☆魔法戦隊マジレンジャー&仮面ライダー剣☆

【Stage17:カードの戦士 ~マジーロ・ジルマ・マジカ~】

 魔法、それは聖なる力。
 魔法、それは未知への冒険。
 魔法、そしてそれは、勇気の証。

 西暦二〇〇五年。十五年前……一九九〇年に、「天空聖界」の面々やその力を借り受けた人間である「魔法使い」達によって封印されたはずの存在、「地底冥府インフェルシア」の面々が、人間の住む世界である「地上界」を征服するべく、再び動き出してしばらく経った頃。
 インフェルシアに、一人の「悪魔」が姿を現した。
 悪魔を連想させる住人は、通常は「デーモン」と呼ばれる種の冥獣人なのだが、彼ら特有の蒼白く陰湿そうな顔と、現れた「悪魔」の顔は造形が少し異なる。知略でどうにかする冥獣人デーモンとは異なり、彼の面構えは暴力によって全てを支配せんとするような凶悪さを持っていた。
 目はインフェルシアを覆う闇よりも深い黒、左右のこめかみから伸びる、二本のねじくれた角。顔つきのせいなのか、妙なまでの威厳も感じられる。
 だが、そんな事はどうでも良い。インフェルシアの住人なら、この程度のご面相の存在など掃いて捨てる程いる。
 問題はこの「悪魔」が現れた場所にあった。
 ……何しろこの存在は、憎き天空聖者によって施された封印を通り抜け、冥府門の前へ現れたのだ。
 それを見つけたこの地底冥府の女幹部、妖幻密使バンキュリアは、彼の前に立つとじろじろとその姿を眺め……唐突に自身の姿を、それまでの蝙蝠のような頭部を持つクイーンバンパイアから、二人の少女へと分けた。
「何なのよ、あんた?」
「あんた?」
 パンクファッションの少女、ナイの言葉を継ぐようにして、ゴスロリファッションの少女、メアも同じように問いかける。
 その問いを聞いた瞬間、目の前の「悪魔」は……実に意外な事に、びくんとその体を大きく震わせると、おずおずと彼女達に視線を向けた。
 凶悪な顔からは想像できない程、そして何をそんなに怯える必要があるのかと聞きたくなる程、目の前の彼はぷるぷると体を震わせて慄き、体以上に震えた声で言葉を紡いだ。
「あ、あの……僕、ズヴェズダと言います。あの、その、えっと……冥獣人ハデスのズヴェズダ、です。……『元』、ですけど」
「『元』って?」
「って?」
「あ、はい。あの、その……十五年前の戦いの折、ちょっとしたミスで異次元に飛ばされてしまって……それ以降、色々な組織を転々と渡り歩いていたので、今はもう、所属が、その……」
「あやふやなの?」
「なの?」
「…………はい。そうなんですぅ……」
 今にも泣きだしてしまいそうなか細い声で二人の問いに答えると、ズヴェズダと名乗ったその存在は、やはり態度に見合わない程に恐ろしげな顔でこくりと頷く。
 その刹那、どこで聞いていたのかは分からないが、現時点における最高幹部と呼べる存在……魔導神官メーミィが、そのミイラを連想させる体を引き摺りながら、冥府の王ン・マに与えられた爪から作られた扇子を口元に当ててその場に現れた。
 その唐突さに驚いたのか、ズヴェズダは大袈裟なまでにその体を震わせ、ナイとメアの二人はそんなズヴェズダの反応を面白がっているようにクスクスと笑う。
「それは興味深いこと。どのような組織に属していたのかしら?」
 ……断っておくが、メーミィは生物学上、男である。本人の気質なのか、俗に「オネエ口調」と呼ばれる話し方をしているが。
 その口調には驚きもせず、ズヴェズダはうーん、と軽く唸り……
「……十五年前の次元戦団バイラム……からは逃げていましたから、実際は魔女バンドーラ一味、妖怪軍団、ネジレジア、災魔一族……」
 挙げている名前は、恐らく彼がそれまでに属していた者達なのだろう。確かに「転々としている」と言っても差し支えなさそうだ。
 もっとも、封印されていた彼らにとっては、数え上げられている存在が何者かなど知る由もないのだが。
 半分涙目のような状態でオドオドと落ち着きのないズヴェズダに何を思ったのか。メーミィはびしぃっと己の扇子の先を彼に突きつけ……
「それで? それ程転々としていたお前が、今更何をしに戻ってきたのかしら?」
「は、はいっ。あの、その、えーっと……それまでの皆さんがお亡くなりになってしまったり、再封印されてしまったりで、また一人ぼっちで寂しいなあって言うのもあるんですけど……その、あのぅ、魔法使いを倒す算段を、持って……来たんですけど……って妖幻密使さん、お願いですから角にはぶら下がらないで下さいぃぃぃっ」
 ぶらぶらと彼の捻れた角にぶら下がるナイとメアに対して、悲鳴にも似た抗議の声を上げながらも、彼は目に涙を浮かべつつ、懐から四枚のカードと、一本の細長い棒状の何かを差し出す。
 カードの方は地上界に存在するトランプのように見えるが、四枚ともマークも数字もバラバラだ。細長い物の方は、濁った緑色の本体に、中央付近に「U」の文字が書かれたシールが張ってある。
「……こんな物が、魔法使いを倒す算段なの?」
「算段なの?」
「はい」
 ナイメアコンビに問われ、ズヴェズダは不敵な笑みと共にその顔を真っ直ぐに上げた。
 先程までの、おどおどした雰囲気はなく……ナイとメアだけでなく、メーミィすらも思わず身震いする程凶悪な雰囲気をその身から放って。

