☆魔法戦隊マジレンジャー&仮面ライダー剣☆

【第20話】

 ホエールアンデッドの体にギャレンのコンボ、「バーニングショット」が炸裂した直後、ホエールは麗の生み出した水の奔流から弾き飛ばされ、低く呻いて地に伏せる。
 水中にいた為に、火炎によるダメージは少なそうに見えはしたが、銃弾による物理的なダメージはそれなりにあったらしい。相手の腹部にあるバックルがあっさりと開いたのを確認するや、橘は即座に自分の持っていたカードを投げて相手を封印した。
 だが、今まで狙われていた方……キャメルアンデッドからすれば、即座に標的を変更した橘の行動は、愚かと言えただろう。麗が生んだ奔流に飲まれたままとは言え、橘に殺されるはずだった勢いは衰えず、低い唸り声と共にこちらに向かって突っ込み、あと数歩で手が届く距離まで迫っていた。
「まずい!」
「きゃあっ!」
 呪文を使っている麗は、その魔法を安定させる為下手に動く訳には行かないし、橘はまだホエールのカードを回収していない。
 かわしきれない。少なくとも、橘も麗もそう思った瞬間。
「ジー・マジカ! ピンクストームキィック!」
 ひゅう、と風を……いや、竜巻を纏い、キャメルの横っ面を芳香の蹴りが捉えた。
 その勢いで相手の軌道は反れ……と言うか、完全に体ごと吹っ飛び、近くの岩場にその身を激しく打ち付ける。
「芳香ちゃん!?」
「麗ちゃん、たっちー、大丈夫だった?」
「……だからたっちーと呼ぶな」
 呆れたように返しつつも、その声にはどこか安堵の色が混じっている事に、芳香は気付く。
 芳香の、橘朔也に対する印象は、常に眉根を寄せて考え込んでいるお兄さん、と言う物だ。そんな顔をしていたら、きっと幸せが逃げていく。今までどんな生き方をしてきたのか知らないが、少しは笑うべきだ。笑えば、どれ程不幸だと思える出来事だって昇華する事が出来るのだから。
 だから、彼女はいつも笑う。しっかり者の兄弟に囲まれていると言うのもあるが、彼らはしっかりしすぎていて、往々にして眉間に皺を寄せている事が多い。特に、兄と下から二番目の弟は。
 それをほぐすのが、「妹」であり「姉」でもある自分の仕事だと思っている。自分がどんなヘマをしても、しっかり者の兄弟達が支えてくれるのだから。
「それじゃ、麗ちゃん、クジラもいなくなった事だし、お願い」
「はいはい。……ジー・マジカ! ブルースプラッシュ!」
 芳香のおねだりに、しょうがないなぁと言わんばかりの声でそう言うと、麗は彼女の魔法の真骨頂である水柱で、キャメルアンデッドの体を次々と叩く。
 まさに、怒涛の攻撃。うねる水流にもまれ、時に腹部を、時に背を叩かれ、水流から開放された時には既に、キャメルの腰にあるバックルは開いていた。
「橘さん、お願いします!」
「ああ」
 短く答えると、橘は再び何も描かれていないカードを構え……そして、相手に回復する暇を与えずにそれを投げつける。
 とすりと軽い音がした。そう、芳香と麗が思った瞬間、カードは淡い緑色の光を放ち、キャメルの体を徐々に吸い込んでいく。その様子を、図らずも二人の魔法使いは、美しいと思ってしまう。
 やがてキャメルアンデッドは完全に吸い込まれ……ひゅる、と言う空を切る音と共に、橘の手の内に返ってきた。
「……これで、今回解放されたアンデッドは封印完了、だな」
 安堵の溜息混じりに、橘がそう呟いた瞬間。
 鈍い音を伴いながら、彼らの前を、三つの人影が飛ぶようにして横切った。それの影の正体が、始、翼そしてヒカルの三人だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
