☆仮面ライダーW&救急戦隊ゴーゴーファイブ☆

【第44話:ダブルビクトリー・レスキュー】

 フィリップの示した「最後の一箇所」である廃工場へ到着した纏達の目に映ったのは、小さな少女を抱きかかえた女性が、大きくジャンプをしている所だった。
 その背後には無数のインプスと、それを率いているらしい熔岩の怪物の姿があり、その熔岩の怪物……恐らくサイマ獣であろうそれは、その両の腕から灼熱に燃えた熔岩を生み落とす。
 地に落とされた熔岩は、まるで意思があるかのように彼女達の足元へと広がり、その周囲を圧倒的な熱量で燃やしていく。
「まずい! ナガレ!」
 はっとしたように目を見開いて纏が短く指示を出す。
 それもそうだろう。このまま彼女達が着地をすれば、即座にその体は燃え上がってしまうのは容易に予想出来る。
 指示を出された方は半ば反射的にライフバードを呼び、構成するツールの一つである消火器、ビルドディスチャージャーを構えた。
――ライフバードが来たという事は、やはりフィリップの言う通り、世界の融合が始まっているのか……?――
 自分で呼び出しておいて難だが、ライフバードは元々自分達の基地である「ベイエリア55」に収納されたツール。即ち本来ならやって来るはずのない物だ。
「ビルドディスチャージャー!」
 心の中では訝しく思いながらも、流水はこれもまた反射的にその引鉄を引き絞り、女性達の足元に広がる熔岩を冷やし固める。圧倒的な熱量と、それを冷ますだけの冷気がぶつかり合い、周囲の空気が細かな水で白く濁り、直後女性が着地したらしい、トンと小さな音が響いた。
 それを確認するや、纏達は彼女達を災魔から隠すように立ち塞がり、白く濁った空気の向こうにいるサイマ獣をきつく睨む。
 一方で安堵の表情を浮かべる女性に、祭がくるりと向き直り……
「大丈夫ですか? どこか怪我は?」
「んーん。しょこちゃんが助けてくれたから、へーき」
「私も大丈夫です」
 抱えられた少女に続くように、女性も軽く笑みを浮かべて首を横に振る。
 サイマ獣に対して然程驚いていないのは、この街に時折現れるという「悪」の存在を知っているからなのだろうか。パニックに陥っていない事に安堵しつつ、大門がちらりと首だけを彼女達に向けて逃げるように促した。
「早くその子連れて安全な所へ」
「……ありがとうございます」
 律儀にも女性は頭を下げてそう言葉を返すと、少女を抱えたままこの場から姿を消した。
 これで巻き込まずに済む。そう認識すると同時に、彼らは再度サイマ獣へと視線を向け、問う。
「やい災魔! この街で何を企んでやがる!?」
「この熔岩サイマ獣ラヴァーノが、竜王サラマンデス様に課せられた使命……易々と話すと思うか?」
 くつくつと笑うラヴァーノ。それが合図になったように、インプスがチキチキと特徴的な鳴き声をあげて一斉に襲い掛かってきた。
 それを迎え撃つべく、五人が即座に身構えた……その瞬間。
 エンジン音が聞こえたかと思うと、二台のバイクがインプス達の横から乱入。一団を弾き飛ばした。
「何……!?」
 突然の事に驚き、ぎょっとそちらの方へ全員が目を向ければ、そこには緑と黒に塗り分けられたメタリックなバイクに跨った翔太郎とフィリップの二人と、重そうな剣を荷台に載せた赤いカスタムバイクに跨る「照井」と呼ばれていた男の姿。
 悠然とバイクから降りる彼らに、纏は彼らしからぬぽかんとした表情を浮かべ……
「お前ら……どうしてここに?」
「君達は僕達に依頼をしただろう? 『災魔の居場所を見つけてくれ』、と」
「その依頼は、果たされたはずじゃ……」
「アフターサービス、って奴だ」
 フッと帽子に息を吹きかけ、翔太郎がちらりと横目で、そして照井はずるずると剣を引き摺りながら真っ直ぐにラヴァーノを見やる。
「成程、目撃情報と一致するな」
「超常犯罪捜査課の管轄、という訳だね、照井竜」
「ああ。ドーパントでないらしいと言うのも本当らしいが……この街を守るのは『仮面ライダー』の仕事だろう?」
