☆炎神戦隊ゴーオンジャー&仮面ライダーカブト☆

【GP07:仮面ライダー】

 神代剣と名乗った男に連れられて向かったそこには、既に香坂こうさか れんなど、他のゴーオンメンバーが揃っていた。しかし、何やら揉めているように見える。
――何かあったのか?――
 大翔が不審に思ったその刹那。彼の妹である、美羽の怒声がその場に響いた。
「あなた、一体何者なの!? アニじゃないの!?」
「だから、違うと何度も言っただろう」
 美羽の問いに答えたのは、詰め寄られた男。その顔を見て……
「えっ!?」
「嘘!」
「……どうなっている?」
 走輔達が、ピキリと音を立てて硬直した。その中でも一番驚いていたのは、大翔だろう。彼らしくない、ぽかんとした表情でその男を凝視していた。
 何故ならば。詰め寄られている男と、自分の顔が同じだったからだ。瓜二つと言っても良い。
 声も似ているかもしれない。自分が不機嫌になって、つい凄んでしまう時などはあれ位の低い声が出る。
 服装や雰囲気は全く異なるが、並んで立っていなければイメージチェンジと言われて納得してしまうだろう。
 ただ、大翔とは正反対の、暗く澱んだ雰囲気と表情を浮かべている点を除けば。
「あれ、ドッペルゲンガー?」
「よく似た他人って奴か!? それとも実は双子だったとか!?」
「そんな訳あるか」
 大翔そっくりの黒い男……「闇大翔」と仮に呼ぼう……の方を指差しながら問いかける範人と走輔に、極力冷静を装って答える大翔。
 少なくとも、自分の兄妹と呼べる存在は、妹である美羽だけのはずだ。だから、あそこにいる自分そっくりの男は、自分とは何の関係もないはず。自身の両親が、「実はあなたには生き別れの双子の兄弟がいて……」とでも言い出さない限りは。
「矢車さん!? それに風間も……何だってこんなところに!?」
 そんな大翔達とはまた別の意味で、加賀美が驚愕の声を上げる。その声でようやく美羽達もこちらに気付いたらしい。大翔と、「闇大翔」……加賀美いわく、矢車と言うらしいその男をを交互に見やり……更にその場が混乱した事は、言うまでもない。

 その後、十数分間にも及ぶ長い混乱の後、何とか落ち着いた面々は、改めて互いに自己紹介をした。自己紹介とは言っても、本当に簡単に、互いの名前を言うくらいの物であったが。
「で? いきなりだけど……何が起こっているのか聞かせてくれないか、神代」
「当然だカ・ガーミ。だがその前に……そこ、俺の話を聞け!」
「メイクアップ、完了」
「うわぁ、凄い! あっという間!」
「キラキラに拍車がかかったみたい……」
 自己紹介が終わるや否や、マイペースにも風間は女性陣に向かってメイクを施し、施された方はその手際の良さと出来の素晴らしさにキャイキャイとはしゃいでいた。
 ずびしっと言う擬音と共に指をさしながら怒鳴る神代など、軽やかに無視して。
「くっ……まあ、良い。あいつらは放って置くとしよう。俺はスルーする事においても頂点に立つ男だ」
 ヒクヒクとこめかみを引きつらせながらも、神代はそう言うと、軽く一つ咳払いをし……そして、真剣な表情で語り始めた。
 まずは、ゴーオンジャーに対して、自分達がこの世界とは異なる世界……例えて言うなら「ライダーワールド」とも呼べる場所から来た存在である事、かつて「ワーム」と呼ばれる、「人間に擬態する異形」と戦ってきた存在である事、そしてここにいる神代自身もまた、ワームの一人である事を。
「君も、ワームなんっすか!?」
「そうだ。俺の名は神代剣。神に代わって剣を振るう男……であると同時に、スコーピオンワーム。それが俺の正体だ。だから……この件が終われば、俺はお前達の手にかかろうと思う」
「何だと?」
 気高く……だが同時にとても寂しげにも見える表情で放たれた神代の言葉に、大翔が軽く睨むように彼を見ながら問い返した。
 少なくとも、目の前の男からは「悪意」を感じられない。それなのに、相手は自分を殺せと言っている。その理由が……正直、分からなかった。人間に害をなさないのであれば、何も死を選ぶ必要はないはずだが……
「今はまだ、俺は『神代剣』として存在している。だが、いつまたワームとしての本能が暴走し、人間を襲うとも限らん。そうなる前に……俺が他の誰かに、『俺』と同じ思いをさせる前に、俺を殺せ」
