紅蓮の空、漆黒の戦士
【その15:鼠色の戦場】
北岡秀一と、浅倉威が、桜井侑斗と名乗る青年に出会っていた頃。
城戸真司、秋山蓮、手塚海之は、ミラーワールドにいた。どこかの地下駐車場だろうか。先程今でいた街並みとは全く違う景色が広がっている。薄暗い中で、鏡文字になった「非常口」の文字が、ぼんやりと、申し訳程度に光っている。
玄金武土と名乗った男に突き飛ばされた先には、何故だか都合よくミラーワールドと現実世界を結ぶ乗り物……ライドシューターがあり、なかなか無理な体勢のままここ、ミラーワールドに連れられていた。
「俺……生身のままライドシューターに乗ったの、はじめてかも……」
「多分、俺もだ」
その場に蹲 りながら吐き捨てるように呟く城戸と、あからさまに具合が悪そうな顔色で返す秋山。その後ろでは手塚が無言のまま、これまた具合悪そうに近くのコンクリート製の柱に寄りかかっている。
……三人を襲っているのは、「乗り物酔い」などと言う可愛らしい物ではない。
今までは変身してからライドシューターに乗っていたので気付かなかったのだが、スピードとそれに伴う重力の大きさ、そして何より、異なる「世界」を行き来する違和感のような物が乗り手に襲い掛かり、辿り着いた頃には吐き気や眩暈、頭痛と言った症状が彼らに現れてしまったのだ。
「あの玄金とかって男、今度会ったら一発ぶん殴って良いかな?」
「好きにしろ、俺は止めない」
秋山の言葉に同調するように、手塚も大きく頷く。
……どうやら、彼の症状が一番酷いようだ。
こんな、愉快な体験をさせてくれたのだ。玄金には、それ相応の「お礼」をせねば気が済まない。とりあえず殴る事は決定だ。その後の事はまあ追々考えよう。
そう決心した時だった。何者かの……間違いなく、ミラーモンスターと呼ばれるそれの咆哮が、近くから聞こえたのは。
それも一体や二体ではない。かなりの数の……それこそ、無数と言って差し支えないほどのミラーモンスターの鳴き声が、彼らに向かってきている。
「くっそー、酔ってる暇もないのかよ!」
「……あいつらにとって、弱った今の俺達は、かっこうの獲物と言う事だろうな」
大きく一つ溜息を吐き、今まで無言でいた手塚がデッキを構えながら言う。
彼の前にはカーブミラーがあり、既に腰にはベルトが装着されている。それに倣うかのように、城戸と秋山も近くにある反射物……カーブミラーなり、車のバックミラーなり……に己の姿を映し、ベルトを出現させる。
「試練の獣、か」
自分の師が告げた占いを思い出し、手塚は一人、小さく笑った。
まるで、人生の試練とでも言わんばかりに現れるミラーモンスター達。彼女は、手塚がこうなると分かっていて、あの占いを告げたのだろうか。彼女の言う、「試練の獣」の一体……エビルダイバーと、自らの意思で契約し、今まさに戦いに赴こうとしているのだから。
だが、例え強引な方法でこのミラーワールドに自分達が送り込まれたのだとしても、戦うと決めた以上、いつかはこうなったのだ。それが、早いか遅いかの違いだけで。
『変身!』
三人の声が、同時に響く。
それとほぼ同時に、赤、紺、赤紫の鎧を纏った、三人の騎士の姿へとそれぞれ変わった。
赤紫の騎士は手塚。まるで世界の全てを、そして未来をも見通すかの如く、落ち着いた様子で辺りを見回す。
ライア。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターは、エビルダイバーと呼ばれる、宙を泳ぐ赤紫のエイ。
紺の騎士は秋山。蝙蝠を連想させるマントをたなびかせ、持っていた剣……召喚機、あるいはバイザーと呼ばれるそれを軽くあげる仕草をとる。
ナイト。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターは、ダークウィングと呼ばれる、闇の翼を持つ、紺色の蝙蝠。
そして、赤い騎士は城戸。変身完了と同時に、「っしゃあ!」という掛け声とガッツポーズを取り、気合を入れる。
