過去の希望、未来の遺産

【その24:別離と再会】

 謎かけの獣スフィンクスは月に問う。
 何故、世界を欲するのか。
 何故、ヒトを滅ぼしたがるのか。

 西暦二〇〇五年一月十六日、とある病院のベッドの上で、橘朔也は目を覚ました。
「……ここは……」
「気が付いたか」
「……烏丸所長! ……ぐぅっ」
 聞き覚えのある声に目を向ければ、そこにBOARDの所長であった烏丸の姿を見止め、思わず橘は起き上がろうとする。だがその瞬間、全身に激しい痛みが走った。
 下手をすれば再度口から漏れそうな悲鳴を噛み殺しながら、彼は視線を烏丸から自身の体に向けて落とす。体中のいたる所に包帯が巻かれており、いきなり動いたせいで傷が開きでもしたか、じんわりと白地に朱が滲んでいる。
「無理はするな、橘。一週間経った今でも、お前の傷はまだ完全には癒えていない」
「一週間!? 俺はそんなに眠っていたんですか!?」
「カテゴリーキングとの戦いで激しく傷ついた上、生身でギャレンラウザーを使ったんだ。むしろその程度で済んだ方が奇跡に近い」
 烏丸の言葉に驚き、思わず目を見開く。自分が眠っている一週間の間に何が起こったのかも気になるし、剣崎達に自分の無事を知らせなければならない。
 だが、確かに烏丸の言う通り、崖から落下し、生身でギャレンラウザーを使ったにしてはこの程度の傷で済んだのは奇跡に近いだろう。
 ただその反動は大きいらしく、痛まぬ所がないと言っても過言ではない中でも、両肩が特に痛む。
「実際、あと一時間処置が遅ければお前は死んでいたかもしれないと、医者に言われた」
「……すみません、所長」
 苦笑混じりに放たれた言葉に、俯き謝罪の言葉を放つ。
 彼には迷惑をかけっぱなしだ。昔も、今も。心底申し訳ない気持ちに陥り……ふと、最後に見た光景を思い出す。
 トライアルシリーズと思われる存在の人質となっていた、紫の瞳の青年の姿を。
「……そうだ、龍太は? 紫の瞳の青年はどうなりましたか?」
 龍太を助けようとしてギャレンラウザーを放ち、トライアルのこめかみに向けて一発おみまいした所までは覚えている。だが、その直後からの記憶はない。
 烏丸がここにいると言う事は、あのトライアルを退ける事が出来たと言う事なのだろうが……だとしたら、誰が退けたのか。
「無事だ。トライアルCも、あの時の青いライダーが倒した」
「青い、ライダー……」
 曖昧な記憶を辿り、ようやくその存在に思い当たる。恐らくは自分が崖から落ちる所を助けた彼だろう。
 あの時は深く考えていなかったが……と言うか、心身ともそんな余裕はなかったが、今にして思えばどこかで彼の声を聞いた事があるような……
 そこまで考えた時、最初にケルベロスと相見あいまみえた時の事を思い出す。あの時に出会った、龍太と同じ顔をした青い瞳の青年。その青年の声と言いどこかはぐらかすような話し方と言い、あの青いライダーとよく似ている。確か、青年は共にいた少女からウラと呼ばれていたか。
 そう言えば、龍太が人質に取られていた時、やはり同じ顔をした赤い瞳の青年も見た記憶がある。
「だが、今は彼らの事よりもこの反応だ」
 橘の思考を遮るように、烏丸は手元の携帯電話のようなものを見せる。だが、それが携帯電話でない事は、橘にもよく分かっている。
 橘自身も持っていた携帯型アンデッドサーチャー。
 カテゴリーキングが封印された今、これに反応するのはジョーカーとBOARDのライダーシステムで変身した仮面ライダーだけのはず。
 だが……そこに点在していたのは、無数の「正体不明アンノウン」のアンデッドと、それと戦っているらしいブレイドとレンゲルのマーカー。
「これは!?」
「……カテゴリーキングを封印した時から、この反応が頻繁に現れるようになった。巷ではダークローチと呼ばれている。恐らく、ジョーカーの眷属だろう」
