☆特捜戦隊デカレンジャー&仮面ライダーキバ☆

【第24話:アレグロ♪メガロポリスは日本晴れ】

 ヘーイ、皆知ってるかー?
 「アレグロ」とは音楽用語の一つで、現代では「速いテンポで」を意味している。
 元々は「陽気に」とか「楽しげに」という意味を持った言葉だ。
 今の混戦模様に関して言えば、あまり陽気じゃぁないが、「速いテンポで」って方の意味には当てはまるかもしれないな。
 という訳で、次回も皆で楽しげに……「KAMEN RIDER!!」

 戦いの最中、キバットの声が剣戟に混ざって響く。
 渡の体に流れ込む魔皇力を制御するという繊細な役目を担っているはずなのに、随分と余裕があるような気がするのは渡の気のせいか。
 思いながらもイーガロイドと呼ばれていたアンドロイドの攻撃をかわすと、かわされた方はじぃっと渡……の腰に止まるキバットを見つめている。かと思えば彼はやおら、ふぅと深い溜息……アンドロイドなので正確には「溜息のような音」を吐き出すと、呆れ返ったような声でキバットに声をかけた。
「……言って良いか、そこの黄金蝙蝠」
「ん? 何だ、そこのトゲアンドロイド」
「言って良いんだな? ……独り言をほざいている妄想狂に見える」
「ンな!? ちょっとお前、失礼だぞ!」
 感情などないはずのイーガロイドに、哀れみと蔑みの入り混じった視線と声を向けられた事が癪に障ったのだろうか。ある意味物凄く「アレグロ」なキバットが怒鳴る。
 しかし、それを間近で聞いている渡としては……非常に不本意ではあるが、彼の言葉に同意してしまう。
 何でわざわざ次回予告風なのかとか、何でいきなり「アレグロ」の解説なのかとか、更に言うなら、そもそも最初の「皆」とは誰の事を指すのかとか。
 気を抜けない戦いの最中なので、流石に突っ込もうという気は起きないが。
 そんな中、いつの間に自分の後ろに立っていたのだろうか。赤い刑事……バンが、二丁拳銃を操りながら、並居るアンドロイドを撃ち抜いていた。
「畜生……数が多すぎてインキュバスまで近付けねぇ! このままじゃ体力削られるだけのジリ貧だぞ!?」
 確かに、相手の数が多い。一体一体は決して強くないが、体力を削られているという部分だけで見るならば、確かに正しい作戦だろう。
 質より量を地で行く物量作戦の中、時折それなりの実力者であるイーガロイドをこちらにぶつけて疲弊させる。そして体力を存分に削り取ったところで、最後に自分でトドメをさす。
 復讐という抑えの効かない劫火に身を焦がしながらもなお、無謀な事はせず、ここまで冷静な計画を立てられるのは、ある意味自身の実力を把握しているからなのだろう。随分と周到な相手だ、と太牙は感心してしまう。
 だが……同時に、解せない。
 疲弊した相手を殺す事が目的であるならば、何もファンガイアの力を手に入れて、何の関係もない人間のライフエナジーを吸収する必要はなかったはずだ。
 どうやってファンガイアの……それもかつて、「ビショップ」というファンガイアの中でも高位にいた、神経質な男の力と記憶を手に入れたのかは知らないが、人間のライフエナジーを吸収して、何をしようとしているというのか。
 不審に思い、太牙はちらりとインキュバスに目をやる。
 ファンガイアに似た姿になっているため、表情はよく分らないが……少なくとも、この状況を楽しんでいるらしい。肩が小刻みに震えていた。
「あいつ……」
「笑ってる、よね?」
 太牙の近くまで寄ってきたホージーとセンちゃんも、相手の様子に気付いたらしい。訝しげに呟いて、何とかインキュバスまでの道を開けようと相手を撃ち抜いた……その瞬間。
「そろそろかな?」
 インキュバスは聞こえるか聞こえないか程度の声でそう呟くと、パチンと指を鳴らした。
 その音を認識した刹那、倒されず残っていたアーナロイドとバーツロイド全てが、一斉にデカレンジャーと渡、そして太牙の体にしがみつく。
「ちょっと! どこ触ってるのよ!?」
「痴漢、許すまじ!」
 纏わりつかれ、不快感を覚えたらしい女性二人が怒鳴りつける物の、アンドロイドたる彼らにそんな言葉は通用しない。そもそも痴漢行為と呼んで良いのかどうかも微妙だ。ドロイド達は、ただひたすら彼らにしがみついているだけなのだから。