「ああ。相手が何者だろうと、この街を泣かせる奴は俺達が許さない」
 言うと同時に、翔太郎が左側にそしてフィリップが右側に、それぞれ背中合わせのような形で並び立ったかと思うと、いつの間にか収まっていた細長い端末を見せつけ……
――Cyclone――
――Joker――
『変身!』
 電子音が鳴った直後に宣言。手に持っていた端末を、腰に巻きついたベルトへ挿し込むと、フィリップが挿していた方の端末が、どういった原理なのか翔太郎のベルトへ移動し、閉じていたバックルを翔太郎が開く。
 直後、彼の周囲を風が覆い、翔太郎の顔……正確には両目を通るようにして黒い模様が縦に走り、フィリップの体は意識を失った者のように力なく崩れ落ちた。
「お、おい!?」
 慌てて彼を助け起こそうと鐘が手を伸ばすが、それよりも先に、どこにいたのか亜樹子が彼の体を支え、「ご心配なく」と言ってずるずるとその体を物陰へと運んでいった。
 ……随分と慣れているんだなぁと思っている内に、翔太郎の姿が先にも見た「ダブル」へと変わり……
『さあ、お前の罪を数えろ』
「俺の罪? フン、人間風情がほざきおるわっ!」
 翔太郎とフィリップ、二人の声が響き、それに対しラヴァーノが咆哮で返す。
 そして照井の方もまた、二人の物とよく似た赤い端末を構え……
――Accel――
「変っ身っ!」
 腰の、バイクのハンドルに似た形のバックルに挿し込むや、彼の姿もまた変わった。生物的な印象のダブルとは異なり、金属的な印象の赤い鎧。仮面の中央には青く光る大きな単眼。その上には「A」やメーターの針を連想させるデザインが施されている。
 聞こえた電子音から判断するに、彼は「アクセル」とでも呼ぶべき存在なのだろう。先程までは引き摺っていたはずの剣を軽く振るい……
「さぁ、振り切るぜ!」
 その言葉と同時に、照井は持っていた剣で、ようやく立ち上がったインプスを叩き、再度地面に伏せさせる。
「チキっ!?」
「チキ~」
 叩きつけられ、情けない声を上げるインプス達。だが、同情は出来ない。彼らもまた、マイナスエネルギーによって生まれた、一種の「悪魔」なのだから。
 だが、やはりアンチハザードスーツによる攻撃でない事は大きいのか、インプス達は、倒れはする物の起き上がるのも早い。
「何だ!? この間よりも起き上がるのが早ぇぞ!?」
『これは……恐らく、融合が進んでいるせいだろう。彼らの力が、どこからか供給されているようだ』
 驚く翔太郎の声に、フィリップの声が返る。
 確かに、先だっての戦闘ではダブルでも普通にインプスを倒していた。だが、今は違う。倒しきれていない。このままでは彼らの体力は削がれるだけでやがては倒されてしまう。
 全員がその可能性に到ったのだろう、何の合図もなかったと言うのに、上がった声は同時だった。
『着装!』
 宣言と同時にブレスを展開、そこにあるエンターキーを押下した瞬間。彼らの父である巽 世界モンドが、彼らの体に合わせて作ったアンチハザードスーツが、即座に彼らの体を覆い、五色の戦士へとその姿を変えた。
「ゴーレッド!」
 纏の身を覆うのは、救助活動に特化した赤きレスキューのスーツ。マスクのゴーグル部分は、首都消防局レスキュー隊のロゴをモチーフにした物。
「ゴーブルー!」
 流水の身を覆うのは、消火活動に特化した青き消防のスーツ。マスクのゴーグル部分は、首都消防局化学消防班のロゴをモチーフにした物。
「ゴーグリーン!」
 鐘の身を覆うのは、高層被害対策に特化した緑の飛翔のスーツ。マスクのゴーグル部分は、首都消防局航空隊のロゴをモチーフにした物。
「ゴーイエロー!」
 大門の身を覆うのは、避難誘導に特化した黄の安全のスーツ。マスクのゴーグル部分は、首都警察のロゴをモチーフにした物。
「ゴーピンク!」
 祭の身を覆うのは、救命活動に特化した桃の救急のスーツ。マスクのゴーグル部分は、国立臨海病院のロゴをモチーフにした物。
「人の命は地球の未来! 燃えるレスキュー魂!! 救急戦隊、ゴー、ゴー、ファイブ! 出場!」
