☆轟轟戦隊ボウケンジャー&仮面ライダークウガ☆

【EPISODE16:冒険】


5月13日 4:47 p.m. 長野県 灯溶山

 五代の目の前では、仮初の姿である「軍服の男」から、本来の姿であるカブトムシ種の未確認生命体、ゴ・ガドル・バが悠然と立ち塞がっていた。彼の後方では、先程明石達ボウケンジャーが倒したはずのコウモリ種の未確認生命体、ズ・ゴオマ・グと思しき存在が、白い法衣を纏った中年男性……神官ガジャと共に、菜月とさくらの前にいる。
 ゴオマを「思しき存在」と評したのは、五代が先程見た時と比較して、異なる部分があるからだ。体を覆っていた布……多分、人間で言うところの服に当たる物は、鋼のような光沢のある物質に変質しているし、広げた翼もメタリックな輝きを帯びている。
 何が起こったのかは知る由もないが、少なくとも非常に厄介な事になっているらしい、と言うのだけは分る。こちらも手を貸した方が良いだろうとも思う。
 思うのだが……ガドルがそれを許さない。彼女達の側へ向かおうとしかけた五代の前に瞬時に立ち塞がり、楽しげな声で言葉を紡ぐ。
「クウガ、ボンゾボドビガラゾダゴグ」
 その言葉と同時に、ガドルの体が金に光る。それは、ゴ・ガドル・バの持つ「電撃体」と呼ばれ、かつてはその姿で、五代に瀕死の重傷を負わせた事すらある。
 彼は自身の研鑽を怠らない。間違いなく、グロンギの中でもトップクラスの実力を持つ存在だ。
 過去の経験から、このままでは危険と判断したのか、五代もその姿を「赤の金」……ライジングマイティと呼ばれる姿から、かつて勝利した際の姿である「黒の金」こと、アメイジングマイティへと変貌を遂げる。
 「黒の金」の呼び名の通り、この姿におけるクウガの基本色は黒。それまで右足だけに着いていたアンクレットが左足にも装着され、手甲にある「リント文字」と呼ばれた古代文字は「雷」を表すそれに変化した。
 以前勝てたからと言って、今回もこの姿で勝てるかどうか……正直、分らない。相手は戦う事を至上の喜びとしている存在だ。自分と戦う為の準備くらいは、ある程度していると考えて良いだろう。
 そう五代が思った瞬間。ガドルはふっと鋭く息を吐き出すと、一気に五代までの距離を詰めにかかった。
 早いと思うよりも、体が動く方が先だったらしい。五代は繰り出された拳を無意識の内にかわし、逆に自分の右ストレートを繰り出していた。
 今まで経験してきた数々の戦いが、アマダムの……と言うよりは五代本人の反射神経と反応速度を鍛えた。特に、自身に向けられた敵意には、過敏に反応できるようになっている。それは五代にとって、非常に不本意な出来事ではあるのだが、今の状況に置いてはありがたいと言えなくもない。
 カウンターで放たれたクウガの拳を喰らい、数歩後ろへ向ってたたらを踏みながら、それでもガドルは心底楽しそうな声で言葉を発する。
「ボボゲゲルビバデデ、ガサダバゴグドギデ……リントゾゾソドグ」
「もぉ~、何言ってるのか全然わかんないよぉ」
「『このゲームに勝って、新たな王として……リントを滅ぼす』だそうじゃ」
 斬りかかかるゴオマの笑い声の合間を縫うようにして、ガドルの言葉が聞こえていたらしい。五代の後方で菜月の抗議の声が上がる。そしてその抗議に言葉を返したのは、彼らから少し離れた場所で、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべているガジャだった。
 恐らくガジャは既に未確認の言葉を理解できるのだろう。そうでなければ意思の疎通など出来ないし、そもそもガドルが従うとは思えない。
 ガドルの様子から考えて、「従う」と言うよりは「利害が一致したから共にいる」ようにも見えるが。
 言語を理解できている時点で、ガジャは相当頭の良い人物である事が分かる。それなのに、どうしてその頭の良さを、他人の笑顔を守る方向へ生かそうとしないのか。
 不思議に思うより哀しく思いながら、五代は再び繰り出されたゴオマの拳を回避する。