「そんな! こうしてはいられません、俺もすぐに……ぐっ」
 淡々とした物言いの烏丸とは対照的に、血相を変えて慌てて立ち上がろうとして……再び橘の全身に痛みが走る。
「くっ……この程度の痛み……」
「……仮に剣崎達の元へ向かえたとしても、今のお前には変身する術はない。行っても足手纏いになるだけだ」
 諭すように言われ、橘はぐっと言葉に詰まる。彼が言う通り、ギャレンバックルは壊れた。とは言え、修理できる技術者はいても、修理に使える部品がない。修理が完了しない限り、ギャレンには変身できない。それは分かっているが……何もしないでただのんびりと寝ているだけなど、橘には出来ない。
 ……例え戦えないとしても、仲間のフォローに回る事くらいは出来る。
「橘。どうしても行くと言うなら……そしてフォローに回るつもりなら、まずはその怪我を回復させろ」
 こちらの考えを理解しているのか、なおももがく橘を押し留めて烏丸が口を開く。それが決め手となったのか、今まで出て行こうとしていた橘の体から余計な力が抜けた。
「…………分かりました。怪我の回復に専念します」
 本当は今すぐにでも剣崎達のフォローに回りたい。
 だが、少し動いただけで激痛が走るような体では、剣崎達の元に辿り付く前に果ててしまう。
 ……悔しいが、それでは本当に足手纏いになるだけだ。
「……剣崎達を信じろ、橘。あいつはそんなに弱い奴じゃない。それは、共に戦っていたお前が一番よく知っている事だろう?」
 烏丸のその言葉に、橘ははっとする。
 そうだ。剣崎達は、強い。
 仲間なら、彼らを信じるのも戦いなのではないか。
 自分の体が回復して、それでも戦いが終わっていなかったその時こそ……剣崎一真のフォローに行こう。
 そう、考えていた……

「くそ! 倒しても倒してもキリがない!」
 時間の中でダークローチと切り結んでいた侑斗が、憎々しげに吐き出す。
「野上、そっちはどうだ!?」
「な、何とか……倒せてるけど……って、うわあっ」
 良太郎も侑斗に顔を向けて返すが、すぐに別方向から来たダークローチに押されてたたらを踏む。
「実力はそれ程じゃねえけど、こいつら、数が半端じゃない」
「うん。しかも、どんどんトンネルから出て来てるし」
 背中合わせに立ちながら、良太郎と侑斗は襲い来るダークローチの群れを幾度となく斬り払う。彼らが倒した数は三桁を優に超えている。それ以上をカウントする気はないし、そんな事をしている余裕もない。
 それだけ斬り伏せていても、トンネルから現れた全てを倒す事は不可能であった。
 既に数え切れない程のダークローチを、現実世界に逃がしてしまっている。
 とは言え、そいつらを追っていけば、それこそ何千、何万ものダークローチが西暦二〇〇五年に現れる事になる。それだけは、何としても避けねばならない。
「やっぱり、トンネルを塞ぐ事の方が先かも」
「だろうな。けど……」
 言って、侑斗はちらりとゼロライナーを見る。
 先程からゼロライナーは、全武装を使ってトンネルの破壊を試みているが、塞ぐどころかトンネルに傷一つ付ける事が出来ていない。
 その事実に軽く舌打ちしながら、侑斗は時間の中から抜け出ようとするダークローチを撃ち抜く。
「とにかく、俺達が今出来る事は、この連中を出来るだけ二〇〇五年一月に送らないようにする事だ」
「でも、二〇〇五年に行った怪物は……」
「少し位なら大丈夫だろ。ゼロライナーのオーナーの話じゃ、その時代にも俺らみたいな奴がいるらしいからな」
「僕達みたいな……?」
 どういう意味か問い返したいが、襲い掛かってくるダークローチを殲滅するのに手一杯で、それ以上は口に出す事は叶わなかった。
