☆未来戦隊タイムレンジャー&仮面ライダー電王☆

【Case File39:未来の使者】

 竜也達がおかしくなった理由を聞きだすべく、ユウリとシオンは未だおかしいままの竜也と、現れたハナと呼ばれた少女と、良太郎と呼ばれていた青年、そしてシオンに「憑いていた」と言う紫色のドラゴンのような異形を引き連れ、トゥモローリサーチの事務所兼彼らの家に戻った。
 が。
――おかしいわね――
 誰もいないはずの事務所の中に、灯りが点っているのだ。おまけに中からは美味しそうな料理の匂いまで漂ってきている。全員で仕事に出ていた以上、電気を点けるのは、青いミミズクのような形をしたナビゲーターロボ、タックくらいの物。
 しかし彼は先にも述べたようにミミズク型をしている為、電気を点ける事はできても料理までは出来ない。と言うか、電気を点ける必要も、おそらくタックにはないだろう。
 考えられるのは、何者かが勝手に上がりこんで、勝手に料理を作っている場合だ。それならドモンの恋人である森山ホナミか、竜也の親類縁者か、あるいは……これはあまり考え難い事ではあるが……竜也の「友人」である滝沢直人か。
 それが誰であれ、留守中に勝手に上がりこまれるのは気持ちの良い物ではない。
 軽く顔を顰め、ユウリはガチャリと応接間の扉を開ける。頭の中で、いくつか文句を並べて。
 ……だが。それは、中にいた存在を目に止めた事で、完全に吹っ飛んだ。ついでに足もぴたりと止まり、後ろを歩いていた良太郎が自分の背に思い切りぶつかったが、目の前の光景を思えば、それは果てしなくどうでも良いような気がする。
 来客用テーブルの上には、豪勢とも言える炊き込みご飯。横にはお吸い物が置かれており、出汁の効いた良い香りがしている。事務所を開けた時に漂ってきた香りの元は、間違いなくこれだろう。そしておかずには普段よりもやや白っぽい色合いのハンバーグが、大根おろしを添えた状態で鎮座ましましている。
 何と言うか、美味しそうだ。物凄く。
 いや、別段飢えている訳ではないし、普段の食事も充分に美味しい。だが、目の前に並ぶ料理はそれを遥かに上回る輝きを放っている。
――……って、そうじゃないでしょう、私!!――
 今にも鳴き出しそうな腹の虫を押さえ込み、ユウリは軽く頭を振ると、それを用意している存在に目を向ける。
 相手もこちらの視線に気付いたのだろう。あ、と小さく声を上げると、その場でぺたんと正座をし……
「お帰りなさい。あ、お台所勝手に借りちゃいました」
 エヘへ、と。何故か照れたように「それ」が自身の後ろ頭をかきながらそう言った。
 どこから突っ込めばいいのだろうか。勝手に台所を使われた事、材料はどこから用意したのか、いつからここにいるのか、その薄ピンクのエプロンは自前なのか、そもそも何の用事でここに来たのか、そして何より……何故、鴉天狗のような格好の異形なのか。
 疑問の多さにユウリの顔はますます歪む。仮に目の前の鴉天狗がロンダーズの一員であるならば、タックがとっくに何らかの処置をしているに違いない。だが、騒ぎ立てていないし連絡もして来なかった事を考えると、彼はロンダーズではないのだろう。と言うか、何故かタックはずっとカウントダウンをしていて、敵愾心を抱いている様子もない。
 シオンも同じ事を思ったのか、きょとん、とその異形と机の上の料理を見つめ……しかしユウリとは対称的に、ぱあっと顔を輝かせると、「彼」に駆け寄るようにして口を開いた。
「凄いです! これ、全部あなたが作ったんですか?」
「うん。お口に合えば良いんだけど……あ、まだ白米は蒸してる状態だから、あとちょっとだけ待ってね」
 純粋に感心しているのだろう。シオンがキラキラとした眼差しで異形を見つめ、その目を真っ直ぐに見つめ返しながら異形が再度照れたように言葉を返す。
 そんな彼を呆然と見つめるユウリの後ろから、竜也達もひょいひょいと顔を覗かせ……そしてその異形を見つけたアヤセが、少し驚いたような表情で声をかけた。
「あれ? オデブちゃんじゃない」
「オデブじゃなくて、デネブです」
「……三、二、一、零。……デネブ殿だけでなく、私もいます」
「んん? 何や?」
 鴉天狗本人曰くデネブと言うらしい彼を気に止めず、どかりとソファに腰を下ろしたドモンが、不思議そうな表情で、声をあげたタックを見やる。
