☆炎神戦隊ゴーオンジャー&仮面ライダーカブト☆

【GP05:最速ノカブト】

 西暦二〇〇八年。様々な機械生命体が住む世界である「マシンワールド」から、人間が住む世界であるここ……「ヒューマンワールド」に、ガイアークって言う連中が逃げ込んできた。
 あいつらの目的は、この綺麗な「ヒューマンワールド」の空、海、大地を汚染して、自分達の住みやすい世界に変えてしまう事。
 それを止めるため、ガイアークと同じ「マシンワールド」から、オレ達「炎神」が突入。人間の相棒を見つけて、ガイアークの企みを阻止するヒーロー……炎神戦隊ゴーオンジャーとゴーオンウィングスになってもらってるって訳。
 あ、自己紹介がまだだったな。オレっち炎神トリプター。炎神の中でも空を舞う事の出来るオレ達は、「ウィング族」って呼ばれる、数少ない種族なんだ。
 空はオレの縄張りさ。オレっちの相棒である人間の名前は須塔すとう 大翔ひろと。オレは尊敬を込めて、「兄貴」って呼んでる。兄貴はゴーオンウィングスの片翼、黄金の戦士、ゴーオンゴールドだ。
 ガイアークの幹部である害地副大臣、ヒラメキメデスを倒し、何となくゴーオンジャーとも仲良くなりかけたそんなある日の事。まさか、こんな事が起こるとは……オレっち、全く想像してなかったんだ、バタバタバタ~!!

「あれ、大翔じゃねーか」
「一人なんて珍しいね」
走輔そうすけと……範人はんとか」
 一人で散歩していた大翔に、赤いジャケットを着た男、江角えすみ 走輔と、ほぼ同じデザインの緑のジャケットを着た男、じょう 範人が、その両手いっぱいに買い物袋をぶら下げて声をかける。
 どうやら相変わらず、馬鹿みたいに能天気な連中らしい、と心の中で溜息を吐きつつ、その二人を見やる。
 「お買い得」と書かれたシールが袋から覗いているのを見ると、タイムセールを狙って食料の買出しをしてきた所らしい。随分と侘しいものだな、と思いつつも、そこは言わぬが花と言う奴である。
「偶然だな大翔! こんな所で会うなんて」
「ホントホント。散歩の途中?」
「……まぁな」
 慣れと言うのは随分と恐ろしい。走輔達の能天気かつ馴れ馴れしい態度も、最近は不快に思わなくなってきている自分が怖い。
 出会った当初は、「自分達よりも後から炎神に選ばれた、ロクに戦闘訓練も積んでいない素人集団が」と見下していたのだが……ひょっとすると、彼らの内にある熱い何かに、自分も影響され始めているのかも知れない。
 とは言え、そんな事を言おうものなら調子に乗りそうな彼らの事。それに自身のガラでもないので、決して口には出さないが。
 そんな風に大翔が思った瞬間。脇から現れた一人の男が、走輔がズボンのポケットに入れていた財布を奪い、勢い良く駆け出して行った。
 それがスリ……と言うか強盗と言うか、とにかく泥棒だと気付くのに、三人して一瞬の間を要し……
「ああっ! 俺の財布! 俺の全財産!」
「待て!」
 大翔と、妹の美羽は生まれながらに「人の悪意」を感知する事ができると言う特異な力を持っている。
 しかし、最近はガイアークと言う強烈過ぎる悪意をほぼ毎日のように感知していたせいか、今回の泥棒の悪意が小さすぎて気付かなかったらしい。
――これも、慣れか……嫌な物だな――
 口の端に苦笑を浮かべつつ、とにかく相手を追う。
 一方で走輔は盗られた財布が本当に「全財産」なのだろう。大翔とは対照的に、必死の形相で相手を追う彼ら対し、追われている方はナイフをちらつかせながら牽制するように怒鳴る。
「どけ、死にてぇのかぁ!」
 等と怒鳴っているが、常日頃からガイアークと、言葉通り命懸けで戦っている彼らにとって、ナイフは別段怖い物ではない。勿論、刺されたら痛いでは済まない事くらいは承知している。小さいとは言え、刃物は刃物だ。
 そんな泥棒の前から。
 鼠色の作務衣さむえを纏い、片手に料理で使うボウルを持っている男が、悠然と現れた。年は走輔より少し上だろうか。やや垂れ目気味ではあるが、端正な顔立ちをしている。