龍騎。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターはドラグレッダーと呼ばれる、無双龍の異名を持つ紅蓮のドラゴン。
「何か、初めてなのに……懐かしいな、この感覚」
ワキワキと、拳を握ったり開いたりしながら、感触を確かめるように呟く城戸。
その横では秋山が、呆れたような溜息を盛大に吐いて……
「そんな事を言ってる場合か。来るぞ」
「……分かってるよ」
一瞬だけふてくされて、けれど、どこか嬉しそうに、城戸は秋山に返す。
その会話が終わるのを待っていたかのように、今まで周囲を取り囲んでいただけのミラーモンスター達が、一斉に三人に襲い掛かる。
それを確認するや、三人はそれぞれ散り散りになって敵を分散させた。
『ADVENT』
ライア……手塚が、左腕に付いているエイ型のバイザーにカードを通した瞬間、電子音がその名を告げる。
元から彼の後ろに控えていたエビルダイバーだが、その電子音に応えるように、手塚と彼を追うフェニックス型のミラーモンスターの間に割り込んで、その尾で薙ぎ払う。
「……行くぞ」
『SWING VENT』
淡々と言い放つと、手塚はエイ型のバイザーにカードを通す。そして電子音と同時に現れた、エビルダイバーの尾を模した、鞭状の武器……エビルウィップを持つと、当然のようにそれを躊躇なく振るう。
空気の悲鳴の一瞬後に上がる、モンスター達の悲鳴。更にその一瞬後には、エビルダイバーによる「食事」。
「……因果だな」
呟くと同時に、またしてもエビルウィップを一振り。
かつて、別の歴史において、ライアに選ばれたのは手塚の友人であった。だが、その友人は戦う事を拒否し、それが故に契約破棄とみなされ、目の前にいるモンスターに殺されたのだ。
その仇は、その歴史の際にとった。それで終わったはずだった。
だが、今また、目の前にいるのはガルドサンダーと言う名の、あの時友人を殺したミラーモンスター。それが自分の目の前にいるのは、因果以外の何者でもないような気がした。
「だがその因果も、ここで終わらせてもらう」
『FINAL VENT』
三度 、電子音がカードの名を告げる。同時に、今まで手塚の周りで敵を殲滅していたエビルダイバーが、それに応えるかのように手塚をその背に乗せ、一気に突撃。
……「ハイドベノン」と呼ばれるその技により、ミラーモンスター達を殲滅した。
『SWORD VENT』
ナイト……秋山が、蝙蝠を模した剣型のバイザーにカードを通した瞬間、バイザーとは別の剣が、彼に与えられた。
ナイトと言う、その名の通り、仮面ライダーの中でも、最も騎士らしいその出で立ち。構えられた剣も、どちらかと言えば細身の物。ウィングランサーと呼ばれる、ダークウィングの契約者のための武器である。
レイヨウに似たモンスター達が突進してくるが、秋山はそれらを次々と切り捨てる。
「……そう言えば、インペラーは……佐野はいないんだったな」
レイヨウのモンスターから真っ先に連想される人物……かつて、仮面ライダーとして戦った存在を思ったが、玄金と名乗っていた男が「資格を放棄した」と言っていたのを思い出す。
あの男を信用している訳ではないが、その言葉に偽りがないようにも思う。
秋山の知る、かつてのインペラーの資格者……佐野満と言う男は、悲劇的な末路を辿った。彼の望む全てを手に入れたにも拘らず、放棄することが出来ぬまま、否応なく戦い……そして「幸せになりたかっただけなのに」と、嘆きながらこの世界で散っていった。
その過去を思い出したと言うのなら、間違いなく佐野は放棄……いや、この力を拒絶するだろう。この力は、彼にとって「不幸」以外の何者でもないのだから。
思いつつ、秋山は敵が最後の一体になったのを確認し、一枚のカードを取り出す。
「お前で最後だ」
『FINAL VENT』
電子音が響くと同時に、秋山は空高く舞い上がり……ウィングランサーを芯にし、マントがドリル状に変形する。そして、そのまま敵に向かって突撃。