 そんなタックを見た紫の異形……良太郎曰くリュウタロスと言うらしい彼が、ぱあ、と目を輝かせてタックを抱え上げ、踊るようにその場でくるくると回る。
「あはは! 凄い凄い! こいつ喋った!」
「タックは僕達の仲間です。色々手伝ってくれるんですよ」
 シオンとリュウタロスは、帰る最中に随分と気が合ったらしい。
 元々シオン自身が異星人である事もある為か、異形にも差別をしない。それがリュウタロスとの交流を深める要因の一つでもあるのだろう。
 ……ユウリにとっては、脅威でしかないのだが。
 だが、持ち上げられたタックには奇妙な違和感がある。それは、今の竜也達と同じような。少なくともタックは、自分の事を「私」ではなく「ボク」と言っていたはずだが。
 そんなユウリの疑問を感じ取ったのか、「タック」はパタパタと羽根を羽ばたかせ……
「いえ、タックではなく、テディです。何故か、この中に入ってしまったようで」
「テディって……て、天丼~!? 何だってそんな……鳥だか何だかわかんねぇ奴の中にいるんだよ!?」
 心底困ったような、いつもより低めのタック……否、本人曰くテディなる者の言葉に、竜也がいつもと同じくらい大袈裟に指をさして声を上げる。良太郎とハナも、驚いたように目を剥いている事から、どうやらとんでもない事になっているらしい。
 くらり、と眩暈がするのを感じながら、ユウリは何となく状況を理解した。
 シオンにリュウタロスが「憑いた」時もそうだったが、今の竜也達三人は、普段とは少し出で立ちが異なっている。
 竜也は妙に二の腕が発達している上に、髪が逆立っているし見開いた瞳の色も赤い。アヤセはペテン師のような笑みを浮かべ、普段はかけていないはずの黒縁眼鏡の奥で細められた瞳が青く光っている。ドモンに到っては、何故か髪が腰まで伸び、真っ直ぐに見据えてくる瞳の色は金に染まっていた。そしてタックも、外見に大きな差異はないが、ボディの色がいつもより青みが増しているような気がする。
 つまるところ、竜也達にも「憑いて」いるのだろう。リュウタロスやデネブのような異形が。
 頭痛を堪えるようなユウリに気付いたのか、ハナはめいめいに寛ぐ竜也達をギロリと睨み付ける。その視線を受けた三人が、ぎくりとしたように顔を引き攣らせたように見えるのは、シオンの気のせいではないだろう。
「あんた達、いい加減その人達から離れなさい!」
「ちっ。しょうがねぇなぁ」
 ハナに言われ、毒吐くように竜也がらしからぬ口調で吐き捨てた瞬間。
 四人……と言うより三人と一体の内側から、赤、青、金、藍のエネルギーのような物が飛び出し、次の瞬間にはそれが形をとった。
 竜也から飛び出したのは赤い鬼、アヤセからは水色の亀、ドモンからは金色の熊、そしてタックからは藍の鬼……らしき異形。
 それらが離れるや、竜也達は一瞬ぼんやりと宙を見つめ……やがて意識がはっきりしだしたのか、はっとしたように辺りを見回す。
 そして、ようやくその視界に異形達を納めたのか、ぎょっとしたように目を見開き、すぐさま用心したように身構えた。
「勝手に体を借りちまったのは悪かったけどよぉ。そんな警戒する事ねぇだろうが」
 拗ねたような声で、赤鬼は言うが、竜也達が警戒しているのはそんな事ではない。と言うより、体を貸した記憶がすっ飛んでいるのだから、それを警戒などしようがない。
 一方で亀の異形は、竜也達が警戒する理由に心当たりがあるらしい。はあ、と呆れたような溜息を一つ吐き出すと、ぽんと赤鬼の肩に手を置き……
「ねえ先輩、自分の顔が怖いって自覚、ある?」
「あぁ? 顔ったって、今は良太郎に………………あ、やべ」
 「良太郎に」何なのか。その辺りの事はわからないが、赤鬼の彼も、流石に自身の「いかにも凶悪です顔」の事に思い至ったらしい。ペタペタと自身の顔を触り、そしてやおらばつの悪そうな顔……と言っても表情は変化していないので本当はどうなのか分らないが、とにかくそんな風に見える仕草で、小さく悪ぃと呟いた。
 よく見れば、シオンの隣には先程見た紫のドラゴンの異形が、タックを抱えてくるくる回っている。
 抱えられているタックにしてみれば、迷惑この上ないだろうが、そんな事はお構いなしと言った風だ。
 そんな彼らを困惑の眼差しで見つめ……ようやく竜也が絞り出した言葉は、ユウリ達と最初に出会ったのと同じ言葉だった。
「……あんた達、何者?」

 そして数分後。良太郎とハナ、そして彼らの後ろに立っている四人の、イマジンと呼ばれる異形から一通りの説明を受けた竜也達は、ただ呆然と顔を見合わせるだけだった。
