☆轟轟戦隊ボウケンジャー&仮面ライダークウガ☆

【Task15:異界の霊石】

「目覚めよ! 新たなダイジャリュウ!」
 何処とも分からぬ洞窟の中で、リュウオーンは新たに生み出した自身の巨大な部下……ダイジャリュウに向かって声をかけた。
 リュウオーンが作るダイジャリュウは、基本的にレックスと称される肉食の恐竜をモチーフにした物が多いが、今回は違った。強いて言うならトリケラトプスの顔を持つ二足歩行の生物と言ったところか。体色はジャリュウ一族によく見られる暗い赤。それが鱗のような物となってジャリュウの表皮を覆っている。
 だが、今までのダイジャリュウと違う点は、それだけではない。特筆すべきは尾の先端部分にある奇妙な紋様だ。それはまるで、何かの接続口のようにも見える。
「おや、終えられたのですね、リュウオーン殿」
「貴様か、エステル」
 闇から滲み出るようにして現れた、特徴のない顔のセールスマンは、相変わらず読めぬ笑顔をリュウオーンに向けて優雅な一礼を見せ、視線をダイジャリュウへ向ける。
「ふむ、これなら何とかなりそうですね」
「能書きは良い。早く貴様の『商品』を寄こせ」
「ええ。既に入金を確認しておりますからね。それでは、こちらをどうぞ。ご要望にありました、『トライセラトプス』でございます」
 言いながらエステルがリュウオーンに渡したのは、濃い紫色の、十センチ程の長さを持つ「商品」。真ん中には角竜の絵で「T」を連想させるデザインが施されている。
 受け取ったリュウオーンは嬉しそうにその顔を歪め、しげしげとその「商品」を眺めた。
「実に面白い。持っているだけで膨大な力を感じるぞ」
「お気に召されたのなら幸いです」
「……ダークシャドウの連中や、クエスター共にも売ったのか?」
「ええ。私は商人でございますからね。ご要望があれば、どなたにでも売ります。少々値は張りますが、専属契約を結んで頂いても結構ですよ?」
 その言葉を聞きながら、リュウオーンは思う。目の前の男は、実に食えない存在だと。心を許しすぎては、いつか身を滅ぼす事になる。
 この男の売る商品は魅力的だが、付き合いはこれ一度きりにした方が良さそうだ。この男を懐に入れたら最後、いつ寝首を掻かれてもおかしくない。そんな気がする。
「フン。その辺はおいおい考えるとしよう。とにかく今回は貴様のこの商品……試させてもらうぞ」
 言うが早いか、リュウオーンはその「商品」をトリケラトプスに似たダイジャリュウの尾にある紋様に向かって突き立て……そして、その直後に起こった変化を見て満足げに頷いた。
 これなら、ボウケンジャーに勝てる……そう踏んで。
「行けぃ、我が部下よ! そしてボウケンジャーを倒し、人間を根絶やしにするのだ!」
 リュウオーンの宣言を聞きながら、その後ろでエステルが邪悪に顔を歪めたのを、一体誰が気付いただろうか……