 そんな彼の前を強行突破しようと、泥棒はナイフを振り回すが、その刃先はギリギリの所で青年の喉元を空振る。
 青年は怯える様子もなく、逆に悠然とその騒ぎの前を通り過ぎる。
 逆にその堂々とした態度に怯んだのか、泥棒の動きが鈍り……あっさりと追いついた範人と大翔の二人に取り押さえられ、何とか逃げだそうともがく。
「危ないだろ! 何で逃げない!?」
「俺は誰からの指図も受けない」
 あわや大惨事につながりかねなかった青年の行動……と言っても歩いていただけだが、それに対して礼よりも先に走輔の怒声が飛ぶ。
 泥棒は捕えたし、それはある意味、その青年のお陰ではある。しかしだからと言って、刃物を避けるでもなく逆に堂々と刃物に向かっていくような真似は頂けない。
 だが、青年は彼らに背を向けたまま、カランコロンと下駄の音と共に、どこか不遜な態度で言葉を返すだけ。
「何だってぇ?」
「俺の通る道は俺が決める。それにもう一つ! 下手にかわせば、折角の豆腐が崩れる」
「あのなぁ……運よく助かったから良いような物の、下手すりゃ、刺されてたかもしれないんだぞ!?」
「『運良く』と言う言葉は俺にはない。第一、そんななまくらは俺の命を奪えない」
 確かに泥棒が持っていたナイフは小物だが、それでも刺さりどころが悪ければ死んでしまうだろうし、鈍と呼ぶには鋭すぎる。追って行った自分達も大概無謀だが、目の前の青年は更に無謀。
 そんな彼の態度に、走輔だけでなく範人と大翔までもが呆然とその青年を見つめてしまう。
 その行動が悪かったのだろうか。少しだけ二人の拘束が緩んだのを機と取ったか、泥棒は何とか力付くで拘束から逃げ出すと、青年の方……と言うより人の少ない方が偶々青年の方だっただけだろうが、そちらに向かって必死の形相で走っていく。
 邪魔と判断したのか、その場に走輔の財布を投げ捨てて。
 その瞬間。
「忘れ物だ」
 そう言うと同時に、青年は投げ捨てられた財布を下駄の爪先で蹴り上げ、そのままそれを逃げる泥棒の頭に向かって蹴り飛ばす。
「あああぁぁぁっ! それ、俺の財布っ!」
 走輔の悲鳴じみた抗議も虚しく、蹴られた財布は見事に泥棒の後頭部を直撃、跳ね返った財布は青年の手の中にすっぽりと収まっていた。
「凄い。サッカー選手みたい」
「並大抵の技じゃないな……」
 純粋に感動する範人に対し、感心したように言う大翔。そして、こちらを振り返りもせずに青年は走輔に向かってぽぉんと財布を放り渡す。
 その、妙に気障ったらしい態度が気に入らなかったのか、走輔は憮然とした表情で青年の背中を見やり……
「何なんだ……お前……」
「お祖母ちゃんは言っていた。天の道を往き、総てを司る男」
「何ぃ……?」
 すかした奴だと大翔は思うが、そこは自分も同類と言う自覚は多少なりとも存在しているのか、黙ったまま振り向いた青年の顔をじっと見つめる。
 彼の表情は自信に満ち溢れており、確かに「天の道を往く」と言う自身の言葉に偽りはなさそうだ。
 などと考えているうちに……青年が歩いてきた方から、黒いスーツ姿の男が、ヒィヒィと息を荒げ、顔を赤く染めながら、必死の形相で走ってきた。
 しかもスーツの青年は、大きく息を一つ吐くと……作務衣の青年に向かって、半ば恨みがましい視線を向け……
「て、天道てんどう! おま……お前、ちょっ……早い……」
「……よぉ、遅かったな加賀美かがみ
 作務衣の青年……天道と言うらしい彼は、どこかからかうような笑顔を向けると、スーツの青年……こちらは加賀美と呼んだ方に向かって苦情を受け付けぬようにしらっとした態度で言葉を返す。
「『よぉ、遅かったな』じゃないだろ!? まったく、何やってんだよ……」
 親友と言った間柄なのか、加賀美の苦情の中にも諦めと親愛の情が滲んでいる。一瞬だけ視線を天道から外し、走輔達へと巡らせ……何があったのかを悟ったのか、その顔に苦笑が浮かぶ。
「……何か、既視感を覚えるんだけど、この光景」