 飛んできた、と言うよりは飛ばされてきたと表現した方が正しいのかもしれない。瞬時に彼らは緩みかけた空気を引き締め直すと、地面に叩きつけられた彼らに駆け寄った。
「翼ちゃん!?」
「ヒカル先生!?」
「何があった、始!?」
 それぞれに向かって問いかけると、彼らは一斉にある方向へ視線を向ける。そこには血色の瞳の「悪魔」が、苛立たしげな空気を纏って悠然と歩いてくる姿があった。
 確か、冥獣人ハデスのズヴェズダだったか。
 この三人を、たった一人でここまで追い込んだというのなら、油断ならない相手だ。
「あぁん? 何でもうアンデッドの連中が封印されてんだよ。あいつら本っ気で使えねぇ!」
 ケッと言う擬音が聞こえそうなくらいの苛立ちを見せながら、相手は足元の砂利を思い切り蹴飛ばす。戦う前に見た、オドオドビクビクした雰囲気は皆無だ。いっそ別人のようにさえ思えるその豹変振りに、橘はホルダーから無意識の内に二枚のカードを引き抜いた。
「ジャックフォームならやめとけよ、銃撃の鍬形クウガ。お前が二枚読み込む前に、俺の攻撃が届く方が……」
 相手の口の端が、ニィ、と歪んだ気がした。そう思った瞬間、相手の動きがぶれ、消えた。少なくとも、橘にはそう見えた。だが、消えたのではなかったらしい。気が付いた時には更に口角を引き上げたズヴェズダの顔が、目の前にあり……言葉の先を紡いだ。
「早いんだよ」
 その言葉と同時に、橘を……いや、その場にいた六人を衝撃が襲う。
 予期せぬ攻撃に、彼らは受身を取れぬまま岩壁に叩きつけられ、地にひれ伏す。そんな彼らに軽蔑の眼差しを送りながら、ズヴェズダは悠然とした足取りで近寄る。
「クズが! 雑魚が! ゴミ共がっ! 目障りなんだよ、テメェら全員!! 死ねよ、ここで!」
 口汚く罵りながら、しかしどこか楽しげにも見える表情を浮かべると、ズヴェズダは持っていた剣を高々と振り上げ、その切っ先に今までとは比にならぬ大きさの闇のボールを生み出した。
 先の衝撃のせいか、体が痺れて思うように動かない。
 かわせない。そう翼が思いかけたその瞬間。
『RECOVER』
 音声が、響く。その次の瞬間、漆黒の旋風が、相手目掛けてはしった。それが、いつの間にか先程封印したアンデッドの力で回復した始だと気付いたのは、その闇のボールを彼が手に持っていた弓で撃ち貫いた時だった。
「『殺す』だと? それはこちらの台詞だ。そんな事をしてみろ。その時は……俺は貴様を、ぶっ殺す」
 一言一言区切るように、始は低い声で宣言する。
 何故そう言ったのかは、始自身もよく分らない。だが、ほんの少しの間ではあったが、小津兄弟の間にある絆が、栗原母娘の間にある物と同じような気がして……それを断ち切ってはいけないと、そう思った。
 恐らくそれが、「家族の絆」と言う物なのかも知れない。
「ハッ! 『愚者』本人ならともかく、欠片ごとき、しかも『そう』だって自覚もねぇ野郎が大層に。殺せるもんなら……と言いたい所だが、残念。今日のところは時間切れか」
 忌々しげにそう吐き捨てると、ズヴェズダは睨むように六人を見回すと、深い溜息を吐いて、その場から姿を消してしまった。
 何かの罠かとも思ったが、完全に気配が消えている。見た通り、「いなくなった」と思っていいのだろう。
 そう認識すると、全員の口から深い溜息が吐き出されると共に、体にかかっていた余計な力も抜けた。緊張していたのだと自覚すると、今度は今更のように細かな震えが体を襲った。
