☆轟轟戦隊ボウケンジャー&仮面ライダークウガ☆
【EPISODE14:秘宝】
5月13日 11:26 a.m. 長野県 「霊石の遺跡」
正直、五代雄介は困っていた。
自分は確か、久方振りにクウガとしての原点である、長野県の九郎ヶ岳の遺跡に向かっていたはずだった。
しかし……唐突に自分の目の前に「銀色のオーロラ」が現れたかと思うと、周囲の景色は一変。気がつけば、それなりに整備されていたはずの山道から、獣道しかない森の中へと変わっていた。
かつての経験から、「自分が、異なる世界に来てしまったのだ」と気付くまでにはそう時間はかからなかったが、そこは持ち前のポジティブシンキングで、この冒険を楽しむ事にした。
「世界の境界を曖昧のままにする」と言う選択をしたのだから、こういう事もあるだろうと思って。
だが。
道なき道を「冒険」しているさなか、見つけたのは一つの遺跡。しかもその入り口は強引に壊されたような跡があった。気になって入ってみたところ、そこには非常に見覚えのある異形……未確認生命体三号と呼んでいたそれが、祭壇にある「何か」を奪おうとしているところだった。
結果、彼は否応なしに戦闘に突入、直後に何だかカラフルな六人組が登場し、三号を倒した挙句、自分も彼らに包囲されてしまったのである。
現れた六人組は、未確認……グロンギと呼ばれるそれとは、趣が異なる。彼らよりはむしろ、自分達「仮面ライダー」に近いような印象を受けた。
とは言え、どうやらあちらの方は自分を危険人物と判断したらしい。ぴりぴりとした緊張感が漂っていた。
「お前は何者だ? 何故ここにいる?」
「いや、俺……俺は、五代雄介って言います。ここに来た理由は、もちろん冒険しに」
緊張を含んだ声で問う赤い戦士に対し、五代は変身を解除して「二千の技」のうちの二つである笑顔とサムズアップで正直に答える。
嘘を吐く理由はないし、むしろ嘘を吐いた方が問題あるかもしれないと思ったからだ。何しろ彼らは妙に殺気立っている。
出来る限り、争いで物事を解決したくない身としては、今は彼らの神経を逆撫でる様な真似はしない方が賢明。
まして未確認のように言葉を理解出来ない訳ではない。誠意を持ってきちんと話せば、きっと分かり合えると思った事もある。
「そう言うあなた達こそ、何者なんですか?」
不思議に思って問いを投げると、こちらに敵意や害意がない事が伝わったのか、リーダーらしい赤い戦士だけはその「変身」を解いた。
自分と同い年か、少し年下と言ったところだろうか。服装は戦士と言うよりは自分と同じ「冒険者」のような印象を受ける。茶色いジャケットに、裏地は赤の迷彩模様。腕には携帯ホルダーのようなものがあり、そこには特徴的な黒い携帯電話……に似た何かがぶら下がっている。
「明石暁、冒険者だ。そこにあった霊石を回収する為にやって来た、な」
「霊石……?」
言われて、ようやく祭壇の上に何かが乗っていたらしい事に気付く。乗っていた「霊石」は既に黒と黄色の戦士達によって濃茶に近い金色の箱にしまわれたようだが、今まで石を置いていた台座は残っている。
だとすれば、自分はその霊石に呼ばれたのだろうか。
不思議に思いながらも、五代は視線を霊石が置かれていた祭壇から明石と名乗った青年へと戻す。
口元には不敵な笑みが浮いているが、敵意は感じられない。あるのはクウガと言う未知の存在に対する警戒心だろうか。
「色々と聞きたい事がある。悪いが、少しの間拘束させてもらう」
「へ?」
明石の言葉の意味を理解するよりも先に、彼は真剣な表情でパチンと指を鳴らした。
それが合図になったかのように、青い戦士と銀色の戦士が五代の腕を両脇から掴んだ。それはまるで、明石の宣言通り、自分を拘束する為のように。
「……え? あの?」
「悪いけど、ちょっと付き合ってもらうよ?」
「嫌とは言わせねぇぜ」
「え? ええっ!?」