「奇遇だな。俺もだ」
「……あ、俺達がはじめて会った時の状況に似てるのか」
――そりゃまたあまり嬉しくない出会い方だぜ――
 心の内で思う走輔を余所に、呼吸を整え終えた加賀美がゆっくりと天道に近付くと、彼の手の中にあるボウルを覗き込む。
「お、今日は豆腐料理か!? 何にする気なんだ?」
「今日は豆腐となめたけの味噌汁だ」
「なんだ、麻婆豆腐じゃないのか? 残念」
「何故お前が、俺の料理を食べる気満々なんだ?」
「良いだろ、偶には!」
 まるで掛け合い漫才のようなやり取りが、路上で展開される。今時ボウルに豆腐を持って歩いている作務衣の男、と言うのもどうかと思ったが、路上で漫才を繰り広げるこの光景もどうかと思う。少なくとも、立ち止まっている以上は通行の邪魔だ。
 まあ、呆然と見ている自分達も、人の事は言えないだろうが。
「何なんだ、この二人は……?」
 不審そうに大翔が呟いた瞬間。彼らはようやく自分達をはっきりと認識したらしい。
 だが次の瞬間、目の前にいた二人の青年の顔が驚きに彩られる。まるで、しばらく会っていなかった知り合いにでも会ったかのように。
「え? 矢車、さん?」
「だが、あの男にしては随分と明るくなったように見えるが」
「じゃあ、まさか……」
 今度は二人が不審そうに顔を顰めて呟いた瞬間だった。唐突に、彼らの真横から、一人の青年が現れたのは。
 ……その人物は、走輔と同じジャケットを着ている。おまけに顔や仕草、黒子ほくろの位置さえも走輔と全く同じ青年。
 そう……もう一人の「走輔」と呼んでも過言ではない存在だった。
「ええぇ!? 俺が、もう一人いる!?」
「え? なになに? 走輔、双子の兄弟でもいたの?」
「まさか、俺に生き別れの双子の兄弟が!?」
 その存在に対し、真っ先に走輔自身が驚き、次に範人がぽかんとした表情で自分の隣にいる走輔と、いきなり現れた「走輔」を交互に見やる。そして大翔は、一瞬だけ驚いたような顔をした物の……すぐに「走輔」から放たれる、この上ない悪意を感じ取ったのか、険しい表情でその「走輔」を見つめた。
「何者だ? 走輔じゃないな?」
 険のある大翔の声に、「走輔」は見下すような視線を大翔達に向け……
「なぁ大翔、邪魔するなよ。俺は……『俺』になるんだから」
 走輔なら絶対に浮かべないであろう、悪意に満ちた笑みを浮かべて言うと同時に、目の前にいた「走輔」の姿がゆらりと揺らめき、変わる。
 人間より、一回りくらい大きいか。全体的にずんぐりした感じの緑色の異形に。何処となくだが、昆虫のサナギのようにも見える。
「うわ、化物!」
「ガイアークの新手か! なら、マッハ全開でぶっちぎるぜ!」
 走輔、範人、大翔が、その異形を自らの敵であるガイアークの「蛮機獣」と認識したのか、それぞれ変身する為のソウル……チェンジソウルを構えた瞬間。彼らの前にいた男二人の方が、僅かに行動が早かった。
 彼らの腰には銀色のベルト、その手にはいつの間にか機械で出来た赤い甲虫と青い鍬形虫が、それぞれの手の中に納まっており……
『変身!』
『Henshin』
 その二人が宣言すると共に、何処からか電子音が響き……その身が、銀色の鎧で包まれる。印象としては、サナギのようだ。
 作務衣の男は青い瞳、黒スーツの男は赤い瞳の戦士に変わり、真っ直ぐにその異形へと駆け出すと、まずは赤目の戦士が飛び蹴りの要領で相手の顔面を蹴り飛ばし、続いて青目の戦士が構えていた銃のような物で緑の異形を撃ち抜く。
 異形は唸り声のような物を上げながら、数歩後ろに下がり……その横に、幻影の「走輔」の顔を映し出すと、その顔が忌々しげに歪んだ。
『畜生……何でこの世界に、カブトとガタックがいるんだよ!』
「何?」
 異形の言葉に、大翔の顔が軽く歪む。
 「この世界」と言う言い方をしたのを考えると、この異形は、このヒューマンワールド以外の世界……マシンワールドやサムライワールド、ジャンクワールドと言ったところから来たと言うのだろうか。