 ……殺されると、本気で思った。自分が死ぬかもしれない恐怖もあったが、誰も守れないままで死んでしまうかもしれない方が、もっと怖かった。
「……見逃された……のかな?」
「わかんねぇけど……とりあえず、助かったって感じ、だな」
 しばらくの沈黙の後に吐き出されたヒカルの言葉に、悔しげに翼は返し……持っていた「嫌味のない癒し薬」で他の面々の治療を行うのであった。

『るぅぅをぉぉぉぉっ!』
 ゴーストの名の通り、まるで怨霊その物のような唸り声を上げ、蒔人と睦月に向かって突進してくる。
 その目の部分からは、アンデッドの血に似た緑白色の涙を流し、常に「O」の字に開かれた口からは怨嗟の声が漏れている。細い両腕は、彼らを地獄に引きずり込もうと宙を掻き、幽霊と同じように足がない。空中から、幾度となく突進してくるのだ。
 しかも地面との摩擦がない分、スピードはなかなか速い。攻撃を当てたくても、かわすのが精一杯と言った所だ。
「相手の動きを止めないと、攻撃が当たらない!」
「どうします、蒔人さん」
 睦月に問われ、蒔人は油断なく相手を見つめながら考える。今のままではジリ貧だ。やがて体力が尽きて、相手の格好の的となるだろう。そうなる前に相手の動きを止め、反撃しなければならない。
 相手が大地に立つ者なら、大地のエレメントを操る蒔人の魔法で縫いとめる事ができただろうが、いかんせん今回の相手は宙を舞っている。それに、この辺りには草一本生えていない荒野。蒔人本来の力が、あまり活用できない状態だ。
 ならば、活用できる力を使えば良い。幸いにも、ゴーストと戦っているのは自分一人ではないのだ。
「睦月さん、俺に考えがあります」
「考え?」
 訝しく思いながらも、睦月は蒔人の言う「考え」を聞き……その仮面の下で、驚愕の表情を浮かべた。
「そんな事したら、蒔人さんが危険なんじゃ!?」
「アニキパワーで乗り切ります! 大丈夫、俺はまだまだ、弟達を残して死ねませんから!」
 何を根拠にしているのかは定かではないが、蒔人はどんと自分の胸を叩いてそう言い切ってしまう。
 自分にも「兄」と言う物がいたのなら、こんな風に自分を思ってくれる物なのだろうか。不安な素振りを見せず、「弟」を引っ張ってくれる、そんな存在に……
 そこまで考えて、睦月はふと橘の事を思い出した。時折脆い部分を見せる事もあるが、こちらが不安に感じている時にはそれを見せない。逆にこちらの不安を吹き飛ばすような、堂々とした立ち居振る舞いで自分を引っ張ってくれる。
――そうか。俺にとっては橘さんが「兄」みたいな物なんだ――
 否。橘だけではない。剣崎も始も、睦月にとっては「兄」のような存在なのだ。
 血の繋がりはなくとも、共に戦った絆。それはある種、家族の絆と近しい物なのだろう。
 思いながら、睦月は軽く頷くと……
「……分りました。信じます、アニキパワー!」
 かちゃ、とレンゲルラウザーを構え、言い切った睦月に対し、蒔人も満足気に頷き……
「さあ! 降りて来い、インフェルシア!」
『おおおお……をををををっ!』
 蒔人の挑発に答えるかのように、ゴーストは一際大きくそう吠えると、急降下して二人に向かって突っ込んでくる。だが、蒔人はそれを望んでいた。「相手の動きが一直線に狙ってくる」、この瞬間を。
「マジ・マージ!」
 ゴーストと自分の体がぶつかる直前、蒔人はその呪文を唱え、筋骨隆々の姿、マッスルグリーンへと変身、加速し、勢いの増した相手の体をその場に留めるべく、その豪腕で押さえ込んだ。
「睦月さん、今だ!」
「はい、蒔人さん!」