 デンカメンソードを振るい、必死にダークローチ達を食い止めるものの、やはりその脇をすり抜けて何体かのダークローチが時間の中から時間の中から消えていってしまう。
 もう、何体のダークローチを逃したか分からない。
 ゼロライナーの攻撃に、全く反応のないトンネルを見ながら、それでも良太郎と侑斗は絶望せずに戦っていた。

 西暦二〇〇七年一月三十日。
 剣崎が目を覚ましたのは、イマジンが睦月の「扉」を通り、過去へと飛んだ正にその瞬間だった。
「睦月!」
 イマジンに飛ばれたせいか、呆然とした表情の睦月に駆け寄り、彼の体に掛かっていた糸の様な物を引きちぎってその場に降ろす。
 同様に橘と始の戒めも引きちぎる。
 純粋なジョーカーであるはずの始ですら、引きちぎる事が出来なかったと言うのに。
「剣崎、お前は……」
「……もう二度と会えないと思ってたんだけどな」
 ほんの少しだけ距離を置いて、かつての親友は、過去むかしと変わらない笑顔で返す。
「睦月、大丈夫か?」
「剣……崎、さん……?」
 まだ意識が朦朧とするのか、焦点の定まらぬ目で剣崎を見ながら、睦月は不思議そうに問いかけた。
 どうやら怪我はないらしい。ただ、少しだけぼんやりとしているようだ。
 それにほっと胸を撫で下ろすと、剣崎はポケットからある物を取り出した。
 それは、一枚のカード。ラウズカードとは明らかに違うもので、始も橘も……無論、睦月も見覚えがない。
「剣崎、そのカードは?」
 不思議そうに問う橘には答えず、剣崎は無言のままそのカードを睦月の額にかざす。刹那、ぼんやりとそのカードの表面に、何かの絵柄が浮き出てきた。
 よく見れば、それは先程のイマジンの姿絵と、日付と思しき数字。
「……二〇〇五年一月二十三日。……『あの日』か」
 浮かんだ日付に思わず剣崎の顔が歪む。それは、剣崎がある「結末」を選んだ日。
 恐らくここにいる四人が、最も強く想うであろう日付だった。
「……これは、今みたいに『過去へ飛ぶ』怪物を追うための『チケット』なんだそうです。……俺が貰ったのは、この一枚だけですけど」
「貰った? 誰に?」
 訝る始の言葉に、剣崎は困ったような、曖昧な笑みを浮かべて……
「……始。またお前に会えて、嬉しかった」
「剣崎?」
「でも、やっぱり……俺とお前は、一緒にいられない。分かるだろ?」
 剣崎は悲しそうに笑いかけると、今度は橘の方に向き直る。
「橘さん。あの時は勝手な真似をして、すみませんでした」
「……お前の望んだ結末だ。だが……」
「あの後、ある青年に言われました。『勝手にいなくなられるのは、辛くて怖いんだよ』って」
 すみません、と謝って、今度は睦月に顔を向ける。
 それを見て、睦月は小さく……だが、確かに震えた。別れを告げられる事が、分かってしまったから。
 折角、望まない形だったとは言え、四人がまた揃ったのに。
「……やめて下さい、剣崎さん……」
「睦月、俺は……」
「今は大丈夫じゃないですか! だから、二度と会えないみたいな言い方はやめて下さい!」
「『今』は大丈夫でも、それは『永遠』じゃない」
 分かってはいる。剣崎がここにいられない理由も、剣崎はここから離れようとしている決意も。
 ……かつて、ダークローチと立ち向かう時に引き止めようとした望美の気持ちが、今になって痛い程よく分かる。
 頭では理解しているけれど、心では理解できない……その感覚が。
「それでも……俺、誰かを犠牲にして成り立った平和は、虚しいと思います」
 睦月のその言葉に、剣崎は自嘲気味に小さく笑い……小屋の扉へと走る。
 同時に、小屋の外で汽笛のような音が響き渡った。こんな山奥に線路など走っているはずもないのに。
「急げ剣崎! イマジンが逃げる!」