 ボウケンジャーの面々がミスターボイスから聞かされた話は、どれも驚きに値する物だった。
 その中でも何より驚いたのは、連れて来た青年である五代雄介が、ボウケンジャーが住まうこの世界とは「異なる世界」から来たらしいと言う事。そしてそれを本人が自覚していた事だ。
 そして次に驚いたのが「仮面ライダー」の存在。「異なる世界」とやらには、様々な異形やネガティブシンジケートのような「悪の組織」が存在しており、それらと戦う特殊な力を持つ戦士は「仮面ライダー」と呼ばれ、一般市民の間で都市伝説となっているらしい。
 ちなみに、五代が変身した鍬形に似たあの姿の名は「クウガ」と呼ばれる物で、先程彼が戦っていた異形はクウガの敵である「未確認生命体」……彼らの世界において、学者の間では「グロンギ」とも呼ばれる戦闘種族だと言う話だった。
 彼らにとって人間は「ゲーム」の対象でしかなく、ヒトを殺す事に何の躊躇いもない。それどころか、殺す事を楽しんでさえいるらしい。
「……まるで、アシュみたいな連中だな。そう言う連中が、俺サマは一番ムカつくんだ」
 一通りの話を聞き終えると、心底苛立ったように映士は言葉を放つ。他の面々も、グロンギの登場に危機感を覚えているらしく、軽く眉を顰めていた。
 だが、その中で誰よりも辛そうな表情をしているのは……当事者である五代だった。
 話していて分かったのは、彼はどうやら拳など、「力」で物事を解決するのを好まないらしいと言う事だ。基本的に、誰しも武力で物事を解決するのは気持ちの良い物ではないはずだが、彼は特にその傾向が強いのだろう。
 そう思いながら、ちらりと五代の顔を明石が見やったその時。今までカチャカチャとパソコンを弄っていた牧野が、ふと画面から顔を上げ、信じられない言葉を口にした。
「明石君達の記録した蝙蝠型のグロンギの言葉が、ほんの少しだけ、解読できました」
「本当ですか、牧野先生!?」
「ええ。『レッドロッド』と呼ばれる言語学者が、以前サージェスに提供して下さった言語データに、該当が。それで、特に気になる事を言っているんです」
 蒼太の問いに、こくりと頷きながら、牧野は皆に見せるようにモニターにその「気になる事を言っているシーン」を映し出す。
 レッドロッド……直訳すれば「赤い杖」。サージェス財団設立当初から協力関係にあり、年齢も性別も不詳。サージェス財団の中枢すらも、その正体を把握できていない、謎の言語学者らしい。無論、レッドロッドと言うのは偽名だろうし、設立当初からの付き合いと言う事を考えると、「肩書」のような物なのだろうと推測できるが、今はその怪しげな存在が提供してくれたと言うデータベースの存在はありがたい。
 とは言え、グロンギのいるはずのないこの世界で、どうやって彼らの言葉を研究したのかとか、そもそも研究する必要性はどこにあったのかとか……あるいは、出来すぎているとか、そんな思いがありはするのだが、それはこの際脇に置いておいて。
 牧野の言う「気になる事」は、丁度蝙蝠型の怪人が逃げようと飛び退った際の台詞だった。
『ガサダバゲゲルン、ラブガベザ、クウガ!』
「これを翻訳します。すると……」
『新たなゲゲルの、幕開けだ、クウガ!』
「新たなゲゲル!?」
「ゲゲルって……さっき言ってた、ゲームの事だよね?」
「ええ。ひょっとすると、この世界に入り込んだグロンギは、彼だけではないのかも知れません」
 牧野の低い呟きに、その場にいた全員の背に冷たい物が走る。
 グロンギの言う「ゲーム」はヒトを殺す事で成り立っている。既に言葉を放った蝙蝠のグロンギは倒したが、油断は出来ない。
 仮に他にもグロンギがこの世界に紛れ込んでいるのだとしたら、何の関係もない人間が殺されるかもしれないのだから。
 とは言え、相手の居場所が分らない現状では手の打ちようがない。
――どうする――
 自身に明石が問いかけた瞬間、警報にも似た甲高い音と、スクリーンに再びミスターボイスが映し出された。
 それも、慌てたようなアニメーションで。
『皆、大変だ! 灯溶山に、膨大なプレシャス反応が観測されたよ! しかも、監視衛星からの映像だと、そこにネガティブが集っているようだ!』
 緊張の混じった言葉の後、ミスターボイスが画面の中央からむかって右側にはけると、彼に代わるようにして一枚の写真が映し出される。
 そこに映っているのは、トリケラトプスのようなダイジャリュウを従えたリュウオーン、クエスターのガイとレイ、ダークシャドウの闇のヤイバ、そしてゴードムの神官ガジャ。更にはガジャの後ろに見覚えがない軍服の男が立っている。
 何者か分らず不審に思う明石達とは対照的に、軍服の男に目を留めた五代の表情はきゅぅと強張る。
「あれは……四十六号!」
 強張った表情のまま、五代は驚いたように声を上げる。その表情と声から、明らかに「知り合いたくない類の知り合い」である事が分る。おまけに「四十六号」という言い方をしたという事は……
「あの男も、グロンギか?」
「……はい。カブトムシ型の、未確認で……強敵です」
 ぐっと拳を固め、辛そうに吐き出す五代を見やり、明石は軽く目を伏せる。
 五代の身に宿る霊石の力は、ハザードレベル「2000」。それを持ってしても強敵と言わしめる相手となると、用心するに越した事はない。
「……五代さん、大丈夫? 菜月達だけで行こうか?」
 戦う事を良しとしない。そう言った彼に気を使ったらしい。心配そうに覗き込んで言葉をかけた菜月に対し、五代は軽く首を横に振り……すぐに満面の笑顔を返し、大丈夫ですと返した。
 彼は他人の笑顔の為に、自分の笑顔を犠牲にできる優しい男なのだと、改めて明石達は認識する。それが果たして良い事なのかは置いておいて。
 とは言え、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。明石は不敵に笑うと、五代の胸元を拳で軽く叩き……
「なら、ちょっとした冒険だ。……付き合ってくれるか?」
「……はい。良い冒険にしましょう、明石さん」
 菜月に返した時と同じ笑顔を浮かべ、今度はサムズアップも付けると、五代は明石にそう言葉を返したのだった。