 蒔人の声に頷き、睦月が一枚のカードを読み込ませる。
 そのカードとは勿論。
『BLIZZARD』
 ブリザード。「クラブの6」である「BLIZZARD POLAR」のカードから生み出される強力な冷気で、相手を凍てつかせるカードだ。
 蒔人によって押さえ込まれ、その動きを止められたゴーストは、その冷気を直接喰らい、ビキビキと音を立てて凍り付いていく。無論、押さえ込んでいた蒔人にもその冷気はかかるのだが、その強化された筋力をもって、自分に纏わりつこうとする氷を振り払い、ゴーストから距離をとる。
 後に残るのは、完全に凍てつき、身動きの取れなくなった冥獣ゴースト。そしてそれに向かって、最後の一撃を繰り出そうとする、緑の魔法使いと緑の蜘蛛。
「ジー・マジカ!」
『RUSH』
『BLIZZARD』
 マッスルグリーンから、元のマジグリーンに戻った蒔人が呪文を唱えたのと、睦月が二枚のカードを読み込ませたのは同時。
 そして……
「グリーングランドボンバー!!」
『BLIZZARD GALE』
 マジスティックアックスに込めた魔力を、いつもなら大地に向けて放つ所を今回は直接相手に叩き込む蒔人。その斬撃と同時に、氷の力を纏った拳で、ゴーストを殴り抜く睦月。
 その二つの攻撃に耐え切れず、ゴーストはきぃぃと断末魔の悲鳴をあげ、その身を粉々に砕かれて散った。
「よし、これで……!」
 終わった。そう思ったまさにその時。
―ドーザ・メル・メガロ―
 メーミィの声が聞こえたかと思うと同時に、倒したはずのゴーストを包むように不気味な色の魔法陣が展開。ゴーストは復活し、更には巨大化したのである。

「……どうやら、潮時のようだな」
 巨大化した冥獣ゴーストを見上げ、ウルザードは魁と剣を交えながらも淡々と言葉を紡ぐ。
 気付けばズヴェズダと名乗っていた冥獣人も姿を消しており、魁を除く魔法使い達がマジマジンと化して既にゴーストと戦っているが、見た所やや魔法使い達が劣勢……と言った風に見えた。
 裏を返せば、ウルザードの側が有利であるにもかかわらず、彼は既に
「逃げるのかよ!」
「……強くなったな、赤の魔法使い。殺すには惜しい程に」
 魁の言葉には答えず、ウルザードは剣を引きながら感慨深げに言葉を洩らす。
――やっぱり、あの人は……――
 ブレイラウザーを構えながら、剣崎はふと考える。目の前に立つ、紫の騎士の「正体」を。
 自分の考えが正しいなら、彼は恐らく魁の……否、魁達五人の父親だ。それも、何らかの原因で心を操られた状態の。
 剣を交えて感じたのは、相手の太刀筋が魁のそれと似ていた事。そして、いつか「カテゴリーA」の暗示にかかり、最強だと謳っていた頃の睦月に、印象が似ていた事だった。
 だとしたら……「父子」で戦うのは、あまりにも悲しすぎる。あってはならない事だ。それは家族の絆を、家族自身の手で断ち切ると言う事。ましてその事を互いに気付いていないのならば、なおの事。
 もっとも、家族を失った剣崎だからこそ、その痛ましい「事実」に気付けたのかも知れないが。
「あんたは……こんな状況のままで良いのか?」
「何が言いたい、異界の剣士よ」
「自分の正義を……勇気を見失ったままで、戦う意味はあるのか?」
「…………俺の戦う意味は、ン・マ様のため。それだけだ」
 剣崎の言葉にそれだけ返すと、ウルザードはするりと空気に溶けるようにしてその姿を消した。
 まるで、自分の仕事は終わったと言わんばかりに。
「待て……待てよウルザード! 逃げるな!」
「よせ、魁」
「離してくれ剣崎さん! 俺はあいつと決着をつけないといけないんだ!」
