☆忍風戦隊ハリケンジャー&仮面ライダーディケイド☆

【巻之三十一:宇宙忍者と大ショッカー】

 なし崩し的に、というのはこういう事を言うのだろうか。
 洞窟の中の「隠れ家」のソファに座りながら、吼太は苦笑を浮かべながらそんな事を考えていた。
 マゲラッパを倒したマゼンタの戦士……自称、「通りすがりの仮面ライダー」とその仲間らしき男女を、七海がとっ捕まえ、メカニック専門の「白忍」であり、忍風館の館長の娘でもある日向ひなた おぼろの呼びかけで、彼らを半ば強引にここへ連れて来て早十分。
 その間に、妙に不機嫌な鷹介と霞兄弟の三人も戻ってきて、もう一度彼らの名前やら「仮面ライダー」と言う肩書やらを聞いてはみたのだが……正直、よく分からない。
 自分達のように、地球を守る戦士のようにも見えたのだが、「正義の戦士か」と問うた瞬間、「通りすがりの仮面ライダー」は凄まじいまでにその顔を歪めていた。あそこまで嫌そうな顔をされると、いっそ清々しいとさえ思える程に。
「それで、結局何者なんだよ、あんたら? 正義の味方じゃないのかよ?」
「『仮面ライダー』と言っていたな。それは一体?」
「以前、聞いた事がある。異次元……いや、『異世界』とも呼ぶべき場所に、その世界を守る戦士達がいるという話を。その戦士達を、その世界では『仮面ライダー』と呼んでいるそうじゃ」
 鷹介の不審そうな声に乗るように、一甲も自身の疑問をぶつける。
 だが、その問いに答えたのは青年達の方ではなく、机の上でちまちまと愛らしく動き回るゴールデンハムスターであった。
 無論、ただのハムスターではない。彼こそ、忍風館の館長、日向 無限斎むげんさい。今でこそ「訳あって」ハムスターの姿をしているが、れっきとした人間である。ちなみに、ゴールデンハムスターの声帯でどうやって人間の……しかも威厳ある「オジサン声」が出るのかは不明なのだが。
「異世界て……それ、ホンマなん? お父ちゃん」
「ええっ!? ハムスターが喋った!? っていうか『お父ちゃん』!?」
 訝るように言うおぼろの声に続き、背が低めの青年……小野寺ユウスケと名乗っていた彼が、驚いたように声を上げる。
 しかし一緒にいた黒子だった青年、門矢士の方は、ふぅと呆れたような溜息を吐き出すと、びしりと彼らの紅一点である光夏海を指差し……
「何を驚く事がある、ユウスケ。ナツミカンの祖父さんは『イカでビール』の怪人だし、家には喋る白い蝙蝠もいるだろう」
「……あ、そっか」
「ちょっと士君! キバーラの事はさておき、お祖父ちゃんは怪人じゃありません! ユウスケも何を納得しているんですか!」
 イカでビール? と不思議に思うが、そこを突っ込んだら負けのような気がするのか、あえて突っ込まず、鷹介はむすっとした表情で士の顔を見やる。
 一方の士も、特に何を考えているのか分からない表情で、首から提げたカメラを構え、鷹介達の姿をフィルムに納めた。
「おい! 何を撮っている!」
「何って、写真だろ」
「そういう意味で言っているのではない! 俺達は忍だぞ!」
 写真を撮られるのは正直、忍としては好ましくない……というかご法度。それ故に抗議の声を上げた一鍬なのだが、士の方は「何が悪い」と言いたげな表情を浮かべて彼らを見やる。
 忍の掟を、一般人に理解してもらえるとは思っていないが、ここまで堂々と、そしてさらりと言いきられては何を言っても無駄な気がしてしまう。
「俺達忍は、人も知らず、世も知らずが鉄則だ。その写真は破棄してくれ。出来ない場合は……」
「実力行使か?」
「必要ならな」
 一甲が彼の刀に手をかけ、その鍔がかちりと鳴る。対する士も、ふっと軽く鼻で笑ったかと思うと、ポケットから一枚のカードを取り出した。
 先程吼太が見た際、変身に用いていたカードだと気付き、思わず吼太は目を見張り……
『えええっ!? ちょっと待てよ!』
 ユウスケと同時に、同じ言葉を発していた。
 どうやら彼も、吼太と同じで苦労させられている側の人間らしい。
「一甲、流石に抜刀はまずいって!」
「士も! 何で喧嘩を売るような事をするんだよ!」
