☆特捜戦隊デカレンジャー&仮面ライダーキバ☆

【Episode21:ヴァイオリニスト・ヴァンパイア】

 S.P.D――Special Police Dekaranger――
 燃えるハートでクールに戦う六人の刑事達。
 彼らの任務は、地球に侵入した宇宙の犯罪者達と戦い、人々の安全と平和を守る事である!

「久し振りだな、エステル」
「お久し振りです、エージェント・アブレラ。凄腕の商売人たるあなたが、この星では大分苦戦されていると言う噂を聞きますが?」
 どこかの工場跡。そこに、天井から蝙蝠の如くぶら下がっている一人の異星人エイリアンがいた。
 他の惑星との交流が盛んになった昨今、エイリアンと呼ばれる彼らの存在は、然程珍しくはない。しかし彼は、この地球では……否、宇宙全土において見かけないタイプのエイリアンであった。
 彼の名は、エージェント・アブレラ。銀河を一つ破壊し、今はこの地球を拠点に兵器や戦力を売る、「死の商人」である。彼の出身惑星であるレイン星では、一人一人のルックスが異なる為、恐らく彼と同じ姿形をしたエイリアンは存在しない。彼の姿は、彼だけのものだ。
 そんなアブレラに声をかけたのは、これと言って特徴のない顔の青年、エステル。ニコニコと胡散臭い笑顔をアブレラに向けている彼もまた「死の商人」……即ち、アブレラの同業者であり、幾度かマーケットを巡って渡り合った間柄である。その際、いくつかの惑星が文字通り星屑と化したのは、今となっては良い思い出だ。
 そんなエステルの言葉に返すように、アブレラは軽やかな足音を立てて地に降り立ち、ばさりと自分のマントを翻すと、不審と不満の入り混じった表情を浮かべて彼を見やった。
「フン。それもこれも、デカレンジャーが私の商売の邪魔をするからだ。それで? 同じ商人である貴様が、私に何の用だ?」
「決まっているでしょう? 商売に来たのです。あなたに、これを買って頂きたく」
「……何だ、これは?」
 開かれたジュラルミンケースには、人差し指程の長さの「何か」が綺麗に納められている。その中の一つ、虹色のボディを持つそれを手にとって、アブレラは値踏みするような目でしげしげと眺める。
 中央には、ステンドグラスの意匠で「F」の文字が書かれており、何かに挿し込む為の端子が先端に付いている。強いて言うなら、パソコンなどのメモリ端子のように見えるが、その割には大きすぎる気がした。
「それは、ガイアメモリ。今あなたがお持ちなのは、『ファンガイアメモリ』と呼ばれる物ですね」
「ガイアメモリ? 聞いた事のない商品だな?」
「新規の商品ですからね。まだ『こちら』には出回ってません。その商品は、中に記録された力を己に付加させる生体用端末……と言った所でしょうか。攻撃力、防御力、そして何より凶暴性が上がります」
 ニィ、と悪役めいた笑顔を浮かべてエステルはそう言うと、マントの懐部分からじゃらり、と何かを取り出す。
 ……算盤そろばんだ。
 彼はアブレラに見せ付けるようにしながら、その珠を手慣れた様子でパチパチと弾く。
「そうですね……本来ならばこれ位で売りたいところですが、同業者値引きと言う事で……十万ボーンでいかがです?」
「高いな。出せて三万だ」
「それではこちらが倒産します。最低でも八万は頂かないと」
「何を言う。ここに傷がある。三万五千」
「仕方ありませんね……七万で手を打つ事は?」
「甘く見るな。どうせこれも、どこからか奪った物なのだろう。粗悪品ではこちらの沽券に関わる。……四万」
「粗悪品など! 奪った物である事は否定しませんが、私もかなり危険な橋を渡っているのです。それに、こちらだって信頼第一でやっているんですよ、アブレラ。……最大譲歩で五万です」
「無理だ。こちらもこれ以上の赤字は御免だからな。四万一千」
 ……その後も、およそ三十分に渡り、これ以上値引けない、高くて買えないを繰り返し……結局の所、四万二千百八十ボーンと言う、何とも細かい数字で決着がついた。
「ふっ。エージェント・アブレラ。やはり最大のライバルはあなたのようですね。この私が、ここまで値切られるとは……!」
「それはこちらの台詞だ、エステル。まさか十ボーン単位で値切る事になるとは思わなんだ」
 とても、死の商人同士とは思えない会話を終え、二人はどっと疲れたように溜息を一つ吐いて額の汗を拭うと……次にそれを売るべきカモを待つのであった。