 纏の宣言と同時に、災魔達の動きが一瞬鈍る。その隙を突くようにして、翔太郎と照井はインプスを散らし、彼らの側に駆け寄った。
「あんたら……」
「お前ら仮面ライダーの仕事が、この街を守る事だって言うならな、俺達ゴーゴーファイブの仕事は、人の命を守る事だ!」
 纏がそう力強く宣言すると、他の兄弟達もそれに倣うようにしてこくりと首を縦に振る。
 その存在を疎ましく思ったのか、ラヴァーノはギシリと歯噛みすると、苛立たしげに怒鳴り声を上げた。
「ゴーゴーファイブ……我ら災魔の悲願を邪魔する者! 貴様らの存在、そこにいる不可思議な連中諸共、ここで消し去ってくれる!」
 怒鳴ると同時に、再度インプスの群れが彼らに向って襲い掛かる。チキチキと特有の鳴き声を上げ、持っている大型のナイフで攻撃を仕掛けてくる。
 それを時に蹴りで、時に拳で回避しながら、纏は少し離れた位置でこの廃工場を燃やそうとしているラヴァーノに向って声を荒げた。
「災魔! お前らの目的は何だ! 火事を起こして、何を企んでやがる!!」
 廃工場とは言え、火災は立派な災害だ。被害だって当然出る。未然に防ぐに越した事はない。
 どろりとその両腕から熔岩を流しながら、ラヴァーノはくつくつと喉の奥で笑い……
「地上に小型の擬似グランドクロスを作り上げる事で、大魔女グランディーヌ様のお体を完全な物とする儀式よ」
「何だって!?」
「そんな!?」
 ラヴァーノの言葉は予想だにしていなかったものだったらしい。鐘と祭が、悲鳴にも似た声を上げ、マスクの下で目を見開いた。
 一方で翔太郎達は「グランディーヌ」と言う初めて聞く単語に首を傾げる。だが、纏達が抱いた緊張には気付いているらしい。インプスへの攻撃の手は緩めず、側にいた流水に向って声をかけた。
「グランディーヌ? 何者なんだ、そいつ?」
「災魔一族の頭領だ。膨大なマイナスエネルギーの塊で、グランディーヌの完全降臨は、地球に暗黒を齎すことを意味する」
 災魔一族が長、大魔女グランディーヌ。彼女の完全な降臨は、地球上に住まう全ての生き物の滅亡に等しく、「闇の千年史ミレニアム」の始まりとなるだろう。
 そもそも、それこそが彼女の目的である節が強い。破壊衝動の塊とも言える一族だ。
「だが、何故『今』、『風都ここ』なんだ? 小型のグランドクロスを作ると言うだけなら、本来どこでも良いはずだろう」
 仮面の下で顔を顰めつつ、照井が疑問を口にする。
 だが、彼の疑問も最もだ。何故ラヴァーノは「今」になっていきなり「風都」でその儀式を行なう事にしたのか。照井ではないが、それこそ首都でも北極でも良かったはずだし、今更という感も否めない。
「この世界……いや、この街は何しろ、地球のエネルギーが集まる奇異な場所だからな」
『成程。確かに風都は、他の場所よりも地球の記憶が引き出しやすい。地球の記憶を……エネルギーを利用して、そのグランディーヌを完全な形にするには、もってこいの場所と言う訳だ』
 ラヴァーノの答えに、フィリップが冷静に返す。
 纏達にはよく分らないが、おそらくこの風都という場所は、地球の力を引き出しやすい土地なのだろう。だからこそ、ラヴァーノはここで火事と言う形で「簡易グランドクロス」を作り上げようとしているのだろう。
 それが本当に功を奏すのかは分らないが、グランディーヌ降臨という、災魔にとっては重大事だ。嘘を吐いているとは思えない。
「後はここを燃やし、黒き御柱を立てさえすれば、簡易グランドクロスは完成する。そうなれば、グランディーヌ様の完全復活は為ったも同然よ!」
『そんな事、させるかよ!』
 高らかに笑うラヴァーノに、纏と翔太郎の怒声が重なる。
 グランディーヌの復活によって失われる命、そして未来。
 誰もが当たり前のようにあると思っていた「明日」を、理不尽な方法で奪われるような事は、二人にはどうしても許せなかった。
 だから、なのだろうか。二人は一気に周囲のインプスを蹴散らすと、即座にラヴァーノの前まで駆け抜け、その体に拳を叩きつけた。
「ぐっ!?」