「ちなみに今回のゲームは、リント……人間の戦士と『クウガ』を倒す事らしいぞ」
「人間の、戦士……」
 「人間の戦士を倒す」。その条件は、かつてガドルが未確認達の王たる存在、ン・ダグバ・ゼバと戦う為に提示されたゲゲルの条件と同じ物。その時は「人間の戦士」というのは、「男性警官」を指していたが、今回は違う。
 ……ボウケンジャーと言う色取り取りの存在は、間違いなく「人間の戦士」だ。それも、警察官などよりも、余程手強い。
 その明らかな手応え故に、ガドルはこの状況を楽しんでいた。かつてゲゲルを行う資格を失った事のあるゴオマはどうか知らないが、ガドルにとっては戦いこそが最大にして唯一の娯楽であり、「生きている実感」を沸かせる物。
 もっとも、そんな彼の心中を五代達が知るはずもない。だが少なくとも、このまま野放しにしておいてはいけない事くらいは充分すぎるほど理解できている。ある意味、戦いに身を置く者の……人を守る者の本能と言った所だろうか。
 苦笑気味に思いながら、改めて身構えた刹那。五代の目の前を、青と銀の戦士が過ぎった。
 それが蒼太と映士だと気付くと同時に、今度は彼らに追い討ちをかけるかのような黒い影が二つ、再び五代の目の前を過ぎる。
 確か蒼太と映士は、クエスターとか言う存在と戦っていたはず。と言う事は、今目の前を通り過ぎた黒い影が、そのクエスターなのだろうか。
 ……それにしては、随分とグロンギに近しい印象を受けたが……
「ジョゴリゾグスバ、クウガ!」
 名を呼ばれ、五代ははっと我に返る。他の面々、特に今飛んできた蒼太と映士の事が気になるが、今は彼らを信じ、目の前に立つガドルに集中すべき時だ。
 思い直し、瞬時に自身の気持ちを切り替えると、彼は迫り来るガドルを迎え撃つべく意識を落ち着かせた。刹那、ピリとした感覚が全身を駆け、それはすぐに意識を集中させた両足に集う。そしてやがてはバチバチと音を立て、放電と言う形で周囲にその力の一端を示しはじめた。
 五代の足に集う雷の力に気付いたのか、ガドルは嬉しそうに一声吠えると、五代と同じようにその足に電気の力を溜め、蹴りの体勢に入った。
 そしてそれは、五代も同じで……同時に大きく飛び上がると、宙で力を収束させた足を真っ直ぐに蹴り出す。足裏はそして、繰り出された必殺技とも呼べる程の力は、互いを相殺しあうかのようにぶつかり合い、生まれた膨大なエネルギーは光と熱と言う形をとって周囲を白く染め上げた。
 その強烈な光と熱、そしてそれによって生み出された「見えない波」のせいで、一瞬周囲から音が消える。
 その無音が菜月の脳裏に何かを齎したのか、彼女ははっとしたように顔を上げると、音が戻ってきた事を確認し、ゴオマと切り結んでいたさくらに耳打ちをする。
 さくらは一瞬だけ囁かれた言葉に対し、ヘルメットの下で驚いたような表情を浮かべるが、すぐに納得したように一つ頷きを返すと、すぐさま武器を引き、傍でクエスターと睨み合う蒼太の腕を掴んだ。
「ピンク!?」
「ブルー、一時この場から離れます」
 さくらが言うと同時に、今度は菜月が映士の腕を掴んで、彼女と同じようにクエスターから……と言うよりは五代達の傍から引き離す。
「おい、菜月!?」
「このままここにいたら、危ないよ! 菜月達も巻き込まれちゃう!!」
 ……菜月には、予知能力のような物が備わっている。その力に、蒼太もさくらも、幾度か助けられている。
 それに、五代と出会った時、彼のハザードレベルは「2000」と言う驚異的な数字を指し示していた。見た限り、今の彼はその時よりも更に強化されている。当然、ハザードレベルも上がっているはずだ。
 故に、気付いたのだろう。あの二人の攻撃の及ぼす、余波の大きさと言う物に。
 そして五代とガドルを中心に一瞬の煌きが生まれた後。まるで巨大な風船が破裂したかのような音と衝撃が、周囲に容赦なく襲い掛かった。
 木々は薙ぎ倒され、逃げ遅れたゴオマはその衝撃に煽られ翼をもがれる。ガジャはおうおうと情けない悲鳴を上げながらたたらを踏み、蒼太と映士を見失ったクエスターの二人はその場に何とか踏み留まりながらも、悔しげに顔を歪める。