……「飛翔斬」……そう呼ばれる技で、秋山は、近くにいたモンスターを全滅させた。
『STRIKE VENT』
龍の頭を模したバイザーにカードを通すと、龍騎……城戸の腕に、これまた龍の頭を模した手甲状の武器が装備される。
「行っくぜぇっ!」
気合と共に、襲い掛かってくるトンボ型のモンスター達を殴り飛ばし、その数を減らしていく。
このタイプのモンスターの厄介な所は、その数の多さ。いくら倒しても、どこからともなく沸いてくるこいつらに、城戸はかつて、何度も撤退を余儀なくされた。
そして、更に厄介な事に……彼らは、ある時期を迎えると「脱皮」をし、その数量で「外の世界」へと繰り出していくのである。
いくら九分五十五秒しかいられないとは言え、次々と現れるのであれば、制限時間など無意味に等しい。
「北岡のファイナルベントなら、一発なんだろうけど……」
ぼやきつつ、城戸は次々と現れるモンスターをひたすら殴り飛ばす。
北岡……ゾルダのファイナルベントは、仮面ライダーの中で最も広い範囲で敵を倒す事のできる、「エンドオブワールド」と呼ばれる技。彼の契約モンスターであるマグナギガの全身から、大量のミサイルやレーザーが発射される、ある意味最も恐ろしい攻撃である。
とは言え、ない物ねだりをしても仕方がない。羽音に似た「音」だか「声」だかを響かせながらやってくる敵を、ただひたすらに攻撃し、打ち倒す。
どの位倒しただろうか。心なしか余裕が生まれてきたのを、城戸は実感し始めた。
事実、自分に襲い掛かるモンスターの数が、圧倒的に減ってきている。いつもなら人海戦術の如く襲い掛かるモンスター……レイドラグーン達が、今回に限り、そうではなかったらしい。
純粋に、ミラーモンスターの数が少ないのか、それとも何らかの意図があるのかは定かではないが、城戸はそれを好機と捉え……
「っしゃあ! これで終わりだ!」
『FINAL VENT』
電子音が響き、自分の契約モンスター……ドラグレッダーが、駐車場の屋根をぶち抜きながら上昇する。それに合わせるように、城戸も上昇し……上昇しきった所で、ドラグレッダーが口からエネルギー弾を発射。それを背に受け、その勢いに乗せて城戸は左足を突き出し……
「ドラゴンライダーキック」と呼ばれるその技を用いて、全ての敵を消滅させた。
北岡秀一と、浅倉威が、桜井侑斗と名乗る青年に出会っていた頃。
城戸真司、秋山蓮、手塚海之は、ミラーワールドにいた。どこかの地下駐車場だろうか。先程今でいた街並みとは全く違う景色が広がっている。薄暗い中で、鏡文字になった「非常口」の文字が、ぼんやりと、申し訳程度に光っている。
玄金武土と名乗った男に突き飛ばされた先には、何故だか都合よくミラーワールドと現実世界を結ぶ乗り物……ライドシューターがあり、なかなか無理な体勢のままここ、ミラーワールドに連れられていた。
「俺……生身のままライドシューターに乗ったの、はじめてかも……」
「多分、俺もだ」
その場に
……三人を襲っているのは、「乗り物酔い」などと言う可愛らしい物ではない。
今までは変身してからライドシューターに乗っていたので気付かなかったのだが、スピードとそれに伴う重力の大きさ、そして何より、異なる「世界」を行き来する違和感のような物が乗り手に襲い掛かり、辿り着いた頃には吐き気や眩暈、頭痛と言った症状が彼らに現れてしまったのだ。
「あの玄金とかって男、今度会ったら一発ぶん殴って良いかな?」
「好きにしろ、俺は止めない」
秋山の言葉に同調するように、手塚も大きく頷く。
……どうやら、彼の症状が一番酷いようだ。
こんな、愉快な体験をさせてくれたのだ。玄金には、それ相応の「お礼」をせねば気が済まない。とりあえず殴る事は決定だ。その後の事はまあ追々考えよう。
そう決心した時だった。何者かの……間違いなく、ミラーモンスターと呼ばれるそれの咆哮が、近くから聞こえたのは。
それも一体や二体ではない。かなりの数の……それこそ、無数と言って差し支えないほどのミラーモンスターの鳴き声が、彼らに向かってきている。