 小津おづ家の隠し部屋。
 そこに集っていた兄弟達……長男のマジグリーンこと蒔人まきと、長女でマジピンクこと芳香ほうか、次女でマジブルーことうらら、次男でマジイエローことつばさ、そして末っ子の三男、マジレッドことかい……そして彼らの「魔法の家庭教師」である天空勇者マジシャインことヒカルが、久し振りに穏やかな休日を過ごしていた。
 魔法の勉強も大事だけど、たまには休息も必要だ、と言うヒカルの提案で魔法の勉強も今日はない。魁も珍しく部活が休みであり、本当に穏やかな昼下がりだ。
「どうか今日ばかりは、インフェルシアの連中が現れませんように」
「そうね。たまにはのんびり休憩も良いわよね」
 半ば祈るように呟かれた魁の言葉に、麗が軽く笑いながら言葉を返す。
 こんなにのんびりとした休日は、一体いつ以来だろう。少なくとも宇宙警察の面々と協力して解決に導いた、「天空の花事件」以降もそれなりに忙しかった記憶がある。主にインフェルシア関係で。
 魁は普段は学校があるし、蒔人も自身が経営する農場の仕事がある。翼もボクシングジムに通っているはずだし、女二人は普段何をしているのか知らないが、少なくともそれなりに忙しいはずだ。
 だからこそ、心の底から思う。
 インフェルシアよ、今日だけは出てきてくれるなと。
 しかし……誰の言葉だったか、「現実は厳しいのです」との事。思い出したくもないのに、その言葉を魁は思い出し……そしてやはり、現実は厳しいのだと、魁の側にいた鉢植え、マンドラ坊やの声で思い知らされる事になる。
「皆々様方! 大変でござりますです!!」
 ……こうして、彼らの束の間の平和は終わってしまうのである。