「お前は何の為に戦っているんだ? 今やるべき事は、あいつとの決着じゃないだろう!? やるべき事を見極め、深追いしないのも勇気じゃないのか!?」
 手を伸ばし、今までウルザードがいた場所に駆け寄ろうとする魁の両肩をしっかりと掴み、剣崎は諭すようにそう言葉を放つ。
 その言葉に何を思ったのか、魁ははっとしたように剣崎の顔を見上げると、その体から力を抜き、相手をじっと見つめる。
 緑色の瞳の、甲虫に似た青い剣士を。
「仮面ライダーは……少なくとも俺は、人間を守るのが仕事だと思ってる。魔法使いは、違うのか?」
「それは俺も同じだけど……でも!」
「それなら。この状況を放置して彼を追う事が最善だと思うのか? 違うだろう?」
 剣崎に言われ、魁は軽く俯くと……素直に、ひとつ頷いた。
「……確かに、状況を見極めて、深追いしないのも勇気、だよな。……忘れてたよ、剣崎さん」
 マスクの下で苦笑を浮かべ、魁がそう答えた……その時。
 魁のマージフォンが淡く光った。それは、新たな魔法が、彼らの勇気に反応して与えられた証拠。
「これは……『今を見極める勇気』と『深追いしない勇気』に与えられた魔法?」
 不思議に思いながらも、魁はその二つの魔法の「本質」を理解する。
 巨大化した冥獣ゴーストを、剣崎達と共に倒す為に与えられた魔法だと。
「……剣崎さん、俺と……俺達と一緒に戦って下さい。あいつを倒す為に」
「え? でも俺、あんな巨大な奴、相手にした事ないんだけど……」
「大丈夫です。剣崎さん達も同じサイズに出来ますから!」
「え、ええ!? 俺……『達』?」
 言っている意味を理解しきれず、思わず頓狂な声を上げる剣崎。だが、魁はそんな事など意に介した様子もなく、マージフォンを構えると……
「カードの戦士達よ、巨人となれ! マジーロ・ジルマ・マジカ」
―マジーロ・ジルマ・マジカ―
 天から声が降り注ぐ。それと共に、魁の放った魔法は対象である「カードの戦士」……即ち剣崎達四人を、マジマジンと同じ大きさにまで巨大化させた。
 一方巨大化させられた方はと言うと、唐突に起こった己の変化に戸惑ったらしい。睦月はおろおろと自分の体と足元を見回し、橘は仮面の下で苦笑。始は思い切り顔を顰め、剣崎は間の抜けた声でええっと声を上げる。
 そんな彼らを気に留めず、魁も己の姿をマジマジンであるマジフェニックスに変わると、そのまま他の四人と合体、マジキングへと姿を変えた。
「マジキング、ナンバーワン!」
「連結完了。トラベリオン!」
 いつの間にかヒカルも、己の持つ魔法特急トラベリオンエクスプレスを変形させ、魔法鉄人トラベリオンとして、マジキングの隣に立つ。
 そして巨大化した剣崎達を見て、起こった事を理解したらしい。操縦室で頷きながら、さも当然のように言葉を紡いだ。
「成程、魁に与えられた『今を見極める勇気』は、他者を巨大化させる魔法だったんだね」
「いや、成程って……納得するの早くないか?」
「諦めろ剣崎。恐らく、この世界は普通にそう言う事が起こりうる場所なんだろう」
「受け入れるの早すぎですよ、相川さん……」
 軽く頭痛を堪えるように頭を抑えつつ、睦月はいつもと変わらぬ様子の始に突っ込みを入れるが……諦めたのか、それとも条件反射なのか、視線をゴーストに向け直し、レンゲルラウザーを構える。
 とりあえず「目の前にいる敵を倒すのが先」、と言う事だろう。先程戦った相手の特徴を端的に周囲の仲間に伝えた。
「相手は空中からの攻撃を得意とします」
「なら……俺と睦月で上空から攻撃する。剣崎と始は地上から頼む」