 別段攻撃を仕掛けてきている訳でもない。動きを封じているのは確かだが、その隙にイーガロイドやインキュバスがこちらを攻撃してくるわけでもない。
 訝り、それでも何とかドロイドの拘束を逃れようともがく中で。誰よりも密着されていたキバットが気付いた。纏わりつくドロイド達の体内から聞こえてくる、カチコチという音に。
「カチッコチッ……って! こいつら体内に爆弾仕掛けてやがるぅぅっ!」
「何だって!?」
「ナンセンス! まさか、最初から自爆させるつもりで!?」
 悲鳴にも似たキバットの言葉に、バンとテツが慌てたように言った、瞬間。
「どっか~ん」
 インキュバスの、非情な声が聞こえた。
 その認識と同時に、自分の体にしがみついていたドロイド達は一斉に爆発、その勢いに巻き込まれ、面々はそれぞれに深いダメージを負う。
 ダメージといっても、変身解除はされていないし五体満足だ。意識もはっきりしている。大怪我を負ったなどの重傷でもない。
 ただ、先程の爆発の衝撃のせいで、体が痺れて動かないだけだ。
「何っなんだよ、これ……っ!」
「う、つぅ……」
 痺れる体を何とか引きずりつつ、呻くようにバンが怒鳴り、渡も何とか立ち上がろうと試みる。だが、やはりというべきだろうか。立ち上がろうにも膝、そして肘に力が入らず、すぐに体がくずおれてしまう。
「あははっ。殺さない程度の爆発……気に入ってくれた?」
「ぐ……あぁっ!」
 楽しげな笑い声と共にインキュバスはそう言うと、自身に一番近い場所に転がっていたバンの腹を勢い良く踏みつけ、そのままグリグリと爪先で踏み躙る。
 爆発の影響で痺れを感じてろくに動けないにも関わらず、痛みはいつも通りに感じるのだから、人間の体とは不便なものだ。
「あはははっ。実に良い眺めだぁ……デカレンジャーと二人のキバが地に平伏してる。まるで僕を崇めるように」
 バンを踏みつける事に満足したのか、インキュバスはその脇腹を蹴り、渡の側へと飛ばす。同時に、呻くような悲鳴がバンの口から漏れるが、それはインキュバスにとって些細な事らしい。
 今度は太牙へ近付くと、「キングの紋章」が宿る左手を踏み躙った。
「ぐっ! 貴様……っ!」
「兄さん!」
「やっぱり、この記憶の持ち主の感情なのかなぁ……僕ぁ、宇宙警察の連中も憎いけど、お前の事も憎いんだ。この出来損ないがっ! 人間に砕身するなんて、本当に愚かな事だというのに!」
 ガツガツと、まるで太牙の左手にある「キングの紋章」を憎んでいるかのように、インキュバスはひたすら彼の左手を踏みつけ、憎悪の篭った瞳で見下ろす。
 スワローテイルを連想させる外観のせいだろうか。まるでそれは、本当にビショップが彼を憎み、そして復讐しているかのように、太牙には思えた。気のせいだろうか。一瞬だけだが、声までビショップのものに聞こえた気がしたのは。
 やがて太牙の手を踏みつける事にも満足したのだろうか。彼はゆっくりとその足を太牙の手から降ろすと、狂気じみた笑みをその体に映して口を開いた。
「……さてと。それじゃあ僕の望みの、最終段階に入ろうか」
「お前の……」
「望み?」
「教えてあげるよ。何をしようとしているのかを」
 楽しげなインキュバスの言葉に、バンと渡は彼とは対照的な不審げな声を漏らす。
 その声に快感を覚えているのだろう。インキュバスは更に声に愉悦の色を濃く滲ませると、その姿を「ファンガイアに似た物」から、元のインキュバスに戻す。
 戻った顔にも狂気に歪んだ笑みが浮き、それを倒れ伏した彼らに向けて、朗々と声を放つ。
「人間のライフエナジーを奪って、僕ぁサキュバス姉さんを復活させるのさ」
「何だと!?」
「そんな事が出来るの!?」
 ホージーとウメコの驚愕の声に、インキュバスはこれ以上歪めようがない程に顔に狂気を張り付け、高らかに笑いながら両手を広げた。
 まるで、何かに陶酔しているように。
「ファンガイアの秘術の中にはね、亡骸にライフエナジーを与えて、復活させる事ができるってものがあるんだ。そこの、二人のキバなら知っているよねぇ?」