驚く暇も有らばこそ。あっと言う間に五代の体はロープでぐるぐる巻きにされた挙句、銀色の戦士の乗る、消防車がモチーフと思しき巨大メカに乗せられ、どこかへと連れ去られてしまった。
5月13日 1:07 p.m. サージェス財団
ビルの地下にあるサロンに連れ込まれ、五代は茶色い服を着た中年男性に引き渡され、そして更に一時間、CTやらX線やら採血やら……人間ドックも真っ青な程、様々な検査をされた。
もっとも、検査の際には拘束は解かれた上、中年男性……牧野森男と名乗ったその人物は、人の良さそうな笑みを浮かべて、その検査結果を逐一教えてくれた。
そう言う意味では、この牧野と言う人物は、五代の知る「おやっさん」こと喫茶店ポレポレのオーナーである飾玉三郎と、自分の「唯一の主治医」を名乗る椿秀一を、足して半分に割った……いや、多分足して八割くらいかけた感じの人だと思える。
それに、結果を教えてくれるだけではなく、こちらの話も興味深そうに聞いてくれたのもありがたかった。
「いやぁ、驚きました」
そして、五代を危険ではないと判断してくれたらしい。一通りの検査を追えた後、牧野は彼を連れてサロンに上がってくるや、そこで待っていた明石達に向かって、開口一番そう言った。
彼の手には、五代の腹部のレントゲン写真が入った封筒がある。
神妙な顔の明石達とは対照的に、牧野の顔はそれ程強張っていない。むしろ、どこかわくわくしているようにすら見えるのは気のせいか。
「牧野先生、何か分ったんですか? その……彼の事」
青の入ったジャケットの青年が持っていたアコースティックギターを置いて、ちらりと五代を見ながら牧野に問いかける。
声からすると、おそらく青い戦士だった人物だろう。他の面々も、明石と同じようなベージュのジャケットに、彼らのパーソナルカラーと思しき色が入っている。
唯一異質な印象を受けるのは、銀色のジャケットの青年だが、迷彩模様こそない物の、背には他の面々と同じ、「Search Guard Successor」の文字が入っている。
「ええ。結論から言って、雄介君は神経までプレシャスと一体化してしまっています。取り外すのは、まず無理でしょう」
プレシャス……秘宝。
検査の間、牧野は終始穏やかな様子で五代に説明してくれた。
自分を連れてきた明石達は、このサージェス財団の先鋭部隊。プレシャスと呼ばれる危険な「秘宝」を保護、回収する為の「冒険者」らしい。回収が不可能と判断され、更に悪用されている場合は「破壊」という手段にも出るらしいが、本当にそれは最終手段なのだそうだ。
そして自分が連れて来られた理由は、自分の中にある霊石「アマダム」が、彼らの言うプレシャスの定義に引っ掛かってしまったかららしい。
しかも、とんでもなく危険な物という認識を持って。
それはそうだろう。自分の……クウガの力は、下手をすると世界を滅ぼしかねない物。おそらく彼らは、何らかの方法でクウガの危険度を検知、そして自分をここに連れてきたのだろう。
それも、牧野に説明された事だ。そして納得もした。自分が彼らの立場ならば、説得し、やはり自分のテリトリーに来てもらう。テリトリーと言っても、城南大学かポレポレかの二択になりそうな予感がひしひしとするのだが。
「『雄介君』って……随分親しげですね、先生」
「いや、検査の最中に名刺を頂きましてね。『夢を追う男、2000の技を持つ男』だそうです」
ピンクのジャケットにポニーテールの女性に言われながら、牧野は五代が渡した名刺を自慢げに見せびらかす。
技の数も二千まで来ると、流石に打ち止めらしい。最近は新しい技に出会う事も少ない。自分の持っていない技を持っている友人は増えたが、それを習得するのはそれこそ至難の技だ。超高速移動やら分身やらをクウガの力で行うのは、正直難しい。
「それで? こいつは人間なのか? それとも、人間のフリした鍬形の怪物なのか?」
「真墨、失礼だよ」