 衝撃が止むと、今度は永遠のような一瞬の静寂がその場に落ち……宙で、巨大な爆発が起こった。
 それは、五代の……いや、クウガの放った「封印エネルギー」が、グロンギの持つベルトである「ゲドルード」と呼ばれるそれを通じて、彼らの霊石である「ゲブロン」に注がれた証。
 その反応の大きさ故に、通常は半径数キロメートルの範囲で爆発が起こる。五代はそれを知っているが故に、あまり大きな被害が出ぬよう、宙に飛ばして相手を倒す事が多々ある。今回も、それを適用させたらしい。
 爆発の余韻の中、宙から舞い降りたのは……姿を「赤の金」に戻したクウガであった。
「ば、馬鹿な! あやつがああも簡単に……!!」
「驚いてる場合じゃないと思うよ、ガジャ」
「何!?」
 おののくガジャの背後から、蒼太の声が響く。
 どうやら爆発が起こる寸前で、ボウケンジャーの武器であるデュアルクラッシャーをドリルヘッドで呼び出し、大地を穿つ事で地中に逃げ込み、先の難を逃れたらしい。
「モグラか、お前達は!!」
 渾身のツッコミを入れるも、ガジャのそれは軽く流され、蒼太の持つブロウナックルの起こした風によって、ゴオマ、そしてクエスターの二人は一箇所に纏められてしまう。
「て、テメェらっ!」
「ボセパ!?」
 ガイとゴオマの声が重なる。だが、そんな事は気にも留めず、さくらは菜月に支えられた状態でデュアルクラッシャーを、映士は自身の武器であるサガスナイパーを、それぞれ構え、その引鉄を引く。
 さくらの持つデュアルクラッシャーからはドリルの形をした破壊ビーム、映士の持つサガスナイパーからは鋼鉄をも撃ち貫くビーム。
 二種の光線は射線上で互いに引き合うように二重螺旋を描き、やがては一本の白い光線に纏まる。そしてそれは、ゴオマ、ガイ、そしてレイの三人の体を真っ直ぐに貫いた。
 ガジャは……実に悪役らしく卑怯ではあるのだが、その三人を盾にして逃れていたらしい。多少の衝撃こそあった物の、ほぼ無傷。とは言え幾度となく衝撃に煽られた結果なのか、それとも若さが足りないのか、彼は腰をトントンと叩きながらヨタヨタとよろめいている。
「くっ、こんな……リント如きにっ!!」
 いつもは冷静なレイまでも、悔しげに歯噛みするのとほぼ同時。
 ゴオマの方は当たり所が悪かったのか、普段の敵と同じように爆散し、レイとガイの二人の腕からは棒状の「何か」が抜け落ち、その姿をいつもの彼らに戻した。
「ちっ。壊れたか……ここはひとまず退くぞ、ガイ」
「覚えてやがれ、テメェら!」
 地に落ち、パキンと軽やかな音と共に壊れた「それ」を見て毒づくと、クエスター二人は苦々しい表情でボウケンジャーと五代を交互に見やりながら、その姿を消す。
 同時に、ガジャも手駒を失い不利と判断したのか、その場からおろおろとした様子で姿を消した。
 その事に、僅かながらに安堵しつつ、さくらはデュアルクラッシャーの反動でその場にがくりと膝をつき、それを菜月が慌てて支える。
 そして映士と蒼太の二人は、クエスターが落としていった「何か」の傍へ歩み寄る。彼らの変質は、確実にこの「何か」が原因だろう。
「これが、あいつらの使っていたプレシャスか?」
「破壊されたから、ハザードレベルはほぼゼロだけど……間違いないだろうね」
 レイとガイの体から抜け落ちたその欠片を拾いながら、映士と蒼太は緊張を含んだ声で言葉を交わす。
 元は十センチ程の長さだったのだろうが、今は破片しか見当たらない。機械のような回線と、「G」を象ったシールが真ん中に張られている。
「あいつら、一体どこからこんな物を……」
「あのー……考えてる最中申し訳ないんですけど」
 真剣な空気を壊すかのように、五代はボウケンジャーの面々に声をかけ、未だダイジャリュウと戦うダイボウケンと、闇のヤイバと切り結んでいる真墨の方を指差し……
「まだ、終わってないみたいですよ?」


5月13日 4:58 p.m. 長野県 灯溶山中腹