「そうか。……上城、使え」
 睦月の言葉を受け、瞬時に立てられた橘の作戦に、始は一つ頷くと自分のホルダーから一枚のカードを睦月に向かって投げ渡す。
『FLOAT』
 始に渡された「宙を浮く為のカード」を即座に使用し、睦月はゴーストの眼前まで赴くと、思い切りレンゲルラウザーで殴りつけた。
 同時に、いつの間にか高機動型のジャックフォームへとフォームチェンジを終えていた橘もまた、その銃弾を吹き飛んだゴーストに向けて浴びせる。
 殴られ、撃たれたゴーストは、低い悲鳴と共に真っ直ぐにトラベリオンの方へと飛ばされ……
「それじゃあ行くよ! ディストラクションファイヤー!」
「おまけだ、これも喰らえ」
『DROP』
『FIRE』
『BARNING SMASH』
 トラベリオンの放つ炎に包まれたゴーストの脳天に、橘の二段蹴りが炸裂する。
『ぎぃぃおぉぉぉっ!』
 炎の力が二重に加わったせいか、ゴーストはその身を焼かれながら、精一杯の抵抗と言わんばかりに、トラベリオンの放った炎の鎖を引きちぎる。本来ならば、相手をトラベリオンに取り込み、燃やし尽くすのがディストラクションファイヤーの真骨頂なのだが、取り込む前に逃げられてしまった。
 だがヒカルに、引きちぎられた事に対する焦りはない。むしろ引きちぎられて良かったのだという想いすらある。
 何故ならば、彼の視線の先には、既に攻撃の準備を整えた「ヒトの中で生きる、ヒトにあらざる者」がいたのだから。
『CHOP』
『TORNADO』
『SPINNING WAVE』
 竜巻の力を込めた始の手刀が、体勢を立て直そうともがいていたゴーストの両腕を容赦なく切り裂く。
 しかし、それでも獣としての執念なのか、ゴーストはその凶悪なまでの攻撃に耐え、低く、恨めしげな唸り声を上げて彼らを見やった。
「剣崎さん! 最後の魔法だ!」
「ああ、行くぞ、魁」
 頷くと、剣崎は己の腰のジョーカーラウザーに、キングのカードを読み込ませる。
『EVOLUTION』
 電子音に似た音声と共に、十三体のアンデッドの力を支配下に置いた黄金の戦士、ブレイド・キングフォームへと変化する。
「使え、剣崎!」
「剣崎さん、お願いします!」
「やれ、剣崎!」
 三人の仮面ライダーも、示し合わせたように一枚ずつ己のカードを剣崎に向かって投げ渡す。
 それを見届けると、魁は……いや、マジキングは静かに頷き……最後の魔法を解き放った。
 「深追いしない勇気」によって与えられた魔法を。
『マージ・ブレイド・マジ・マジカ!』
 その瞬間、普段ならばマジキングの為の剣であるキングカリバーが現れる方陣から、今回はブレイドのキングラウザーに似た剣が現れ、マジキングの手に握られる。
 そして剣崎の方は、渡された……否、託されたカードと自分のカードをキングラウザーに読み込ませる。全ての戦士の力を、その一撃に乗せるために。
『SPADE、HEART、CLUB、DIA KING、SPADE ACE』
『FOUR CARD』
 出来上がったコンボは、四人の持つ「キング」の力のフォーカード。その五枚のカードが、エネルギーとなって剣崎の眼前からゴーストまでの直線距離を結び……
「これで終わりだ!」
『マジカルブレイド・キングカード!』
 剣崎とマジキングが、同時にそのエネルギーの壁を突き進む。その度に壁を形成していたエネルギーは、彼らの手の内にある剣に吸収され、金色の光をその刀身に宿す。そして彼らは、ゴーストの眼前まで到達すると、相手の体を切り裂いた。
 その軌跡が、金色で「X」の形に浮かび上がる。そして……
