☆爆竜戦隊アバレンジャー&仮面ライダーアギト☆

【第26話:元気莫大】

「そこまでだ、トリノイド!!」
「へ?」
 シマウマだか何だか、よく分らないふざけた感じの異形を退けた直後、別方向から怒声が聞こえた。
 他にもまだ、トリノイドとか呼ばれる物がいるのだろうか?
 そう思い、三色の戦士……アギト、トリニティフォームに変身した津上 翔一が間の抜けた声で、声がした方を見た瞬間。彼の視界に入ったのは、赤い全身タイツのようなものを纏った戦士が、こちらに足を向けている所だった。
 とび蹴りだ、と認識した時には既に遅く、翔一の顔面をその赤い戦士の足が捕らえ、鈍い痛みと共に自身の体が傾いだのが分った。
「津上!?」
「だ、大丈夫です!」
 深緑の戦士、エクシードギルスに変身している葦原 涼の心配げな声に、翔一は派手に転がりながらも、割と元気そうに声を返す。恐らく転ぶ際、無意識の内に受身を取り、そのダメージをを殺いだのだろう。こういった時、アギトとしての自分の頑健さをありがたく思う。
 そして、蹴った方もそれを認識しているらしい。油断なくこちらを見つめながら、どこからかティラノザウルスの頭のような穂先の槍……と言うかロッドを取り出し、身構えた。
 直後、彼の後ろからは同じようなデザインの全身タイツもどきのスーツを纏った三人の戦士も駆けつけてくる。スーツの色はそれぞれに青、黄色、黒。ちょうど今の自分と同じようなカラーリングだなと呑気な事を思う翔一をよそに、現われた三人は警戒を顕わに、自分と葦原と少し距離をとって対峙している。
「凌駕、無事か?」
「大丈夫です。それより、気をつけて下さい! 今回のトリノイドは二人組です!」
「いや、あの、俺達は……」
 どうやら自分達が、先程のシマウマもどきと同じ「トリノイド」とやらと勘違いされているらしい。
 そう気付き、誤解を解こうと翔一は声をかけるのだが……あちらの方は、こちらの声が耳に届いていないようである。それが「聞こえていない」からなのか「聞いていない」からなのかは不明だが、とりあえずこちらの事は無視して何やら仲間内で言葉を交わしている。
「しかし、今までのトリノイドとは少し違いますね」
「でも、いかにも悪者っぽい顔してる! 特に緑色の方」
 エクシードギルスと化した葦原を指差しながら、黄色い戦士……声や仕草からすると女性らしい……が言い放つ。
 ……かつて、友人の一人である氷川 まことも、葦原の変身した姿を見て普通に重火器取り出して攻撃してきた事があったが……彼らの今の感覚はそれに近いのだろうか。確かに、アギトやギルスの姿は、何も知らない者が見れば怪物のように見える。それは否定出来ないだろう。
 どうやら彼らは先程の「トリノイド」と普段から戦う者らしい。ひょっとすると、「人間に見えない者は全てトリノイド」とでも思われているのかも知れない。とはいえ、こちらに害意はない訳だし……
 翔一が無意識の内にうーんと困るような唸り声を上げる。だが、やはりそれは四人組には聞こえていないようだ。むしろこちらが動かないのを好機と取ったのか、それぞれ武器を構えてこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。
 黒い戦士のみ自分の前に、そして残りの三人は葦原の方に。葦原の方が、その刺々しい見目から危険だと判断されてしまったのか。
「ダイノスラスター、ファイヤーインフェルノ!」
 翔一の目の前に立った黒い戦士がそう宣言した瞬間、彼が持つ剣と思しき「何か」からゴォという音と共に炎が上がる。
 流石に何もしないのはまずいと感じ、翔一は慌ててそれを右手に持つフレイムセイバーで薙ぎ払うと、炎と共に突進してきた黒い戦士の剣を左手のストームハルバートで受け止める。
「私の剣を受け止めた……!?」
「待って下さい! 俺達は……」
 驚き、その動きを止めた黒い戦士に制止の声を上げる。このまま話を聞いてもらうべきだと判断したのだが……何かを言うよりも先に、苦戦を強いられる葦原の姿が視界に入った。
「葦原さん!」
 反射的に眼前の黒い戦士を薙ぎ払い、葦原に向って翔一が駆け出そうとする。しかし、それよりも一瞬だけ早く、青い戦士の突きが葦原の胸部に炸裂した。
「ぐっ……!」
 いつもならその口をあけて吠える彼が、今回は低い声を漏らしただけで終わる。それは恐らく、肺の中の空気を押し出されたせいで、声が出ないからだろう。