 一方、宇宙警察地球署、通称デカベース。そこではここ最近起こっている「連続人間ガラス化殺人」に関してのミーティングを行っていた。
 「ガラス化殺人」その名の通り、人の亡骸がガラス状になり、粉々に砕けて亡くなるという事件だ。
 犯人は勿論の事、方法すらも不明。二日から三日に一人の頻度で死者が出ており、これ以上看過する事は出来ないという事で、早急な対策を必要としていた。
「被害者の亡くなり方から言って、エイリアンの仕業である事は、ほぼ間違いない」
 一際高い場所でそう言ったのは、ここの署長であるアヌビス星人、ドギー・クルーガー。地球署での通称は「ボス」。青い毛並みの犬に似た顔をしており、身長は二メートル少しと言った所か。黒いコートのような制服と、ピンと伸びた背筋が、大柄ながらも彼をスマートに見せている。
「アンビリーバボー。人間をガラスのように変質させるエイリアンか」
「おのれ、許すまじ」
 黒地に、青い星の入った制服を着ている青年、ホージーこと戸増とます 宝児ほうじの言葉に、同じデザインだが星の色だけは黄色い制服の女性、ジャスミンこと礼紋れいもん 茉莉花まりかが強い語調で呟く。
「目撃者の話だと、こうなる直前、二本の『牙みたいな物』が目撃されている……と」
「うーん……牙かぁ。まるで吸血鬼みたいだね」
 ピンクの星の女性、ウメコこと胡堂こどう 小梅こうめがそう言うと、隣に座っていた緑の星の青年、センちゃんと呼ばれてる男性、江成えなり 仙一せんいちが返す。
 確かに、少し吸血鬼をイメージさせるが、失われているのは血液ではなく人の命そのものだ。彼らの言葉も、場の空気も重くなる。
「ナンセンス。命を吸うエイリアンなんて! 血を吸わなければ生きていけないエイリアンは確かに存在しますが、彼らだって、人を殺す程大量には吸いません!」
「何にしろ、天網恢恢てんもうかいかい勧善懲悪かんぜんちょうあく! これ以上の被害が出る前に、何とかしないとまずいだろ!」
 黒ではなく白地制服に紺の星の制服の青年、姶良あいら 鉄幹てっかん……通称テツが静かな怒りを秘めた声で言うのに対し、黒に赤い星の青年、バンこと赤座あかざ 伴番ばんばんの方は、感情剥き出しでそう怒鳴る。
 人の命が奪われる事。それは彼ら刑事デカが、最も悲しむべき事であり、同時に忌むべき事でもある。ましてそれが故意に引き起こされた事であるならばなおの事。
 犯人がどこの誰なのか、今のところ全く分かっていないのだが、こんな事を平然とやれてしまうような者だ。凶悪な存在である事には違いない。
 そして、そんな存在を野放しになど出来ない……そう思い、バンがその拳を机に叩きつけたその瞬間。
『皆! 例のガラス化事件が、ポイント374付近で起こっているようなの! 現場に急行して!』
 別の部屋にいたこの署のメカニック、白鳥スワンの焦った声に、六人の刑事達はほぼ同時に立ち上がり……
『ロジャー!』
 了解した旨を告げると、彼女の教えてくれたポイントへと急行するのであった。