「どうだ? 闇を受け入れる気になったか?」
 ガイとレイ、そしてガジャが退いた頃、少し離れた場所にいた真墨は、闇のヤイバ……否、ダークヤイバに追い詰められていた。
 普段とは違う太刀筋。剣を振るう度にその場にわだかまり、意志があるものののように自身に纏わりつき、動きを制限してくる闇。
 普段でも良くて五分の戦いをしている真墨からすれば、今回の戦闘は非常にやりにくかった。
 既に真墨は満身創痍。致命傷に到らない程度に弄られているのだと実感できる。それでもヤイバに屈しないのは、意地のような物だろう。
 何度目かの問いに対しても、真墨はフンと鼻で笑い、荒くなった呼吸を整えながら言葉を返した。
「誰が……お前の仲間になんか……」
「そうか。……ならば、死ね」
 短く言うと同時に、ヤイバの素顔が晒される。普段から悪鬼のような形相なのだが、今に到ってはそれを更に上回る……それこそ、「悪魔のような顔」を見せた。
 その顔に、ぞくりと悪寒が走る。完全に闇に堕した者でなければ出来ない顔を、真墨は人生においてはじめて見た気がした。
「影忍法、闇鶴の舞」
 ヤイバが、顔に見合わぬ優雅な仕草で、ひらりと手を翼のようにはためかせたかと思った次の瞬間、真墨の体に衝撃が走る。斬られたのだと知覚したのは、彼の変身が解け、その場で蹲る自分の脇腹から溢れた血を見た時だった。
「がはっ!?」
「ほう、間一髪、致命傷は避けたか。だが、その傷では動けまい」
 本当は殺す気だった一撃をかわされたにも関わらず、ヤイバの声はあくまで平坦だ。
 喉から込み上げる血反吐を吐き出し、何とか立ち上がろうともがく真墨。そんな彼に向かって、ヤイバはゆっくりと歩を進め、手に持っている剣を振り上げる。そして、それを振り下ろそうとしたその瞬間。
「バケットスクーパー!!」
「サガストライク!!」
 菜月の声が響くと同時に、数多の岩がヤイバに向かって飛び、その合間を縫うように映士の放ったビームが相手の体を穿とうと駆け抜ける。
 だがヤイバはそれらを、時に無造作に斬り捨て、時に軽やかな足取りでかわしながら、真墨の元へ駆けつけた菜月と映士の二人に向け、鬱陶しそうな一瞥を送る。
 ヤイバに向かってサガスナイパーの刃先を構える映士の傍ら、菜月の方はヤイバの存在を無視し、血を流す真墨の体を支えるようにして助け起こし、心配そうに声をかけた。
「真墨、大丈夫? 痛い……よね?」
「馬鹿……こんな物、大した傷じゃ…………がはっ、ぐ、ごぼっ」
「無茶すんな、真墨!! ここは俺サマ達に任せとけ!」
 不安そうな声を上げた二人に対し、真墨は懸命に笑顔を作るが、それも喉にこみ上げる熱い塊に邪魔をされて、上手く笑えない。
 情けないと強く思うが、それ以前にまずは目の前にいる「漆黒のヤイバ」だ。彼の存在は普段以上に危険すぎる。菜月と映士の二人がかりでも、追い払えるかどうか。
「邪魔が入ったな。だが……そうか。こいつらの存在が、お前をぬるい光の下に引き止めている要因か」
 悪魔のような形相を隠す事なく、ヤイバはじっと菜月と映士の二人を見つめると、ふむと小さく納得の声を上げた。
 そして、口の端をニタリと吊り上げると、刀の切っ先をその二人に向け……
「ならば、こいつらを殺せば、お前は闇を受け入れるだろう」
 その言葉を聞いた瞬間、菜月と映士の体に、ぞわりとした感覚が駆け抜けた。
 ヤイバから放たれた殺気に怯えた……それもあるだろう。だがそれ以上に、彼らの後ろ……それまで呻くので精一杯だったはずの真墨から放たれた殺気の方が恐ろしく感じられた。
 どうして彼が殺気を放ったのか。疑問と不安を抱えながら、ちらりとそちらに視線を送れば、彼はギロリと、今にも絞め殺しそうな目でヤイバを睨みつけ、こみ上げる血を堪えるようにしながら言葉を紡ぎだす。
「こいつらに……菜月に手を出してみろ。その時は…………ヤイバ! お前の体を五分ごぶ刻みに斬り刻んで、ふかの餌にしてやる!!」
 真墨の渾身の気迫と殺気が篭ったその言葉を聞いた瞬間、ヤイバの動きがぴたりと止まった。