 メメの鏡とそれを読み解いたマンドラ坊やが示した場所に六人が到着すると、既にそこには蠍を髣髴とさせる怪物が、倒れる人々の真ん中に悠然と立っていた。
「そこまでだ、インフェルシア!」
 魁の言葉に応えるように、その怪物は低く唸りながら、ゆっくりと彼らの方へと振り向く。長い尾の先からは、ぽたぽたと濁った色の液体が垂れており、それがアスファルトに触れた瞬間、白煙を上げて地面を溶かしている。
 それが毒だと気付くまでにはそう時間はかからず、倒れた人々の苦悶に歪んだ顔も、その毒にやられたからなのだと悟る。
「何て事を……!」
「絶対に許さないわよ!」
 蒔人の言葉に同意するように、芳香も相手を睨みつけて言葉を放つ。そして……
『魔法変身、マージ・マジ・マジーロ!』
「天空変身、ゴール・ゴル・ゴルディーロ!」
 呪文と共にその姿を赤、黄色、青、桃色、緑、そして金の戦士……否、魔法使いへと変えると、まずは女子二人が持っていたマジスティックで怪物の腹部を薙ぐ。直後、翼はマジスティックをボウガン型に変え、幾条もの光の矢を放ってその両肩を貫いた。
 その攻撃が効いているのか、相手はよろりとバランスを崩し、忌々しげに彼らを睨みつける。
 しかしその視線も気に留める事なく、蒔人と魁がそれぞれマジスティックアックス、マジスティックソードを構えると、相手の隙を突いて毒を流している尾を切り落とした。
「ぐぅっ!」
 切り落とされた事が大きなダメージとなったのか、目の前の怪物の口からは悲鳴にも似たくぐもった声が、そして傷口からは濁った緑色の液体が漏れる。
 だが、こう言った攻撃のラッシュを喰らうに値する事をやってのけたのだ。攻撃の手を緩めてやるつもりはない。
 蒔人と魁が示し合わせたように怪物から離れると、待っていたと言わんばかりにヒカルが魔法のランプ……マジランプを構え、必殺技とも言える「マジランプバスター」で相手の腹部を撃ち貫いた。
 その攻撃に耐え切れなかったのか、怪物は苦悶の表情を浮かべるとゆっくりと地面に倒れこみ、その場でドンと小規模ながらも爆発する。
「なぁんだ、案外弱いじゃん」
「毒の攻撃がなかったからね。でも、油断は禁物だよ、芳香」
「ヒカル先生も心配性だよな。でも、いつもみたいに巨大化するかも知れないってのはあるか」
 インフェルシアの冥獣や冥獣人は、基本的にはヒトと大差ない大きさを持っている。しかし、それが一度倒されると、インフェルシアにいる「天空聖界の裏切り者」であるメーミィが、それを回復、更に巨大化させてしまうのが常だ。今回もそれがないとは言い切れない。
 思いつつ、魁がヒカルに返した刹那だった。
 爆発したはずのサソリの怪物が、再びゆっくりと立ち上がったのは。
「何だって!?」
「待てよ。倒したはずだろ!」
 蒔人と翼の驚愕の声が上がる。
 マジランプバスターを耐え切ったインフェルシアの怪物が、それまでにもいなかった訳ではない。しかし、今回の敵は、戦っていてそれ程手応えのある方ではなかった。むしろ弱い部類に入るだろう。
 それなのに、今……切り落としたはずの尾は再生しており、体から濁った緑色の血を流しながらも、相手は悠然と立っている。
 おまけにその瞳には、こちらに対する憎悪に似た色が浮かんでいるのが見て取れた。
――まさか、バンキュリアと同じ、不死身の冥獣じゃ――
 そんな考えが翼の脳裏を過ぎった、その瞬間。
「来るぞ!」
 蒔人の声に反応し、六人は反射的に左右に分かれてその場から飛び退る。
 瞬間、今まで自分達がいた場所に毒液を撒かれ、毒液を浴びたアスファルトはジュウジュウと音を立て、先程とは比にならない速度で溶解していく。
「やだ、気持ち悪い!」
「恐らく、想像以上の猛毒だろう。気をつけるんだ」
 麗の言葉に、ヒカルがそう返した瞬間。
 ピロピロと、聞き慣れない電子音がその場に響いた。
 電話のコール音とも違う。どちらかと言えば警告音に似た印象の音。それがどんどんこちらに向かって近付いてきている。
「何だ?」
 音のする方に最も近かった魁が、そちらを向くと……そこには、芳香と同い年くらいの青年と、三十路前と思しき青年の二人が、手に何かの機械を持ってそこに立っていた。
 二人の視線の先には、蠍の怪物。だがそれを見て怖がっている様子はない。むしろ睨みつけるような鋭い眼光を向け、身構えている。
「橘さん、いました! クラブの『カテゴリー8』、スコーピオンアンデッドです」
 若い方の青年が、怪物を指しながら言うと、年上の方……タチバナと言うらしい男は厳しい表情で頷き、持っていた機械をズボンのポケットにしまう。
――彼らはこの怪物を知っているのか?――
 会話の内容や彼らの応対に対して推測を立てながら、ヒカルは更に彼らの正体を探るかのように二人の青年をじっと見やる。
 身に纏う雰囲気は、戦い慣れた戦士の物。そして怪物に向けている目は、己の敵を認識した時に浮く色を湛えている。
「危ないですから、下がって!」
「危ない? それはこっちの台詞だ」
 ヒカルのようには思わなかったのか、その二人を守るようにしながら、その場からどかそうとする魁に対し、タチバナは軽く言葉を返すと、油断なく怪物……スコーピオンアンデッドと呼んだそいつから視線を外さず、どこからか取り出したベルトのバックルの様な物を腰に押し当てた。
