☆百獣戦隊ガオレンジャー&仮面ライダー龍騎☆

【Quest35:騎士が、吠える!!】

「彼女は一体? それに、これは……」
 ホワイトが赤と黒の戦士に助けられていた頃。それを見つめている一人の青年がいました。しかしどういう事なのでしょう。青年が見つめているのはバイクのバックミラーであり、彼女がいるのはその鏡の中。
 そう。ホワイトは、鏡の世界へと引きずり込まれてしまっていたのです。そしてこの青年は、その事を知っているのでしょうか。軽く顔を顰めながら、青年は手元にある赤紫色のカードケースと、三面鏡の近くで拾った「ホワイトのGフォン」を見下ろしています。
 しかし、何を思ったのでしょうか。唐突に青年はその二つを軽く握ると、周囲の風の流れを感じ取るように目を閉じて集中しはじめたのです。その様子は、風の音から何かを感知する時のガオシルバーと、同じ雰囲気を持っています。
「『五つの虚実が一つとなって、邪悪な衝動を駆逐する』……?」
 風から何を聞いたのか、自分でも不思議そうにそう呟くと、青年はもう一度バイクのバックミラーを覗き込み……
「……俺の占いは当たる」
 小さく、誰にという訳でもなくそう呟きます。しかし次の瞬間。そこに、赤い顔の「鬼」の姿が映りこんだのです。
 それが「鏡の中の世界」ではなく、こちら側にいる存在だという事に気付いたのでしょうか。青年が反射的に右へ避け、それと入れ違うかのように「鬼」の持っていた「釘の刺さったバット」が、それまで彼の体があった場所目がけて振り下ろされたのです。
 当然、バットは青年ではなくその向こう、彼が乗っていたバイクに直撃。ごしゃっと音を立ててそれを破壊してしまいます。
「Wao! 良い勘してるNa。流石、必ず当たる占い師Da」
「……何者だ?」
「それはNameを訊いているのKa? それとも種族としての俺Ka?」
「両方だ」
「OK。名前は鬼宿。種族は……今は、デュークオルグをやってRu。ちなみにこいつは俺のお気に入りの釘バットだZe」
 ニヤリと「鬼」……鬼宿は笑ってそう言うと、バットで自分の肩を軽く叩きながら答えました。ですが、青年は鬼宿の言葉の意味が理解し切れなかったのでしょうか。軽く眉を顰め、目の前の相手をきつく睨みつけます。
 一方で鬼宿はそれを気にしている様子もなく、自分の額の角をするりと撫でると、耳まで裂けたその口の端を更に吊り上げ、楽しそうな声で青年に向かって囁くのでした。
「かわした褒美に良い事教えてやるYo。お前らが巻き込まれてRuこの件の、元凶の事をNa」
「元凶、だと?」
「Yes。世の中の不思議な事は、往々にして何かしらの元凶が存在するのが、世の理って奴Da。そして今回の元凶と、それにつるんでる奴ってのが……」
 ニィと笑った鬼宿の口から出た名前は、青年にとって信じ難い物だったのでしょう。ぎょっと目を見開き、声にならない声を上げて鬼宿の顔を見つめ返すのです。
「馬鹿な。あの人が、元凶だと!?」
「正確には、奴は『元凶』の手伝いDa。信じる信じないはお前の自由だZe、手塚海之。だが……有言不実行は多いが、嘘は吐かねぇのGa俺の信条Da。まあ、俺の存在その物が嘘みたいだけどNa! Hahaha!」
「……それを、自分で言うのか」
「自覚してるからNa。さて、閉じ込めるのも飽きたSi、あっちにはライダーが五人いないと困るかRa……ここらでお前をあの連中の所に送ろうKaと思うんだが、良いよNa?」
 企み顔のまま、鬼宿は青年に向かって妙な爽やかさすら感じさせる声で言うと、訝る青年をよそにパチンと指を鳴らします。
 その瞬間、今まで粗大ゴミの中に捨てられていた三面鏡がばくんと開き、何と、声を上げる暇すら与えず、青年の姿を飲み込んでしまったではありませんか。
 それはまるで、サンメンキョウオルグにホワイトが吸い込まれてしまった時の様子にも似て……やがて、こちら側から青年の姿が消えると、再びその三面鏡は貝のようにその口を閉じてしまいました。
「……閉じ込めておKu、とか言っておきながらこの行動。後でEstrellaにどやされるNa」