「雄介君は紛れもなく人間ですよ。一体化してしまったプレシャス、『アマダム』の力で、クウガと言う戦士に変身できるそうです。皆さんが最初に見たのは、クウガとしての彼ですね」
「俺の、二千番目の技です」
ぐっと得意のサムズアップと笑顔を見せながら、五代は黒いジャケットの男性と黄色いジャケットのツインテールの女性に向かって言い放つ。
一方でそれを向けられた方はと言うと、男性は軽く顔を顰めてそっぽを向き、女性の方は五代に負けないくらいの笑顔と共にサムズアップを返してくれた。
そんなやり取りに、ようやく警戒を解いたらしい。明石は神妙な顔で五代の前に立ち……
「そうか。……手荒な真似をした。すまない」
「え、良いですよ。それに、皆さんはお仕事をしただけじゃないですか」
深々と頭を下げた明石に、慌てたように返した。
本来の世界ではクウガも元は「四号」……未確認生命体と同じ扱いを受けていたのだ。何も知らず、クウガの姿を見ただけの彼らが、自分を危険だと判じるのは当然だろう。
少々手荒で困った事は確かだが、命の危険は感じられなかったし、あまり気にもしていなかった。
安心感があった訳ではないが、明石達が無闇に人の命を奪うような輩ではないと言う、確信めいた何かがあったのも気にしていない要因なのかもしれない。
「好青年って感じだよね、雄介さんって」
「ま、悪い奴じゃないって言うのは何となく分るけどな」
「俺サマも、最初からこいつは良い奴だって思ってたぜ」
「え~? 映ちゃんは雄介さんをぐるぐる巻きにしてたじゃん」
青、黒、銀、黄の順にぽんぽんと展開される会話。その横では、ピンクの女性が呆れたような視線を向けている。
「皆、チーフ以外が自己紹介していないのを忘れていますね。……はじめまして。私は西堀さくら。ミッション中のコードネームはピンクです」
「あ、さくらさんだけずるい! あのね、私は間宮菜月って言うんだよ。強き冒険者、ボウケンイエロー! よろしくね、雄介さん」
「俺は、最上蒼太。コードネームはブルー」
「俺サマは高丘映士、ボウケンシルバーだ。悪かったな、簀巻きにしちまって」
バシバシと五代の背を叩き、銀色……映士はどこからか取り出したセロリを五代に差し出す。
どうやら食べろ、と言う事らしい。五代はありがたく受け取り、それを齧る。ハリハリと小気味の良い音が返るセロリは、新鮮な証拠だろう。
そんな中、一人つまらなさそうな表情で黒い青年がこちらを見やり……
「伊能真墨だ。……俺の事は、色で呼ぶな」
「あのね、真墨の事をブラックって呼ぶと、機嫌悪くなっちゃうんだ。真墨、お子様だから」
「聞こえてるぞ、菜月」
むすっとしたように、菜月の囁きに真墨が返し、それを微笑ましく思いながら眺めた瞬間。
キュインと言うなんとも不思議な音が響き、それと共に自分の後ろにあった大きなスクリーンには、何かのキャラクターが映し出された。
底面を上にした灰色の円錐に、ちょび髭とパッチリとした目、脇からは棒のような腕が生えたキャラクターが、その細い手をひらひらと振ってこちらを見ている。
『やあ皆、元気そうだね』
「おや、ミスターボイス。どうしたんです?」
アニメーションのキャラクターの名は、ミスターボイスと言うらしい。確かに、男性の声だったから「ミスター」なのだろう。
牧野の不思議そうな問いに、ミスターボイスはこくりと頷くと、更に言葉を続けた。
相手が人工知能なのか、それともこの財団の上層部の人間で、顔を見せる訳に行かないのかは定かではないが、随分と人間臭い仕草を取るアニメーションだ。
『ちょっと思い出した事があってね。それを伝えに』
「思い出した事、ですか?」
「それって?」
『うん。いきなりだけど、皆は『多重世界論』って知ってる?』
さくらと菜月の問いに、さらりとミスターボイスが問い返す。
「俺サマ達がいるここ、『この世界』とは『異なる世界』が、無数に存在するって言う、あれか」
ミスターボイスの問いに、真っ先に答えたのは映士。壁際で腕を組みながら、さも当然のように言った彼に、五代を除く面々が驚いたように目を見開いた。