 胸元を殴られた為か、ラヴァーノの口からくぐもった悲鳴が響き、数歩後ろへたたらを踏む。
 だが、そこはやはりサイマ獣。即座に体勢を立て直すと、追撃の為に向かって来る二人の戦士に向って自身の手を向けると、そこから灼熱の熔岩を噴き出した。
「おわっ!」
「危ねっ!」
 それを左右に展開する事で回避する纏と翔太郎。不幸にも彼らを背後から追ってきていたインプスが熔岩の餌食となってしまったが、ラヴァーノはさして気に留める様子もなく、再度熔岩を解き放つ。
 だが、今度は二人に向ってではない。
 己の足元に向って、だ。
 放たれた熔岩は赤々と燃えているのに、周囲を焼くでもなく、そして誰かを襲うでもなく、どろりとその場に蟠ると、やがて徐々に盛り上がり……
 やがてそれはラヴァーノと寸分違わぬ形をとった。
「増えただと!?」
「そんなぁっ!」
 驚いたような照井の声と、泣きそうな大門の声が重なる。
 それと同時に増えた方……ラヴァーノ・分裂体が咆哮を上げ、赤く燃えるような瞳を彼らに向けた。
「これぞ我が能力、分裂よ」
「貴様らを血祭りに上げて後、この地に最後の楔を打ち込んでくれる!」
 口々に言うと、本体の方は翔太郎と纏の二人に向かい、そして分裂体の方は残る五人に向って駆ける。
 インプスの群れに乗じる形で駆けて来る分裂体に流水達は意識を向け、即座に武器を構える。
 長兄が「向こう」で本体の相手をしている以上、こういう時に指示を出すのは次兄である流水の仕事だ。
「ショウ、ダイモン!」
 名を呼ぶだけで、何をしろとは言っていない。それでも通じるのは、長年「家族」をやっているからか。名を呼ばれた二人はこくりと頷きを返すと、各々のパーソナルカラーに染められたロープを取り出し、分裂体の腕に巻きつけ、動きを止める。
 突然の出来事に、分裂体の動きが一瞬だけ止まる。だが、その一瞬は流水と祭にとって……そして照井にとっても、充分な時間だった。
 まずは祭のファイブレイザースティックモードによる腹部への突き……スティックボンバーが入り、その直後に流水のゴーブラスターの冷凍弾が両肩を撃ち抜く。
 それと同時に鐘と大門はロープから手を離して相手の拘束を解くと、そのまま二人同時にブイランサーで「X」を描くように胸部を斬りつけた。
「がっ!?」
 流れるような連続攻撃に、分裂体の喉から意図せぬ呻きが漏れる。だが、そこで終わるはずもない。何故なら、この場にはもう一人……仮面ライダーアクセルこと、照井竜がいるのだから。
――Engine――
――Maximum Drive――
「おおおおおおおおっ!」
 持っていた剣に白銀色の端末……エンジンメモリを挿し込むと同時に、その刀身からはバチバチと電気が走り、そのままその刃で分裂体の体を気合と共に斬り裂く。
 だが、その手に残る感触は「斬った」と言う類の物には感じられない。ただ砂の塊に剣をつっこんだ時のような、そんなざらりとした感触だけだ。
 それに照井も……そして端で見ていた流水も気付いたらしい。即座に分裂体から距離を取り、斬ったはずの相手を見つめる。
 すると、相手の体につけたはずの傷が見る間に薄くなり、やがて斬った箇所が分らなくなる程に綺麗な状態へ戻っていた。
「傷が消えた!?」
「アリかよ、そんなの!」
 驚く祭と、苛立たしげに声を上げる鐘。
 熔岩と言う「不定形の固体」であるが故に、傷も即座に消えるのだろう。彼らがそう認識したのと、分裂体が突進してきたのは同時。
 彼らは慌てて散開すると、相手の背に向って再度持っていた武器で切りつける。
 が、やはり結果は同じなのか、その傷はすぅっと消え……
――何だ……?――
 ふと、照井が何かの違和感を覚えたらしい、視線を相手の胴から両肩へと移動させた。
 そこは、先程流水が冷凍弾を打ち込んだ位置なのだが……そこだけ、傷が癒えておらず、黒ずんだ岩のようになっているのが見て取れた。
「……そういう事か」
「何か分ったのかよ?」
「……俺に質問を……」