 殴られたダメージも大きかったのか、葦原が殴られた箇所を無意識の内に右腕で押さえつつ、よろりと体勢を崩した……刹那。
「行きますよ!」
 赤い戦士が追撃とばかりに手に持つロッドで、今度は葦原の腹部目掛け突きを繰り出す。
――この距離ではかわせないか――
 咄嗟に判断し、葦原は少しでも衝撃を和らげる為に自分の両手で腹部をガードしつつ、相手にカウンターを浴びせようと踵を振り上げた、まさにその瞬間。
「凌ちゃん、ダメ!」
 そう声を上げつつ、赤い戦士と葦原の間に、一つの影が割って入る。咄嗟に葦原は振り上げた足を止め……そして赤い戦士も、突き出そうとしたロッドの動きを止めてその影を見下ろした。
 影の主は、先程「トリノイド」から助けた「マイ」と名乗っていた幼い少女だ。彼女は両腕を広げ、まるで葦原を守るかのようにして立っている。
 急に飛び出してきた彼女に驚いたのか、赤い戦士の後ろで追撃の準備を整えていた青い戦士と黄色い戦士、そして少し離れた場所で武器を切り結んだ状態の翔一と黒い戦士……彼らの動きがぴたりと止まった。
「舞ちゃん!?」
「っ! 何をしてる、そこをどけ」
 驚愕の声を上げる赤い戦士と、彼女の身を案じるように怒鳴る葦原の声が重なる。
 どうやら、赤い戦士は彼女の事を知っているらしい。同時に、彼女も赤い戦士の正体に心当たりがあるようだ。恐らく、「りょうちゃん」というのは赤い戦士を指しているのだろう。
 「マイ」はブンブンと首を思い切り横に振ると、真っ直ぐに「りょうちゃん」の顔を見つめ……
「このお兄さん達は、舞のこと助けてくれたんだよ。だから、喧嘩しちゃダメ!」
「ほえ?」
「そのトリノイドが、か?」
「……あの、俺達『トリノイド』じゃないんですけど……」
 青い戦士の呟きに、困ったような声を返しながらも、翔一は誤解を解く為にその変身を解除する。もっと早くにこうすれば良かったのだろうが、その暇がなかったのだから仕方ない。
 それに倣うように、葦原もまた変身を解いて四人の戦士を見やった。……ただ、彼の場合は見やるというよりは、睨むに近いかもしれないが。
「人間……だと?」
「嘘……」
「もしかして、あなた方もアナザアースの戦士ですか!?」
 信じられないと言わんばかりに、青と黄色の戦士が声を上げる。だが、黒の戦士の方は、彼らとは対照的に感動したように葦原の手を取り、赤の戦士は思い切り翔一と葦原に向かって頭を下げ……
「本っ当ぉぉにごめんなさい! 俺、勘違いしてました! 赤黒青で三種類あるから、てっきりトリノイドかと!」
「え、いや、そんな……変身を解かなかった、俺も悪かったですし」
 その後、十数分間に渡り、赤い戦士と翔一の間で、「ごめんなさい」、「いえいえこっちこそ」というやり取りが続いたという。

「メモリ……挿さなかった」
「だって! 『さす』って何か痛そうじゃないの、ジャバジャバ」
 侵略の園に逃げ帰ったシンクチナシマウマに対し、エトワールが低く声を漏らす。
 今、シンクチナシマウマが戻って来たと知っているのは、ここにいるエトワールと戻った本人以外にはいない。
 他の面々は、何故か凍りついたようにその場に固まったままで、ピクリとも動かない。と言うよりも、この場で動いている者が、エトワールとシンクチナシマウマの二人だけ、と言った方が正しいだろうか。
 自分達以外の全て……「邪命の使徒」と呼ばれる幹部連中だけでなく、中にいつも立ち込めている白いスモークの流れも、宙を舞う埃すらも、その場でぴたりと止まっている。まるで、一時停止した画面の中に迷い込んでしまったような印象。
――ひょっとして、時間を止められているんじゃないかしら――
 シンクチナシマウマは、目の前の「明滅の使徒」に対して恐怖しながらも、それでも心の片隅でそんな暢気な事を考えていた。恐怖も度が過ぎると、その感覚が麻痺するらしい。
 シンクチナシマウマの抱く、「度の過ぎた恐怖」に気付いているのだろうか。エトワールは手に持つ、彫刻刀のような形の剣をゆっくりと振り上げ、呟くように言葉を落とす。
「もっと痛い目……みるか? 今なら、そのシンクに…………クチナシの彫刻を、刻める、気がする。麻酔なしで」
「嫌ぁぁっ! そんな痛そうなオシャレ嫌ぁぁぁっ!」
「大丈夫、だ。……刺青、みたいな、もの」
「絶対違うよね!? 傷塞がらないよね!?」
 淡々と喋るエトワールの声に「本気」を感じたらしい。シンクチナシマウマはブンブンと首を横に振り、ガタガタと震えながらも一目散に駆け出し、物陰に隠れる。
