☆獣拳戦隊ゲキレンジャー&仮面ライダー555☆

【第12話】

「ぅをををををっ!」
 狂ったような声を上げながら、「ゲワシハだったモノ」はゲキレンジャーとファイズに向かって攻撃を放つ。だが、その技に精彩はない。臨気の研鑽どころかリンギを使う様子もなく、ただひたすらに突っ込んでいるだけ。
 それで果たして、リンリンシーと呼べるのだろうか。
 確かにパワー面では先程よりも上かもしれない。だが、それも当たらなければ意味がない。
 リンギを用い、獣拳でねじ伏せてこそ、臨獣殿の勝利と言えるものを。
「アンタ……本当に何をしたのよ?」
 隣にいる天狼に、メレは詰問するような口調で問いかける。
 ゲワシハがおかしくなったのも、全てはこの男が「何か」を施したためだ。しかしそれが、臨獣殿の……理央の為になされたものでない事くらいは、今の様子を見ていて十二分に理解できる。
――理央様に仇なすのならば、いっそこの場で始末してくれる――
 そう思いながら、彼女は楽しげに顔を歪める天狼へ視線を向けた。が、その殺気すらも心地いいのか、彼はますますその目を楽しげに細めると、喉の奥で低く笑い……
「別に、理央サマに敵対する気はねえから安心しな。まあ……言ってしまえば、あのハゲワシヤローは俺の与えた力に溺れ、その悪意を暴走させてるって事さ」
「悪意の、暴走?」
「各個たる自我、俺の与えた悪意を上回る悪意……そう言った物があれば、こんな暴走しなかったのになぁ。修行が足りなかったんだろ」
 天狼が言うと同時だっただろうか。ゲキレンジャーの声が響き渡る。
「ゲキワザ、咆咆弾ほうほうだん!」
「ゲキワザ、瞬瞬弾しゅんしゅんだん!」
「ゲキワザ、転転弾てんてんだん!」
 赤、黄、青に彩られた激気の獣達が、それぞれゲワシハに向かってその牙で噛み付き、体当たりで吹き飛ばし、最後に回転をしながら薙ぎ払う。
「まだまだ! ゲキワザ、超捻捻弾ちょうねんねんだん!」
 悲鳴を上げる暇も与えず、今度はケンの放った研鑽された激気が腹部を貫く。
 そして、気付けばゲワシハの眼前に、再び赤い円錐型のポインターがロックされていた。
 そのポインターに向かっているのは……巧とゴウの二人。
「ゲキワザ、狼狼蹴ろうろうしゅう!」
「やぁぁっ!」
 ゴウの延髄蹴りと、巧の蹴りが合わさり、ゲワシハの体に赤い「Φ」の文字と、紫色の直線が浮かび上がる。
 それが重なり、最終的に赤紫色の十字架のような紋様となる。その十字架に磔にされたように、ゲワシハは両腕を広げ、天に向かってその嘴を突き出した。
「がああぁぁぁぁっ!?」
 六人の攻撃に耐え切れず、ゲワシハの体が大きく爆ぜると同時に、その体は灰色から元のカラフルな物に戻った。
 その足元に、何か小さな機械のような物が落ちている事に、一体何人が気付いただろう。既にそれは二つに割れてしまっているものの、目を凝らせば中央に貼ってあるシールに、ヒトと異形が絡まりあって「O」の文字がデザインされている。
 すぐに、それも爆風に巻き込まれて跡形もなく消えたが。
「不味いわね。あいつ、邪身豪天変も使えなくなってるじゃないの……!」
「ひゃはははっ! 自分で巨大化できねぇって言うのならよぉ……」
 いつまで経っても巨大化しないゲワシハに対して苛立っているのか、そう呟くメレの横で、楽しそうに天狼は言うと、懐から何かを取り出した。
 鈍色の、丸い物体。中央付近に浅く溝が彫られたそれは、どことなく爆弾のように見える。
「外部刺激で巨大化させりゃあ良いだろ?」
「アンタ、何よそれ!?」
「クックック……」