 小屋の扉を開け、そう言ったのは茶髪の青年。その後ろには黒い、大きな乗り物がある。
「ああ、分かってるさ、侑斗」
 後ろの青年……剣崎は侑斗と呼んだ……に答えると、剣崎は満面の、だけどやっぱりどこか寂しそうな笑顔を三人に向け……
「……じゃあな。皆」
 そう言って、剣崎はその乗り物……多分汽車……に乗って、侑斗と呼んだ青年と共にどこかへと消え去った……

 ハナの持っていた携帯電話が鳴ったのは、剣崎が睦月を連れてその場を去った直後だった。
「もしも……」
『ハナさん、今すぐ戻って来て下さい!』
「ナオミちゃん?」
 ハナの言葉が終わるよりも先に、ナオミの切羽詰った声が電話越しに響く。その声にどこか怯えの様な物を感じるのは気のせいか。
「何かあったの……?」
『大変なんです! とにかく、迎えに行きますから乗って下さい!』
「え?」
 不思議に思うと同時に、どこかから聞き慣れたミュージックホーンが聞こえてくる。
 はっとしたように空を仰ぎ見れば、既にデンライナーが自分達の後ろに停車せんと減速している所だった。
 普段ならば白地に赤い線の入ったデンライナーだが、今は所々に黒い何かが張り付き、蠢いている。……そしてそれがダークローチであると気付くのに、そう時間はかからなかった。
「な……何や!?」
「うわぁっ。気持ち悪い~!!」
 リュウタロスの声に気付いたのか、張り付いていたダークローチ達はデンライナーから離れ、ゆっくりと六人の方へと近付いて来る。
 その動き方は、トンネルの向こうのアルビローチと同じもの。
 体色が黒い分、余計にゴキブリを思わせて気色悪い事この上ない。
「皆さん! 早く乗って下さい!」
「そんな事言ったって……こいつらを放っておく訳には行かないじゃない!」
 離れた事で乗車口を開けても大丈夫と判断したのか、それでも細く開けたそこから叫ぶナオミに、ハナも必死に声を張り上げて答える。
 その間にも、ダークローチ達はジリジリとこちらとの距離を縮めているのだが。
「でも、時間の中の方がもっと大変なんです!」
 ナオミのその言葉に、ジークはわずかに眉をひそめ……次の瞬間、ハナを小脇に抱え、ダークローチ達の頭上を軽々と跳び越した。
 ……まるで彼のイメージの元になった白鳥のように、優雅で誰をも魅了する動きで。
 一瞬、モモタロス達も唖然とした表情を見せたが……すぐに自分を取り戻し、立ち塞がるダークローチ達を蹴散らしてデンライナーへとなだれる様に乗り込んだ。
「あの連中の事は剣崎に任せるしかねぇっ!」
「今は、ナオミちゃんの言ってた事を確認した方が良いと思うよ」
 自分達の行動に、不満の意志を見せるハナを制すように、モモタロスとウラタロスが言う。
 それと同時にデンライナーの扉も閉じる。
 ……ダークローチ達を、入れないために。
「オーナー! 皆さん揃いました!」
「では、時の中へ向かいましょう」
 オーナーの宣言で、デンライナーはこちらに向かって来るダークローチを振り切るように、現実空間から時間の中へと移動した。
 相変わらず、二〇〇五年のトンネルは大きくその入り口を広げているのが見える。
 入り口の色は、もはや闇よりもなお暗い黒。時々緑色の何かがチラチラと動いて……
「嘘……」
 その色の正体に気付いたのか、思わずそう呟いてからハナは自身の口元を押さえた。
 トンネルの入り口だと思っていたそこには。無数……と言う表現では生温い程のダークローチが、ひしめき合うようにして存在していたのだから。
「何でダークローチが!?」
「ねえ亀ちゃん! あれってジョーカーが作ってるんじゃないの!? 何でトンネルから出てきてるの!?」
「ぼ、僕に聞かれても……」
「そんな事よりあれ! あいつらと戦ってるの……良太郎と侑斗じゃねえのか!?」
 誰よりも先に気付いたのはモモタロス。