 それでも箸が止まらないのは、単純にデネブの用意した食事の美味しさ故だろう。
 過去を変え、現在も未来も変えて自分達の時間につなげようと企む異形、イマジン。そしてそれを阻止する為に戦う者、電王とゼロノス。
 そしてイマジンでありながらも、良太郎達の仲間として共にいるのが、先程竜也達に「憑いた」目の前の存在……モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、デネブ、テディだと言う。正確には色々と差異があるらしいが、それを説明されても理解し切れない。とにかく、仲間だとさえ分っていれば良いらしい。
 イマジンの内の殆どは、彼らが倒したらしいのだが……中にははぐれイマジンと呼ばれる者達もいて、それがちょくちょく悪さをしているらしい。
 その内の一体が、先程の狸……ラクーンドッグイマジンなのだそうだ。
「イマジンは、契約者の願いを叶えて、契約者がもっとも強く思う時間に飛ぶ」
「そして、その時間を自分の物にするんです。……契約者の体を乗っ取って」
「それを防ぐのが、あなた達って訳ね」
 ユウリの言葉に、ハナと良太郎がこくりと頷く。
 時間を護る、と言う意味では自分達タイムレンジャーに似ていると思いながらも、竜也はデネブが用意したと言うハンバーグを口に入れる。タマネギやニンジンの代わりと言うように、何故か枝豆が入っているが、それもアリかもしれない。
 和風ハンバーグなのか、付け合せの大根おろしや醤油ベースのソースもよく合う。
「あ、これ美味い」
「本当か? 嬉しいなぁ、初めて作ってみたんだ、豆腐ハンバーグ」
「えぇっ!? これ、お豆腐なんですか?」
 ポツリと漏れたドモンの言葉にさらりとデネブが返し、それに衝撃を受けたようにシオンが目を開く。
 その脇ではテディと、先程まで彼に憑かれていたタックが、コンピュータにアクセスして先程のロンダーズのデータを画面に映し出していた。
 ロンダーズから出てきたと言う事は、おそらく先程の「DETH」を連呼していた彼が「契約者」なのだろう。何で捕まったのかを知る事が出来れば、イマジンやロンダーズの悪行が行われる前に先回りできるかもしれない。
「ヘルユーロ・リーマン。ヘルズゲートの囚人で、リーマン三兄弟の長兄だ」
「……何か、ものすごーく破綻しそうな名前だよねぇ。色々と」
 やれやれと言いたげに、ウラタロスが声を出す。何がどう破綻しそうなのか、竜也にはよく分らないが……ウラタロスもイマジンだ、自分の知らない「何か」を知っているのだろうと思い、声には出さない。
 それにしても、ヘルズゲート囚と言えば特に危険で凶悪な犯罪者だったはず。終身刑を下されるほどの存在だ。
「リーマン三兄弟は、人間をカードの中に閉じ込めて様々な地域や惑星に奴隷として売っていた奴隷商人だ。特にヘルユーロは人身売買だけでなく、臓器売買の為に何百人もその手にかけている」
 タックの言葉に、竜也達の表情が険しくなる。
 「人の命は地球の未来」と言うのは先日共に戦った戦士達の言葉だが、その未来を奪うような真似は、竜也達にはどうしても許せない。
 自分の明日くらいは、自分で変えたいから。
「そもそも、どうして今更この時代に、イマジンなんて連中が来たんだ?」
 ポツリとアヤセが呟きを落とす。あの時ラクーンドッグが現れなければ、今頃はヘルユーロを逮捕できたはずだ。今までロンダーズと戦ってきたが、イマジンが現れたと言う事例はない。言葉通り「今更」だ。
 それに言葉を返したのは、真っ直ぐに背筋を伸ばしたテディだった。
「オーナーや駅長の話では、様々な歴史の……いえ、世界の『融合』が、今回の一件を引き起こしたのだそうです。今、侑斗さんと幸太郎が、原因を調べています」
「僕達の他にも、この世界の別の時代でやっぱり同じような事が起こっているらしくて……」
「ちょ、ちょっと待って。この世界? 世界の融合? 何それ?」
「僕知ってます。多重世界論ですね」
「要するに、異世界の事だ。ボク達の住むこことは違う世界。それが、今ここにいるボク達の世界とぶつかり合い、混ざり合ってしまった……そう言う事なんだろう」
 さらりと放たれる言葉についていけないのか、竜也が慌てたように待ったをかける。彼と同じように、今ひとつ理解しきれていないのか、ドモンも渋い顔で首を傾げている。