 メレの慌てた声も何のその、天狼はそのピンを己の犬歯に引っ掛けると、それを一気に引き抜き……
「巨大化爆弾!! 俺サマカスタム!」
 楽しげに叫びながら、それをゲワシハの方へと放り投げる天狼。そして、投げられたそれ……天狼曰く「巨大化爆弾」とやらは、綺麗な弧を描いてゲワシハの足元へ着弾した。
 瞬間。それは狙い済ましていたかのように大爆発を起こし、濛々と土煙を上げる。
「爆発した!?」
「一体何が起きたってんだ!?」
 レツとケンの驚きの声が響いた、まさにその瞬間。ゲワシハの姿は、「邪身豪天変」を使用した時と同様、五十メートル近い巨体へと変化していく。
 本人は何もしていないと言うのに。
「今の、一体……」
「んあ? 巨大化爆弾の事かぁ? こいつはゴーマの連中が巨大化する時に使っていた道具さ。ゴーマ宮がなくなる前にギッといて正解だったぜ。まあ、使い方に関しては俺サマ流に多少の改良アレンジを施しちゃあいるが、効果の程はほとんど変わらねぇ。邪身豪天変と同じように、ちぃとばかし巨大化して、更にちぃとばかし凶暴になるだけだ」
 喉の奥でクックと笑いながら言い切ると、天狼はもはやこの場には興味ないと言わんばかりにくるりと踵を返す。
「そんじゃメレ。俺はこれにて失礼させてもらうぜぇ?」
「何ですって?」
「俺の実験は終った。後の事にゃ、興味ねぇ。もう二度と、あんたらの前に出る事もねぇだろ。……儲かりそうもねぇしな」
 それだけ言うと、彼の姿は煙の如く掻き消えてしまう。
 だが、不思議とそれを追おうという気は起きない。むしろいなくなってくれてほっとしている自分に気がつくと、彼女は薄ら寒そうに自分の二の腕をさする。
 あの存在は、理央だけでなく、この世界の敵になりうる。そう、本能的に感じていたのかも知れない……

「何かいつもとデカデカのなり方が違う!!」
 怒ったように呟くジャンを横目で見ながら、巧は軽く舌打ちをする。
 以前、こことは異なる「異世界」に向かった時、今のゲワシハと同じくらいの大きさの敵に出会った事がある。
 あの時、「敵」として立ちはだかり、そして和解した存在の事を思うと、少しだけ胸が痛む。彼は今、どうしているだろうと思ってしまう。
 ……とは言え、今は感傷に浸っている場合ではない。目の前で吠える巨大化した敵をどうにかしなければならないのだ。
――あの時は「時の列車」とやらで何とかなったが、今回はどうするんだよ――
 と、考え込もうとした瞬間。
「来い、サイダイン!」
『ゲキワザ、来来獣らいらいじゅう!』
 何だ、と巧が思う間もなかった。
 ジャン達の声に応えるようにして、先程放った激気の獣を、さらに大きくした物と、白い巨大なサイの様な物が現れ……それにジャン達が吸い込まれるようにして乗り込むや否や、一体の拳士としてその場に降り立つ。
『サイダイゲキトージャ、バーニングアップ!』
――……マジかよ――
 と、思わず心の中でのみ、巧はツッコミを入れる。
 巨大戦の経験があまりない巧からすれば、この光景は異様としか言いようがない。何故にさも当たり前のように巨大ロボット……と思しき物が出てくるのだろう。
 そう言えば先程、ジャンは「いつもと」と言っていた。と言う事は普段からこんな巨大な敵と戦っているのか。
――そうか、慣れの問題か――
 と、ガラにもなくぼんやりと考え込んでいる巧の耳に。聞き慣れた声が届いた。
「た……たっくーん!!」
「って啓太郎!? お前、何だってここに?」
 ぜいぜいと息を切らせながらやって来た啓太郎に、驚きの視線を向ける巧。確か啓太郎は、あの「スクラッチ」と言う会社に置いてきたはずだ。それなのに、何故……?