「サバト……いや、ビショップが先代キングにやった事と、同じ……!?」
「そう。もっとも、自我を伴う完全な復活には、通常の五倍のライフエナジーがいるんだけど……お前達の命で、ちょうど数が合う。…………合うように、僕が仕向けた」
「まさか……最初からそれが目的だったのか!?」
「そう、そのまさかだよ。お前達にその事実を教え、絶望した所を殺す。それが僕の、お前達に対する最っ高の復讐さ」
 きゃははは、と甲高い笑い声を上げ、インキュバスは悔しげに自分を見上げる面々に向かって、小ばかにしたような表情を向けた。
 その顔に浮ぶのは、憎悪と侮蔑、怨敵とも呼べるデカレンジャーをこの手で葬れるという愉悦。そして……姉を蘇らせる事が出来るのだという至福。
 姉への、狂気じみて歪みきった愛を感じさせるには、充分だった。
「ねえ、悔しいだろう? 『正義』を掲げるお前達の命が、『邪悪』そのものである姉さんの復活に使われるなんてさぁ! 『正義は勝つ』? 違うね、『勝った者が正義』なのさ!」
 そう言ったインキュバスが、吸命牙を出現させると……最初の狙いを決めたらしい。
 真っ直ぐにバンを見据え、その「命を奪う牙」を突き立てようとした、まさにその瞬間。
「やらせませんよ~!」
「はあっ!」
 声と同時に室内の照明が落ちたかと思えば、直後にはギィンと金属がぶつかり合うような音と、ピシリと何かがひび割れたような音が立て続けに響いた。
 何が起こったのか、倒れていた面々には……そしてインキュバスにも理解できなかった。しかし、暗闇に対応し始めた刑事達のマスクの光学機能が、そして闇に慣れはじめた二人のキバの目が。バンの脇に立ち、薄青の刀身の剣を構える鈍色の刑事の姿を捉えた。
 それは滅多に動かぬはずの、バン達が尊敬してやまない存在……宇宙警察地球署署長、ドギー・クルーガーその人であった。
 倒れていた面々は彼の姿に励まされたのか。痺れの取れ始めた体を強引に起こし、ややふらつきながらも、しっかりとその足で立ち上がる。
 それを見て安堵したらしい。ドギーはフッと軽く笑うと、インキュバスの方へと向き直り……
「百鬼夜行をぶった切る! 地獄の番犬! デカマスター!」
「ボス!」
「待たせたな、皆! 無事か!?」
「大丈夫です! でも、どうしてここに?」
「彼を案内してきた」
 言ったドギーの視線の先には、金色の小さなドラゴンの姿。大きさで言うなら人の腕くらいだろうか。鼻頭には白い小さな角のような物が生えている。
 ……そのドラゴンの事を、渡と太牙は知っている。
 「黄金のキバ」と呼ばれる渡の纏う鎧の、真の力を発揮させる存在……魔皇竜タツロットだ。
 その姿を見つけると同時に、バンの脇には先程ドギーが、宣言通り「ぶった切った」と思しき、インキュバスの吸命牙が一本、落ちている事に気付く。
「渡さーん、キバットさーん! ご無事で何よりです~!!」
「タツロット!」
「タッちゃん、遅い!!」
「ナマステ~!! すみません、何だか僕だけインドで迷子になっちゃって。でも、ここからは、テンションフォルテッシモで行きますよ~!」
 「フォルテッシモ」と言うより、ある意味こちらこそ「アレグロ」だ。
 そう思いながらも、渡はじっとインキュバスを見つめた。
 吸命牙の一本を斬り落とされ、残った一本もタツロットが体当たりをした際に傷ついたのか、ひびが入っているのが見える。斬られた吸命牙は戻らないし、もう一本もあのヒビだ。しばらくは使えないだろう。今すぐに他者のライフエナジーを奪う事は出来ない。それは即ち、バン達からライフエナジーを奪い、姉を蘇らせる計画が頓挫したことを意味する。
 あと少しというところで己の目的を断ち切られたインキュバスは、目の前の現実を受け入れられないらしい。ガシガシと頭を掻き毟りながらその場に佇んでいた。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! こんなの、こんな、あいつらにとって都合の良い事が起こるなんて! ありえない! ありえないありえない!!」
「へっへ~ん。言っただろ、『正義は勝つ』って!」