「そもそも、ここで一甲と士さんがやりあったりなんかしたら、基地が崩れちゃうでしょ! やるなら外でやってよ」
『そういう問題じゃない』
 七海の言葉に、鷹介、吼太、一鍬、そしてユウスケの声が綺麗に重なる。しかもご丁寧に裏手でのツッコミ付きで。
 しかしそんな彼女のボケ発言も耳に入っていないのか、一甲と士は、いつの間にか各々変身する為のポーズらしきものを取っている。
「一甲!!」
「……士、やめた方が良いぞー。いや割と本気で」
 目を見開き、怒声に近い声で制止する吼太とは対照的に、ユウスケはどこか投げやりにも見える態度で声をかける。
 投げやり……というか、呆れているというか何というか。強いて言うならイタズラをした子供が自業自得な結果に終わり、その結果周囲がむける「あーあ」と言いたげな空気だろうか。
「迅雷……」
「変し……」
 二人がほぼ同時に口を開いた瞬間。今まで沈黙を保っていた夏海が、彼らの背後にすぅっと回り込み……
「光家秘伝・笑いのツボ!」
 どすどすっと、連続して音が聞こえた。それが、彼女が一甲と士の首筋に、ツボ押しの要領で親指を突き立てた事で生み出された音であるのは理解した。
 が、次の瞬間に起こった出来事に関しては、到底理解できなかった。
 一甲が。無愛想で滅多に笑わない上に、笑ったとしても鼻で笑うか口の端を吊り上げる程度でしかない、あの一甲が。大声で、腹を抱え、膝を折り、床の上で笑い転げているなど。
「ふはははははっ! ははははっ! あっはははは!」
「あっはははは! な、ナツミカン! お前っ! はっははははははっ! それやめろって、はははっ、いつもいつもっ!」
 士も、一甲と同じような格好で笑い転げているのだが、言葉から察するに夏海に「今の」をやられ慣れているのだろう。ただ笑うだけの一甲とは異なり、一応会話は出来ている。
「……だからやめとけって言ったのに」
「分かってるならユウスケ……ははははっ! お前も止めろ! あははははっ!」
「はははっはっ、は……な、何だこれは……ははっ、く、苦しい……あはははっ」
「あ、兄者!? 貴様! 何だ、この面妖な技は! やはり貴様も宇宙忍者か!」
「ただの、うちの秘伝技なだけです。士君も一甲さんも、時とか場所とか他人への迷惑とかその他諸々を考えて下さい!」
「お、お前が言うなナツミカン……」
「何か言いましたか、士君?」
 床に伏せ、ぜえぜえと呼吸を整えつつも抗議の声を上げた士に、夏海は再び親指を構えて言葉を返す。
 一甲の方も、件の「光家秘伝」とやらの効果が薄れてきたのか、ややプルプルしながらも一鍬に支えられて何とか上半身を起こしていた。
「大丈夫かよ、一甲」
「ははっ、は……鷹介、お前には俺が大丈夫に見えたのか?」
「いや。全然」
「ならば聞くな」
 鷹介の問いに短く返し、一甲と士の二人がぐったりとソファに身を沈めた、その刹那。
 ジャカンジャの出現を告げる警報が洞窟内に鳴り響き、慌てて画面を切り替えたおぼろの前にあるコンピュータには、被害にあっていると思しき街の様子が映し出された。
 それを見た瞬間、忍達はぴんと張りつめた空気を纏い、半ば条件反射的にその場所を確認、洞窟を飛び出していく。
「……忍者、か……」
 後方で小さく呟く士の声を、背中で聞き流しながら。

 鷹介達五人が街に到着した時には、既にビルはただの瓦礫と化していた。濛々と上がる土煙と、小さく爆ぜる炎の音が、被害の大きさを物語っている。
 後手に回ったという悔しさを押し殺しながらも、鷹介達はぐるりと周囲を見回し……そして、この惨状を生み出した存在を、その視界に納めた。
「ゲラッパ!」
「マゲー!!」
 それはある意味地球忍者にとって見慣れてしまったジャカンジャの下忍であるマゲラッパ。しかし、今回はそれだけでなく……
「イー!」
「イー!」
 「い」に濁音が付いていそうな、何とも表現し難い声で人々に襲い掛かる、黒地に骨のような模様が描かれた全身タイツを纏った、男達の姿であった。
 更にその後ろには、左目に眼帯をかけた、鮫のような顔をした宇宙忍者……暗黒七本槍の一人、七の槍サンダールの姿もある。