「たっ君、忘れ物……」
「忘れ物?」
「こ、これ……」
 言いながら啓太郎が差し出したのは、ファイズ用の特殊ツール……ファイズブラスター。
「たっ君、これをバンの中に忘れてたから。シャーフーさんとお茶してる最中に思い出して、慌てて持ってきちゃったんだけど……いらなかった?」
「この状況で、いらない訳ないだろ」
 少々呑気な事を言っている啓太郎の胸元を軽く叩いてそう言うと、巧は立った今渡されたファイズブラスターにファイズフォンをセットする。
 するとファイズブラスターはそれを認識、「Awakening」の音声と共にドライバーに再起動をかける。
 瞬間、ファイズの姿が再び変わる。今までライン……フォトンストリームに流れていたフォトンブラッドはスーツの方に流れこんだために赤く染まり、逆に何も流れていないフォトンストリームの方は光を失い漆黒の影を落とし、更に背中には専用のマルチユニットが装備される。
 それこそが、ブラスターモードと呼ばれる、ファイズの最強形態である。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「気をつけてね、たっ君!!」
 「5246」とエンターを押し、巧はサイダイゲキトージャに加勢すべく宙を舞ってその場を離れた。
 その瞬間。
「はーい!! 今日もわたくし、熱い巨大戦を実況させて頂きます! 激獣フライ拳の使い手、バエです、ブーン!」
「う、うわぁぁぁっ! 何か中途半端に大きなハエがしゃべった!?」
 啓太郎の耳元で響いた声に驚き、その主を見れば……そこにいたのは人の顔くらいの大きさのハエ……のような生き物。
 ただ、口元はどことなくマイクのように見えるし、喋っているのは間違いなく人語……と言うか日本語。ハエにしては大きいし、おまけにサスペンダー付きの服を着ている。手足も昆虫特有の六本ではなく、両手両足の計四本だ。
「ハエって言わないで下さい。バエって名前があるんですから。あ、私、巨大戦を実況するのが趣味でして。今日は解説をお願いしたいなぁと」
「ぼ……僕が!?」
「はい。メレさんにも私にも、ファイズさんの技は分りませんから」
――メレさんって誰?――
 ブンブンと首を縦に振りながら言うバエに、啓太郎は一瞬だけ不思議そうにその顔を顰めるが……すぐにこくりと頷きを返した。
 自分に出来る事は、そんなに多くない。ならば、自分に出来る事……巧を応援する意味も込めて、解説役を買ってみようと思ったのかもしれない。
 スクラッチで信じて待つのも一つの「戦い」だが、ここで声援を送るのも啓太郎の「戦い」だからと判断したのか。
「はっ! とか言ってる間に、ゲワシハによる上空からの羽根攻撃だぁぁ!」
「あいつ、馬鹿の一つ覚えみたいな攻撃しか出来ない訳?」
「……メレさん、今日はいつになく厳しいですねぇ」
「って、いつの間に君も隣に……?」
 びくりと身を震わせながら、啓太郎はいつの間にか隣に立っていたメレに声をかける。
 メレの方はと言うと、特に興味もなさそうにそっぽを向いてしまうが。
 もはやこの二人に突っ込んではいけないのかもしれない。そう開き直ると、啓太郎は戦いの方に視線を向けなおす。
 サイダイゲキトージャの体に、ゲワシハの無数の羽根が突き立っているが、どうやら既にオルフェノクのように灰化させる力はないらしい。
 ただ、物理的な攻撃として羽根を飛ばしているのだと分った。
「これは痛い! サイダイゲキトージャの機動性の低さが仇になったか!」
「うーん……確かにあれだけ大きいと、機動性は期待できないよね。だけど……僕達には、たっ君がいる」
『Blaster Mode』
 啓太郎が力強い声で言うと同時に、ファイズブラスターの電子音が周囲に響く。直後、フォトンブラッドによる砲撃がゲワシハの片翼を撃ち貫き、もぎ取る。