 到着した時、既にそこには幾人もの「ガラス化した人間の亡骸」と、顔にステンドグラスの模様のような物を浮かべた男、そしてその男と対峙するように、金色の人の顔ほどの大きさの蝙蝠を従えた青年と、白い円盤型の何かを従えた青年が立っていた。
 ステンドグラスの模様を浮かべた方の背には、二本の牙らしき物が浮いている。
 今まで得た情報や、見えている状況から判断するに、どうやら顔に模様を浮かべた方が犯人らしい。
 そう理解し、慌てて残りの二人を保護しようと駆け寄ろうとした、まさにその瞬間。
 円盤を従えている方の青年が、静かにその口を開いた。
「何故、人間を殺す? 人間を襲うのは新たに禁じられただろう!?」
――え?――
 顔見知りなのだろうか、青年はまるで、相手の事情を知っているかのような口調で相手に声をかけた。
 青年の声音は、相手を説得しているように聞こえるのだが、一方で犯人らしき男はそんな事など気にしていないかのように、フンと鼻で笑うと、怒鳴るような口調で言葉を返す。
「人間の命を吸って何が悪い! アレは俺達の餌だぞ? そもそも、ここは異世界だ! 王の命令に従う義務から解放された土地だろ!!」
「それは違う。いついかなる時、いかなる場所であっても、王の命は絶対だ」
「いいや違うね! 王の命令に従わなきゃいけないのは、王の目の届く範囲での話だ。ここなら絶対に届かない。だから俺は、好きなように食事をしているのさ!」
 そう叫んだ瞬間、男の姿が変わった。
 青っぽい体色をした、馬面の生き物。今まで出会ってきたどのエイリアンとも合致しないが、相手は地球と交流の少ない惑星の出身なのだろうか。
 体の細胞は、まるでステンドグラスのモザイク画のようにも見え、高貴さすら感じられた。ただし、大量殺人犯である事を忘れていればの話だが。
 一方で今までその「馬面」に声を投げていた青年は、心底がっかりしたように一つ溜息を吐くと……やおら、左手につけていた黒い手袋を外した。その仕草は、どこかジャスミンがエスパー能力を使う時に似ている気がする。隠された事実を曝け出す時特有の、張りつめた空気が周囲を覆う。
「……そうか。それなら……」
「え?」
「王の判決を言い渡す。死だ」
 青年が手袋を外した左手を見せると、相手は慄いたようにたじろぐ。そしてその直後に下された宣言は、どこか、デカレンジャーがアリエナイザーに対して行う「ジャッジメント」に似ていた。
「兄さん……」
「渡、これは王である僕の仕事だ。……サガーク!」
『Hen-shin』
 蝙蝠を従えている青年……ワタルと言うらしい彼にそう告げると、彼の兄と思しき青年が円盤を呼ぶ。
 その声に応えるように円盤は青年の腰に巻きつき、「変身」と、確かにそう宣言した。
 そこまで眺めて、ようやくバン達は我に返る。
 彼が宣告した言葉、そして目の前の光景。エイリアンによる犯罪は、宇宙警察が取り締まるのが常だ。だが、それを飛ばして、目の前の青年は、彼のルールにのっとって相手を裁こうとしている。
「おいちょっと待てよ!」
 バンが止める間もなく、青年の姿が変わった。
 銀色の、どこか「王」を連想させるその姿。
 手に持つ武器は縦笛だろうか、そこからは赤い鞭のようなエネルギーが伸びている。
「まさか……まさかお前は……!?」
 震える声で言いながら、その馬に似た「何者か」は相手の顔を見つめるが……すぐに、吹っ切ったのだろう。あるいは開き直ったと言うべきか。軽く首を振り、グオオと一声吠えると、一直線にその銀の戦士に向かって走る。
 だが、銀の戦士はそれを軽くかわすと、手元の鞭を軽く振るい、相手の体を打った。
 見た目には軽く振ったようにしか見えなかったのだが、実際は相当に重い一撃だったのだろう。「馬」に鞭が触れた瞬間、びしぃっと鋭い音が周囲に響いた。
「ぐあっ!?」
 悲鳴をあげ、「馬」はその場でもんどりをうつ。しかしそのままでは危険だと理解しているのだろう。彼は即座に立ち上がると、己の背後に先程も見せていた「牙」を浮かせ……そして、戦士へ向って勢い良く飛ばした。
 しかし戦士は、それを持っていた「笛」で叩き落す……と言うよりも叩き斬るようにして弾き飛ばし、そのままの勢いで再度「馬」の体を打つ。
 斬り落とされた「牙」は石床の上でパキンと砕け散り、打たれた「馬」自身もまた、体の一部が欠片となって剥がれ落ちる。
「何故だっ!? 人間を襲い、その命を喰らう。それは我々ファンガイアの本能ではないか!」
 ガラス細工の模様の一つ一つに、「馬」になる前に見せていた男の顔が映り、怒鳴り散らす。
 その顔を、憤怒と憎悪……そしてほんの僅か、恐怖に歪めて。
 そして、怒鳴る「馬」とは対照的に、戦士の方は静かに、そして淡々とした口調で言葉を返す。
「それが本当に本能だとしても、それに従うだけなら獣と変わらない。……ファンガイアは、獣ではない。理性を持った者だ。だからこそ、人間との共存を打ち出した」
 悠然とした足取りで「馬」に歩み寄ったかと思うと、戦士はその鞭をしならせて「馬」の体を拘束する。
「人間を襲い、幾人も殺した罪。お前は一族の掟を破った」
『Wake up』