 だがそれは、真墨の気迫に気圧されたからではない。むしろその逆……この状況でなお、それだけの気迫を出せる彼を生かそうと考えたのだ。
 そしてその気迫の根源そこ、紛れもなく真墨の持つ「闇」そのもの。言っても真墨は否定するだろうが、ヤイバの目には真墨の瞳の奥で燻る、濃厚な闇の気配を察していた。自分と同じ……いや、自分よりもなお深い、闇の気配を。
――ここでこちら側に堕しても面白そうだが……まだ足りない――
 真墨の抱く「闇への可能性」に、ヤイバは更に口角を上げて笑みを深めると、ゆっくりと刀を下げて自身の左手首から細長い「何か」を取り出した。
 そしてその「何か」がヤイバの身の内から出た瞬間、彼の鎧は黒からいつもの青へと変わり、更にはその「何か」を真墨に向って放り投げた。
「何……!?」
「それは貴様にくれてやる。その瞳に宿る、闇に免じて」
 それだけを告げ、悠然と去っていく闇のヤイバの背を見送り……真墨の意識は、「闇」へと落ちていった。


5月13日 5:00 p.m. ダイボウケン内、コックピット

 ぐらりとダイボウケンの巨体が傾ぐ。それ程の衝撃が、少し離れた場所で生まれ、周囲の空気へと散ったのだと明石は気付く。
 ……何が起こったのかを確認したいところだが、目の前にいるトリケラトプスのダイジャリュウを、明石一人で相手にしている以上、仲間を信じて戦い続けるしかない。気を抜けば、こちらが倒される。
 とは言え、元々このダイボウケンと言うロボは「プレシャスの力を自らの力に変換する」と言う特異な機能で動いている。つまり、本来はシルバーを除く五人のボウケンジャーの持つプレシャスの力があって、初めて本領が発揮される代物なのだ。
 だが、今の搭乗者は明石一人だけ。本来の調子が出ないのはある意味当然と言えよう。おまけに眼前にいるダイジャリュウは、普段現れる物よりも確実に強い。何度か斬り付けてはいるのだが、相手にはかすり傷一つ付かない程の表皮の硬さ。そして突進力と火力面も普段とは比にならない。
「今日こそ死ぬがいい、ボウケンレッド!」
 ダイジャリュウの中で、リュウオーンが吠える。同時に、ダイジャリュウは角をこちらに向け……信じ難い事に、それをミサイルのように飛ばしてきたのである。
――これは、かわしきれないか――
 冷静にそう判断すると、明石は手元にあった黄金の剣を構え……
「頼むぞ、ズバーン!」
 その一言と共に、その剣……意思を持つプレシャスである「大剣人ズバーン」を外に放つと、ズバーンは己の体をダイボウケンと同程度の大きさにまで巨大化させ、飛んで来る角の半分を切り落とす。そして残りの半分は、明石がダイボウケンの武器である轟轟剣で何とか叩き落した。
「ズンズン!」
 ガッツポーズにも似た格好で、誇らしげにポーズを取るズバーンとは対照的に、明石の表情は晴れない。その理由は、今の攻撃で轟轟剣の刃がこぼれた事に気付いたが故。無論、それまでのダメージも多分にあるだろうが……それでも、次に同じ攻撃を喰らえば、今度は刃こぼれ程度では済まされないだろう。
――さて、どうする――
 思考しながらも、襲いくるダイジャリュウとの距離を一定に保ちつつ相手の攻撃をかわしていた時。
 この混乱の中でどうやって乗り込んだのか、コックピットにピングさくらブルー蒼太が半ば転がり込むように乗り込んできた。……何故かその後ろにクウガ……五代まで付いて来ているのは不思議に思うところだが。
「チーフ! 無事ですか!?」
 さくらの声に軽く頷きを返し、彼は二人がシートに着いたのを確認する。
 彼らの搭乗によって、いくらか負荷が減ったのか、明石にも余裕が出たらしい。ふうと安堵の溜息を一つ吐き出すと、自分の脇に佇む五代に視線を送る。視線を送られた方は、仮面の下で飛び切りの笑顔を作った後、ぐっとサムズアップを明石に返し……
「俺も、今日はボウケンジャーの一員です。手伝わせて下さい」
「なら、席に着け。それから……あのダイジャリュウと、その中にあると思われるプレシャスを破壊する」