 片翼だけではバランスが取れないのは自明の理。相手は派手に地面に叩きつけられ、悶え苦しむ。
「おっとぉ! ゲワシハの自慢の羽根が、ファイズによって撃ち抜かれた! これは形勢逆転か!?」
「一人人間サイズな分、小回りが利いたのと小さすぎてゲワシハには見えなかったって事ね」
「今のはフォトンバスターモードだね。普通はあの攻撃だけで灰になっちゃうらしいんだけど……」
 不思議そうに首を傾げながら言う啓太郎。その言葉に、メレはその怜悧な顔を忌々しそうに顰めると、よろりと立ち上がるゲワシハを見やる。
 切り落とされた方の羽根はザラザラと灰に変わるのだが、本体の方は少しも灰化の気配がない。
「……さっきまで変に暴走してたせいで、灰化の耐性でも出来てんじゃないの?」
――あるいは、天狼が巨大化させる際に、更に何かやったか――
 声として出てくる可能性と、心の中に浮かぶ可能性。どちらの方がありえるかと言えば、メレは迷いなく後者を選ぶ。
 両方、と言う考えもあるが、先程まで共にいた、寒気がする程関わりたくない相手の事。「使い方に関して改良した」と言っていたが、改良……否、「改悪」した部分が使い方だけとは思えない。
「あ、あとは大きさが違いすぎるせいで殆ど効かなかったとかかな?」
「……かも知れないわね。理央様の役に立たないような奴なんて、どうでも良いけど」
 啓太郎の声に返すメレの口調は、やはり冷たい。と言うよりも投げやりと言った方が良いか。
 恐らく彼女は、「得体の知れない力」に溺れたゲワシハを嫌っているのだろう。理央の為に戦わないリンリンシーなど、彼女にとっては敵も同じなのだから。
「よくも……よくも自慢の羽根をぉぉ!」
 怒り狂いながらファイズを追い回すゲワシハだが、先程メレが言ったように、ファイズは人間と同じ大きさ。ゲワシハから見れば、非常に捕まえにくい大きさである。
 それに……ゲワシハの敵は、ファイズだけではない。その事を失念していたらしい。
 いつの間にかゲワシハとサイダイゲキトージャの距離が縮まり、ゲキワザの射程範囲内に入っていた。
『ゲキワザ、砕大頑頑撃さいだいがんがんげき!』
「しまっ……!」
 気付いた時には既に遅く、ゲキトージャの上半身が回転、ゲキジャガー、ゲキチーター、ゲキウルフの高速移動により、竜巻が発生しゲワシハを上空に吹き飛ばす。
「隙を突いてジャガー、チーター、ウルフのフルコンボが、ゲワシハに炸裂ぅぅっ! これはかなり効いているぅぅぅっ!」
 そしてそのまま、サイダイゲキトージャは落ちてきたゲワシハをサイダインの角でざっくりと切りつける。
「斬撃も極まったぁぁぁっ!」
「たっ君、最後……行っちゃえ!!」
『Blade Mode』
 それはまるで啓太郎の声に応えるかのように。天高く舞い上がっていた巧も急降下し、大型のフォトンブラッド剣で勢い良く相手を断ち切った。
「解説の啓太郎さん、今のは一体何と言う技ですか?」
「フォトンブレイカー! ブラスターモードの必殺技の一つだよ!」
 二つの斬撃が、ゲワシハの体に刻まれ……そして彼は、偽りの命を再び散らした。
「やぁりましたぁぁ! サイダイゲキトージャとファイズの見事なコラボレーション、その勝利ですぅぅ!」
「流石たっ君!」
『サイダイゲキトージャ&ファイズブラスター、WIN!』
 夕日を背に負い、真っ赤に染まるサイダイゲキトージャと、その肩に止まるファイズの姿は、まるで一枚の完成された絵のように、鮮やかな勝利を演出していた……


「連中、ブレイクしやがった」
「ほう? ブレイクは風の街の者達にのみ出来る物だと思っていたが……」
 どことも知れぬ闇の中。そこへ戻ってくるなり楽しそうに呟いた天狼に、刀の手入れをしていた爪牙は僅かに驚いたような声を上げた。