「待ちかねたぞ、地球忍者達」
「まさか、俺達をおびき寄せる為に街を!?」
 サンダールの言葉に、鷹介は憤ったような声で問いかける。一方の問われた方は、それを軽く鼻で笑う。それは暗に、鷹介の言葉を認めているに他ならない。
 その態度に、今にも沸騰しそうな怒りを噛み殺しつつ、鷹介がきつく相手を睨む。だが、その視線すらも遮るように、彼らとサンダールの間に、無数のマゲラッパと黒タイツの男達が壁を作った。
「物量作戦と言うのは、あまりスマートではないが……今回は確実に貴様らを葬りたいのでな」
 やれ、と短い命令が飛び、下忍の壁が一斉に襲い掛かる。
 それが合図になったかのように、鷹介達も忍刀であるハヤテ丸とイカヅチ丸を引き抜き、相手を斬り払う。
 斬という音と共に、本体である髷を斬られたマゲラッパからは、統率を失った無数の百足が這い出し、そそくさと散っていく。
 ……とはいえ、いつもと勝手が違う敵もいる。言うまでもなく、「黒タイツ」だ。イーイーと喚きながら、拳を繰り出し、蛮刀を振るっては彼らに襲い掛かる。
 マゲラッパだけを相手にする、もしくはこの黒タイツだけを相手にするというのならば、然程問題はない。しかし、相手は今、入り乱れてこちらを襲っている。
 瞬時に相手を見極め、確実な一撃を食らわすのは、かなりの集中力を要し……実際の所、いつもより余分に消耗しているのがわかった。
 精神力、体力に、僅かでは衰えが見え始めた瞬間。そこに生まれた僅かな隙を逃さず、黒タイツは一斉に鷹介の元に襲い掛かる。
――まずい!――
 刀を構え直すが、一瞬だけ出遅れたのが自分でもわかる。振り下ろされた蛮刀を、何とか受けていなそうとした、その刹那。
 鷹介の視界に入ったのは、ピンクに近い色をした一陣の風。そして、直後には黒タイツ達が弾かれたように吹き飛んで行く姿。
 相手がバイクに跳ね飛ばされたのだと気付いたのは、そこから不遜な態度の男……士とユウスケが、ゆっくりと降り立つのを見た時であった。
「士、こいつら……」
「やれやれ。大ショッカーの連中が、この世界にまで来ているとはな」
 ユウスケの真剣な声に対し、基地の中にいた時と同じ、呆れ声で返す士。
 その表情や会話から鑑みるに、どうやら黒タイツの方は彼らの敵らしい。
 鷹介にしては珍しく、あっさりとそう納得したとほぼ同時に、士はこちらに顔を向け……またしても呆れたような声で、言葉を放った。
「お前らは『正義の味方』なんだろ? もっとしっかりしたらどうだ? それとも、余計なお世話だったか?」
「……いや。助かった。けど……何でかな、礼を言うのは癪に障る」
「奇遇だな。俺も礼なんて言われたくない」
「おい、士」
「鷹介も素直じゃないなぁ。ま、お互い仲良くやろうぜ。お互い『正義の戦士』なんだから」
 素直ではない鷹介をフォローするかのように吼太が言う。だが、士はその言葉に対して軽く笑うと……ベルトを腰に巻きつけ、一枚のカードを掲げた。
「『正義の戦士』? 違うな」
「ほう? では何だと言うのかな?」
 マゲラッパと黒タイツの壁の向こうで、士の否定を聞いたらしいサンダールが問いかける。一方の士は、不敵な笑みのまま……
「俺は……いや俺達は、通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」
『変身!』
『KAMEN RIDE DECADE』
 ちらりとユウスケに視線を送った後、彼ら二人の声が重なった。
 士はカードをベルトに挿し込むと同時に、電子音が響き……黒地のスーツにマゼンタ色の鎧を身に纏った姿に変わる。
 一方のユウスケは、赤い、どこかクワガタムシを連想させる姿の戦士に変わった。どことなく金属質な印象を受ける士の鎧に比べ、ユウスケの鎧はどちらかと言えば昆虫の殻に近い気がする。
 「チームで戦う事」を主体に置いている自分達のスーツとは異なり、若干ゴテゴテした印象を受けるのは、おそらく彼らが「個々人で戦う事」を主体に置いているからだろう。