 小さく呟いた照井の声を聞き止めたらしい鐘が、やはり小さく問いかける。その問いに照井は何かを言いかけ、しかしぐっと堪えると、首を縦に振って言葉を紡いだ。
「奴の肩を見ろ。傷が癒えていない」
「ナガレ兄さんが撃った場所?」
「俺が……?」
 大門と流水も、照井の言葉に反応してその部位を見つめ……やがて、流水には照井が言わんとしている事が伝わったらしい。小さく「ああ」と納得の声を上げるや、即座に自身の持つ冷凍弾を腹部に向けて放つ。
「うぐがっ!?」
 見事に命中したその銃弾に、分裂体の苦悶の声が響く。傷は癒えずに黒ずんだ色を浮かべ、分裂体を苦しめているように見える。
「ナガレ兄ちゃんの攻撃だけが通用するって事?」
「いや、そうじゃない。……固めたんだ」
「奴は熔岩だ。……冷やせば固まる。当然、傷を埋める事も出来ない」
 祭の問いに、流水と照井が淡々と返す。そしてその言葉に、残りの三人は納得したように頷きを返した。
 この場所に辿り着いた時、流水は既にやっていたではないか。女性の足元に広がる熔岩を、冷やし固めるという方法を。
「つまり、冷凍弾で凍らせた場所なら、斬撃も通用するようになるって事だ」
 その言葉を合図に、五人は再び分裂体との戦闘を開始するのであった。

 一方でラヴァーノの本体と対峙していた纏と翔太郎。
 こちらもまた、「固まらせてから攻撃」と言う手段で相手にダメージを与えていた。
 だが、流石は本体と言うべきか。圧倒的な熱量を誇るその体は、冷え固まっても即座にその熱量で改めて熔岩と化し、つけた傷を塞いでいく。
「限がねぇな……」
「諦めんな! こう言う時こそ、気合で乗り切れ!!」
『無茶を言うね。策を立てた方が良いと思うけど』
「そんなモン立ててる時間なんかねえっ!」
 ぼやく翔太郎に纏が諭し、その精神論にフィリップが突っ込むや再度纏が怒鳴りつける。
 勿論、翔太郎達も理解している。時間を置けば、相手は簡易グランドクロスを完成させるであろう事を。そして、グランディーヌとやらが完全な形とやらになるであろう可能性が高い事も。
 ただ、そのグランディーヌに対する危機感が、纏よりも薄い事は否めない。直接会った事のない存在に対して抱く恐怖など、どうしても瑣末な物にしかならないのが人間という生き物だ。
「どうする、フィリップ? 気合云々はさて置き、固まらせるのは無理となると……」
『簡単な事さ。彼の再生能力を上回る力、あるいはスピードで攻撃すれば良い』
 フィリップがそう言い切ったと同時に、彼らの頭上をクルル、と黒っぽい色合いの、鳥に似た機械が旋回した。
 纏は知らない。それが、翔太郎達を真の意味で「二人で一人の仮面ライダー」へと変えるツールである事を。
「な、何だ!?」
「来たな、相棒」
 驚く纏を尻目に、翔太郎はその「鳥」を掴むと、己のベルトにセットし……
――Xtreme――
 電子音が響き、翔太郎の姿が変わる。
 それまでの緑と黒の二色を押し除け、その中央にキラキラと光る銀色が入り、そこから滲み出るようにして盾と剣が翔太郎の手の内に収まった。
「また変わった!? どうなってんだ?」
「そうだね……『気合』と言っておこうか?」
「そしてこれは、俺と相棒を真につなぐ格好って訳だ」
 それまでくぐもっていたフィリップの楽しげな声が、今はクリアに響く。
――成程、気合で色が変わるのか――
 と、かなり本気でフィリップの言葉を受け止めたようだが、釈然としない部分もかなりある。
 とはいえ、その妙に派手派手しい格好のダブルには、その格好に見合った力量を持っているらしい事は理解出来る。そして、その力量はおそらく「ラヴァーノの再生能力を上回る力」である事も。
「さて、それじゃ行くぜ」
 翔太郎が言うと同時に、持っていた剣で相手の体を斬りつける。その傷はラヴァーノの体にざっくりと一本の筋を作り、彼の身を構成する熔岩はその傷を癒さんと流れ落ちるが、そうはさせじと纏の強化した右拳……Vモードパンチが傷を抉るように決まった。
「うぐあっ!」
 その身が熔岩とは言え、サイマ獣である事には相違ない。当然、痛覚はあるらしく、再びその口から悲鳴が漏れた。