「うわ。真っ先に理解出来なさそうな映士が、珍しく説明役に回ってる……」
「……あのなぁ蒼太。言っとくが、俺サマは高丘……アシュを『百鬼界』に封印した一族だぜ? それ位の事は、術士として知っていて当然の基礎知識だ」
「…………そう言えばそうだったな」
「野菜を齧っているイメージしかありませんでした」
「明石とさくら姐さんまでそう言うか。流石に俺サマも少し凹むぜ」
『……ねえ、話を戻して良いかな?』
「どうぞ」
『そのいくつもある世界の中でも、私達の住んでいる世界に近い場所に、『仮面ライダー』って呼ばれる存在がいるらしいんだ』
それがさも当然のように、ミスターボイスは話を始めた。
彼も他人から聞いたと言う、「仮面ライダー」についての話を。
5月13日 1:30 p.m. 長野県 「霊石の遺跡」
「こやつが、お前の仲間か?」
完全に事切れているコウモリ種怪人、ズ・ゴオマ・グを見下ろしながら、ガジャは隣に立つ軍服の男に声をかける。
ゴオマの腹から流れた血は、既に固化し遺跡の床にこびりついている。
突っ伏しているゴオマの体をひっくり返しながらも、軍服の男はガジャの問いに軽く鼻で笑い……
「ボギヅグババラ? パサパゲス」
「ふむ。格下と言う事か」
「ボギヅパ、ゲゲルゾベガギダゴソバロボザ」
「愚か者でも、使えるのならば問題はない」
ゴオマに蔑みの視線を送る男の言葉が理解できるらしい。ガジャはニヤリと口の端を歪めながらそう言うと、ゴオマの脇に屈みこむ。
その手の中には、黒い何かがあり、それを迷う事なくゴオマの体の中に埋めていく。ある程度まで埋めたそれからガジャが手を離すと、まるで水の中に錘を沈めるかのように、何の抵抗もなくするりと体内へと消えていった。
「ギラボパバンザ、ガジャ?」
「これは、ワシが開発したアンチパラレルエンジン……ゴードムエンジン」
ずぶずぶと埋め込まれるそれを、薄ら寒そうに見つめながら軍服の男はそのまま黙り込んだ。
どうやらガジャの行っている事は、彼の信念に反する事らしい。とは言え、そんな事に構っている場合ではない。少なくとも、ボウケンジャーを倒し、そして「彼」にとっても倒すべき敵……クウガを倒す為には、ガジャと手を組むしかない。
それは、倒されたはずの自分を「作り直し」、この世界に連れて来たエステルにも言い含められている。逆らえば、その瞬間にゲゲルから外すと。それは彼にとって、最大の屈辱だ。
不機嫌そうな軍服の男とは逆に、ガジャは楽しそうに喉の奥で笑う。
ほんの僅かな時間しか行動を共にしていないが、グロンギと呼ばれる彼らは、どうやら結果よりも過程を重んじるらしい。
だがガジャは逆だ。過程よりも結果が大切。ボウケンジャーを倒し、再びこの地上にゴードム文明を栄えさせる為ならば、何だってする。それこそ、他のネガティブシンジケート達をはじめ、エステルと言う名の不気味な商人、そしてボディーガードとして雇ったこのグロンギや……今まさに生まれ変わらせようとしている存在まで。
この世の事象の全ては、自分に利用されるために存在していると言っても過言ではないとさえ思っている。
全ては、破壊神ゴードムの為。地上を制し、破壊の限りを尽くす……その点では、ある意味グロンギの信念と似ているかもしれない。エステルと言う商人の持って来た商品 に興味はないが、グロンギの方は充分に利用価値がある。
エステルの方もそれを見抜いていたのかもしれない。少なくとも、エステルはこちらの要求を呑んで、グロンギだけ売って来たのだから。
……思っている間に、ゴードムエンジンはゴオマの体内に完全に埋め込まれ……ガジャはそれを見届けると、大きく腕を振って宣言する。
「さあ、目覚めるのだ! ワシの、手駒として……! そして、憎きボウケンジャーを屠るのだ!」
彼の声に応えるように、カッと稲光が走り……そして、ゴオマは目覚めた。