『チェックメイト!』
 魔法使いの宣言が響き、冥獣ゴーストは今度こそ本当に、その命を失ったのであった。
 体に流れる血の色を、アンデッドを示す緑白色から、どす黒い闇色に戻して。

 どことも知れぬ、闇。そこから染み出るように、ズヴェズダは疲れきった表情で、その姿を現した。
「た、只今戻りました……」
「……ズヴェたん……?」
「ズヴェズダ、だよなぁ?」
「ズヴェズダのはずだ」
 疲労困憊と言った風の彼の声を聞くや、ムダニステラ、天狼、爪牙の順で声がかかる。
 しかし彼らの言葉の意味を汲み切れなかったのか、ズヴェズダはきょとんとした表情で首を傾げると、不思議そうに声を上げた。
「……な、何ですかぁ、その三段活用。僕以外の誰がいるって……」
『闇人格のシュテルンが』
「……うえぇぇぇっ!? あの人、やっぱり出てたんですかぁっ!? ど、道理で記憶が曖昧な訳ですよ。体もなんか痛いし……」
 三人の声に、やたら大げさにズヴェズダは驚いた様子を見せる。
 先の戦いの際に見せた「残忍な性格」の持ち主は、ズヴェズダとは異なる「人格」という事らしい。ズヴェズダは心底がっかりしたと言いたげに肩を落とし、深い溜息を一つ吐き出した。
 そんな彼を見やりながら、爪牙はふむ、と納得したように唸り……
「では、やはり『愚者の欠片』と戦っていたのは、シュテルンの方か」
「そ、そんな事もしてたんですか!? 僕はただ、あのまま騒ぎに乗じてウルザードさんを殺そうと思っていただけなのに!」
「……お前、それも充分卑怯だぞ」
「卑怯上等でありんす! ズヴェたん、今からでも遅くないので、っちまうでありんすよ!!」
「い、嫌ですよぉっ! もうこれ以上あの世界にいて、またクイーンバンパイアの二人に虐められるのは嫌なんです! って、ステラさんまで角にぶら下がらないで下さいぃぃ~」
「ぶら~ん。あ、これ結構楽しいでありんす~」
「痛いんですってばぁぁぁぁっ!」
 涙目になりながらも、捻くれた角にぶら下がるステラに、取り合えず抗議してみるが……どうにも押しが弱いせいか、ステラは気にせずきゃっきゃと笑い、降りてくれる様子はない。
 本気で痛いし、殆ど金属で出来ている彼女は非常に重いのだが、それは何となく言ってはいけない気がしたので、結局はうう、と泣くだけになってしまう。
「ところでズヴェズダ、シュテルンは?」
「あ、エステルさん。それが……今は、眠っているみたいです。多分、活動限界時間を過ぎたからでしょう」
「最強なんだけどなぁ、シュテルンの奴。ただ、活動時間が一週間で二十分間だけって言うのが玉に瑕って言うか」
「しかし、眠っているのは好都合。しばらくは彼も私の邪魔はしないでしょう」
 銀のジュラルミンケースを引き下げ、今度はスーツ姿ではなくマントを羽織ったエステルが、軽い溜息と共にその姿を現す。どうやら、また出かけるらしい。
「また行くのか、エステル」
「ええ、勿論。同業者とお茶でもしようと思いまして。それに、エージェント・アブレラなら、ガイアメモリの有用性を理解して頂けるでしょうし……ね」
 爪牙の言葉ににっこりと胡散臭い笑顔でそう答えると……エステルは、ばさりとそのマントを翻して、その姿を消した。
 他人の命を喰らう事のできる、「牙」のメモリを持って。


Stage19:勇気の切り札 ~マージ・ブレイド・マジ・マジカ~

Episode21:ヴァイオリニスト・ヴァンパイア
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