『了解』
 蒼太、さくら、そして五代の声が響く。
 とは言え五代は実際にこのダイボウケンを操縦するツールを持っている訳ではない。単純に真墨の席に座っているだけではあったが。
「相手はかなり強力なパワーと硬度を持っている。何しろ、轟轟剣が刃こぼれしている位だからな」
「それ、ちょっとまずいんじゃないですか、チーフ?」
 蒼太の声にさくらも同意するように軽く頷く。轟轟剣には、そう簡単に刃こぼれをするような軟な金属を用いていない。明石が一人で操縦していた為、本領発揮からは程遠い状態であったとは言え、それでも刃が欠けたのだ。三人に増えても、相当な苦戦を強いられることは目に見えていた。
 ボウケンジャー達がそう考える中、ふと五代の頭の中に、あるアイディアが過る。
 ダイボウケンに乗る直前、さくらに聞いた話だが……ダイボウケンはプレシャスの力を利用、増幅して戦う事が出来るらしい。つまり、プレシャスがその場にある程、その力を引き出して強くなると言う事だ。
 そして、自分が彼らと出会い、更に拘束までされた理由は、自分の腰にある霊石……アマダムが「危険なプレシャスだ」と判断されたから。と言う事は、自分は今、「プレシャスを持っている」のと同じなのではなかろうか。
 更に相手はパワー重視型であり、こちらが持っている武器は剣。即ち「切り裂く物」。
――アマダムがプレシャスで、このロボットがプレシャスを増幅する機能を持っていて、武器は剣だと言う
なら……――
「あの、明石さん。ちょっと試したい事があるんですけど……」
 挙手と共にそう告げると、五代はその場にいる全員に自分の考え付いた事を嬉々とした様子で話す。
 しかしその「考え」に対する反応は三者三様。さくらは悲鳴にも似た声でその考えを止め、蒼太も苦笑気味に止めておいた方が良いと告げる。その中で、唯一明石だけはマスクの下で楽しそうに笑い……
「良いだろう。ちょっとした冒険、だな」
「チーフ!?」
「他に良い方法があるか、ピンク?」
「……ありません。ですが……」
「なら、決まりだな」
 なおも言い募ろうとするさくらの言葉を遮って明石はそう断言すると、それに応えるように、五代は一つ頷き、アマダムに意識を集中させる。
――プレシャスの力を増幅させると言うのなら……このロボットは、アマダムの力も増幅させるはず――
 思いながら、いつも自分がするのと同じように、頭の中に「変わった姿」を思い浮かべる。
 手に切り裂く物を持ち、何者にも屈しない高貴な「紫」を纏った自分を。
「それじゃあ行きますよ……超変身!」
 アマダムから、独特の音が鳴り響く。次の瞬間、五代の姿がそれまでの「赤の金」から、思い浮かべていた「紫の金」……ライジングタイタンフォームへと変わった。
 その「超変身」と、同時だっただろうか。ダイボウケンがプレシャス……五代のアマダムに反応し、彼の超変身を伝播させたかのように、その姿をも紫の装甲に変えたのは。
 名付けるのなら、ライジングタイタンダイボウケン。刃こぼれしていた轟轟剣も「超変身」の影響からか、この姿のクウガの武器である「ライジングタイタンソード」へと変貌を遂げていた。
 このダイボウケンの超変身こそ、五代の言っていた「試したい事」。アマダムの力を増幅させれば、ダイボウケンの巨体も超変身が出来るのではと考えたのだ。
 勿論、ダイボウケンの持つパラレルエンジンが、アマダムの膨大な力に耐えられると言う保証はなかった。キャパシティを超え、自滅する恐れだって充分にあった。その可能性を考えたからこそ、さくらと蒼太は拒絶したのだ。
 それでも、成功した。それは果てなき冒険スピリッツが生み出した奇跡。
「五代、グッジョブだ」
「こっちこそ、大感動です」
 互いにサムズアップをかわしながら、言う二人。そして、真っ直ぐに前に向き直ると、ダイボウケンは突進してくるダイジャリュウに向けて持っている剣を構える。
 今度は確実に、ダイジャリュウを倒す為に。