「待ちくたびれたぞ、ボウケンジャー!!」
 灰色の砂利に似た石が多く転がる灯溶山中腹。そこへようやく現れた明石達の姿を確認するや、一歩前に出たリュウオーンが叫ぶ。その横では、他のネガティブの面々が嫌な笑いと共にこちらを見つめていた。
「お前達の思うようにはさせない!」
「ほざけ! 大口が叩けるのも今のうちだ!」
 ごう、とリュウオーンが吠えたのを合図にするように、ボウケンジャーの面々は己の変身ツールを構え、五代は腰に手を当てて変身用のベルトを現出させた。
「……Ready!」
『ボウケンジャー、Start Up!!』
「ゴーゴーチェンジャー、Start Up!!」
「変身!!」
 それぞれの掛け声が重なり、自身の袖に走らせたアクセルラーのタービンが回る。それに反応して、ボウケンジャーの面々を色とりどりのスーツが覆う。
 同時に映士のゴーゴーチェンジャーは彼の指紋を認識し、その体に銀のスーツを纏わせ、五代の中にある霊石は彼の意思に反応してその姿を古代の戦士へと変貌させた。
「熱き冒険者、ボウケンレッド!」
 赤のスーツをその身に纏い、二つ名の通りの熱き心で困難を乗り越える冒険者、明石暁。
「速き冒険者、ボウケンブラック!」
 黒のスーツをその身に纏い、二つ名の通りの速き動きで獲物を掴み取る冒険者、伊能真墨。
「高き冒険者、ボウケンブルー!」
 青のスーツをその身に纏い、二つ名の通りの高き志で真偽を見分ける冒険者、最上蒼太。
「強き冒険者、ボウケンイエロー!」
 黄のスーツをその身に纏い、二つ名の通りの強き体で罠を掻い潜る冒険者、間宮菜月。
「深き冒険者、ボウケンピンク!」
 桃のスーツをその身に纏い、その二つ名の通りの深き思慮で仲間を導く冒険者、西堀さくら。
「眩き冒険者、ボウケンシルバー!」
 銀のスーツをその身に纏い、その二つ名の通りの眩き光でその道程を照らす冒険者、高丘映士。
「果て無きボウケンスピリッツ!」
『轟轟戦隊、ボウケンジャー!』
 六人の冒険者達の声が重なり、その後ろではまるで狙っていたかのように派手な爆煙が上がる。サージェスの仕掛けた発破なのか演出なのかは分らないが、その爆煙によって場の空気が彼らの方へと流れるような錯覚に陥る。
 ポーズを取る六人の横で「赤の金のクウガ」こと、ライジングマイティフォームに変身した五代が、仮面の下では楽しそうな笑顔でそれを見やると、下にいるネガティブの面々に宣言する。
「今日は俺も、ボウケンジャーの仲間入りです!」
「なら、さしずめ『優しき冒険者』……と言った所だな」
「良いですね、それ。今度名刺に書き加えておきます」
 明石に言われ、サムズアップと共に礼を言うと……改めて五代が名乗る。
「それじゃ……優しき冒険者、クウガ!」
 古代の鎧をその身に纏い、与えられた二つ名の通りの優しさで皆の笑顔を守る冒険者、五代雄介。
 彼もボウケンジャー同様の名乗りを上げた瞬間、今の彼の色に合わせたらしい、赤に金ラメの舞い散る爆煙が、彼の背後で上がった。
「ボウケンジャー、クウガ……アタック!」
 爆煙が収まったのを見計らい、パキンと明石が指を鳴らす。それと同時に七人それぞれが、敵に向かってその場を駆け抜ける。
 ダークシャドウ、闇のヤイバの前に立ったのは、彼に因縁を持つ真墨。
 しかし前に立つヤイバの姿は、普段見る彼とは異なっていた。
 フォルムは変わっていないのだが、普段の彼はダークシャドウのパーソナルカラーである青い鎧を纏っているはず。なのに、今相手が身につけているのは、黒よりも更に深い「闇色」の鎧。手に持っている剣の刀身もまた、どこまでも黒い。
 異様な雰囲気がヤイバの周囲を漂っているのが分る。ぞくりと肌が粟立つのを感じながらも、真墨はヘルメットの下できつくヤイバを睨み付け……
「どういう事だ? いつものヤイバと違う!?」
「今の俺は、真の『闇』の力を手に入れた。ダークヤイバ、とでも呼んで貰おうか」
 言うが早いか、ヤイバの周囲に黒い霧のような物がわだかまり、真墨に襲い掛かるのであった。