「グロンギ」と言う戦闘種族ではなく、ガジャの手駒として。
5月13日 11:26 a.m. 長野県 「霊石の遺跡」
正直、五代雄介は困っていた。
自分は確か、久方振りにクウガとしての原点である、長野県の九郎ヶ岳の遺跡に向かっていたはずだった。
しかし……唐突に自分の目の前に「銀色のオーロラ」が現れたかと思うと、周囲の景色は一変。気がつけば、それなりに整備されていたはずの山道から、獣道しかない森の中へと変わっていた。
かつての経験から、「自分が、異なる世界に来てしまったのだ」と気付くまでにはそう時間はかからなかったが、そこは持ち前のポジティブシンキングで、この冒険を楽しむ事にした。
「世界の境界を曖昧のままにする」と言う選択をしたのだから、こういう事もあるだろうと思って。
だが。
道なき道を「冒険」しているさなか、見つけたのは一つの遺跡。しかもその入り口は強引に壊されたような跡があった。気になって入ってみたところ、そこには非常に見覚えのある異形……未確認生命体三号と呼んでいたそれが、祭壇にある「何か」を奪おうとしているところだった。
結果、彼は否応なしに戦闘に突入、直後に何だかカラフルな六人組が登場し、三号を倒した挙句、自分も彼らに包囲されてしまったのである。
現れた六人組は、未確認……グロンギと呼ばれるそれとは、趣が異なる。彼らよりはむしろ、自分達「仮面ライダー」に近いような印象を受けた。
とは言え、どうやらあちらの方は自分を危険人物と判断したらしい。ぴりぴりとした緊張感が漂っていた。
「お前は何者だ? 何故ここにいる?」
「いや、俺……俺は、五代雄介って言います。ここに来た理由は、もちろん冒険しに」
緊張を含んだ声で問う赤い戦士に対し、五代は変身を解除して「二千の技」のうちの二つである笑顔とサムズアップで正直に答える。
嘘を吐く理由はないし、むしろ嘘を吐いた方が問題あるかもしれないと思ったからだ。何しろ彼らは妙に殺気立っている。
出来る限り、争いで物事を解決したくない身としては、今は彼らの神経を逆撫でる様な真似はしない方が賢明。
まして未確認のように言葉を理解出来ない訳ではない。誠意を持ってきちんと話せば、きっと分かり合えると思った事もある。
「そう言うあなた達こそ、何者なんですか?」
不思議に思って問いを投げると、こちらに敵意や害意がない事が伝わったのか、リーダーらしい赤い戦士だけはその「変身」を解いた。
自分と同い年か、少し年下と言ったところだろうか。服装は戦士と言うよりは自分と同じ「冒険者」のような印象を受ける。茶色いジャケットに、裏地は赤の迷彩模様。腕には携帯ホルダーのようなものがあり、そこには特徴的な黒い携帯電話……に似た何かがぶら下がっている。
「明石暁、冒険者だ。そこにあった霊石を回収する為にやって来た、な」
「霊石……?」
言われて、ようやく祭壇の上に何かが乗っていたらしい事に気付く。乗っていた「霊石」は既に黒と黄色の戦士達によって濃茶に近い金色の箱にしまわれたようだが、今まで石を置いていた台座は残っている。
だとすれば、自分はその霊石に呼ばれたのだろうか。
不思議に思いながらも、五代は視線を霊石が置かれていた祭壇から明石と名乗った青年へと戻す。
口元には不敵な笑みが浮いているが、敵意は感じられない。あるのはクウガと言う未知の存在に対する警戒心だろうか。
「色々と聞きたい事がある。悪いが、少しの間拘束させてもらう」
「へ?」
明石の言葉の意味を理解するよりも先に、彼は真剣な表情でパチンと指を鳴らした。
それが合図になったかのように、青い戦士と銀色の戦士が五代の腕を両脇から掴んだ。それはまるで、明石の宣言通り、自分を拘束する為のように。
「……え? あの?」
「悪いけど、ちょっと付き合ってもらうよ?」
「嫌とは言わせねぇぜ」
「え? ええっ!?」