――なら、今戦っている戦士も?――
「この世界、か」
「なあ天道、ひょっとして俺達……違う世界に来ちまった?」
「ああ。どうやら、そのようだ」
 二人の会話を聞いて、やはり、と思う。どうやらこの二人も、ヒューマンワールド以外の世界から来た存在らしい。どこの世界から来たのかは、良く分からないが。
「とにかく、ワームがいる以上、被害が出る前に倒す!」
 そう赤目の戦士が宣言した瞬間。
 電子音が響いた。それも……二人の戦士とは、別方向から。
『Rider Slash』
 その音と共に。どこからか飛んできた光の刃が、走輔に成りすました異形を切り裂き……相手は悲鳴を上げる暇もなく、緑色の爆煙を上げてその場で散った。
「な……何、何なの今の!?」
 範人の驚きの声を聞きながら、大翔は光の刃が飛んできた方……自身の後ろを振り返り、見つめる。そこに立っていたのは、紫の鎧を纏い、同じ色の剣を構えた戦士。その姿はどことなく、蠍を連想させる。
 その戦士の剣から、機械で出来た蠍が離れると……鎧は消え、一人の青年の姿となった。
 その出で立ちは……一言で表現するなら王子。白を基調とした服装に、首元にはビラビラとしたスカーフ。軽く茶の入った髪も、ごく緩やかにウェーブがかかっている。
「そんな、馬鹿な!?」
 いつの間に変身を解いたのか、天道と加賀美が、その青年を信じられないと言わんばかりに……それこそ死人でも見るかのような眼差しで、相手を見つめている。しかし見られている方は気にした様子はない。むしろ、その反応は当然と言わんばかりに苦笑し……
「確かに、俺は『神代剣』であって、『神代剣』じゃない。……俺も、ワームの擬態だ」
 その言葉と共に、先程の「走輔」同様、「神代剣」と名乗った男の姿が、一瞬だけ異形へと変化する。
 先程の緑色の異形とは異なり、今度はスマートな、銀色の蠍を連想させる姿だった。同じ蠍でも、今の姿は生物らしい印象を受けたが、先程の紫色の方は鎧のような機械めいた印象が強い。
「じゃあ、やっぱり……!」
「だが! 俺は俺だ。全てのワームは俺が倒す。……俺自身も含めて。我が友カ・ガーミ、永遠のライバル天道。そして……」
 いきり立つ加賀美を制すように言うと、今度はちらりと「神代」がこちらを見た。
 未だ何が起こっているのかわからず、パニック状態になりつつある走輔と範人、そして冷静になろうとするがやはりパンク状態になりつつある大翔の三人を。
「この世界の戦士。炎神と共に戦うお前達にも、聞いて貰わなければならない。何しろ、この世界の危機……と言っても過言ではない」
「この世界の危機、だと?」
 訝る大翔に、彼は真剣な表情で頷く。今の所、異形とは言え悪意は感じられない。信用しても、良いように思えた。……もっとも、「擬態」と言う言葉が引っかかってはいたのだが。
「だが、まだ話すには早い。爺やが言っていた。急がば割れ間に落ちる、と。もう一人が今、他の面々を集めている。それまで待て」
「お祖母ちゃんが言っていた。急いても事は仕損じるな、ってな」
――それを言うなら「急がば回れ」と「急いては事を仕損じる」じゃないのかな?――
 普段聞く格言とは異なる言い回しで放たれた言葉達に、心の中で冷静に範人がツッコミを入れる。どうやら向こうでは加賀美が自分と同じ事を思っているらしく、軽く頭を押さえて苦笑を浮かべている。
「俺、何か訳わかんなくなって来ちまった……」
 奇妙な空気が漂う中、走輔は頭を抱えて考え込み、範人は持っていた荷物をどうしようかなぁとのんびり思い。そして大翔は、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
 ガイアークとは異なる、何か別種の悪意を……この時彼は、感じ取っていたのかもしれない。


四之巻:真剣なる侍

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