「くっそー、酔ってる暇もないのかよ!」
「……あいつらにとって、弱った今の俺達は、かっこうの獲物と言う事だろうな」
大きく一つ溜息を吐き、今まで無言でいた手塚がデッキを構えながら言う。
彼の前にはカーブミラーがあり、既に腰にはベルトが装着されている。それに倣うかのように、城戸と秋山も近くにある反射物……カーブミラーなり、車のバックミラーなり……に己の姿を映し、ベルトを出現させる。
「試練の獣、か」
自分の師が告げた占いを思い出し、手塚は一人、小さく笑った。
まるで、人生の試練とでも言わんばかりに現れるミラーモンスター達。彼女は、手塚がこうなると分かっていて、あの占いを告げたのだろうか。彼女の言う、「試練の獣」の一体……エビルダイバーと、自らの意思で契約し、今まさに戦いに赴こうとしているのだから。
だが、例え強引な方法でこのミラーワールドに自分達が送り込まれたのだとしても、戦うと決めた以上、いつかはこうなったのだ。それが、早いか遅いかの違いだけで。
『変身!』
三人の声が、同時に響く。
それとほぼ同時に、赤、紺、赤紫の鎧を纏った、三人の騎士の姿へとそれぞれ変わった。
赤紫の騎士は手塚。まるで世界の全てを、そして未来をも見通すかの如く、落ち着いた様子で辺りを見回す。
ライア。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターは、エビルダイバーと呼ばれる、宙を泳ぐ赤紫のエイ。
紺の騎士は秋山。蝙蝠を連想させるマントをたなびかせ、持っていた剣……召喚機、あるいはバイザーと呼ばれるそれを軽くあげる仕草をとる。
ナイト。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターは、ダークウィングと呼ばれる、闇の翼を持つ、紺色の蝙蝠。
そして、赤い騎士は城戸。変身完了と同時に、「っしゃあ!」という掛け声とガッツポーズを取り、気合を入れる。
龍騎。そう呼ばれる、仮面ライダーの一人。契約モンスターはドラグレッダーと呼ばれる、無双龍の異名を持つ紅蓮のドラゴン。
「何か、初めてなのに……懐かしいな、この感覚」
ワキワキと、拳を握ったり開いたりしながら、感触を確かめるように呟く城戸。
その横では秋山が、呆れたような溜息を盛大に吐いて……
「そんな事を言ってる場合か。来るぞ」
「……分かってるよ」
一瞬だけふてくされて、けれど、どこか嬉しそうに、城戸は秋山に返す。
その会話が終わるのを待っていたかのように、今まで周囲を取り囲んでいただけのミラーモンスター達が、一斉に三人に襲い掛かる。
それを確認するや、三人はそれぞれ散り散りになって敵を分散させた。
『ADVENT』
ライア……手塚が、左腕に付いているエイ型のバイザーにカードを通した瞬間、電子音がその名を告げる。
元から彼の後ろに控えていたエビルダイバーだが、その電子音に応えるように、手塚と彼を追うフェニックス型のミラーモンスターの間に割り込んで、その尾で薙ぎ払う。
「……行くぞ」
『SWING VENT』
淡々と言い放つと、手塚はエイ型のバイザーにカードを通す。そして電子音と同時に現れた、エビルダイバーの尾を模した、鞭状の武器……エビルウィップを持つと、当然のようにそれを躊躇なく振るう。
空気の悲鳴の一瞬後に上がる、モンスター達の悲鳴。更にその一瞬後には、エビルダイバーによる「食事」。
「……因果だな」
呟くと同時に、またしてもエビルウィップを一振り。
かつて、別の歴史において、ライアに選ばれたのは手塚の友人であった。だが、その友人は戦う事を拒否し、それが故に契約破棄とみなされ、目の前にいるモンスターに殺されたのだ。
その仇は、その歴史の際にとった。それで終わったはずだった。
だが、今また、目の前にいるのはガルドサンダーと言う名の、あの時友人を殺したミラーモンスター。それが自分の目の前にいるのは、因果以外の何者でもないような気がした。
「だがその因果も、ここで終わらせてもらう」