 そこへ再度、翔太郎による……いや、翔太郎とフィリップによる斬撃が加わり、ラヴァーノの身には大きな「X」の文字が刻まれた。
「……ば、馬鹿な……っ! 熔岩で出来たこの俺の体に、傷が……っ!?」
 慄くラヴァーノの視界の端には、既にボロボロに崩れかけている己の分身の姿。そして眼前には、「V」と「X」の戦士。
 流水達の様子に、纏も気付いたのだろう。いまひとつ決め手に欠けるらしく、苦戦している弟達に視線を送り……やがて何を思ったのか、彼は視線を照井に固定すると、そのまま彼に声をかけた。
「そこの赤いバイク!」
「……アクセルだ!」
「どーでも良いよそんな事は! こいつを使え!」
 そう言って纏が放り投げたのは、ライフバードを使用する為のツールであるレイザーグリップ。本来なら、アンチハザードスーツを着ている者……つまり巽兄弟にしか扱えない物だ。
「兄さん!? アンチハザードスーツもないのに!?」
「そこは気合で何とかしろ!」
「なる訳ねえだろ。もう本当にあの兄貴どうにかなんないのかよ!?」
「なると思うの、ショウ兄さん?」
「ならないよね。マトイ兄ちゃんずっとああだもん」
「……冷静なツッコミを入れんなダイモン。腹立つ」
「痛っ! 僕だけじゃないのに!?」
 どう使う物なのか分らずにきょとんとする照井を置いて、兄弟で漫才めいたやり取りを始める下三人に、流水は呆れたような溜息を吐き出し……
「とにかく、今は試してみよう。異世界と融合しかかっている今なら、何とかなるかもしれない」
 そう言ってライフバードを呼ぶと、ブレイカーモードにセットし、中央……普段なら纏がいるべき場所に、照井を据えた。
 ろくな説明はしていないが、引鉄を引けば良いとだけ言ってある。照準合わせと出力調整は、こちらで何とかするしかない。
 思いつつ、流水はぐっと足と腕に力を込め……
『ターゲット』
『ロックオン!』
 いつも通りの宣言の後、照井の腰の部分から「勝手に」音が鳴った。
――Accel――
――Maximum Drive――
 照井の腰に挿しているアクセルメモリ。その中に記録されている「加速の記憶」が、照井の鎧を通じ、ライフバードの中へと流れ込んでいく。
 それを感じながら、照井は仮面の下でふ、と小さく笑い……そして、無意識の内に言の葉を紡いでいた。
「アクセルカラミティ・ブレイカー!」
 言葉と同時に引いた引鉄。そしてライフバードから放たれる、いつもよりも更に加速された光線。
 やがてそれは、分裂体の体を貫き……「それ」をただの土塊へと返した。
「絶望がお前のゴールだ」
 そしてその様子を見届けた纏達はと言うと。こちらもまた、ラヴァーノに向かって最後の仕上げに入った。
――Cyclone――
――Heat――
――Luna――
――Joker――
――Maximum Drive――
 四本同時のマキシマムドライブが発動し、翔太郎の持つ盾、プリズムビッカーから七色の光が放たれる。
 同時に纏もまた、ブイランサーの穂先にエネルギーをチャージさせ、ラヴァーノに向って一息に駆け抜けた。
 それに呼応するように、プリズムビッカーから放たれる光が纏のブイランサーに収束、彼の穂先のエネルギーが赤から七色へと変化し……
『ビッカービクトリーイリュージョン』
 纏、翔太郎、そしてフィリップの三人の声が重なり。ラヴァーノの体に、七色の「V」が二つ、まるで「W」を描くかのように刻まれた。
「そんな……そんなっ! こんなはずが……こんな、はずがぁぁぁぁっ!!」
 決して癒えぬ傷を穿たれたラヴァーノは、それでも己の受けた攻撃など信じられないとばかりに空を掻き……
 やがて大きな爆発を起こし、この世から……否、この世界から完全に消え去り、その後に残るのは「X」と「A」、そして五人の「V」だけであった。


第43話:Rな兄弟/地球の未来

終焉、そして元凶
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