「黙れ! 何で、どうして、どこで狂った!?」
 彼は知らない。その計画には、最初から無理があったという事を。仮に上手くいったとしても、彼の姉が完全な形で蘇る保証もなかったという事も。
 己の計画が頓挫したことで、何かが切れたのか。彼は残っていたイーガロイドをギロリと睨みつけると、八つ当たりのように大声で怒鳴る。
「何であいつを止めなかったんだよ!? 何の為にお前らを買ったと思っているんだよ!?」
「ちっ。八つ当たりしてんじゃねぇよ、うぜぇガキだな。面倒臭ぇ」
「な、んだと?」
 しかし……その怒声に返ってきたのは、アンドロイドとは思えない、感情の篭った一言だった。
 一瞬、何を言われたのか理解しきれず、呆然とするインキュバス。しかし、そんな彼に興味などなくなったのか、イーガロイドはフンと軽く鼻で笑うと、彼の方は見向きもせず、立ち上がったばかりのデカ達目掛けて剣を振るう。
 だが、その剣もデカマスターの持つDソード・ベガに弾かれ、そのまま返す刀でバッサリとその身を断ち切られた。
「ああ……あああああああっ!」
 完全なる形勢逆転。
 その事に気付いたのか、インキュバスは慄くような、嘆くような、絶望その物を表すような声で悲鳴を上げた。
「リバーシア星人インキュバス。七十九の惑星を壊滅させた罪並びに、地球における三十八人の虐殺の罪で……ジャッジメント!」
 バンの宣告と同時に、彼のSPライセンスを通じて宇宙最高裁判所の判決が下りる。
 デリート許可なら「×」、デリート不許可なら「○」と言った具合に。そして、今回彼に下りた判決は……赤い、無情な「×」印。
「デリート許可!」
「同時に、こちらも王の判決を言い渡す。ビショップの力を使い、数多の人間を死に追いやったその罪は……やはり、死だ」
 太牙の冷酷な宣言も重なり……インキュバスはその目を大きく見開いた。
 死ぬ。
 殺される。
 今まで他人に向けてきた悪意が、今になって自分に返って来たという事だろうか。
 ……冗談ではない。愛する家族を取り戻す。それの何が悪いのか。
――他人を巻き込む事が罪? 意思を持つ者なら、どんな形であれ他人を巻き込むものだろう? それが、僕の場合……たまたま悪意に満ちたものだっただけ。それの何が悪い? 押し付けられた偽善を正義と言うのなら、僕はその正義を否定する!――
「善悪は確かに絶対的な物かもしれないけれど……正義は見る者によって変わるんだ!! 僕の正義は……姉さん達と一緒に、悪意をまき散らす事なのに!」
 泣きそうな声で怒鳴ると同時に、インキュバスはパチンと指を鳴らす。
 その音に応えて現れたのは……彼の兄が使った怪重機ゴッドパウンダー。それが、いつもよりも少し赤みがかって見える満月を背負いながら、轟音を立てて地を駆ける。
「僕には力はない。ないなら……奪えば良いんだぁぁぁ!」
 まるで彼の中の悪意が暴走したかのように、彼は狂気に満ちた表情でゴッドパウンダーに乗り込むと、彼の視界に入る物全てを消し去ろうとしているかのように破壊の限りを尽す。
「壊れろ、消えろ、死に絶えろ! お前らは殉教者。そしてこの星は、お兄ちゃん達や姉さんの墓標になるんだ。あははははっ! 光栄に思え!!」
「誰が思うか! スワンさん!」
「タツロット!」
「行きますよ~、変っ身!」
 バンがスワンに彼らのマシンであるデカマシンの出動要請をすると同時に、渡もまた、やってきた「仲間」に要請する。己の纏う鎧の、真の力を発揮するために。
 それに応えるように、タツロットは渡の鎧に巻き付いている鎖……カテナを解き放ち、彼の真の姿を開放した。
 「黄金のキバ」……「皇帝」の名を冠する姿、「エンペラーフォーム」へと。
「渡……頼んだ」
「……うん」
 真直ぐに太牙を見つめ返して頷くと、渡はゴッドパウンダーに向かって駆け出し……連続でタツロットのスロットルを引き……その姿をエンペラーバットと呼ばれる物へと変え、夜闇の中を舞う。
 ファンガイアと異種の混血である渡だからこそ変わる事の出来るその姿は、悠然と夜闇の空を舞い、美しくも禍々しい金の光を纏ってゴッドパウンダーを撹乱する。
「命名。キンキラコウモリ君」
