなたの世界の戦士に倒されるなんて……その実力、たかが知れていると言うものよ」
 メデューサに言われた言葉をそのまま返し、彼女はニヤリと笑う。
 今度は、レジェンドルガ達が気色ばむ番だ。
「貴様……黙って聞いていれば!」
「ロードを愚弄するとは……」
「先に王を愚弄したのはそちらの方でしょう?」
 まさに一触即発の空気が、場を支配する。
 数の上では、レジェンドルガの方が上だ。それは間違いない。
 だが、それをも覆さんばかりのロブスターの余裕……それが、メデューサには引っかかった。彼女には、まだ何か隠している力があるのかもしれない。
「……仕方ないわねぇ。先に吹っ掛けたのは私の方。謝る訳じゃないけど、ここは退いてあげるよ」
「上から目線なのが頭に来るけど、良いわ。許してあげる」
 言葉だけ聞けば、和解したように聞こえなくもない会話だが。
 メデューサとロブスターの間には、火花がバチバチと散っている。
「……では、本題に入りましょう」
 クス、と笑いながら、白峰が間に入り……その、邪悪を押し隠した、爽やかな笑顔を浮かべて提案する。
 ……互いの王の復活のために、手を組まないか、と。
「あなたはお一人で彼の方の為に動いていらっしゃるようですが、やはり限界と言う物がある。一方こちらは手数があっても技術力に乏しい」
「……人手をそちらが負担し、技術をオルフェノクが担う……そう言う事かしら?」
「ええ。いかがです? 悪い話ではないでしょう?」
 白峰の誘惑めいた提案を、ロブスターは、少しだけ考え……だが、すぐに快諾した。
 無論、同盟や仲間と言う感覚ではない。
 ……互いに、互いを利用しあう。それだけだ。
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