 真剣な表情で言われ、一同は言葉を呑んだ。固い決意のような物を、神代から感じ取る事ができたから。
 重くなりそうな空気の中、唯一矢車だけは、何の感慨も抱いていないような視線で神代を見つめていたが。
「……話を続けるぞ」
 重くなりそうな空気を切り替えるかのように、神代は周囲の反応を待たずに言葉を続ける。
 入り込んだワームの数こそ少ないものの、その狙いはこの世界の重要人物……国を動かす指導者や、金融関係者、はたまた教会のお偉いさんなど、中枢を乗っ取り、じわじわとこの世界の人間を死に追いやっていく事であり、それを止めるために、天道達「仮面ライダー」と呼ばれる戦士達が、本人の意思に関係なくこの世界に連れて来られた事、そして……それを引き起こした要因とも呼べる存在が、現在ガイアークと手を組んだという事を。
 そこまで神代が一息に言い終えた瞬間。殺気にも似た気配を感じ取ったのか、非戦闘員であるゴン以外の全員が一斉にある方を向く。
「ゴン、下がっていろ」
 十二人の視線を受けた「そいつら」……ゴーオンメンバーと全く同じ姿をしている七人は、口の端を邪悪に歪めて笑う。
 本来の彼らなら、絶対に浮かべそうにない笑みが、妙に気に障る。それがワーム達の擬態と言うものであると気付くまでに刹那、そして相手が繰り出した攻撃をかわしたのは、逡巡の間であった。
「うわぁ……僕と同じ顔だ。ちょっと気持ち悪いや」
「確かに。不気味すぎる」
「本日二回目の俺の擬態、キター!!」
 本物の範人、軍平、そして走輔が自身のチェンジソウルを構えながら言う。その後ろでは、早輝と美羽が、自身の擬態を薄ら寒そうに見つめていた。
 鏡に映る自分は見慣れていても、それはあくまで平面の話。おまけに左右も反転しているから実際は似て非なる自分を見ている事になる。だが、ワームの擬態は完璧に自分と同じ姿形。それが生理的な恐怖を感じさせているのかも知れない。
「へっ。今度こそゴーオンジャーを倒し……ライダーも、マッハで倒してやるぜ! ウガッツ!!」
 走輔に擬態していた存在が、ぱちんと指を鳴らす。と、地中からガイアークの擁する機械の兵士、ウガッツが、その名の通り地面を穿ちながら勢い良く地上へと飛び出してきた。
「ガイアークとワームが、手を組んだっすか!?」
「ズバリ、その通りっす」
 連の言葉を、連に擬態したワームが肯定する。その瞬間、「走輔」以外の全員が自身の正体を現した。
「ヤダ、不気味~!!」
「こんなのに成り代わられるなんて、冗談じゃないわ!」
 女性陣の抗議の声が合図になったかのように、綺麗に敵と味方が二つに分かれる。
 そして、それがさも当然であるかのように、戦士達は横一列に並び……
『チェンジソウル、セット! Let's, Go-On!』
 炎神ソウルを模した白いソウル……変身に用いる為のチェンジソウルを、それぞれの変身ツールに差し込み、ゴーオンジャーとゴーオンウィングスは、その姿を七色の戦士に変えた。
「マッハ全開! ゴーオンレッド!」
 ゴーオンレッド。SPEED KINGの異名を持つ、赤き隼のスーパーカーを相棒とするは江角走輔。
「ズパリ正解! ゴーオンブルー!」
 ゴーオンブルー。CYCLOPEDIAの異名を持つ、青き獅子のバスを相棒とするは香坂連。
「スマイル満開! ゴーオンイエロー!」
 ゴーオンイエロー。SWEET ANGELの異名を持つ、黄色き熊のアールブイ車を相棒とするは楼山早輝。
「ドキドキ愉快! ゴーオングリーン!」
 ゴーオングリーン。VAGABONDの異名を持つ、緑のオルカのバイクを相棒とするは城範人。
「ダッシュ豪快! ゴーオンブラック!」
 ゴーオンブラック。CHASERの異名を持つ、黒きシェパードのパトカーを相棒とするは石原軍平。
「ブレイク限界! ゴーオンゴールド!」
 ゴーオンゴールド。PHILOSOPHERの異名を持つ、金の禁鳥のヘリを相棒とするは須塔大翔。
「キラキラ世界! ゴーオンシルバー!」
 ゴーオンシルバー。LOVELY SENSATIONの異名を持つ、銀の虎のジェットを相棒とするは須塔美羽。
 彼らが各々の名乗りを上げると、それに対応した色の爆煙が上がる。それはまるで、この世界が彼らを応援しているかのように、仮面ライダー達には感じられた。