 そんな彼らをフォローするかのように、シオンとタックが軽く言葉を足す。
「つまり……本当ならイマジンやあなた達はこの時代……いいえ、この『世界』に来る事は出来なかった」
「だが、何らかの要因で壁が壊れて、こっちに来るようになったって事か」
 かちゃ、と箸を置き、皿の上の料理を綺麗に平らげたユウリとアヤセが、深刻な表情で声を落とす。
 過去を変える事の危険性は、彼らもよく知っている。一つの事象が百年、いや千年先では大きなズレとなる事もある。事によっては人の生死にかかわる事にもなる。
 それが今、「融合」と言う形で起こっている。勿論、彼らの記憶の中にそんな出来事は存在しない。
 ……二つの、全く異なる世界がぶつかり合ったらどうなるのか。その結果もたらさせる「未来の改変」は、自分達の知る三十世紀をどう変えてしまうのか。いや、そもそも……変わってしまった未来は、自分達の存在を認めるのか。
 ぞくりと、ユウリ達の背に冷たい物が駆け抜けた瞬間。バン、と勢い良く扉が開き、二人の青年が転がり込むようにして入ってきた。
 二人共良太郎と同い年くらいだろうか。その顔に、妙に焦ったような色が浮かんでいる。
「テディ、祖父ちゃん! イマジンの居場所が分った!!」
 言ったのはやや垂れ目気味の青年。そしてその視線の先には、テディと良太郎。
――祖父ちゃん?――
「今回はかなりやばい感じだ。デネブ、お前も……って、何、やってんだお前は?」
「え? いや、皆さんにご飯を。あ、侑斗も食べる?」
 米櫃の前で正座して、どこから取り出したのか、鷲の模様の入った茶碗と言葉を返すデネブに、今度は茶色い髪の青年……侑斗と言うらしい彼は、にっこりと笑うと……直後、デネブに向かって関節技を極めた。その傍らではドモンが「まだ甘いな」とか言いながら侑斗に関節技の手ほどきをしている。
 どうやら格闘家としての何かがうずくらしい。
「…………デネブおじさん達はこの際放置しておくとして、とにかく来てくれ祖父ちゃん。契約者もイマジンも、とんでもない連中なんだ」
 あえて意識から外したのか、垂れ目の青年は良太郎に向って再度言葉をかける。その声に焦りが混じっているのは、やはりヘルユーロとそのイマジンであるラクーンドッグの危険性を知っているからだろう。もしかすると、自分達よりも詳しい事を知っているのかもしれない。
 ……しかし、何故。良太郎を祖父ちゃんと呼ぶのだろうか。
 軽く首を傾げつつも、それを問うている暇はないと感じたのだろう。扉に手をかけ、外に出て行く彼らを追いながら、ユウリも侑斗を指導しているドモンに向って叫んだ。
「私達も行くわよ!」

 ヘルユーロとラクーンドッグは、トゥモローリサーチから程近い場所にいたらしい。ドン、と腹に響くような低い音が聞こえたと思うと、直後に人々の悲鳴が聞こえる。
 時折チラチラとオレンジ色の炎が浮かんでいるところを見ると、どうやらラクーンドッグが何かをしでかしているらしい。
「モモタロス、行くよ!」
 その様子に真っ先に反応した良太郎が、短くモモタロスに声をかける。同時に、彼は腰に銀色のベルトを巻きつけると、黒いパスケースのような物を取り出した。
 それが何を意味しているのか、竜也には分らない。だが、先程まで竜也に憑いていたモモタロスには分ったらしい。嬉しげに肩を揺らすと、真っ直ぐに良太郎に向って走り……そして、良太郎に憑いた。
 そして「彼」はベルトのバックル部分に持っていたパスケースをかざし……
「変身」
『SWORD FORM』
 宣言の直後に響く、軽快な音楽。それと同時に良太郎の体を「鎧」が覆った。
 自分達のスーツとは、あからさまに違う。仮面は割れた桃を連想させ、胸部には赤い装甲、手の持っているのは剣だろうか。
 その彼がラクーンドッグの前に立つと、ビシィッと自身を親指で指し示し……
「俺、参上!」
 ばっと大きく腕を広げ、見得を切る様な形で名乗る。……これを名乗りと言っていいのかはさて置いて。
「なんDETH?」
「げっ、電王!?」
 ラクーンドッグの方は電王を知っているのだろう。忌々しげに声を上げた。
 足元に転がる、無数の「ヒトの皮」を蹴り飛ばして。


第38話:時空を超えて、俺参上!

第40話:TIME、タイム、時間!
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