『ダイボウケン、アドベンチャーカラミティ!!』
 四人の声が、計らずも重なり、ダイボウケンはくるりと円を描くように剣を回す。その中央に浮かぶのは、クウガを示す紋章と、ボウケンジャーのシンボルマークであるコンパスのマーク。
 そのマークをなぞるように振り下ろされた剣は、かなりの硬度を誇るはずのダイジャリュウの皮膚を難なく切り裂いて……そのトリケラトプスに似たダイジャリュウは大爆発を起こし、この世から消え去ったのであった。


「やはり、彼らでもダメでしたか。悪意の定着は人間以外だとなかなか上手く行かない物ですねぇ。まあ、今回はそこそこの利益が出たので良しとします」
「でも、『ダーク』はボウケンジャーの手元に残ってしまったでありんすよ? ボウケンジャーの伊能真墨たんは、アレの過剰適合者では?」
「彼にコネクタを打ち込んでいませんから心配無用です。恐らくプレシャスとして保管されるでしょう」
 どことも知れぬ闇。そこは恐らく、エステル達の住処なのだろう。四人の「悪意」は、それぞれに寛いだ様子でその場にいた。
 独り呟くエステルに、ムダニステラが心配そうな視線と言葉を投げかけたが、呟いた本人はさして気に留めている様子もない。売った商品の行く先には興味がないと言った所だろうか。
「一気に四本売った挙句、修復したガドルまで売りやがったぞ、あの男……」
「エステルは、金になるのなら如何様な相手でも骨の髄まで利用する故。それも致し方あるまい」
「……何かここまで来ると、わっちもいつか売られるのではとヒヤヒヤしっぱなしでありんす……」
「フフ。どうでしょうねぇ? ステラ、あなたの部品に価値が出るまでは、とりあえず現状維持ですよ」
――価値が出たら分解バラす気なのか――
 と心の中でのみツッコミを入れ、天狼は哀れむような視線をステラに投げかける。
 自分達「七人」の中でも最低位に位置する存在とは言え、紅一点だ。やはりそこは、可哀想と思ってやってしかるべきところだろう。
 純粋な腕力ならば、エステルの方がステラより遥かに劣る。しかし彼にはそれを補って余りある体術やら何やら、その他諸々の部分がある。普通にぶつかって、ステラがエステルに勝てる要素はない。
「エステルさん、あの、その……」
「おや、ズヴェズダ。どうしました?」
 唐突に、闇から染み出るように現れた存在に、エステルはさして驚いた様子もなく問いかける。
 この場にいると言う事は、ズヴェズダと言うらしいそいつもまた、彼らの仲間の一人なのだろう。
 おずおずとした態度とは裏腹に、とても凶悪な顔つきをしている。例えて言うなら、西洋の書物に出てくる「悪魔」だろうか。しゃきっとしていれば、それはそれは怖がられる存在だったに違いない。
「えっと、あの、その……つ、次なんですけど……僕が行って良いかなって、聞きたかったんです」
「あん? 珍しいな、人見知りの激しいテメェが、行きたがるなんてよぉ」
「次は、その……地底冥府インフェルシア、ですよね。僕、あの結界を通り抜けられますし、それにこのご面相ですから……」
 自分の外見に関してはきちんと把握しているらしいが、ズヴェズダはダメですかと情けない声を出す。そのギャップが……また何とも不気味でうすら寒い。仲間内ではいつもの事なのだが、何も知らぬ者が見れば、何かを企んでいるのではと疑いたくなる程に。
「別に構いませんよ。と言うかむしろ、あなた以外の誰が行けるとお思いですか」
「そ、そうですよね。すみません、ごめんなさいっ!」
 呆れたようなエステルの声に、ズヴェズダは更に恐縮してぺこぺこと頭を下げる。
 そして、やがて意を決したようにその凶悪な顔を上げると、とても似合わないおどおどとした声で宣言をした。
「それでは、あの……冥獣人、ハデスのズヴェズダとして……奪ったこれを引き連れて、行って来ます」
 言いながら、彼が仲間達に見せた物は……数枚の、トランプに似たカードであった。


Task15:異界の霊石

Stage17:カードの戦士 ~マジーロ・ジルマ・マジカ~
4/4ページ
スキ