――でも、一応これでも儲けは出てる訳だし、GoodとするかNe――
 残った鬼宿は、心の中でのみ呟いて……やがて、その姿を消してしまったのでした。

 一方、サンメンキョウオルグ達と対峙するガオレッド達の方は。
 唐突に現れた二人の青年を、困惑混じりに見つめています。それもそのはず、蛇を連想させる服装の青年は、「イライラする」と繰り返してサンメンキョウオルグを殴りつけ、彼と一緒にいたスーツの青年は口元に不思議な笑みを浮かべて、それを傍観しているのです。
 更に不思議なのは、彼らが手に持っているカードケースのような物から「ガオの宝珠」に似た力を感じられる事でしょうか。
 ですが、ヤバイバもツエツエもその事には気付いていないのでしょう。心底苛立たしそうにその青年達を睨みつけ……ですが、逆に蛇の方の青年に睨み返されると、ひぃ、と小さな悲鳴を上げて互いに抱き合うのでした。
 今まで出会ったハイネスデュークなどよりも、余程邪悪な衝動に満ちているその人間に、恐れを抱くのも当然なのかもしれません。
 ガタガタと震える三人のオルグ達と、不敵かつ邪悪な笑みを浮かべる青年達を交互に、そして困惑したようにレッド達は見比べ……ふと、サンメンキョウオルグの震え方がおかしい事に、ガオイエローが気付いたのです。
「レッド、あいつだけ震え方がおかしくねぇか?」
「何だって?」
 イエローに言われ、レッドがサンメンキョウオルグに目を向けた、まさにその瞬間。
「う……うっぷ。吐く。あ、何か吐く。出てくる、鏡から出てきちゃうよ!?」
 サンメンキョウオルグが叫ぶように言うと同時に頭部が開き、そこから見知らぬ三人の「騎士」が、転がるようにして現れたのです。
 一人は赤い龍、一人は闇色の蝙蝠、そして一人はくすんだ色の虎でしょうか。特に虎の騎士はよろりとその場でよろめいて、他の二人に支えられるようにして立つのがやっとといった様子です。
 不思議そうなレッドたちとは違い、スーツの青年は訝しげに、そして蛇の青年はニヤリと楽しげな笑みを浮かべて見ているではありませんか。どうやら彼らは、現れた騎士の事を知っているようです。
「あらら。何でおたくらがそこにいるの? しかも、英雄坊やは未契約かな?」
「……あれ? 北岡さんに……浅倉?」
 スーツの青年……北岡という名らしい人物の声に、赤い龍の騎士が驚いたような……しかしどこか嬉しそうな声を上げると、その腰に付いていたベルトのバックルを引き抜いたのです。それに倣うように、蝙蝠の騎士と虎の騎士も「変身」を解き……
 そして現れた顔に、ガオレンジャーは驚きを見せたのです。
「ホワイト! 無事だったんだな!」
「あ……皆!」
「げぇっ! ガオホワイトだとぉ!?」
「どうやってあの空間から出て来たのよ!? それに、そいつらは一体!? 今の格好は何!?」
 そう。現れた虎の騎士に変身していたのは、先程サンメンキョウオルグに吸い込まれてしまったはずのガオホワイトだったのです。
 レッドのかけた声に、彼女は満面の笑みを浮かべ……しかしすぐに、自身の置かれている状況を察したのでしょう。振り返ると、よろめく足を一生懸命に振り上げ、未だうんうんと唸っているサンメンキョウオルグを蹴り飛ばすのでした。
 本来ならば、いつも通りの「ガオホワイト」として戦いたい所。ですが、手元にGフォンがない以上、それは不可能と言えます。ならばと、彼女は真っ直ぐに顔を上げると、サンメンキョウオルグの方へ向き直り……
「変身!」
 サンメンキョウオルグに映りこんだ自身から、ベルトが現れたのを確認すると、彼女は先程解いたばかりの変身をもう一度行ったのです。
 重い斧はその場に捨て置くと、驚く仲間や助けてくれた騎士達を尻目に、未だなお呻くサンメンキョウオルグへ向って駆け出し……
「させないわよ、小娘!」
「きゃあっ!」
 勢い込んだものの、彼女とサンメンキョウオルグの間に入ったツエツエに邪魔をされ、その杖の一振りで大きく吹き飛ばされてしまったのです。
「ホワイト!」
「ほーっほっほっほっほっほっほ! いつもより弱いんじゃなぁい、子猫ちゃん?」