仮面ライダー俺達が正義の味方とは限らない。だが……俺は、全ての世界を救うと決めた。だから、ここにいる」
「俺は、皆の笑顔を守る為に戦ってる。……君達は? 『正義の戦士』だから戦うのか?」
 二人の仮面ライダーに問われ、五人の忍はその言葉の意味を考える。
 自分が宇宙忍者と戦う理由。それは、何故なのか。
 正義の戦士だから戦う。それも立派な理由の一つだ。だが……それは、自分自身の意思とは言い難い。では、自分の意思はどこにあるのか。
 永遠とも思える一瞬の思考の後、それぞれは……己の心に、確固たる答えを導き出した。
 単純にして明快な……「守りたいから戦う」と言う答えを。そしてそれを自覚した瞬間。彼らの胸の内がカッと熱くなり、その熱に突き動かされるように構えを取った。
 人を守る力を、身に纏う為の構えを。
「忍風」
「迅雷」
『シノビチェンジ!』
 疾風迅雷。素早き時の流れを司る二つの流派の忍の声が重なり、彼らの体を特殊な「忍装束」が覆った。
 その勢いに、気迫に。
 呑まれたのか、マゲラッパと「大ショッカー」の兵士とやらが、ビクリと体を震わせ、その動きを止めた。
「風が哭き、空が怒る。空忍! ハリケンレッド!」
 鷹介が変化したのは、空を司る動物である鷹を模した胸の模様と仮面の忍。自由に宙を舞う、赤き風。
「水が舞い、波が踊る。水忍! ハリケンブルー!」
 七海が変化したのは、水を司る動物である海豚を模した胸の模様と、仮面の忍。奔放に海を渡る、青き水。
「大地が震え、花が歌う。陸忍! ハリケンイエロー!」
 吼太が変化したのは、陸を司る動物である獅子を模した胸の模様と仮面の忍。自在に地を駆ける、黄の花。
「人も知らず」
「世も知らず」
「影となりて悪を討つ」
「忍風戦隊!」
『ハリケンジャー! あ、参上ぉ』
 歌舞伎役者のような見切りを見せて名乗りを上げたのは、疾風流忍者の三人。
 例え人が、そして世が、彼らと言う存在を知らなくとも。その影となり、疾風の如き速さで悪を討ち、人の、世の、そして全ての未来を担う、「伝説の後継者」。
「深紅の稲妻。角忍! カブトライジャー!」
 一甲が変化したのは、全てを貫く甲虫を模した胸の模様と仮面の忍。影に奔る臙脂の稲妻。
「蒼天の霹靂。牙忍! クワガライジャー!」
 一鍬が変化したのは、全てを切り裂く鍬形を模した胸の模様と仮面の忍。光に負けぬ紫紺の霹靂。
「影に向かいて影を斬り」
「光に向かいて光を斬る」
『電光石火、ゴウライジャー! 見参!』
 かちゃりと刀を構えて名乗りを上げたのは、迅雷流忍者の二人。
 影に、そして光に潜む偽りと言う名の敵を。迅雷と言う刃を以って切り裂いて、隠された過去を守り司る「闇に生まれ、闇に生きる忍」。
 人を守り、悪を斬る忍達と、己の意思を貫く仮面の戦士達の攻撃は、確固たる己の意思を持たぬマゲラッパを斬り裂き、戦闘員を蹴り倒す。
――ほう? 先程与えたはずの疲労が、回復しているか――
 確実に減ってきている下忍と戦闘員を見つめながら、サンダールはふむ、と小さく頷いた。
 認めたくはないが、仮面ライダーと名乗る存在の登場で、己の計画がある程度破壊されたと言っても良いだろう。
 とはいえ、最初からあの戦闘員に対して期待など抱いていなかった事も事実。やはり信用できるのは自分が飼っているモノしかいない。
「ならば、このような手はどうかな? 行け、暴扇獣ブドーギ」
「何!?」
 サンダールの言葉を聞きとめたのか、一甲がそちらに振り向いた瞬間。サンダールが広げた扇から、一匹の獣が現れた。
 金色の毛並みをした、狼男を連想させるその獣は、甲高い声で大きく吠えると、素早く動いてマゲラッパごと鷹介達の体をその爪で引き裂きにかかる。それに続くように、サンダールは己の刀である「赦悪彗星刀シャークすいせいとう」を構え、他の面々に切りかかるべくゆったりと駆け出し……
「おっと。君の相手は、この僕だ」
 その声が聞こえたと同時に、サンダールの足元と黄金の狼……ブドーギに向かって銃弾が放たれる。
 それは流石に予想外だったのか、サンダールはらしくもなくチィと舌打ちをして距離をとると、その声の方向に目を向けた。