「ジャスミン、今は命名してる場合じゃないと思うんだけど……」
 ジャスミンに冷静に突っ込みを入れながらも、センちゃんは心の内でデカマシンの到着の遅さに疑問を抱き……そしてふと視線をデカベースのある方向へと向けた瞬間、その理由を理解した。
 今回の要請に応じたのはデカマシンではなく、デカベースその物であった事を。
「……何でデカベースクローラーが……?」
「スワンには、あらかじめ俺が要請しておいた。今回は何が起こるか分からなかったからな。デカベースロボで対応するようにと」
『そう言う事。ドゥギー、皆、それに太牙君も乗って!』
『ロジャー!』
「分かった」
 SPライセンス越しに聞こえるスワンの声に答え、残りの面々はすぐにデカベースに乗り込む。直後、デカベース内に退避命令が発令、「建物」であったはずのそれは、ゆっくりとその身を変形させ、大型ロボのデカベースロボとなった。
「……凄いな。建物自体が変形するのか」
 感心したように太牙が呟くと同時に、エンペラーバットと化した渡も同じ事を思ったのか、デカベースロボの肩に止まって感動したような咆哮を上げる。
 しかしすぐさま、夜の闇の中に浮かぶエンペラーバットの額に並ぶ緑と、デカベースロボのパトライトを模した赤い光が、ゴッドパウンダーの暴挙を止めるべく奔った。
 巨大とも呼べる程に大型故、小回りの利きそうにないデカベースロボに対し、渡の方は小柄で逆に小回りが利く。渡の動きに翻弄され、その一方でデカベースロボの超重量のパンチを食らい……かつてはデカレンジャーロボを追い詰めた事さえあるゴッドパウンダーは、ふらついていた。
 それはおそらく、操縦者の技量の問題もあるのだろう。彼の兄は何でも出来たが、インキュバス自身はそうではない。
 彼は策士であって、実際に動く事には適していない。ガイアメモリによる力の付与がある事を考慮に入れても、その中に記録されている「記憶」には、怪重機の操縦方法など存在しない為に、体が思考に追いつかないのだ。
「くそ……くそ、くそ、くそぉっ!」
 コックピットの中で、インキュバスは悔しげに操縦桿を握る。しかしそれも、もはや虚しい抵抗でしかない。
 ゆらりとよろめいたゴッドパウンダーの前に、デカベースロボが立ち塞がり……
『パトエネルギー全開!』
『Wake up』
 刑事達の言葉に乗せるように、太牙もまた、サガークにジャコーダーを挿し込みそのサガークによって制御された魔皇力をデカベースロボに送る。
 何故そうしたのか、太牙自身も分からない。ただ、気が付けば体が勝手に動いていた。強大な魔皇力によって、この強大なロボが四散する可能性もあったのに。
 しかし、デカベースロボは巨体であるが故に、そのエネルギーに耐えた。いや、むしろ魔皇力がデカベースロボのキャパシティを完璧に満たした。
 魔皇力とパトエネルギーが混ざり合った力を得たせいだろうか。デカベースロボの目が、一瞬だけファンガイアのような虹色に染まる。
『スネーキング・ヴォルカニック・バスター!』
 デカベースロボがその胸部に溜めた七色のエネルギーを放つのと、その肩に止まった渡が口から金色の光線……「ブラッディ・ストライク」と呼ばれるそれを放ったのは同時。
 直後、太牙の持つキングの紋章と、渡の持つキバの紋章がゴッドパウンダーの背後で重なり合い、前面からはスペシャルポリスのエンブレムが合わさるように進み……その光線は、普段ならばありえない「夜の虹」となって、ゴッドパウンダーを完全に貫いた。
「あは。姉さん……やっぱり僕ぁ……駄目だったよ……」
 爆発に飲まれ、自らの体から抜け落ちた「ファンガイアメモリ」を見つめながら、どこか嬉しそうな表情でインキュバスはその身を焦がす。
 ゆっくりと地に倒れこんでいくゴッドパウンダーの中から見えたのは、街の光に負けてはならぬと光り輝く数多の星と、やけに紅い月。
 死の間際だというのに、何故かインキュバスは呑気にもその美しさに見とれてていた。
 綺麗でありながら、残酷な色。それは、愛して止まない自身の姉と同じ色。
「なぁんだ……姉さん、そこに……いたんだね」