 若い方の青年も同じような物を腰に押し当て……二人同時に声を上げた。
『変身!』
『TURN UP』
『OPEN UP』
 電子音が告げると……彼ら二人の姿が、変わった。タチバナと呼ばれる方は、赤いスーツに銀色の仮面。その形はクワガタムシとトランプのダイヤのマークを同時に連想させ、その手にはやはりダイヤのマークが付いた銃が握られている。
 一方青年の方はと言うと、緑のスーツに僅かに金の入った仮面。こちらは蜘蛛とクラブを同時に連想させる形をしており、手に持つ武器はやはりクラブマークのついた錫杖……ロッドだ。マジスティックよりも随分と長い。青年の身長と同じ位の長さだろうか。
「睦月、援護する。封印はお前に任せた」
「はい!」
「……へ?」
 二人の間で交わされた言葉に、芳香が間の抜けた声を上げた瞬間。タチバナは銃で相手の足元を狙い撃って牽制攻撃を仕掛けると、青年……ムツキと言うらしい彼は、ロッドの先で相手の腹部を思い切り突く。
 いや、「突く」と言うよりは「刺す」と言った方が正しいかもしれない。彼が持つロッドの先端は、スコーピオンアンデッドの腹部を貫通し、そこから濁った緑色の血を流させているのだから。
 そして、ムツキはロッドの下部……即ち彼の手元の方から一枚のカードを取り出すと、その近傍に存在するカードリーダーらしき物に読み込ませた。その刹那。
『BLIZZARD』
 再び音が響き、宣言通りロッドから氷の力が解放され、相手の体を見る間に凍結させていく。
――まさか、今のは魔法?――
 ブリザード。ヒカルが知る限り、氷系の魔法は天空聖者スノウジェルと彼女が認めた魔法使いである小津兄弟の母親、小津 深雪にのみ扱える物のはず。では、彼が使ったのは一体何なのか。
 ヒカルが不思議に思うよりも先に、更に不思議な光景が広がった。
 ムツキは凍りついたスコーピオンアンデッドからロッドを引き抜くと、またしても一枚のカードを取り出し、それを相手に向かって投げたのだ。
 それは、案外と軽い音を立てて相手の体に突き刺さると、淡い緑色の光を放ちながら相手を吸収し……やがて完全に吸い込みきると、カードは再び投げ手、つまりムツキの手元へと空を切って戻った。
「橘さん、スコーピオンアンデッドは封印完了です」
 ベルトのバックルを閉じて変身を解き、安堵の溜息と共にムツキは同じく変身を解いたばかりのタチバナに向って言葉を吐く。
 ……こちらの事はまるで眼中にないかのように。
 今のは一体何だったのか。それに、封印とは一体何なのか、先程の敵は、インフェルシアではないのか。そもそも……目の前に立つ彼らは、一体何者なのか。
 様々な疑問が小津ファミリーの頭の中を駆け巡るが、とりあえず……と言わんばかりに長兄の蒔人が変身を解いて彼らに声をかける。
「あなた方は一体? それに、今のは……?」
「それはこちらの台詞だ。さっきの姿は……ライダーシステムじゃないな」
 タチバナが怪訝そうな視線をこちらに向けながら、蒔人の言葉に返す。恐らく、こちらも同じような表情をしているのだろうな、と心の中で苦笑しながらも、自分より年長者であろうタチバナにどう説明すべきかを悩む。
 魔法の存在は、そう簡単に人に教えて良い物ではない。その割には、自分達の母は宇宙警察の人間に教えていたようではあるが、まあそれはこの際横に置いておいて。
 目の前に立つ彼らが、悪人とは思えないが……魔法などと言う未知の力を目の当たりにすれば、どんな反応をするか分からない。悪用しようと考えるとは思えないが、半信半疑かあるいは何を馬鹿な事をと一蹴されるか。
 一蹴されるなら、それはそれで構わない。むしろ信じてもらわない方が、魔法の秘匿性は守られる。しかし半信半疑となると厄介だ。信じてもらうべきか笑い飛ばしてもらうべきかで対応が変わる。
 うーむ、と蒔人が悩んだ時、こちらに向かって駆け寄る足音と緊張したような声が響いた。
「橘さん、睦月!」
「剣崎さん、それに、相川さんも」
 やってきたのはムツキよりは年上に見える二人の青年。片方は極端に瞬きが少なく無愛想、もう一方は、愛想は良いがボロボロに擦り切れた服を着ている。
 様子から言って、どうやら二人の知り合いらしい。「ケンザキ」と「アイカワ」だったか。どちらがどちらなのか分らないが、現れた彼らは魁達に気付いた様子もなくムツキとタチバナに向って親しげに声をかける。
「どうでした?」
「駄目だな、気配がない。逃げられたと思って間違いないだろう」
 ムツキの問いに、無愛想な方が首を横に振りながらそう答える。
「そっちは?」
「一応、スコーピオンアンデッドは封印しました。でも……他の三体は、反応がありません」
「……そうか……」
 彼らの中でのみ話が進む。だが、どうやら彼らは先程のスコーピオンアンデッドの事を知っており、更には同じような敵が他に三体もいるらしい。
 現れた四人は一体何者なのか。そして、先程の敵は一体何だったのか。分らないまま、魔法家族は混乱させられたのであった。


EPISODE16:冒険

第18話
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