驚く暇も有らばこそ。あっと言う間に五代の体はロープでぐるぐる巻きにされた挙句、銀色の戦士の乗る、消防車がモチーフと思しき巨大メカに乗せられ、どこかへと連れ去られてしまった。
5月13日 1:07 p.m. サージェス財団
ビルの地下にあるサロンに連れ込まれ、五代は茶色い服を着た中年男性に引き渡され、そして更に一時間、CTやらX線やら採血やら……人間ドックも真っ青な程、様々な検査をされた。
もっとも、検査の際には拘束は解かれた上、中年男性……牧野森男と名乗ったその人物は、人の良さそうな笑みを浮かべて、その検査結果を逐一教えてくれた。
そう言う意味では、この牧野と言う人物は、五代の知る「おやっさん」こと喫茶店ポレポレのオーナーである飾玉三郎と、自分の「唯一の主治医」を名乗る椿秀一を、足して半分に割った……いや、多分足して八割くらいかけた感じの人だと思える。
それに、結果を教えてくれるだけではなく、こちらの話も興味深そうに聞いてくれたのもありがたかった。
「いやぁ、驚きました」
そして、五代を危険ではないと判断してくれたらしい。一通りの検査を追えた後、牧野は彼を連れてサロンに上がってくるや、そこで待っていた明石達に向かって、開口一番そう言った。
彼の手には、五代の腹部のレントゲン写真が入った封筒がある。
神妙な顔の明石達とは対照的に、牧野の顔はそれ程強張っていない。むしろ、どこかわくわくしているようにすら見えるのは気のせいか。
「牧野先生、何か分ったんですか? その……彼の事」
青の入ったジャケットの青年が持っていたアコースティックギターを置いて、ちらりと五代を見ながら牧野に問いかける。
声からすると、おそらく青い戦士だった人物だろう。他の面々も、明石と同じようなベージュのジャケットに、彼らのパーソナルカラーと思しき色が入っている。
唯一異質な印象を受けるのは、銀色のジャケットの青年だが、迷彩模様こそない物の、背には他の面々と同じ、「Search Guard Successor」の文字が入っている。
「ええ。結論から言って、雄介君は神経までプレシャスと一体化してしまっています。取り外すのは、まず無理でしょう」
プレシャス……秘宝。
検査の間、牧野は終始穏やかな様子で五代に説明してくれた。
自分を連れてきた明石達は、このサージェス財団の先鋭部隊。プレシャスと呼ばれる危険な「秘宝」を保護、回収する為の「冒険者」らしい。回収が不可能と判断され、更に悪用されている場合は「破壊」という手段にも出るらしいが、本当にそれは最終手段なのだそうだ。
そして自分が連れて来られた理由は、自分の中にある霊石「アマダム」が、彼らの言うプレシャスの定義に引っ掛かってしまったかららしい。
しかも、とんでもなく危険な物という認識を持って。
それはそうだろう。自分の……クウガの力は、下手をすると世界を滅ぼしかねない物。おそらく彼らは、何らかの方法でクウガの危険度を検知、そして自分をここに連れてきたのだろう。
それも、牧野に説明された事だ。そして納得もした。自分が彼らの立場ならば、説得し、やはり自分のテリトリーに来てもらう。テリトリーと言っても、城南大学かポレポレかの二択になりそうな予感がひしひしとするのだが。
「『雄介君』って……随分親しげですね、先生」
「いや、検査の最中に名刺を頂きましてね。『夢を追う男、2000の技を持つ男』だそうです」
ピンクのジャケットにポニーテールの女性に言われながら、牧野は五代が渡した名刺を自慢げに見せびらかす。
技の数も二千まで来ると、流石に打ち止めらしい。最近は新しい技に出会う事も少ない。自分の持っていない技を持っている友人は増えたが、それを習得するのはそれこそ至難の技だ。超高速移動やら分身やらをクウガの力で行うのは、正直難しい。
「それで? こいつは人間なのか? それとも、人間のフリした鍬形の怪物なのか?」
「真墨、失礼だよ」