「正義のロードを突き進む!」
『Takeoff、ゴーオンウィングス!』
『炎神戦隊、ゴーオンジャー!!』
 金と銀の空の戦士、ゴーオンウィングスと、五色の大地の戦士、ゴーオンジャーが名乗った瞬間、一際大きな「祝砲」が上がり、現実とは程遠い世界が演出された。
「……何か、随分と派手だなぁ……」
 呆然と、彼らの名乗りを見た加賀美が呟く。その手には、いつの間にか彼の変身用ツールであるガタックゼクターが握られているが。
「お祖母ちゃんが言っていた。派手な料理よりも、素朴な料理の方が人の心に残るってな」
「いや、ある意味一番派手なお前に言われても……」
 言いながらも、彼らは自身の変身ツールを構え、宣言する。
『変身!』
『Henshin』
 その音が響いた直後、彼らの体を一瞬だけ銀色の外装が覆う。が、すぐにそれも弾け飛び、その下から色取り取りの鎧が姿を見せた。
 赤い甲虫、カブト。それは天の道を往き、総てを司る男、天道総司の変身した姿。
 青い鍬形、ガタック。それは加わったよろこびで、世界を美しく新たにする男、加賀美新の変身した姿。
 紫の蠍、サソード。それは神に代わって、剣を振るう男、神代剣の変身した姿。
 水色の蜻蛉、ドレイク。それは風の間を抜け、大きく全ての花を介す男、風間大介の変身した姿。
 緑の飛蝗、キックホッパー。それは矢を番えた戦車から、闇を想う男、矢車想の変身した姿。
 ゴーオンジャーに比べれば随分と質素な印象を抱かせる色合いだが、それでも十二分の存在感を発揮していた。
 それを見やった瞬間、「走輔」もまたその姿を変える。だがその姿は、ワームではなく……ついさっき、矢車に撃退されたはずの、キカンシャバンキだった。
「そんな……蛮機獣が、走輔に擬態!?」
「ンなぁにぃぃ!! アリなのか、それ!?」
「アリだ!」
 走輔の抗議を聞きとめると同時に、キカンシャバンキの姿が消える。……いや、消えたように見えた。
「クロックアップか!」
 言うのが早いか、加賀美と神代もまた、クロックアップと呼ばれる高速移動で相手の動きについていく。蛮機獣はその二人に任せて平気と判断したのか、他のライダー達はウガッツやワームをたたき伏せにかかり、ゴーオンジャーとゴーオンウィングスは足手纏いになると判断したのか、やはりクロックアップしない存在……サナギ態のワームやウガッツと言った、「小者」と呼んで差し支えない存在を相手にしていた。
「……一つ聞いても良いか?」
「おや、珍しい。君が私に質問なんて」
 襲い来るワームとウガッツを撃ち抜きながら、天道が風間に声をかける。声をかけた方も、かけられた方も、どことなくだが余裕を感じられる。
「ドレイクゼクターは、あの時破壊されははずだが?」
「ここに来る前、ある女性占い師から聞いたのですが……このドレイクゼクターは、『違う世界』から来たそうですよ」
 サソードゼクターもねと付け加え、風間は次々とウガッツを撃ち抜く。その回答に納得したのか、天道は小さく笑うと、近寄ってきたウガッツを叩き斬る。
 その少し先では、ゴンを守るようにしながら早輝と美羽が、自身に擬態していたワームに向かって弾丸を放つ。
『早輝、あんな奴、ドカンと蹴散らして、実力の差ぁ見せたり!』
『ギィィン。私の相棒バディは美羽だけだ。彼らでは成り代われない』
 二人の炎神であるベアール・ブイとジェットラスが言うと同時に、ワームはその横に幻影の早輝と美羽の顔を映し、それを悲しそうに歪ませる。その表情に、一瞬だけ自分達が嘆いているような錯覚に陥る。
 そんな彼女達に気付き……後ろに立っていたゴンが、ふぅと溜息を一つ吐き出すと、真っ直ぐに彼女達を見上げて言葉を放った。
「あの人達に代わられて良いの? お姉さん達は世界中で一人しかいないんでしょ? 誰も、誰かの代わりにはなれないんだよ」
 その言葉に、弾かれたように二人は顔を上げる。
――満開のスマイルを浮かべられるのは――
――キラキラの世界を彩れるのは――
『出来るのは、私しかいない!』
 その声と同時に、彼女達は憤然とワームに向かって攻撃を再開した。一切の迷いを断ち切って。
 更に少し離れた場所では、走輔が自身の武器であるロードサーベルで敵を斬り散らし、大翔がウィングブースターと呼ばれるスペースシャトルを模した短剣でとどめを刺す中、矢車は密集し、群がるウガッツを上から連続で踏み潰す。