『FINAL VENT』
……「ハイドベノン」と呼ばれるその技により、ミラーモンスター達を殲滅した。
『SWORD VENT』
ナイト……秋山が、蝙蝠を模した剣型のバイザーにカードを通した瞬間、バイザーとは別の剣が、彼に与えられた。
ナイトと言う、その名の通り、仮面ライダーの中でも、最も騎士らしいその出で立ち。構えられた剣も、どちらかと言えば細身の物。ウィングランサーと呼ばれる、ダークウィングの契約者のための武器である。
レイヨウに似たモンスター達が突進してくるが、秋山はそれらを次々と切り捨てる。
「……そう言えば、インペラーは……佐野はいないんだったな」
レイヨウのモンスターから真っ先に連想される人物……かつて、仮面ライダーとして戦った存在を思ったが、玄金と名乗っていた男が「資格を放棄した」と言っていたのを思い出す。
あの男を信用している訳ではないが、その言葉に偽りがないようにも思う。
秋山の知る、かつてのインペラーの資格者……佐野満と言う男は、悲劇的な末路を辿った。彼の望む全てを手に入れたにも拘らず、放棄することが出来ぬまま、否応なく戦い……そして「幸せになりたかっただけなのに」と、嘆きながらこの世界で散っていった。
その過去を思い出したと言うのなら、間違いなく佐野は放棄……いや、この力を拒絶するだろう。この力は、彼にとって「不幸」以外の何者でもないのだから。
思いつつ、秋山は敵が最後の一体になったのを確認し、一枚のカードを取り出す。
「お前で最後だ」
『FINAL VENT』
電子音が響くと同時に、秋山は空高く舞い上がり……ウィングランサーを芯にし、マントがドリル状に変形する。そして、そのまま敵に向かって突撃。
……「飛翔斬」……そう呼ばれる技で、秋山は、近くにいたモンスターを全滅させた。
『STRIKE VENT』
龍の頭を模したバイザーにカードを通すと、龍騎……城戸の腕に、これまた龍の頭を模した手甲状の武器が装備される。
「行っくぜぇっ!」
気合と共に、襲い掛かってくるトンボ型のモンスター達を殴り飛ばし、その数を減らしていく。
このタイプのモンスターの厄介な所は、その数の多さ。いくら倒しても、どこからともなく沸いてくるこいつらに、城戸はかつて、何度も撤退を余儀なくされた。
そして、更に厄介な事に……彼らは、ある時期を迎えると「脱皮」をし、その数量で「外の世界」へと繰り出していくのである。
いくら九分五十五秒しかいられないとは言え、次々と現れるのであれば、制限時間など無意味に等しい。
「北岡のファイナルベントなら、一発なんだろうけど……」
ぼやきつつ、城戸は次々と現れるモンスターをひたすら殴り飛ばす。
北岡……ゾルダのファイナルベントは、仮面ライダーの中で最も広い範囲で敵を倒す事のできる、「エンドオブワールド」と呼ばれる技。彼の契約モンスターであるマグナギガの全身から、大量のミサイルやレーザーが発射される、ある意味最も恐ろしい攻撃である。
とは言え、ない物ねだりをしても仕方がない。羽音に似た「音」だか「声」だかを響かせながらやってくる敵を、ただひたすらに攻撃し、打ち倒す。
どの位倒しただろうか。心なしか余裕が生まれてきたのを、城戸は実感し始めた。
事実、自分に襲い掛かるモンスターの数が、圧倒的に減ってきている。いつもなら人海戦術の如く襲い掛かるモンスター……レイドラグーン達が、今回に限り、そうではなかったらしい。
純粋に、ミラーモンスターの数が少ないのか、それとも何らかの意図があるのかは定かではないが、城戸はそれを好機と捉え……
「っしゃあ! これで終わりだ!」
『FINAL VENT』
電子音が響き、自分の契約モンスター……ドラグレッダーが、駐車場の屋根をぶち抜きながら上昇する。それに合わせるように、城戸も上昇し……上昇しきった所で、ドラグレッダーが口からエネルギー弾を発射。それを背に受け、その勢いに乗せて城戸は左足を突き出し……
「ドラゴンライダーキック」と呼ばれるその技を用いて、全ての敵を消滅させた。