「雄介君は紛れもなく人間ですよ。一体化してしまったプレシャス、『アマダム』の力で、クウガと言う戦士に変身できるそうです。皆さんが最初に見たのは、クウガとしての彼ですね」
「俺の、二千番目の技です」
ぐっと得意のサムズアップと笑顔を見せながら、五代は黒いジャケットの男性と黄色いジャケットのツインテールの女性に向かって言い放つ。
一方でそれを向けられた方はと言うと、男性は軽く顔を顰めてそっぽを向き、女性の方は五代に負けないくらいの笑顔と共にサムズアップを返してくれた。
そんなやり取りに、ようやく警戒を解いたらしい。明石は神妙な顔で五代の前に立ち……
「そうか。……手荒な真似をした。すまない」
「え、良いですよ。それに、皆さんはお仕事をしただけじゃないですか」
深々と頭を下げた明石に、慌てたように返した。
本来の世界ではクウガも元は「四号」……未確認生命体と同じ扱いを受けていたのだ。何も知らず、クウガの姿を見ただけの彼らが、自分を危険だと判じるのは当然だろう。
少々手荒で困った事は確かだが、命の危険は感じられなかったし、あまり気にもしていなかった。
安心感があった訳ではないが、明石達が無闇に人の命を奪うような輩ではないと言う、確信めいた何かがあったのも気にしていない要因なのかもしれない。
「好青年って感じだよね、雄介さんって」
「ま、悪い奴じゃないって言うのは何となく分るけどな」
「俺サマも、最初からこいつは良い奴だって思ってたぜ」
「え~? 映ちゃんは雄介さんをぐるぐる巻きにしてたじゃん」
青、黒、銀、黄の順にぽんぽんと展開される会話。その横では、ピンクの女性が呆れたような視線を向けている。
「皆、チーフ以外が自己紹介していないのを忘れていますね。……はじめまして。私は西堀さくら。ミッション中のコードネームはピンクです」
「あ、さくらさんだけずるい! あのね、私は間宮菜月って言うんだよ。強き冒険者、ボウケンイエロー! よろしくね、雄介さん」
「俺は、最上蒼太。コードネームはブルー」
「俺サマは高丘映士、ボウケンシルバーだ。悪かったな、簀巻きにしちまって」
バシバシと五代の背を叩き、銀色……映士はどこからか取り出したセロリを五代に差し出す。
どうやら食べろ、と言う事らしい。五代はありがたく受け取り、それを齧る。ハリハリと小気味の良い音が返るセロリは、新鮮な証拠だろう。
そんな中、一人つまらなさそうな表情で黒い青年がこちらを見やり……
「伊能真墨だ。……俺の事は、色で呼ぶな」
「あのね、真墨の事をブラックって呼ぶと、機嫌悪くなっちゃうんだ。真墨、お子様だから」
「聞こえてるぞ、菜月」
むすっとしたように、菜月の囁きに真墨が返し、それを微笑ましく思いながら眺めた瞬間。
キュインと言うなんとも不思議な音が響き、それと共に自分の後ろにあった大きなスクリーンには、何かのキャラクターが映し出された。
底面を上にした灰色の円錐に、ちょび髭とパッチリとした目、脇からは棒のような腕が生えたキャラクターが、その細い手をひらひらと振ってこちらを見ている。
『やあ皆、元気そうだね』
「おや、ミスターボイス。どうしたんです?」
アニメーションのキャラクターの名は、ミスターボイスと言うらしい。確かに、男性の声だったから「ミスター」なのだろう。
牧野の不思議そうな問いに、ミスターボイスはこくりと頷くと、更に言葉を続けた。
相手が人工知能なのか、それともこの財団の上層部の人間で、顔を見せる訳に行かないのかは定かではないが、随分と人間臭い仕草を取るアニメーションだ。
『ちょっと思い出した事があってね。それを伝えに』
「思い出した事、ですか?」
「それって?」
『うん。いきなりだけど、皆は『多重世界論』って知ってる?』
さくらと菜月の問いに、さらりとミスターボイスが問い返す。
「俺サマ達がいるここ、『この世界』とは『異なる世界』が、無数に存在するって言う、あれか」
ミスターボイスの問いに、真っ先に答えたのは映士。壁際で腕を組みながら、さも当然のように言った彼に、五代を除く面々が驚いたように目を見開いた。