「……大翔と言い、あの矢車って奴と言い……あの顔は上から攻撃するのが好きなのか?」
「ちょっと待て走輔。お前、俺をどんな目で見てるんだ?」
「こんな目」
――メット越しで目なんか見えるか――
 走輔のボケとも真剣とも取れる一言に、大翔が心の中で冷淡に突っ込んだ瞬間。それはほぼ全てのウガッツとワームが倒れた時だったのだが……ドンと言う派手な音と、聞き慣れない電子音が彼らの耳に届いた。
「何だ!?」
 訝しく思い、視線を音のした方に向けたそこには……苦しげにそこに倒れている加賀美と神代、そして何故か、漆黒だったはずの体が、真っ赤になっているキカンシャバンキの姿があった。
「何が起こってるんだ!?」
『物凄いエネルギー反応だ! 気をつけろ、走輔!!』
 走輔の持つ炎神ソウルから、スピードルの声が響く。それと、ほぼ同時だっただろうか。真っ赤に……それこそ燃えるような赤を纏っていたキカンシャバンキの皮がずるりと剥け、中から真っ白な別の存在……おそらくはリニアモーターカーと思われるフォルムがその下から現れる。
「まさか……脱皮した!?」
「そんな馬鹿な。さっきまでだってクロックアップしてたんだぞ!?」
 基本的に、ワームはサナギの時にクロックアップは出来ない。しかし、キカンシャバンキ……いや、リニアバンキは、ワームで言うサナギ、つまりキカンシャだった時からクロックアップし、こちらを翻弄していた。
 それが不自然に思えたのだろう、ぜいぜいと息を吐きながら、加賀美は風間の言葉に対し、半ば怒鳴るようにそう声を上げた。その、刹那。
「遅かった、か。他の連中はどうでも良いけど、兄貴までやられるのは嫌だなぁ……」
 そんな声が、矢車の耳に届く。そして、その声の方向には……自分と同じデザインの、黒い飛蝗の姿。
「おま、え……」
 図らずも声が掠れるのを感じながら、思わず矢車は手を伸ばし、近寄ってくる黒い飛蝗の腕を掴む。
 二度と会えないと思っていた相手。共に闇の中の光を見ようと誓った存在。そして……己が手にかけた、最高の……
「相棒……」
「ごめん兄貴。遅れた」
 笑みを含んだ声でそう返す存在は、黒の飛蝗、パンチホッパー。それは漆黒の影を纏い、屍の山を瞬く間に築く男、影山瞬が変身した姿……

「おお! パワーアップしたゾヨ!」
「キカンシャバンキが、リニアバンキになったでオジャル」
「さすが、害務大臣殿の持ってきた物ナリ!!」
 一方、ヘルガイユ宮殿では。キカンシャバンキからリニアバンキへと進化……と呼んでも過言ではない変化を遂げた蛮機獣を見て、三大臣がわいわいとはしゃいでいた。
 しかしその一方で、「パワーアップアイテム」を持ってきた害務大臣……ムダニステラは、形容し難い、複雑な表情でそれを眺めている。
「……いや、これはちょっと……わっちも驚きでありんすよ」
「どういう意味ゾヨ?」
「今回持ってきた『アレ』は、確かに『ワーム』の力を記憶した物でありんすが……通常ならせいぜい、擬態能力とクロックアップが出来るだけの物であったはず。脱皮までは出来ないはず……でありんした」
 言葉をそのまま受け取るならば、リニアバンキへの進化は彼女にとっても予想外だったと言う事らしい。
 それでも、悪い方向の「予想外」ではないのだろう。確かに渋面を浮かべてはいるが、進化したと言う事はそれだけ強くなったと考えるべきだ。
「劣化した訳じゃないなら構わないでオジャルよ」
「今日こそゴーオンジャーを倒し、ヒューマンワールドを我らの住みやすい、汚れた世界に変えるナリ」
「やるゾヨ、リニアバンキ」
 どこまでもポジティブに物事を考える三大臣を一歩引いた位置から眺めつつ、ムダニステラは冷静に今起こった状況を分析する。
――って事は、これは効き過ぎたと言う事でありんすかねぇ。ならば、確実に大きな負担がかかっている、と考えるべきでありんしょうが…………――
「そんな事、わっちの知った事じゃあありんせん」
 小さく、それこそ三大臣の耳には届かない程の声でそう呟き……彼女はその口元を、邪悪に歪めたのであった。


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