 まるで、迷子の子供が親を見つけたかのような声でそう呟きながら……インキュバスは、完全にこの世から消え去ったのであった。

『これにて一件コンプリート! メガロポリスは日本晴れの天満月!』
「おや、倒されましたか。ふふ。惜しかったですねぇ、良い所まで行ったのですが」
 ゴッドパウンダーに搭載していたカメラに写っているとも知らず、呑気に決め台詞を放つ刑事……バンの声を聞きながら、エステルは手元の本を閉じて言う。タイトルには「A Kiss Before Dying死の接吻」と書かれているのが見て取れた。
 他にも「Farewell, My Lovelyさらば愛しき女よ」、「銭形平次捕物控」など、そこそこ渋いラインナップの本が山積みにされていた。
「しかしまぁ、私としてはそれなりに稼げましたので良しとします」
「ふん、私もそれなりに稼げた。が、貴様と組むのはこれきりにしたいところだな」
「おや、嫌われてしまいましたか。ならば私は早々に退散しましょうかね」
 ギロリと睨み付けるような視線を送るアブレラに対し、エステルはひょいと肩を竦め、読んでいた本を自身のジュラルミンケースにしまい……
「ああ、あなたに売った『もう一つ』の方はご自由にお使い下さい。……それではアブレラ、御機嫌よう」
 にこりと笑ってその姿を闇に消すエステルを見送り、アブレラは困ったように考え込む。彼から買った「もう一つ」……本当に死者を蘇らせると言う存在の情報の使い道を考えているのだろう。
 彼の手には「爆竜戦隊アバレンジャー超全集」という本。
 彼の脳内には「トリノイドはふざけた奴が多いですよ」というエステルの言葉。
 その二つを持ちながら、彼は次なる商売相手を探すのであった……


「只今戻りました」
「……最っ低でありんす」
「す、すみません。僕もステラさんに同感です」
「帰って来るなりその言葉。……いきなり何です?」
 むうと唇を尖らせ、親指を下に向けてブーイングを送るステラと、おろおろとした表情のズヴェズダに対し、エステルは心から何の事か分からないという風な表情で首を傾げた。
 ステラとズヴェズダの横では、呆れたような視線を送る天狼と、訝しげな表情を浮かべる爪牙もいる。
「何で最初から、あの可哀想な少年に、トリノイド第ゼロ号、サウナギンナンの事を教えなかったでありんすか」
「ああ、そんな事ですか。簡単です、ただの実験ですよ。ファンガイアの先代ビショップは、実際にその知識で先代キングを蘇らせました。あのメモリにはその記憶が記録されている」
「上手く使えば……実際に出来たかもしれない。出来なかったのは……奴の甘さ、だ」
 エステルの言葉を継ぐようにそう言ったのは、「顔全体が口」という表現がしっくり来るような異形だった。右手には巨大な彫刻刀を持ち、一度目に入れば印象に残るはずなのに、全くと言って良い程気配がない。
「ぅおわっ! エトワール……お前、いたのかよ」
「うぬぅ。口数が少なすぎるのも問題だな。相変わらず存在感が薄い輩よ」
「最初から居た」
 天狼と爪牙に言われながらも、特に気にした様子もなく、エトワールと呼ばれたその異形は答える。
 最初から、とは一体いつからだろうと思わなくもないのだが、気付かなかったのはこちらの落ち度だ。あえてつっこまないのは、彼らの間のルールと言えよう。
「あなたが喋るなんて珍しい。……行くつもりですか、エトワール?」
「うむ。新作が出来た。プレゼントに行く。それに……腹も、減った」
「……どうでも良いですが、食べ過ぎないで下さい? あと、暴走も禁止です」
「善処、する」
「ああ、向かうついでに、このメモリの実験もしてきて下さい」
「…………反発しそうな、気がする」
「その時はその時です。どう暴走するのかも見ておきたいので」
「エステルは…………やっぱり、鬼畜、だ」
 ぽつりと漏らすようにそう言うと、エトワールはその場にいる面々に深々と頭を下げ……
「では……明滅の使徒、エトワール。侵略の園へ、行ってくる」
 とだけ言い残し、その闇の空間から消え去ったのであった。


Episode23:ナイトメア・ナイト

25話:アバレろ、その魂!
4/4ページ
スキ