 しかしそれも無駄な抵抗。大きな口のようなその異形は、隠れようとした先にいつの間にか回り込んでは、自分の目の前に現れる。
 柱の影、机の下、果ては部屋の外。その全てに逃げようとしても、何故か先回りされている。それを数回程繰り返し、ようやく逃げられないと悟ると、慄いた声で問いを投げた。
「ななななな、何でいつも先回ってるの、ジャバジャバ!?」
「……貴様の時間……食っている」
 相変わらず淡々と、しかしとんでもない事をさらりと言われ、シンクチナシマウマは絶望と同時に認識する。
 目の前の存在は、おそらく自身が知る「使徒」達とは全く違う存在で……同時に、とてもではないが勝てる相手ではないのだと。
「さっさと、挿せ。そして、行け。送るくらいの力は、ある」
「怖い~。この人超怖い~」
「……生憎と、人ではない」
「いや、わかってたけどね。ジャバジャバ」
「じゃば……無糖紅茶? 風呂釜掃除の道具? アリスの魔獣? それとも当て字で邪馬?」
「いや、どれも違うから」
「……そうか。残念」
 怖いと思う反面、なんでこんなボケをかましたのか、今一つ読めぬまま……結局、気圧されたシンクチナシマウマは、もう一度アナザアースに向かうのであった。
「……奴の時間は……不味かった」
 後ろでエトワールが、そう呟いたとも知らずに。

 無限ループじみていたやり取りを強制的に青い戦士……「幸人」と呼ばれていた男が終わらせるや、彼ら四人……「爆竜戦隊アバレンジャー」の本拠地とやらに連れて来られた。襲った詫びと、自分達の事を聞きたいからという理由かららしいのだが……
 その「本拠地」の前に立った時、翔一と葦原はひどく対照的な表情を浮かべた。
 翔一は物凄く嬉しそうな、そして葦原は物凄く胡散臭そうな……そんな顔を。
 それもそのはず、何しろ「そこ」は「恐竜や」と言う暖簾のかかった「喫茶店」なのだから。
「……喫茶店が本拠地か……?」
「お前の気持ちも言いたい事も分かるが、敵にばれ難くて良いだろ」
 葦原の呟きに、幸人がぽんと肩を叩きながら言葉を返す。
――恐らく、この男も当初は抵抗があったのだろうな――
 そんな風に思いながらも、葦原は半ば諦め半分で彼らについていく。というか、翔一が嬉しげにそこへ入って行くのだから、自分が入らないのも失礼に当たるだろう。翔一の場合、単に料理人としての何かが疼くだけなのかもしれないが。
「ただいまー」
「ただいま、お爺ちゃん」
「おや、皆さん。お帰りなさい。舞ちゃんもおかえり」
 能天気な声で言った赤い戦士……「凌駕」と呼ばれていた男と、彼の姪であるという少女「舞」に、カウンターの向こうに立っていた店主と思しき老人が、笑い皺の刻まれた目元を細め、にこやかに声をかけた。
 ……それにしても、本当にこの店は恐竜好きらしい。カウンターと座敷席には恐竜の影絵、大きなテーブル席は、恐竜……ティラノザウルスの頭部の化石を模したオブジェが飾られている。
 そんな中で、カウンター席には一人の青年が座っていた。恐らくはこの店に客として入ったのだろう。
 後姿から判断するに、自分達と同い年くらいだろうか。出されていたカレーを食べ終わった所らしく、丁度スプーンをおいて、「ご馳走様でした」と呟いたところだった。
 その後姿に、そしてその声に。翔一と葦原は、妙に覚えがあり……恐る恐るといった風に彼の隣に回りこみ、その「客」の顔を覗き込む。そして……
「あ」
「あ!」
 ほぼ同時に、その客の男と翔一の声が重なった。
 それもそのはず。何しろ「客」は翔一の知り合い……「アギトの会」の補欠要員、氷川 誠だったのだから。
 本来の彼は香川県警の刑事なのだが、一時……自分達がアンノウンと呼ばれていた怪人達と戦っていた間は、警視庁の開発したパワードスーツである「G3」並びにその改良強化型の「G3-X」を着て共に戦った親友である。
 全てに決着がついた後、彼は確か香川県警に戻ったと聞いていたのだが。
「氷川さん! 香川県警に戻ったんじゃなかったんですか?」
「久し振りに警視庁に呼び出されまして。その帰りにここに寄ったんです」
 久方振りの再会が嬉しいのか、にこにこっと屈託のない笑顔を向ける翔一に対し、氷川も微かに口の端に笑みを浮かべて言葉を返した。
 警視庁からの呼び出し、しかも警視総監からの指示と聞いた時は何事かと思ったのだが、大事があったという訳ではなく、かつて自分が相手にしていたアンノウンに関する捜査資料を纏めるのに駆り出された、というだけだった。どうやら「当時その場にいた存在からの視点」が欲しかったという事らしい。