 目を凝らして見て見れば、確かにそこにはライナーフォームに変身している良太郎と、アルタイルフォームで戦っている桜井侑斗の姿。
 いつからここで戦っているのだろう。二人は肩で息をしながら、それでもやってくるダークローチ達を斬り散らしていた。
 ゼロライナーはトンネルに向かって攻撃を仕掛けているようだが、傷一つつけられていない。
「モモタロス、良太郎を助けなきゃ!」
「言われるまでもねぇっ! 亀、熊、鳥野郎! お前らも行くぞ!」
「当たり前や!」
 モモタロスの言葉に力強く頷き、ジークを除くイマジン全員がデンライナーから降りようとしたその瞬間。オーナーが彼らの通り道を、持っていたステッキで塞ぐと、その視線を先頭にいるモモタロスからそのすぐ後ろに立つキンタロスに移し……
「……行くのは、キンタロス君だけに、してもらえますか?」
「何でや!?」
「他の皆さんには、引き続き調査をお願いします」
「……こんな状況で調査とか言ってる場合じゃねえだろ、おっさん!」
 つかみ掛らんばかりの勢いで、モモタロスがオーナーに詰め寄る。他の面々も同じ気分なのだろう、険しい表情でオーナーを見つめている。
 だが、そんな事はお構い無しと言わんばかりの表情でオーナーは真っ直ぐに彼らの視線を受け止め、見つめ返している。
「では……ウラタロス君にも行って頂きましょう。これが、私の出来る最大の譲歩です」
「何で僕は駄目なの!? 僕も、熊ちゃんと同じで変身できるのに!」
「……」
 リュウタロスの言葉に答えず、オーナーは微苦笑を浮かべて無言を貫く。
 答えたくないのか、答えられないのか。どちらなのかは、今のオーナーの表情からは読み取る事が出来ない。
 そう言う時のオーナーは梃子でも動かない。それを知っているだけに、今度はウラタロスの顔に微苦笑が浮かび……
「リュウタ、行ってきてくれるかな?」
「亀ちゃん……?」
 優しい声でウラタロスはリュウタロスの肩を軽く叩いて言う。その青い瞳には、何かを決意した色が浮かんでいた。
 ……良太郎に憑いている姿のせいか、ウラタロスのはずなのに……良太郎に言われているような錯覚がする。
「大丈夫や。あいつら倒して、すぐに良太郎や亀の字と一緒にそっちに行ったる」
 ぽんぽんと、リュウタロスの頭を撫でながら、キンタロスもいつもの調子でそう言葉を放つ。
 キンタロスとウラタロス。
 かつてイマジンとの……カイとの「最後の戦い」の前に、過去へ取り残す結果になった二人。
 リュウタロスの不安げな表情は、それもあるからなのだろう。俯き、何かを堪えるように肩を戦慄かせ……だが、すぐに勢い良くそのおもてを上げると、まるで迷子の子供みたいな表情で問う。
「…………本当に、来てくれる? 良太郎と一緒に?」
「当たり前や! 男に二言はない!」
「亀ちゃんも、ちゃんと来るんだよね?」
「さあ? 僕はデンライナーの中で、のんびりしてようかな」
 どんと自身の胸を叩いて答えるキンタロスに対し、ウラタロスは軽く自身の眼鏡のフレームを上げ、フフ、と軽く笑いながら答えた。
 それの表情から、彼の答えがウラタロスらしからぬバレバレの嘘であると気付く。
 だが今回ばかりは、その嘘が嬉しかった。
「その代わり、そっちで変身できるのはリュウタだけになるから……」
「大丈夫。本当に危なくなった時だけ使う」
 こくりと頷き、リュウタロスは自分のパスケースを見せる。
 未だ、電王ガンフォームの描かれたチケットを。
「ほな……行くで、亀の字」
「りょーかい」
 ひらひらと手を振って、キンタロスとウラタロスはデンライナーを降りた。
 ……良太郎と共に、戦うために……
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