「うわ。真っ先に理解出来なさそうな映士が、珍しく説明役に回ってる……」
「……あのなぁ蒼太。言っとくが、俺サマは高丘……アシュを『百鬼界』に封印した一族だぜ? それ位の事は、術士として知っていて当然の基礎知識だ」
「…………そう言えばそうだったな」
「野菜を齧っているイメージしかありませんでした」
「明石とさくら姐さんまでそう言うか。流石に俺サマも少し凹むぜ」
『……ねえ、話を戻して良いかな?』
「どうぞ」
『そのいくつもある世界の中でも、私達の住んでいる世界に近い場所に、『仮面ライダー』って呼ばれる存在がいるらしいんだ』
それがさも当然のように、ミスターボイスは話を始めた。
彼も他人から聞いたと言う、「仮面ライダー」についての話を。
5月13日 1:30 p.m. 長野県 「霊石の遺跡」
「こやつが、お前の仲間か?」
完全に事切れているコウモリ種怪人、ズ・ゴオマ・グを見下ろしながら、ガジャは隣に立つ軍服の男に声をかける。
ゴオマの腹から流れた血は、既に固化し遺跡の床にこびりついている。
突っ伏しているゴオマの体をひっくり返しながらも、軍服の男はガジャの問いに軽く鼻で笑い……
「ボギヅグババラ? パサパゲス」
「ふむ。格下と言う事か」
「ボギヅパ、ゲゲルゾベガギダゴソバロボザ」
「愚か者でも、使えるのならば問題はない」
ゴオマに蔑みの視線を送る男の言葉が理解できるらしい。ガジャはニヤリと口の端を歪めながらそう言うと、ゴオマの脇に屈みこむ。
その手の中には、黒い何かがあり、それを迷う事なくゴオマの体の中に埋めていく。ある程度まで埋めたそれからガジャが手を離すと、まるで水の中に錘を沈めるかのように、何の抵抗もなくするりと体内へと消えていった。
「ギラボパバンザ、ガジャ?」
「これは、ワシが開発したアンチパラレルエンジン……ゴードムエンジン」
ずぶずぶと埋め込まれるそれを、薄ら寒そうに見つめながら軍服の男はそのまま黙り込んだ。
どうやらガジャの行っている事は、彼の信念に反する事らしい。とは言え、そんな事に構っている場合ではない。少なくとも、ボウケンジャーを倒し、そして「彼」にとっても倒すべき敵……クウガを倒す為には、ガジャと手を組むしかない。
それは、倒されたはずの自分を「作り直し」、この世界に連れて来たエステルにも言い含められている。逆らえば、その瞬間にゲゲルから外すと。それは彼にとって、最大の屈辱だ。
不機嫌そうな軍服の男とは逆に、ガジャは楽しそうに喉の奥で笑う。
ほんの僅かな時間しか行動を共にしていないが、グロンギと呼ばれる彼らは、どうやら結果よりも過程を重んじるらしい。
だがガジャは逆だ。過程よりも結果が大切。ボウケンジャーを倒し、再びこの地上にゴードム文明を栄えさせる為ならば、何だってする。それこそ、他のネガティブシンジケート達をはじめ、エステルと言う名の不気味な商人、そしてボディーガードとして雇ったこのグロンギや……今まさに生まれ変わらせようとしている存在まで。
この世の事象の全ては、自分に利用されるために存在していると言っても過言ではないとさえ思っている。
全ては、破壊神ゴードムの為。地上を制し、破壊の限りを尽くす……その点では、ある意味グロンギの信念と似ているかもしれない。エステルと言う商人の持って来た
エステルの方もそれを見抜いていたのかもしれない。少なくとも、エステルはこちらの要求を呑んで、グロンギだけ売って来たのだから。
……思っている間に、ゴードムエンジンはゴオマの体内に完全に埋め込まれ……ガジャはそれを見届けると、大きく腕を振って宣言する。
「さあ、目覚めるのだ! ワシの、手駒として……! そして、憎きボウケンジャーを屠るのだ!」
彼の声に応えるように、カッと稲光が走り……そして、ゴオマは目覚めた。
「グロンギ」と言う戦闘種族ではなく、ガジャの手駒として。