 他にも数名、自分と同じような作業をしている者もいるらしいのだが、氷川が見かけたのは長野県警から駆り出されたと言っていた一人の刑事だけだ。ちなみに彼は、自分より更に前のデータ……「未確認生命体」に関する資料を纏めなおすように指示されていたのを覚えている。
 何故今頃になってと思いはしたものの、上層部にも何やら事情があるらしい。それとなく指揮していた者に探りを入れたところ、「見解の統一を図る事が云々」という、よく分からない回答が戻ってきた。恐らく、彼も詳しくは知らないのだろう。秘匿すべき情報だというのならば、詮索をしても無意味だと思い、それ以上の事は諦めた。
 それにしても、と氷川は思う。
 ここ数年、全く連絡も取っていない、会ってすらいなかった二人と、まさかこのような形で会えるとは。案外、世界は狭いのかも知れない。
「あの、お知り合いですか?」
 黒いジャケットの青年……確か「アスカ」と呼ばれていた……が、興味深そうに彼らの顔を覗き込む。
 そう言えば、先程氷川がこの店に入ろうとした時、ぶつかりかけたのはこのアスカだった。その直前に出てきた青と黄色のジャケットの二人も、よく覚えているが……赤いジャケットの青年と、その横に立つ少女ははじめて見る。
 ただいま、と言っていたのを考えると、彼らもこの店の店員なのだろう。住み込みで働いているのだろうか。
 自分の事をにこにこと笑いながら紹介している翔一の声を聞き流しつつ、ぼんやりと氷川がそんな事を思ったその瞬間。どこからか、女性の声が響いた。
『らんる! 街の様子がおかしいプラ!』
「え?」
 「らんる」とは確か黄色い服の女性の名だったはず。そう思い、彼女の方を見やると、何故か彼女は腕につけているブレスレットのような「何か」に視線を向けていた。
 更によく見れば、その「何か」には黄色のプテラノドンの顔を模した飾りがあり、その口が声にあわせてぱくぱくと動いている。
『街の人々が……』
『街の人々が、ミイラになってるテラ!』
 プテラノドンに続くように、幸人と凌駕のブレスレットの飾りが、危機感に満ちた声で口を開く。それとほぼ同時に翔一がピクリと「何か」に反応し、ほぼ同じタイミングで店内にブザーが鳴り響いて、カウンターが横へスライド、代わりに天井からスクリーンが下りて来た。
 そのスクリーンに映し出されているのは……先程の「声」が言った通り、完全にミイラと化した人間達の姿と……その中央に立つ、シマウマのような顔をした異形の姿。
「あの怪物は!? アンノウン、ですか?」
「いいえ、あれはトリノイドです!」
 驚き、目を見開いて問う氷川に、アスカが警戒を顕わにして言葉を返す。
 一方で、葦原はそれが先程撃退したはずの存在だと認識し、舞も小さく「さっきのだ」と呟きを落とす。だが、同じく先程それと遭遇していたはずの翔一は、険しい表情でそのシマウマを見つめ……
「やっぱりこの感じ……さっきのとは違います。この感じは、アンノウンです!」
「何!? トリノイドじゃないのか?」
「トリノイドって奴でもあるのかもしれません。でも、アンノウンの感じも、確かにするんです」
――でも、どうして?――
 訝しむ幸人の声に返しながらも、疑問が翔一の脳裏をぎる。
 アンノウン……いや、ロード怪人と呼ばれる彼らは、「人間と離れた力を持つ者と、その血族」のみを殺していたはずだ。
 そして、これは氷川や葦原の知らない事なのだが、既にロード怪人は「人間に害為す者でない限り、人間と離れた力を持つ者と、その血族を殺害してはいけない」という命令を受けている。その事は、以前、彼自身が目の前で、その命令が下ったところを見ている。
 それに、画面に映し出されているシマウマは、確かに先程見たトリノイドでもある。あの時はアンノウンの気配は全くと言っていい程していなかったのに、何故今はその気配を強く感じるのだろうか。
「どうしてまた、アンノウンが……?」
「とにかく、この状況を放っておく訳には行きません! 俺は市民の避難誘導をしますから、お二人は……」
「わかっている。連中を倒せば良いんだろ」
 呆ける翔一を諭すように、氷川の冷静な言葉が響き、それに葦原も険しい表情で頷く。
 どうやら、穏やかな時間と言うものは……なかなか訪れないらしい。


25話:アバレろ、その魂!

27話:アバレる双竜
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