 その横では、手入れの様子を興味深そうに眺めているステラがいる。
 だが、彼女の方は特に驚いた様子もなくつまらなそうに口を尖らせるだけだった。
「なんとな~くできるような気はしていたでありんすけど……実際やられたって聞くと、凄くムカつくでありんす」
「ベルトの設計者は、あの忌々しい『剣の小姓ページ・オブ・ソード』ですからね。出来て当然なのかも知れませんよ?」
 心底苛立ったようなステラの声に答えたのは、天狼でも爪牙でもなく……四人目の存在。
 その顔には穏やかな笑みが浮かんでおり、かっちりと着込まれたスーツは黒。手には銀色のジュラルミンケースを提げ、雰囲気としてはどこかのセールスマンのような印象を受ける。
 だが、爪牙や天狼、ステラのようにこれと言った外見的な特徴はない。出会っても、すぐに忘れてしまいそうな顔立ちだ。
「よぉ。お前ぇか、エステル。今日はスーツか?」
「え……エ、エエエ、エステルたん……っ!」
「何をそんなに怯えていらっしゃるんです、ステラ?」
「……貴殿が手に、『それ』を持って構えているからだろう」
 エステル、と呼ばれた男に対し、異常なまでの恐怖心を抱いているのか、ステラは怯える子供のように爪牙の後ろに隠れる。天狼や爪牙も、心なしかエステルとの距離をとろうとしているように見えた。
 見た目は本当に普通の男だ。外見だけなら爪牙と天狼の方が明らかに強そうなのに……それでも彼らは、引き攣った顔を見せている。……つまりは、それだけエステルと言う男が怖いと言う事なのか。
「心外ですね、爪牙。いくら私でも、仲間を実験の対象にしようとは思いませんよ?」
「爽やか笑顔でさらっと嘘吐くな、エステル! その顔は絶対ぇ何か企んでんだろうがよぉ!!」
「スマイルは商人の基本ですよ、天狼? それに、嘘だなんて……吐いていますが、何か?」
「ひぃぃぃっ! 爪牙たん、天たん! エステルたんが物凄い怖い笑顔でこっち見てるでありんすぅぅぅぅっ!」
「……しょうがねぇ、エステルはああ見えて俺ら『七人』の中じゃ最強だからなぁ。諦めろ」
「正直、逆らうだけ無駄と言う物だ」
「うふふ……嫌ですね、そんなに誉めないで下さい」
『誉めてない』
 綺麗に三人の突っ込みの声が重なるが、エステルの方は別段気にした様子も見せず、ただにっこりと綺麗な笑顔を彼らに向けるだけだが、それが反って恐ろしい。
 ステラはあからさまにびくりと体を震わせ、天狼は思い切り顔を背け、爪牙は剣の柄に手をかけていた。
「まあとにかく……私はコレを、ネガティブシンジケートの皆様に買い取って頂きに参ります。留守の間、他の三人とも仲良くしてるんですよ?」
「……わっち達は、とっても仲良しでありんすよ?」
「テメェ以外とはなぁ」
「右に同じく」
「嫌ですねぇ。僕ほど人畜無害な死の商人はいませんよ?」
「『死の商人』の時点で、既に人畜無害とは言い難いであろう、エステルよ」
 冷たい視線とツッコミを入れる爪牙だが、またしてもそれを軽く流すと、エステルはくるりと踵を返し、「次の商談相手」の元へと一歩、歩を進める。
 その顔に、あからさまに邪悪な笑みを浮かべて。
「フフフ……ご購入下さるのなら、相手は誰だって良いのですよ。世界を滅ぼす結果になろうが、買い手を滅ぼす結果になろうが、私にとっては金銭が全て。それがこの私……エステルの信条です」
 それだけ言うと、エステルの姿は闇へと消える。
 次の商売相手……ネガティブシンジケートと呼ばれる者達と、商談を行う為に。


修行その11:ピカピカの意思

Task13:古代の戦士
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