「なぁんだ、見掛け倒しじゃねえか。心配して損したぜ」
「馬鹿か? モンスターと契約を交わしていないその状態で、ロクに戦える訳がないだろう。戦えないならどけ。イライラするんだよ」
 心配の声を上げる仲間。そして嘲笑うヤバイバとツエツエ。そして彼女の前に、タイガーバトンを差し出しながら言う、浅倉と呼ばれた青年の声に、ホワイトは仮面の下で唇を噛み……
 そしてふと、浅倉の言葉を反芻するのです。
「モンスターと、契約……」
 そう言えば、龍の騎士も蝙蝠の騎士も、どちらも彼に付き従う獣がいたのを記憶しています。そういった獣の存在がいるからこそ、彼らは本来の力を発揮しているのだとしたら。
――あたしも、契約すればいいの?――
 そんな考えが浮かんだのが見て取れたのでしょうか。北岡が、フッと冷笑を浮かべ、彼女の背に声を投げたのです。
「ただし、契約したら戦い続ける事になるよ? お嬢ちゃんにその覚悟があるって言うなら、俺は止めないけどね」
――戦い続けるなんて、そんなの……――
「そんなの、Gフォンを受け取った時に、とっくに覚悟は出来てるもの! だから……ガオタイガー、お願い! もう一度あたしに力を貸して!!」
 天を見上げ、空に浮かぶ天空島にいる彼女の相棒、ガオタイガーに届くようにと祈りを込めた声で叫んだ瞬間。彼女の腰についていたデッキから、一枚のカードが飛び出し、天空島にいたガオタイガーが地上へ降臨、ガオと、いつもより一際大きな声を上げたのです。
 「CONTRACT」と書かれたそのカードは「ADVENT」と名を変え、ホワイトの鎧の色もそれに応じたように色を変え始めました。
 くすんだ灰色はいつものホワイトを連想させる白へ、縞模様を描くように存在する鎧の溝は薄いピンクへと変化したのです。
「何だと……?」
「ミラーモンスター以外と、契約した? そんなのって出来るのかな?」
「…………あ、何だろう。今ちょっと殴り飛ばしたい男の事を思い出した」
「奇遇だな、城戸。俺もだ。多分、今回の一件の裏に、あの男がいる気がしてならない。今もどこかでこの状況を高笑いして見ているんじゃないか?」
 ガオレンジャー達やオルグ達は勿論、この現象は北岡達にも予想外だったのでしょう。
 ……新しく現れた龍と蝙蝠の騎士だった二人の青年には何か心当たりがありそうですが。
 とにかく、驚く彼らを気に止めず、ホワイト……いいえ、タイガ・ホワイト体とも呼ぶべき「騎士」は、先程捨て置いた斧を軽く拾い上げると、その刃の付け根部分にある虎の頭の飾りをスライドさせ、一枚のカードを読み込ませたのです。
『STRIKE VENT』
 音が響いたまさにその瞬間。宙から大型の爪が現れ、彼女の両手に装着されます。
 普段扱う「爪」よりも、格段に大きくて鋭いそれ。しかし彼女は、その「爪」を大きく振りかざすとサンメンキョウオルグに飛びつき、いつもと同じように引っ掻いたのです。
「はああああぁぁぁぁ……はあっ!」
「ぎやあぁぁぁぁぁぁっ!」
 いつもよりも爪が長い分、距離があっても充分な威力を発揮するのでしょう。サンメンキョウオルグの顔には、いつも以上に鋭く深い爪痕が幾筋も残り、解放されたサンメンキョウオルグの目にはうっすらと涙が浮かんでいます。
――あ、あたしじゃなくて良かった……――
 普段「引っかかれ役」であるツエツエが、思わず心の中で安堵の溜息を漏らし、それに気付かぬヤバイバはギリと奥歯を噛み締めて彼女に向ってサンメンキョウオルグと共に駆け出します。
 ですが彼女は慌てた様子を見せず、別のカードをデッキから抜き出し……
「百獣召喚!」
『ADVENT』
 再び電子音が響くと、それに答えるようにガオタイガーが吠え……刹那、普段は巨大なその体が、見る間に二メートル程の大きさまで縮んだかと思うと、やってくるヤバイバとサンメンキョウオルグの体を突き飛ばすのです。
 そして三度みたび、彼女はカードをデッキから抜き出し……
『FINAL VENT』
「はあぁぁぁぁっ!」
 電子音に応えるように、小型のガオタイガーがヤバイバの体を前足で捕えると、そのままタイガに向って駆けだしたのです。