 その頃、ガジャの前には菜月とさくらの女性二人、そこに五代が加わる形で立ち塞がる。
 そして軽くガジャの周辺に視線を向ければ、そこにはつまらなそうな表情でさくら達を見やる軍服姿の男と、先程「霊石の遺跡」で倒したはずの蝙蝠型の怪人の姿。そして彼らを盾にするようにして、ガジャは不気味に笑ってこちらを見ていた。
「あの蝙蝠は、先程『霊石の遺跡』で私達が倒したはずでは!?」
「それに、そっちの人も五代さんがやっつけたはずなんだよね?」
「残念だったな。そこの蝙蝠は、ゴードムエンジンによって生まれ変わっておる。そしてこやつもまた、ゴードムエンジンとは別の要因で生まれ変わった存在よ」
 さくらと菜月の問いに、ガジャはクックと楽しげに笑いながら答えを返す。
 どうやら高みの見物を決め込んでいるらしく、ガジャ本人が動く気配はない。それは救いなのか、あるいは彼の余裕の表れなのか。
 どちらにせよ、油断は禁物。思い、さくらはさっと身構えた。
「じゃあ、クエスターみたいな物!?」
 悲鳴にも似た菜月の声を合図に、蝙蝠型の怪人は妙に甲高い笑い声をあげて、女性二人に向かって飛び掛かかる。
 一方で軍服の男は、鋭い視線を五代に向け……
「ゴラゲゾダゴグボドグ、ゴセンザギバスゲゲルザ」
 低く、そう呟いたのである。

 更に別の場所。クエスターの前には、蒼太と映士の二人が立っていた。
 こちらも、普段の彼らとは少し違う。手持ちの武器が一回り大きくなっており、腰には見慣れぬ、金色のベルトが巻きついている。
「どうなってやがる!? クエスターの連中もやたらごつくなってるぞ!?」
「ネガティブが全員、パワーアップしてる……って事かな?」
 瞬時に自身達が置かれた状況を察したのか、蒼太は映士の声に鋭く答えながらも、自身の武器であるブロウナックルをガイとレイに向ける。
 アシュと呼ばれる戦闘種族であった彼らは、ガジャの埋め込んだゴードムエンジンによって変質、強化されていた。そこから更に強化されたような恰好になっている二人に対して警戒を厳にするのは、至極当然の事だろう。
 しかし、クエスターの二人はそんな彼らの警戒など気にしていないのか、ハッと鼻で笑うと、持っていた武器を無造作に構え……
「このまま人間皆殺し! 人間を……リントを殺しちまえ!」
「ああ。ゲゲルの開始だな」
 アシュとして、自身の種族に対する誇りを持つはずの彼ららしくない、グロンギ特有の言葉を発すると同時に、クエスターの二人は映士と蒼太に向って狂気に満ちた瞳を向けた。
 己の内から聞こえる、「ゲゲルのルール」に、無意識の内に従いながら。

「『トライセラトプス』、『ダーク』、そして『グロンギ』が二本。売り上げとしては上々と言った所ですね」
 ジュラルミンケースを抱えたスーツ姿の男……エステルが、戦いの場から少しだけ離れた位置で、それを楽しそうに眺めていた。
 ただ、彼の足元に地面はない。ふわふわと、それが当たり前であるかのように宙に浮いている。
「修復した未確認生命体四十六号ゴ・ガドル・バも、まあまあの値で売れましたが……この世界にクウガが現れたのは、少々計算外ですね。何故この時代にグロンギを売りつけるとばれたのでしょう?」
 軍服の男……グロンギの中でも一、二を争う強さを持つ存在、ゴ・ガドル・バと、それに対峙するライジングマイティクウガを見つめながら、彼は心底不思議そうに呟きを落とす。五代の存在は、彼の言葉通り計算外だったらしい。落とされた呟きには、本人も意識しない程微かな不快の色が滲んでいた。
 その向こうでは、トリケラトプス型のダイジャリュウに苦戦しているダイボウケンの姿が見える。恐らく乗っているのは地上で見当たらない赤い戦士……ボウケンレッド、明石だろう。
「まあ、儲けもありましたし、ここで彼らが倒されても痛くも痒くもないのですが、一応は実験ですからね。データを取らせて頂きましょう」
 いつの間に持っていたのか、彼はハンディカメラを構え、それぞれの戦いを記録し始める。
 いや、「それぞれ」と言うのは正確ではないかもしれない。何しろ画面の中心に置かれているのは、「戦闘」ではなくネガティブの面々だけなのだから。
「人間以外への悪意の定着。そしてそれによって引き起こされる事象。その全てを観察させて頂きます。今回の件は、その為の『実験』でもあるのですから」
 低く笑うエステルの声は、風に乗って虚空に散る。まるで、世界が彼の悪意を拡散させるかのように。


EPISODE14:秘宝

EPISODE16:冒険
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