 そこに立っていたのは一人の青年。彼は不敵に笑いながら、右手で銃のような形を作り、それを撃ち放ったかのように軽く指先を上げて見せた。
「貴様は!」
「さっきの泥棒! 俺達のシノビメダルを返せ!」
「海東、お前また性懲りもなくコソ泥業を続けてるのか」
 一鍬と鷹介の敵意に満ちた声と、士の呆れ声がほぼ同時に青年に向かって放たれる。
 恐らく、二人の言葉と普段の海東の言動から、何が起こったのかを察したようだ。
 しかし海東は、そんな士の言葉に心外と言いたげな表情を浮かべ……
「コソ泥とは酷いな、士。僕は堂々と彼らからお宝を頂いただけさ。だけど……」
「But, 鷹介達のシノビメダルは、ミーが取り返させてもらったけどね。ほらっ」
 海東の言葉を継ぐようにして、何者かの声が響く。「何者か」というか、声そのものは、少なくとも海東本人の物だ。ただ、聞こえてきたのは海東の後ろからだし、喋り方が全く異なる。
 不思議に思って目を凝らせば、海東の背後から、ややオーバーリアクション気味に肩を竦めて現れたのも、また海東その人だった。その海東が、二枚のメダルを一度見せつけるように掲げると、今度はそれを鷹介と一甲へと投げ渡した。
「ええっ!? 二人いる? って言うか、返した!?」
「お前、いつから生身で『イリュージョン』のカードが使えるようになったんだ?」
「士、それは本気で言っているのかい?」
「冗談だ。……多分な」
「成程、ユー達はGood friendsなんだな」
「……気色の悪い事を言わないでくれ。僕と士は、そんな関係じゃない」
 驚くユウスケに何を考えているか分からない士。そして軽く眉を顰めて士と、自身の背後に立つ「自分自身」に苦言を呈する海東。
 彼ら「二人」の唐突な登場に驚いたのか、あるいはその実力を測っているのか。サンダールとブドーギは彼らとの距離を取りつつ、その姿をじっと見つめている。
 一方で二人の海東は、同じくサンダールとブドーギの方を見つめると、彼らは互いに全く同じ、不敵な笑みを浮かべた。
 その不思議な光景に、呆然と鷹介が問いを投げる。
「お前達、一体何者なんだ?」
 投げられた問いに、一方は「Oh,no」と呟きながら肩を竦め、もう一方は不敵な笑みを崩さぬまま、一枚のカードを構えた。
「あれ? 分らない? ミーは……通りすがりの忍者さ。Do you understand?」
「だから。僕の姿で変な言葉を使わないでくれたまえ。それから、メダルは貸しているだけだ。いつか絶対、僕が頂く」
 そんなやり取りも楽しんでいるのか、肩を竦めていた方の海東は、朗らかに笑うと、懐から緑色のボールのようなものを取り出す。
 そしてそのボールは、鷹介達にとってよく見かける物。唯一「素顔のわからぬ仲間」が、変身する時に使用する物。そう気付いたと同時に、彼はするりとボールの横を左手で撫で、直後それを天高く掲げ、宣言した。
「天空、シノビチェンジ!」
 その次の瞬間には「海東」は、緑色の仮面と金色の帷子を纏った、四方手裏剣のような模様の戦士へと姿を変えていた。
「変身」
『KAMEN RIDE DIEND』
 一方で海東本人もまた、持っていた拳銃のようなもの……ディエンドライバーと呼ばれるそれにカードをセット。その一連の動きは、隣に立つ緑の戦士が取ったポーズと全く同じ。
 直後にはディケイドによく似た、シアンの戦士へとその姿を変えた。
「I amニンジャ・オブ・ニンジャ。緑の光弾、天空忍者シュリケンジャー。参上!」
「僕もまた、通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておきたまえ」
 緑とシアンの戦士の登場に、一瞬だけサンダールは忌々しげにその鋭い目を細め……しかし、それでも何か手があるのだろうか。
 ……クスリと、小さく嘲笑ったのである。


第30話:仮面と忍

第32話:伝説の後継者
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