 戦士が言うと同時に、腰のベルトらしき部分から機械加工したような音が響く。
 直後、彼は拘束していた鞭を解いたかと思うと、そのまま相手を刺し貫き……その瞬間、夜が来た。
 少なくとも、その場にいたバン達はそう思うくらいの闇が、辺りを覆い、その宙には何かの紋章らしき模様が浮かび上がる。
 「Wake up」と言いながら、夜を呼ぶ矛盾。それを感じながらも、バン達はまるでその場に縫いとめられたかのように立ち尽くす。
「や、やめろ……やめてくれぇぇぇっ!」
「ダメだ」
 紋様に飛び込んだ銀の戦士に、背負うように宙へ吊り上げられたその「馬」が、悲鳴にも似た声を上げる。しかし戦士は冷たく一言だけ返すと……その鞭を指先で軽くなぞった。
 刹那。「馬」は断末魔の悲鳴を上げ、呆気なくその場に散ってしまう。
 色とりどりの、ガラスの欠片となって。
 それは、彼が今まで殺してきた者達の最期をなぞるかのようで……因果応報という言葉が浮かぶ。
 とは言え、「馬」を「処罰した」彼に、その権限はないはず。
 あまりにも唐突な出来事に、呆然と見ていたバン達だったが、はっと我に返ると、変身を解いた青年の前へ、半ば詰め寄るような形で立つ。
 いくら相手が大量殺人犯だからと言って、「審判」もなしに相手を殺すのは、法に反している。行なった事は「死刑」ではなく「私刑」だ。
 特に、アリエナイザーに対してのそれは、最悪の場合惑星間の問題にもなりかねない。
「おい、お前!」
「……何だろう?」
「デリートの許可は下りていなかった。何故殺した!?」
 詰問するようなホージーに、銀の戦士だった青年は真っ直に彼らを見つめ、不思議そうな表情を浮かべながら彼なりの答えを声に出す。
「これが僕達一族の掟だったからだ」
「掟? それに、一族って?」
 今度は不思議そうに、センちゃんが首を傾げると、青年も極力分りやすい説明を心がけているのか、こくりと一つ頷き……
「人間に害をなしたファンガイアは、王の判断によって裁かれる。それが、今のファンガイアにおける掟の一つだ」
「なら、その王サマを連れて来なきゃ駄目じゃない! あなたの勝手な判断で殺しちゃダメでしょう!?」
「いえ、その……兄さんなんです」
 ウメコの言葉におずおずと返したのは、金の蝙蝠を従える青年の方だった。
 彼は恐々と言った風に彼らの顔を見ながら、更に言葉を紡ぎだす。
「今の、ファンガイアの王は」
『……はぁ!?』
 訳も分らないまま六人は素っ頓狂な声を上げると、信じられないと言いたげな視線で、まじまじと二人の青年を見やる。
 「ファンガイア」という名の惑星は聞いた事がないが、どこかの遠い星なのだろうか。一族とか掟とか、やや閉鎖的な感は否めないので、ひょっとすると他の惑星との交流が少ない星なのかもしれない。
 そして仮に、銀の戦士に変身した彼がその星の王だとしたら……こっちのオドオドした青年は、王弟と言う事になる。
 だが、王族の割に、着ている服はカジュアルだし、お供もついていない。以前出逢った某惑星の王女様には、侍女やら執事やらがついていたので、それが当たり前だと思っていたのだが。
 ……あれだけ強ければ、確かに護衛を兼ねたお供は必要ないのかも知れない。あるいは彼らの周囲を飛び回っている円盤や蝙蝠が「お供」なのだろうか。
 先程の「馬」がファンガイアという存在なら、自分達の王の顔を知らないというのもおかしな話だ。もっとも、途中からは気付いていたようなそぶりを見せてはいたが、何を見て気付いたのかは判断に苦しむ。
「おい、渡。こいつら、全っ然信用出来てないみたいだぞ?」
「そんな事言ったってキバット……兄さんが『キング』なのは事実だし」
「え? 蝙蝠が……喋った?」
「……ナンセンス……」
「コラ! そこの白い制服! ナンセンスとは何だ! ナンセンスとは!! これでも俺サマだって、由緒正しいキバット族の一員なんだからな!!」
「ちょっと、やめなよキバット」
 呆然と呟いたセンちゃんに同意したテツの言葉が気に入らなかったのか、金色の蝙蝠がその翼でペシペシとテツの頭を叩き、心外そうにそう怒鳴る。
 その脇では、何を考えているか分からない白銀色の円盤がふよふよと漂っている。
 一体、この生き物達は何なのだろう。
 それに、この二人の青年は? 「ファンガイア」とは一体どこの惑星なのだろうか? そして地球に来た目的は一体?
 混乱する頭を必死に整理した彼らが出した答えは……
「とりあえず、デカベースまでご同行願いましょ」
「デカベース?」
「何なんだ、君達は?」
 不思議そうに言う彼らに、バンがえっへんと胸を張り……
「俺達は、宇宙警察地球署の刑事。お巡りさんだ!」
「……はぁ?」
「……はぁ」
 よく分らない、と言う表情で呟いた二人を、半ば強引にデカベースへと連行するのであった。
 ちなみにその間、金色の蝙蝠が何故かずっとジャスミンに「噛ませろ」とせがみ、その度に「不埒者!」と叩き落とされた事を、ここに追記しておこう。


第20話

第22話:フェルマータ⌒宇宙警察のカデンツァ
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