 そしてタイガもまた、大型の爪を地に這わせ、それで相手を粉砕すべくガオタイガーの方へと駆け寄ったのです。
「こ、これは本格的にヤバイバ!!」
 自身の置かれている状況に危険な物を感じ、必死にガオタイガーの腕から逃れようともがくヤバイバ。
 ですが、引き摺られる体は、案外しっかりとガオタイガーに押さえつけられており、自力で抜け出す事が出来ません。
 それでもジタバタともがくヤバイバに、あと少しでその爪が触れるという、まさにその瞬間。
「そうはさせないわよ、小娘!」
 ツエツエが割って入ったかと思うと、その杖を彼女の腰のベルト……正確にはそのデッキ部分に打ち付けたのです。
「きゃあっ!」
 本来ならぶつかるはずの体が吹き飛ばされたせいか、ガオタイガーは目標を見失い押さえていたヤバイバを解放してしまいます。
 更に、ツエツエに打ちつけられた場所が悪かったのでしょうか。
 タイガの耳にピシリと小さな音が届き……そして次の瞬間、パキンと鏡が割れるような軽い音を立て、腰に付いていたデッキが砕け散ったのです。
 それまで変身を支えていた物が砕けた為でしょうか。タイガの鎧は細かな粒子となって消え去ってしまいました。
「ふふふ……ほーっほっほっほっほ! やっぱりオルグの神は見放していなかったのね」
「さぁて、たっぷりと礼をさせてもらおうかねえ?」
「っ! ホワイト!!」
 低くドスの聞いた声で言うヤバイバの剣と高笑いを上げるツエツエの杖。その両方を向けられたホワイトを助けんと、他の戦士達が駆け寄ろうとした瞬間。
 フ、とシルバーの感覚に、風が何かを訴えかけたのです。
 しかしそれは、決して敵意や邪悪な衝動ではなく、どちらかといえば先程騎士達が現れた時に近いような……
「気持ち悪い。吐く。また吐くよぉぉぉ」
 二人のデュークオルグの後ろで、へろへろとしていたサンメンキョウオルグが、またしても唐突にそう言うと、再びその頭部が大きく開き……
 そこから、赤紫のエイに似た生き物と、その背に乗って同じ色の鎧を纏った騎士が飛び出したのです。
「何ぃ……へぶしっ!」
「ちょっと……きゃああぁぁ」
 エイはすれ違いざまにヤバイバとツエツエを弾き飛ばすと、ホワイトの前で止まり……
「こいつを届けに来た。……これは、君のだろう?」
 ストンとエイの背から飛び降りた騎士は、己の変身を解くと、ホワイトの目の前に金色の携帯電話を差し出したのです。
 それは、本来なら彼女が持つべき物。
 サンメンキョウオルグに吸い込まれた際、なくしたと思っていた大切な「つながり」。
「あたしのGフォン……」
 差し出されたGフォンをそっと手に取ると、ホワイトの口からは安堵の溜息が漏れたのでした。
 そしてそれとは対照的に、オルグ達は爛々と怒りに満ちた目で彼らを睨み付け……
「ちぃぃっ!」
「よくもあたし達の邪魔を!」
 その言葉を吐き出すと、ツエツエがサンメンキョウオルグに向って己の杖から出る光線を放ったのです。
 その光線は、サンメンキョウオルグの鏡の中で幾度も反射され、そして数回の反射を繰り返し、増幅されたそれをガオレンジャーに向けて放ったのでした。
『うわぁぁっ!』
 足元で爆ぜた土に弾かれ、その衝撃で解ける変身。そしてそんな彼らにホワイトは駆け寄り、そして現れた騎士達……浅倉と北岡を除く三名もまた、彼らを助け起こし……そして蝙蝠の騎士だった青年が問いかけます。
「まだ、戦えるか?」
「ああ。勿論。……全てのオルグを倒す。そうだろ、イエロー、ブルー、ブラック、ホワイト、シルバー!」
 レッドの答えと、そして直後にかけられた言葉に、他の五人が大きく頷きを返すのを見やると、龍の騎士の青年はこくりと一つ頷いて……
「わかった。戦わなければ生き残れないって言うのは、あまり好きじゃないけど。俺達も手伝うよ」
「……ありがとうございます」
 青年の声に笑みを返すと、レッドは……いえ、ガオレンジャー達は雄々しく立ち上がったのでした。


第34話

第36話
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